2022 年 16 巻 1 号 p. 89-98
多くの高齢者は、「迷惑をかけたくない」という思いを頻繁に口にする。他者との協調が重視される対人関係においては、他者に援助を求めることで迷惑や負担をかけてしまうことが懸念され、互いに援助を求めない関係が維持されることが推察される。「迷惑をかけたくない」という思いは、必要な支援や援助を得られずに孤立するなどの望ましくない結果を生み出すことにもつながる。本稿では、高齢者の「迷惑をかけたくない」思いと、その思いに包まれた別の意識について議論し、文献レビューから高齢者が迷惑をかけたくないとする対象やその背景・理由の調査結果を報告する。調査の結果、迷惑をかけたくない対象としてもっとも多く挙げられていたのは「家族」、とりわけ「子ども」であった。また、迷惑をかけたくないとする対象への配慮を優先し、自身のニーズを蔑ろにする傾向がみられた。高齢者のこの思いの背景およびQoLや幸福感に影響しうる可能性について考察する。