産業衛生学雑誌
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原著
新人期の産業看護職における職場のメンタルヘルス活動の実施状況,困難感,および知識・技術の保有感
石川 真子錦戸 典子
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2014 年 56 巻 1 号 p. 1-15

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Abstract

目的:新人期の産業看護職によるメンタルヘルス対策に関する活動の実施状況と困難を感じた経験,知識・技術の保有感の特徴と今後の学習課題を明らかにして,今後の新人期の産業看護職に対する,メンタルヘルスに関する教育研修方策を検討するための示唆を得ることを目的とした.方法:日本産業衛生学会に所属する産業看護職を対象に自記式質問紙調査を行った.今回は,回答者のうち,企業所属で担当事業場がある産業看護職を主な分析対象とした.メンタルヘルス活動36項目の困難に関してクラスター分析を行い,カテゴリーに分類した.経験年数5年以下(以下,新人期とする)と5年より上(以下,中堅期以降とする)の2群に分け,それぞれの基本情報,メンタルヘルス活動の実施状況,困難,知識・技術の保有感,学習環境,自己研鑽等を算出し,新人期と中堅期以降の産業看護職との比較を行った.また,変数間の関連を検討するため,Mann-WhitneyのU検定およびχ2検定を行った.結果・考察:有効回答数は682名であり,そのうち,企業所属で担当事業場がある,新人期の産業看護職80名,中堅期以降の産業看護職369名を分析対象とした.1) 新人期・中堅期以降ともに,大多数の産業看護職がメンタルヘルス活動に携わっていた.中堅期以降の産業看護職と比較して,より多くの新人期の産業看護職が,[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]に困難を抱えていた.また,メンタルヘルス活動に関する知識や技術について,中堅期以降の産業看護職と比較すると,ほぼ全ての活動項目で不足を感じている新人期の産業看護職が多かった.2) 新人期の産業看護職は,[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集],[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]を,他の活動と比べて実施している割合が高かったが,そのための知識・技術を有している割合は他の活動と差がほとんどなく,結果としてそれらの活動に関する知識・技術不足を感じながら実施している人が多い状況が示唆された.今後,新人期の産業看護職への育成研修として,まず,これらのメンタルヘルスケアの基礎となる活動に関する知識・技術を確認・育成する教育から行っていく必要があると考えられた.3) 他企業の産業看護職から助言・サポートを得られる等の学習環境を有しており,また,関連雑誌を購読している産業看護職の方が,[復職支援と事業場内・外の関係者との連携]に関して,過去一年間に困難を感じた経験が有意に少なかった.また,研究実施や学会発表等の自己研鑽をしている産業看護職の方が,[対応が困難なケースへの個別相談対応]に困難を感じた経験が少ないことが示された.

I.緒 言

近年の我が国では,職場においてストレスを感じている労働者の割合やうつ病等による長期欠勤・休業者が増加し,労働者の自殺者数は年間9千人前後に達している1).また,精神障害等による労災認定件数も増加しており,職場におけるメンタルヘルス対策の拡充が社会的にも喫緊の課題となっている.

このような社会的ニーズの中で,国は,平成18年に「職場における労働者の心の健康の保持増進のための指針」を発表し,その中で,「事業場内メンタルヘルス推進担当者を衛生管理者等や常勤の保健師等から選任することが望ましい」と述べている2).また,日本産業衛生学会は,平成18年に厚生労働省労働衛生課長から諮問を受けて,「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に沿った,職場のメンタルヘルス対策における産業看護職の具体的な役割を提示している3).これらのことから,職場のメンタルヘルス対策に関して,産業看護職はさまざまな役割を期待されていると考えられる.しかし,産業看護職の約83%が職場のメンタルヘルス対策を行う上で困難を抱えているとの報告があり4),メンタルヘルス活動の困難の理由には,産業看護職自身のスキル不足があるといわれている5).そのため,職場のメンタルヘルス対策に関する産業看護職のスキルアップを目的として,日本産業衛生学会を始めとする関連学会や,日本看護協会や日本産業保健師会などの職能団体,産業保健推進センター等で研修が行われている.日本産業衛生学会産業看護部会では体系的な継続教育システムを運用しているが,対象者は,産業看護の2年以上の実務経験を有する者となっているため6),入職後の2年間の育成に関する社会的な教育システムが不足しており,現場ではその2年間にどのような経験を積ませ,どのように教育するのか試行錯誤している状況にある7).また,産業看護職経験年数が短いほど,産業看護活動上の困難を抱えることが有意に多いと言われており8),産業看護活動の中でも特に高度な支援スキルや人間的成熟度を求められるメンタルヘルスの活動においては,経験年数の少ない新人期の産業看護職が困難を抱えていることが予想される.これらのことから,まず新人期の産業看護職への効果的な育成に向けて,適切な教育内容に関する科学的知見に基づいた提言が求められていると言えよう.

しかし,産業看護領域では,新人期の産業看護職に着目した研究はほとんどなく,メンタルヘルス対策に関する活動に関しても,新人期の産業看護職がどの部分に困難や知識・技術不足を感じているか,現状や課題の詳細は明らかになっていない.そこで本研究では,新人期の産業看護職によるメンタルヘルス対策に関する活動の実施状況と困難を感じた経験,知識・技術の保有感や今後の学習課題を中堅期以降の産業看護職と比較することにより明らかにして,今後の新人期の産業看護職に対する,メンタルヘルスに関する教育研修方策を検討するための示唆を得ることを目的とした.

II.対象と方法

1. 用語の定義

1) 新人期の産業看護職:産業看護経験年数5年以下の産業看護職

2) 中堅期以降の産業看護職:産業看護経験年数が5年より長い産業看護職

2.調査方法

日本産業衛生学会の学会員のうち,教育機関・医療機関所属の看護職を除く産業看護職1,217名を対象に無記名の自記式質問紙を郵送し,郵送返却にて回収した.調査期間は2010年10月16日-10月30日.

【調査項目】

1.基本属性と所属機関の基本情報

年齢,看護職の経験年数等,所属機関の種類や規模等を調査した.また,現在担当している事業場の有無,担当事業場がある場合は,担当事業場の規模,メンタルヘルスに関する指針の有無等について調査した.

2.メンタルヘルス活動に関する調査項目

質問紙の作成プロセスとして,まず,職場のメンタルヘルス活動を実施している経験年数5年以下の産業看護職にインタビューを実施した.インタビュー結果および,日本産業衛生学会が出している,「職場のメンタルヘルス対策における産業看護職の役割」3)を始めとする参考文献,先行研究9, 10)を参考にして,質問紙用の項目を抽出・作成した.さらに,産業看護職11名を対象にプレテストを行い,質問内容の信頼性や妥当性ならびに所要時間を確認の上,最終的に表現を追加,削除して,メンタルヘルス活動36項目,職場内・外の学習環境11項目,自己研鑽6項目を作成した.

1)実施状況について,上記メンタルヘルス活動36項目,例えば「事業場内の,心の健康づくり計画の策定への参画」,「メンタルヘルスに関する集団教育の実施」,「メンタルヘルスに関する相談への対応」などの実施の有無を尋ねた.同様のメンタルヘルス活動36項目について,過去一年間に困難を感じた経験の有無,知識・技術に関してはそれぞれ「概ねある」,「不足している」の2件法で尋ねた.今回,知識・技術を2件法で尋ねたが,知識・技術の保有感が「ある」,「なし」で問うた場合,特に新人期では自信をもって「ある」とは回答しにくく,「ある」の回答が皆無もしくは極端に少なくなることが危惧された.そこで今回は,回答が適度に分散することを意図して,「概ね」という修飾語を付けた.

2) 今後特に学習が必要だと思うメンタルヘルス活動項目について,上記のメンタルヘルス活動36項目のなかから3項目選択するように求めた.また,メンタルヘルスに関する,職場内・外の学習環境11項目,例えば「職場で,事例検討会を実施している」,「職場で,活動に関する助言を受けることができる」,「他の企業の産業看護職に相談できる」,「大学や研究機関の指導者から,サポートや助言を得ることができる」などの有無について尋ねた.さらに,自己研鑽6項目,例えば「自分自身による課題・目標の設定や評価」,「過去一年間の,社外の研究会や勉強会などへの参加」などの有無について尋ねた.

3) 職場でのメンタルヘルス活動における課題や,さらに学びたいことについて,自由記述で意見を求めた.

【倫理的配慮】

調査実施にあたり,2010年7月に東海大学健康科学部倫理委員会の承諾を得た(第10–14号).また,2010年9月に日本産業衛生学会理事会から名簿使用の承諾を得た(名簿使用許可番号18).対象者へは,調査の趣旨説明とともに,回答は自由意思に基づくものであり,回答は無記名でプライバシーは保護されること,回答を拒否しても不利益は生じない旨を明記し,文書にて調査への協力を求めた.なお,対象者からの質問紙の返送をもって,調査への同意が得られたとみなした.

【統計解析】

今回は,企業所属で担当事業場のある産業看護職を分析対象者とした.分析対象者を,新人期と中堅期以降の産業看護職の2群に分けて属性や活動等に関する基本統計量を算出した.メンタルヘルス活動の実施状況,困難を感じた経験,知識・技術の保有感,学習環境,自己研鑽については,新人期と中堅期以降の2群間で,χ2検定およびMann-WhitneyのU検定を用いて比較した.

次に,変数間の関連をみるために,新人期および中堅期以降の群それぞれにおいて,メンタルヘルス活動上の困難を感じた経験の有無と実施の有無との関連をχ2検定により検定した.

各メンタルヘルス活動内容36項目のメンタルヘルス活動を,新人期の産業看護職の困難に着目して,意味のある適切なカテゴリーに分けるために,36項目それぞれに関して,「過去一年間に困難を感じた経験がない」を0,「過去一年間に困難を感じた経験がある」を1として,ward法による階層クラスター分析を行い,項目のまとまりを確認しながらカテゴリーに分類した.また,メンタルヘルス活動カテゴリー(以下,「活動カテゴリー」)毎に,Cronbachα係数を算出し,内的一貫性を確認した.

活動カテゴリー毎の実施状況の程度を算出するために,各活動項目について「実施していない」に0点,「実施している」に1点を配し,活動カテゴリー毎の実施合計得点(以下,「活動カテゴリー別実施合計得点」)を求めた.さらに,その実施合計得点を,それぞれのカテゴリーに含まれるメンタルヘルス活動項目数で除して,活動カテゴリー毎の実施平均得点(以下,「活動カテゴリー別実施平均得点」)を算出した.活動カテゴリー別実施平均得点は0–1点の間をとり,全員が「実施していない」と回答した場合は実施平均得点が0点,全員が「実施している」と回答した場合は実施平均得点が1点となる.さらに,知識・技術についても同様に,知識・技術が「不足している」に0点,知識・技術が「概ねある」に1点を配し,活動カテゴリー毎の知識または技術合計得点,および,活動カテゴリー毎の知識または技術平均得点(以下,「活動カテゴリー別知識平均得点」,「活動カテゴリー別技術平均得点」)を算出した.

次に,メンタルヘルス活動カテゴリー間の実施状況の比較をするために,活動カテゴリー別実施得点について,Kruskal-Wallis検定を行った.有意変動が認められた場合は,Mann-WhitneyのU検定とBonferroniの補正を用いて,それぞれのカテゴリー間の比較を行った(多重比較).知識,技術得点についても同様にKruskal-Wallisの検定を行った後,多重比較を行った.

学習環境および自己研鑽の有無によって,メンタルヘルス活動における困難を感じた経験の有無に差があるかを検討するために,活動カテゴリー毎に,学習環境および自己研鑽の有無別の困難平均得点を算出してMann-WhitneyのU検定を行った.

統計解析ソフトは,SPSS (ver.17.0) for Windowsを使用した.

III.結 果

対象者1,217名中686名(回収率56.4%) から回答が得られ,有効回答数は682名(99.4%)であった.このうち,企業所属で担当事業場がある産業看護職449名を今回の分析対象とした.内訳は,新人期の産業看護職80名,中堅期以降の産業看護職369名であった.

1.回答者の基本属性・所属機関の基本情報

Table 1に,新人期と中堅期以降の産業看護職の基本属性,所属機関の基本情報の結果を示した.産業看護職としての平均経験年数は,新人期の産業看護職では2.9±1.3年であり,中堅期以降の産業看護職では16.8 ± 7.5年であった.新人期では中堅期以降と比べると,現在の職場での経験年数,産業保健以外での経験,資格の保有状況,学歴,メンタルヘルスに関する指針の有無等については有意な差が認められた.年代,所属する企業規模,常勤産業医の有無については,両群間で有意な差は認められなかった.

Table1.  Demographic characteristics and work environment
Novice OHNs Proficient OHNs
n=80 n=369
n (%) n (%)
Age (yr) 20 s 25 (31.3) 3 (0.8)
30 s 38 (47.5) 76 (20.7)
40 s 16 (20.0) 168 (45.8)
50 s or more 1 (1.3) 117 (31.9)
Career in the occupational health nurse (OHN) (yr)
~1 6 (7.5)
~2 14 (17.5)
~3 23 (28.8)
~4 21 (26.3)
~5 16 (20.0)
Career in the occupational health nurse (OHN) (yr) 2.9 ± 1.3 16.8 ± 7.5 ***b)
Carrer in the current job (yr) 2.9 ± 3.4 12.8 ± 7.9 ***b)
Careere as a nursing job except an OHN (yr) 7.1 ± 5.3 6.2 ± 6.7 *b)
Having the experience expect an OHN 63 (88.7) 248 (80.5)
Qualification Public health nurse 68 (85.0) 241 (65.3) **a)
Nurse 77 (96.2) 338 (91.6)
Health officer 55 (68.8) 302 (81.8) **a)
Clinical psychotherapist 1 (1.3) 2 (0.5)
THP mental counselor 21 (26.3) 176 (47.7) ***a)
Industrial counselor 15 (18.8) 152 (41.2) ***a)
Educational level ***b)
Vocational school 18 (23.1) 186 (53.8)
Nursing junior college 14 (17.9) 81 (23.4)
University 38 (48.7) 61 (17.6)
Graduate school 8 (10.3) 15 (4.3)
The number of nurses in workplace
1 29 (36.3) 128 (35.1)
2 or more 51 (63.8) 237 (64.9)
Position Leader 9 (11.5) 166 (46.6) ***a)
Staff 69 (88.5) 190 (53.4)
Employment Full-time 62 (78.5) 257 (70.6)
Part-time 17 (21.5) 107 (29.4)
The number of employees in an affiliation organization
1–299 3 (3.8) 28 (7.6)
300–999 11 (13.9) 58 (15.7)
1,000 or more 65 (82.3) 283 (76.7)
The office in charge of
The number of employees in the office
1–299 14 (17.5) 84 (22.8)
300–999 38 (47.5) 117 (31.8)
1,000 or more 28 (35.0) 167 (45.4)
Full-time occupational physician
Yes 56 (70.9) 280 (75.9)
No 23 (29.1) 87 (23.6)
There is company policy or guideline of mental health *a)
Yes 43 (53.8) 251 (68.8)
No 37 (46.2) 114 (31.2)

*p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001. a) Difference between novice OHNs and proficient OHNs were examined by chi-square test. b) Difference between novice OHNs and proficient OHNs were examined by Mann-Whitney U-test.

2.メンタルヘルス活動36項目の実施,困難,知識,技術の状況

メンタルヘルス活動36項目についての困難を感じた経験に関して,クラスター分析および信頼性分析によって検討した結果,6つのカテゴリーに分類することができた.含まれる活用項目の内容から,それぞれ,カテゴリーA:[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集](3項目),B:[個別相談のアセスメントと対応] (4項目),C:[復職支援と事業場内・外の関係者との連携] (11項目),D:[職場集団・組織への情報提供や教育の実施](9項目),E:[職場組織のメンタルヘルス支援体制の構築](5項目),F:[対応が困難なケースへの個別相談対応] (4項目)と命名した.

Table 2に,新人期と中堅期以降の群ごとに,6つのカテゴリー毎の各メンタルヘルス活動項目(計36項目)について,実施している,過去一年間に困難を感じた経験があると回答された割合と,両群を比較した結果を示した.実施に関しては,両群間でほとんど有意差がなく,カテゴリーA[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集]や,カテゴリーB[個別相談のアセスメントと対応]の各項目については,約9割が実施していた.困難に関しては,カテゴリーB:[個別相談のアセスメントと対応]に含まれる全活動項目について新人期の約7–8割が困難を感じた経験を有しており,中堅期以降と比べて有意に多かった.その他の活動カテゴリーについては両群に有意な差が認められたのは1–2項目のみであった.

Table 2. Characteristics of Implementation and difficulty in mental health services by novice Occupational Health Nurses (OHNs) and Proficient OHNs

Table 3に,新人期と中堅期以降の産業看護職における,知識,技術が「概ねある」と回答された割合と,両群を比較した結果を示した.新人期では中堅期以降と比べて,知識・技術が「概ねある」と回答した者の割合が少なく,ほとんど全ての項目で有意差が認められた.

Table 3. Characteristics of the knowledge and skill in mental health services by novice Occupational Health Nurses (OHNs) and proficient OHNs

各メンタルヘルス活動について,困難を感じた経験の有無と実施状況との関連を検定した結果を,Table 2の「困難を感じた経験がある」割合の右側に示した.新人期,中堅期以降の産業看護職ともに多くの項目において有意な関連が見られ,「実施している」人ほど「困難を感じた経験がある」と回答した割合が高かった.

3.メンタルヘルス活動カテゴリー間の実施,知識,技術の比較

新人期と中堅期以降の産業看護職ごとの,活動カテゴリー別の実施,知識,技術平均得点と,その検定結果をTable 4に示した.新人期の知識平均得点以外には活動カテゴリー間で有意な変動が認められ,さらに各カテゴリー間の比較を行ったところ,実施平均得点に関しては新人期・中堅期以降ともに,カテゴリーA・Bの得点がその他のカテゴリー得点と比べて有意に高かった.また,知識・技術平均得点に関しては,中堅期以降の群にのみ同様の傾向が見られた.

Table 4.  The category score of implementation, knowledge and skill in mental health services by novice Occupational Health Nurses (OHNs) and proficient OHNs

これらの数値を基にX軸に実施平均得点を,Y軸に知識平均得点をとり,新人期の値を図示したものがFig. 1,中堅期以降の値を図示したものがFig. 2である.新人期では,カテゴリーA:[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集]とB:[個別相談のアセスメントと対応]の実施平均得点が,他のカテゴリーと比較して有意に高く,知識平均得点についてはカテゴリー間で差が見られなかった.一方,中堅期以降ではカテゴリーA・Bの実施平均得点,知識平均得点ともに,他の全てのカテゴリーと比較して有意に高かった.すなわち,新人期の産業看護職では,カテゴリーA・Bに関して,知識がないと思いながら実施している人の割合が他の活動カテゴリーと比べて高く,また,中堅期以降の産業看護職と比べても多かったと言える.技術に関しては図示していないが,ほぼ同様の傾向が認められた.

Fig. 1.

 Comparison of the average scores of the novice OHNs among categories by Kruskall-Wallis test. p<0.05 on the implementation score between category A/B and C/D/E/F. n.s. on the knowledge score between category A/B and C/D/. A: Building mutual trust with workers and supervisors and obtaining information from them. B: Consultations and follow-ups for individual mental health problems. C: Support for return to work and collaborations with persons involved inside or outside the company. D: Giving information and group education to worker’s group and organization. E: Construction of support system concerning mental health. F: Individual consultations on difficult cases.

Fig. 2.

 Comparison of the average scores of the novice OHNs among categories by Kruskall-Wallis test. p<0.05 on the implementation score between category A/B and C/D/E/F. n.s. on the knowledge score between category A/B and C/D/E/F. A: Building mutual trust with workers and supervisors and obtaining information from them. B: Consultations and follow-ups for individual mental health problems. C: Support for return to work and collaborations with persons involved inside or outside the company. D: Giving information and group education to worker’s group and organization. E: Construction of support system concerning mental health. F: Individual consultations on difficult cases.

4.メンタルヘルスに関する学習ニーズと学習環境

表には示していないが,各メンタルヘルス活動項目 (36項目)中,「特に学習が必要である」項目を3項目選択してもらった結果,新人期で選択割合が高かったのは「現代型うつ病が疑われるケースへの対応」29.5%,「休職と復職を繰り返すようなケースへの対応」26.9%,および「パーソナリティ障害(人格障害)が疑われるケースへの対応」20.5%であり,カテゴリーF:[対応が困難なケースへの個別相談対応]に関する学習が必要であると感じている人が多かった.また,中堅期以降の産業看護職も,カテゴリーFに関する学習を必要と感じている人が最も多かった.

また,質問紙の自由記述欄には,新人期では「メンタルヘルスに関する基礎的なこと全体について学びたい」,「受診の必要性の判断に関するスキルアップ」,「相談対応のしかたや事例検討をしたい」など,希望する学習内容や学習環境についての記載がみられた.一方,中堅期以降では,「事例を通してのOJT」,「現代型うつ病や人格障害への対応」,「集団に対するアプローチ方法」,「職場全体の心の健康度をあげるための方策や評価尺度」等の記載が多くみられた.すなわち,事例検討を通して相談対応スキルを学びたいという点では,新人期,中堅期以降の産業看護職ともに共通であったが,新人期では主に個人への対応方法に対する学びを深めたいという記述が多かったのに対して,中堅期以降では集団や組織を対象とした活動に関する学びを深めたいという記述が多くみられた.

次に,新人期と中堅期以降の産業看護職におけるメンタルヘルスに関する学習環境や自己研鑽の状況を比較した結果を,Table 5に示した.職場内での学習環境については両群間ではほとんど違いがみられなかったが,「他の企業の産業看護職等に相談できる」,「メンタルヘルスに関するお薦めの文献や,書籍に関して情報提供してくれる人がいる」,および「外部の研修会や勉強会の開催に関する情報を入手しやすい」等,職場外からのサポートや,研修会等の情報取得については新人期の方が有意に少なかった.また,「産業保健の実践活動に携わりながら,学会等で発表した経験」,「産業保健の実践活動に携わりながら,研究を実施した経験」,および「活動の参考になるような関連雑誌の購読」についても,新人期の実施割合が有意に少なかった.

Table 5.  Characteristics of learning environment and self-study
Novice OHNs n=80 Proficient OHNs n=369 p-value
n (%) n (%)
Learning environment
Case study is carried out in the office. 27 (33.8) 154 (43.3)
Study meeting is carried out in the office. 27 (33.8) 146 (40.9)
Advice about activity can be received in an office. 57 (71.3) 263 (73.7)
There is envirnoment to evaluate activities objectively. 33 (42.3) 160 (45.1)
There are opportunity to discuss among the staff and the atmosphere in the office. 63 (79.7) 292 (81.8)
There is the atmosphere which participates in study session easily in the office. 59 (73.8) 287 (80.4)
There are supervisors such as OHNs of other enterprises. 34 (43.0) 212 (59.6) **1)
There are those who give support and advice from a university or a research institution. 24 (30.4) 111 (31.1)
There are those who give recommendated literature as references for the services. 30 (37.5) 211 (59.3) ***1)
Information about external study seminer or a study meeting is easy to come to hand. 52 (65.0) 280 (78.7) *1)
The external study session and study meeting are held in the (place, time, etc.) where I can participate. 56 (70.0) 254 (71.5)
Self-study
To set up and evaluate the subject and the target by myself. 68 (85.0) 278 (77.4)
To read magazines as references for the services. 62 (77.5) 317 (88.1) *1)
To participate in an external study group, a study meeting, etc in the past a year. 76 (95.0) 341 (94.7)
To have participated in the society and the scientific meeting in the past a year. 54 (67.5) 229 (63.6)
To have conducted research and studied engaging in activities of occupational health. 17 (21.3) 181 (50.3) ***1)
To have given presentations at a conference engaging in activities of occupational health. 16 (20.0) 139 (38.8) ***1)

*p<0.05, ** p<0.01, *** p<0.001. 1) Difference between novice OHNs and proficient OHNs were examined by chi-square test.

次に,表には示していないが,学習環境および自己研鑽の有無によって,過去1年間にメンタルヘルス活動における困難を感じた経験の有無に差があるかを検討するために,学習環境・自己研鑽の有無別に,活動カテゴリー別困難平均得点を比較した.新人期に関して関連がみられたのは,活動カテゴリー C:[復職支援と事業場内・外の関係者との連携]と,カテゴリーF:[対応が困難なケースへの個別相談対応]であった.カテゴリーCに関しては,「他企業の産業看護職等に相談できる」,「外部の研修会や勉強会の開催に関する情報を入手しやすい」,さらに「活動の参考になるような関連雑誌の購読」といった学習環境があり,自己研鑽を行っている産業看護職では,困難を感じた経験が少ないことが示された.また,カテゴリーFに関しては「産業保健の実践に携わりながら,研究を実施した経験」と「産業保健の実践に携わりながら,学会等で発表した経験」のある新人期の産業看護職では,困難を感じた経験が少ないことが示された.中堅期以降に関しては,活動カテゴリーFで関連がみられた点は同じであったが,他にも活動カテゴリーAやBやEでも有意な関連がみられ,新人期の産業看護職とは異なる結果であった.

IV.考 察

本研究において,主に中堅期以降の産業看護職との比較をしたことにより,これまで明らかにされていなかった,新人期の産業看護職がメンタルヘルス活動を行う上での学習課題,および必要な学習環境等の特徴が明らかになったと考える.以下,詳細について考察する.

1. 新人期の産業看護職に必要な学習課題

新人期と中堅期以降とを比較した結果,メンタルヘルス活動の実施状況についてはほとんど差が見られなかったのに対し,新人期では特に,カテゴリーB:[個別相談のアセスメントと対応]の活動項目に困難を感じている割合が,中堅期以降より高いという特徴が明らかになった.知識・技術に関しては,ほぼ全ての項目について新人期は中堅期以降よりも不足を感じており,中でも特に,新人期の産業看護職では中堅期以降の産業看護職と比べて,カテゴリーA・Bに関する知識不足や技術不足を感じながら実施している人が多い状況が推察された.

一方,新人期の産業看護職の中には,活動カテゴリーF:[対応が困難なケースへの個別相談対応]に関する自発的な学習ニーズもあることが示されたが,前述した中堅期以降との比較結果から見て,まずは,活動カテゴリーAや Bに関する教育から行っていく必要があると考えられる.

新人期・中堅期以降ともに活動カテゴリーAやBの実施状況が高かった背景には,職場のメンタルヘルス対策における産業看護職の役割として,人事労務担当者や管理監督者等との信頼関係に基づいた情報ネットワークを活かして,職場の健康問題についての情報を得ることが求められている11)こと,また,産業看護職自身が周囲から期待されていると感じる活動として,「健診や事後指導時におけるメンタルヘルス関連の問診,相談」等があること10) が考えられる.産業看護職は,メンタルヘルスに関する労働者個人への相談対応等に関する活動を事業所から要請されている可能性が高く,新人期の産業看護職であっても実施していることが伺える.また,事業所からの要請がなくても,自然とメンタルヘルスに関する相談が看護職に入ってきて,個別相談の対応を行っている可能性も考えられる.

新人期の産業看護職が,活動カテゴリーAやBなど,メンタルヘルス活動を行う上で基本的な対応に関する部分の活動に対して,中堅期以降の産業看護職よりも困難を感じ,また知識・技術に不足感を持ちながら実施していた背景には,仕事を開始する以前の卒前教育と,産業看護職としての経験不足に要因がある可能性がある.看護師・保健師などの看護基礎教育課程は教育施設ごとにカリキュラムに若干違いがあり,さまざまな教育背景をもった産業看護職が混在している現状がある.また,産業看護に関する科目の運用は大学の教育理念あるいは科目担当者の裁量に任されているという実態がある12).このため,卒前教育で産業保健・看護学や職場のメンタルヘルスの基礎に関して学んでいない看護職がほとんどであり,事業場等に就職して初めて職場からの要請や期待を受けて,知識・技術を十分に伴わないまま実施している可能性が考えられる.また先行研究では,メンタルヘルス活動に関する産業看護実践が円滑に行われる前提として,定期健診後の全員面接による支援課題の把握や,新入社員研修の際にメンタルヘルス教育を実施することで労働者からの信頼を得て相談が増加したり,管理職研修を継続的に実施することで管理監督者との信頼関係が構築される可能性を指摘している10).しかし,新人期の産業看護職の場合,スキル不足に加えてこれらの実施経験が少ないことから,労働者や管理監督者との十分な信頼関係構築にまだ至っておらず,中堅期以降の産業看護職と比べて困難を感じた割合が高かった可能性が考えられる.

活動カテゴリーAやBに関する教育の強化方策に関して,以下に考察する.まず,活動カテゴリーA:[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集]に関して,メンタルへルス活動における十分な信頼関係づくりのためには,健康診断時の問診や事後指導,健康教育,職場巡回,あるいは広報活動等の一次予防活動が重要であり13),新人期の産業看護職にも,前記のような労働者と接することのできる機会を積極的に活用し,顔や名前を覚えてもらいながら着実に信頼関係を構築していく姿勢が求められる.先行研究では,事業者や労働者とのラポール形成のためには一定の経験年数が必要といわれており14),労働者と相談しやすい関係性のつくり方や人事労務担当者等からの情報収集といった,基本的な対応方法に関して,従業員との信頼関係が築けているベテランの産業看護職から,実践現場の中で適切なスーパーバイズを受けられるような環境があることが望ましいと考えられる.また,労働者自身が自分の心身の状態に気づけるようにするための支援を行うためには,相手の自発性を尊重しながら話を聴く姿勢が求められている13).相手の気持ちに寄り添いながら話を聴き,日常的な生活の変化や体調・気分の乱れといった事象を引き出し,意識化してもらう支援を行っていくためのコミュニケーション技術を,十分にトレーニングできるような機会を増やすことが必要と考える.

活動カテゴリーB:[個別相談のアセスメントと対応]に関する教育については,精神疾患による自殺等に関する民事訴訟等が急増するなか,自傷他害の危険性を判断し,専門的な治療が必要な状態であるか否かについて,ある程度正確なアセスメントができないと,企業の安全配慮義務の適切な履行に向けて専門的な立場からサポートするといった役割は果たせないと考える.特に産業看護職には,最も労働者に近い立場の専門職として,健康リスクをできるだけ早期に把握し,必要に応じて社内外の専門職につなげる役割が期待されており,そのための適切なアセスメント能力や臨機応変な対応力が高いレベルで要求されていると言われている15, 16).受診の必要性の判断に関して,産業保健スタッフとして,自殺企図につながる高リスクの兆候や,危険因子を理解し,該当する労働者を的確に把握・アセスメントするために,必要な知識・技術を習得することが必要である.これに関して,例えば, うつ病の評価を目的とした簡便な面接法や,うつ病における自殺の危険因子,自殺の直前のサイン,希死念慮に関する質問例等が示されている17).まずはこのような知識を習得するとともに,自由記載欄にも希望があったように,事例検討等を通した具体的な学びが有用と思われる.今後,新人期の産業看護職が労働者個人へのメンタルへルス相談対応に関して,相応の知識・技術を有して実施できるようになるために,講義型の研修会だけでなく,実践的な事例を用いながら経験豊富なスーパーバイザーのもとで適切なアセスメント力や,臨機応変な対応力をトレーニングできる事例検討会などの機会を増やすことが必要と考えられる.

2.新人期の産業看護職に必要な学習環境や自己研鑽

学習環境や自己研鑽について,新人期の産業看護職では他の企業の産業看護職から助言を受けられたり,研究実施や学会発表したことのある割合については中堅期以降の産業看護職と比べると少ないことが示されたが,その他についてはほとんど差がみられなかった.また,困難を感じた経験の有無に関係のあった学習環境や自己研鑽について,新人期と中堅期以降の産業看護職とでは内容が異なる結果となったのは,学習環境や自己研鑽の状況が,新人期と中堅期以降では異なるためではないかと考えられる.

本研究の結果から,活動カテゴリーC:[復職支援と事業場内・外の関係者との連携]に関して,「他企業の産業看護職等に相談できる」,「外部の研修会や勉強会の開催に関する情報を入手しやすい」環境があり,「活動の参考になるような関連雑誌の購読」を行っていた新人期の産業看護職は,過去一年間に困難を感じた経験が有意に少ないことが示された.復職支援は主治医や,リワークプログラムを提供している機関,復帰する職場の管理監督者,人事・労務部門との連携調整など,多くの職種や他機関との連携調整が求められる業務であると言われている18).一方,同じ公衆衛生看護分野の中でも,様々な研究が行われている行政保健師の専門能力獲得方策に関する調査によると,他の自治体の先駆的取り組み,他の保健師の実践に学ぶ学習により,自分の担当区と比較して考えることができ,新たな取り組みなどの示唆が得られたとの報告がある19).本研究の結果からも,他企業の産業看護職に相談したり,勉強会の情報を得ることが,他企業の取り組みを知ることにつながり,復職支援に関する困難感が軽減された可能性がある.新人期の産業看護職のうち,他企業の産業看護職等に相談できる人は約4割に留まっており,中堅期以降の産業看護職と比べると割合が低かった.このことから,新人期の産業看護職が,他企業の産業看護職と交流できるような場が必要であると考える.

活動の参考になるような関連雑誌の購読を行っていた人が,そうでない人よりも活動カテゴリーCに関する困難を感じた経験が有意に少なかったことから,関連冊子購読の教育効果が示唆された.行政保健師の専門能力の到達段階には,保健関連冊子の定期購読数が影響しているといわれており20),本研究でも同様の結果が得られたと考えられる.復職支援における産業看護職の活動のあり方等ついては,雑誌等で取り上げられていることが多く21,22,23),経験の少ない新人期の産業看護職にとっては,活動を行う際の参考にしやすかったと考えられる.新人期の産業看護職が活動に関して明確な目標を意識しながら雑誌を購読したことにより,自分の学びたいところを重点的に学ぶことができ,困難感の解消に役立った可能性が考えられる.復職支援や関係者との連携等の活動に困難なく取り組んでいけるようにするためには,講習を受けるなどの受動的な学習だけではなく,文献学習等も取り入れて自ら能動的に学ぶ学習方法が有効である可能性が示唆されたと考えている.

また,活動カテゴリーF:[対応が困難なケースへの個別相談対応]に関して,研究を実施したり学会発表をする経験を有していた新人期の産業看護職は,困難を感じた経験が有意に少ないことが示された.井上らは,「保健師が専門職として実践研究を行うことの意義は,日常業務における問題意識をクリティカルな研究的視点に置き換え,活動を見直すことからはじめ,現状分析,課題の設定,実践の工夫,評価の一連のプロセスを踏めることであり,保健師の実践能力としてより高い段階,新しい知識・技術を見出し職能の専門能力向上に役立てる段階につながる行動である」と述べている24).このことからも,今回,研究や学会発表をしている人が,そうでない人よりも「対応が困難なケースへの個別相談対応」に困難を感じていなかった背景として,研究を行うことで活動を客観的に見直すことができ,現状における課題を分析し課題解決のための糸口を見いだせていた可能性がある.今回の調査では,新人期の産業看護職は研究を実施した経験や,学会等で発表した経験がある人は約2割に留まっており,今後,実践現場と大学等とが協働して,現場の産業看護職による研究活動を推進していくことが望まれる.

本研究の限界として,以下の3つが考えられる.1つ目は,本研究の対象は日本産業衛生学会の会員の産業看護職であったため,新たな産業保健動向にも関心が高く,積極的に自己研鑽に努めている人が多かった可能性がある.従って,本研究で報告した産業看護職の職場のメンタルヘルス活動の知識・技術の保有感については,全国の平均的な状況と比較すると,よい方向に結果が出ている可能性が高い.

2つ目は,本研究では新人期を産業経験5年以下としたが,経験1年未満と経験5年目ではかなりの幅があり,知識・技術の保有感等にも差がある可能性がある.今回経験1年未満の産業看護職は6名しかいなかったため,新人期の経験年数による比較分析は行わなかったが,今後,新人期の中でさらに細かく層化した分析が必要であると考える.そのためには,より多くの新人期の看護職からデータを収集していくことが望まれる.

3つ目は,今回はメンタルヘルス活動における知識・技術については,主観的な保有感のデータのみ収集したが,今後,教育プログラムを作成・評価していくにあたっては,客観的な知識・技術の保有状況も確認する必要があると考えられる.

また,本論文では,新人期の産業看護職に焦点を当て分析を行ったが,今後は,経験年数5年より上の産業看護職をさらに群分けして比較分析を行うことにより,それぞれの経験年数に応じた学習課題を明らかにしていく予定である.

V.結 論

新人期の産業看護職の大多数はメンタルヘルス活動に携わっていたが,ほぼ全てのメンタルヘルス活動項目に関して,中堅期以降の産業看護職よりも知識・技術不足を感じており,[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]に関して困難を感じる割合が中堅期以降より高かった.特に,新人期の産業看護職でも実施割合が高かった[労働者・管理監督者等との信頼関係の構築と情報収集],[メンタルヘルスに関する個別相談のアセスメントと対応]に関しては,知識・技術不足を感じながら実施している割合が他の活動よりも多い状況が明らかとなった.そのため,新人期の産業看護職への教育・研修の強化策として,まず第一に,労働者等との信頼関係の築き方について実践現場の中で学びながら,スーパーバイザーのもとで適切なアセスメント力や,臨機応変な対応力をトレーニングできる事例検討会などの学習機会を増やすことが望ましいと考えられた.また,他企業の産業看護職と交流できるような場の設定や,文献学習等を取り入れること,現場の産業看護職による研究活動を推進していくことも重要であることが示唆された.

Acknowledgment

謝辞:調査研究にご協力いただきました日本産業衛生学会員の産業看護職の皆様に心より感謝申し上げます.

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