産業衛生学雑誌
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最新号
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Issue Information
原著
  • 山内 貴史, 須賀 万智, 柳澤 裕之
    原稿種別: 原著
    2022 年 64 巻 2 号 p. 69-80
    発行日: 2022/03/20
    公開日: 2022/03/25
    [早期公開] 公開日: 2021/04/15
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    目的:「治療と仕事の両立支援」に関する先行研究では,従業員数300人未満の中小企業では両立支援の認知度が低いとともに,労働者が病気の治療のため通常勤務が難しいと職場に支援を申し出ることにメリットよりもデメリットを強く感じていることが報告されている.本研究では,職場の協働的風土ならびに労働者の被援助に対する態度に着目し,中小企業の労働者において,就業上の配慮を要する状況下での両立支援の申出意図を促進し得る要因を検討した.対象と方法:わが国の業種・従業員規模別の就業人口割合の縮図となるようサンプリングされた,中小企業勤務の20歳~64歳の正社員で,病気による1ヶ月以上の病気欠勤,病気休職,時短勤務などの就業制限を受けたことがない労働者モニター3,286人を対象としてインターネット調査を実施した.職場の協働的風土および被援助に対する肯定的態度の測定尺度とともに,産業保健スタッフの有無,経営トップの健康関連指針の有無,勤務先の経営状況,柔軟な勤務・休暇制度,相談窓口の有無,職場外での相談相手の有無ならびに基本属性を尋ねた.さらには,治療と仕事の両立支援のリーフレットを提示し概要を把握させたうえで,回答者本人ががんや脳卒中などに罹患し,主治医からこれまで通りの勤務は難しいと指摘された場面を想定させ,このような状況下での両立支援の申出意図を尋ねた.協働的風土および被援助に対する態度を主たる説明変数,両立支援の申出意図を目的変数とした多重ロジスティック回帰分析を実施した.結果:両立支援についてのリーフレット提示後には,研究参加者の約75%が両立支援について積極的に申し出る意図を報告した一方で,申出に積極的でない者も約25%見られた.協働的風土が最も低いグループと比較して,協働的風土が最も高いグループでは有意に多くの者が両立支援の申出意図を報告した(オッズ比:1.5,95%信頼区間:1.1~1.9).同様に,被援助への肯定的態度が最も低いグループと比較して,肯定的態度が最も高いグループでは有意に多くの者が両立支援の申出意図を報告した(オッズ比:1.4,95%信頼区間:1.1~1.7).経営状況,柔軟な勤務・休暇制度の有無,相談窓口の有無,および職場外での相談相手の有無も両立支援の申出意図と有意な関連が認められた(オッズ比:1.3~2.0).従業員規模による層別分析の結果,従業員数50人未満の層では被援助への肯定的態度と両立支援の申出意図との関連は有意でなく,協働的風土の強さのみが両立支援の申出意図と有意に関連していた.考察と結論:中小企業においても,両立支援の認知度を向上させることで労働者の支援の申出意図を高める可能性が示唆された.その一方で,産業保健スタッフや柔軟な勤務・休暇制度の有無などの要因とは独立して,協働的風土や被援助に対する肯定的態度は両立支援の申出意図と有意に関連していた.両立支援について認知してもなお支援の申出に消極的な労働者に対しては,集団分析や職場環境改善プログラムによる職場風土の改善,および社内研修における好事例の情報提供による被援助への肯定的態度の強化などによって両立支援の申出を促進し得る可能性が示唆された.

  • 川村 小千代, 森岡 郁晴
    原稿種別: 原著
    2022 年 64 巻 2 号 p. 81-95
    発行日: 2022/03/20
    公開日: 2022/03/25
    [早期公開] 公開日: 2021/05/12
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    目的:高齢者福祉施設の介護職者には,強いストレスがあることが指摘されている.近年,労働者のポジティブな心理的側面に焦点をあてた概念のひとつとして,ワーク・エンゲイジメントが注目されている.本研究では,職場グループでのポジティブな出来事の筆記と読み上げが施設の介護職者のワーク・エンゲイジメントの向上と職業性ストレスの軽減を図る方策として有用かどうかを検討した.なお,本研究は,UMIN臨床試験登録システムに登録(UMIN30333)して開始した.対象と方法:参加者は,和歌山県の7指定介護老人福祉施設に勤務する介護職者173名のうち研究参加に同意した13グループ57名(参加率32.9%)であった.介入方法は,介入群と対照群の2群2期のクロスオーバーデザインとした.対象者の割り付けは,各施設代表者が施設内で勤務する介護職者で,2群が同人数になるようにグループ単位で群分けをし,研究者で全体のグループ数と人数が同一になるように2群に分けた.介入群は,個人が就業中筆記のできる時間にポジティブな出来事を筆記した.さらに,グループで朝礼の時間などを使用してポジティブな出来事を読み上げた.対照群は通常どおり勤務した.A群(24名)は第1期に,B群(33名)は第2期に筆記と読み上げを行った.実施期間は,それぞれ8週間であった.質問紙は施設代表者に手渡した.参加者は記載した質問紙を封筒に厳封し,施設内に設置した回収袋へ投函した.調査項目は,ユトレヒト・ワーク・エンゲイジメント尺度日本語版(以下,UWES),職業性ストレス簡易調査票(以下,BJSQ),属性であった.介入量の指標として個人がポジティブな出来事を筆記した個数,読み上げを聞いた回数とした.筆記した個数,読み上げを聞いた回数は介入終了時に尋ねた.さらに,介入群と対照群の得点の変化量に有意な差を認めた項目では介入中における得点の変化量と介入量との関連を検討するために,重回帰分析を行った.結果:参加者が介入中に筆記したポジティブな出来事の合計は318個であった.筆記された語句を抽出すると,「ありがとう」「嬉しい」,「笑顔」の言葉が多かった.個人が介入中に筆記した個数の中央値は3個(四分位範囲1個–5個)であった.読み上げを聞いた回数は,「ほとんどなかった」と回答した者が22名(38.6%)であった.介入群と対照群の得点の変化量に有意な差を,UWESの没頭で,BJSQの仕事のコントロール,働きがい,家族・友人のサポートで認めた.重回帰分析の結果,筆記した個数は,UWESの没頭の得点の変化量と,BJSQの働きがいの得点の変化量とに関連を示した.読み上げを聞いた回数はいずれの項目にも関連を示さなかった.考察と結論:就業中にポジティブな出来事の筆記をすることは,没頭を高め,働きがいを改善する可能性がある.職場グループでのポジティブな出来事の筆記と読み上げは,介護老人福祉施設の介護職者におけるUWESの没頭とBJSQの働きがいの向上を図る方策のひとつであることが示唆された.

調査報告
  • 竹口 和江
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 64 巻 2 号 p. 96-106
    発行日: 2022/03/20
    公開日: 2022/03/25
    [早期公開] 公開日: 2021/04/29
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    目的:企業外労働衛生機関の産業看護職は,中小企業にむけたメンタルヘルス一次予防のための質の高い保健活動の提供が期待されている.企業外労働衛生機関の産業看護職が,メンタルヘルス一次予防のための保健活動を実践するためには,事業場側だけでなく所属機関の支援体制を構築する実践能力が必要である.本研究では,企業外労働衛生機関の産業看護職におけるメンタルヘルス一次予防の実践能力を自己評価する尺度を開発することを目的とした.対象と方法:質的先行研究と文献検討に基づき,企業外労働衛生機関の産業看護職におけるメンタルヘルス一次予防の実践能力尺度の原案を作成した.111施設の産業看護職555人を対象に質問紙調査を実施し,妥当性と信頼性を検証した.結果:169人を分析対象とし,最尤法・プロマックス回転を用い探索的因子分析を行い,【事業場の方針やニーズに合わせた一連の保健活動を展開する能力】【事業場との連携を強化する能力】【所属機関の保健活動基盤を整備する能力】【労働者の支援ニーズを引きだす能力】の4因子26項目となった.さらに,確認的因子分析により4項目を削除し,モデル適合度指数は,GFI=.874,AGFI=.838,CFI=.962,RMSEA=.050で,4因子22項目となった.考察と結論:開発した尺度は,メンタルヘルス一次予防の企業外労働衛生機関産業看護職の実践能力評価尺度として一定の信頼性・妥当性を有すると考えられた.企業外労働衛生機関の産業看護職が日々の活動を見直す自己評価ツールとして活用可能である.

  • 津下 圭太郎, 小林 翔子, 宇野 沙央里, 浦野 友子, 池戸 まゆみ
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 64 巻 2 号 p. 107-113
    発行日: 2022/03/20
    公開日: 2022/03/25
    [早期公開] 公開日: 2021/05/13
    ジャーナル フリー HTML

    目的:多くの事業体や企業にとって社会・経済活動の継続とSARS-CoV-2感染防止の両立は切実な課題である.我々は緊急事態宣言発令直前に,強度の身体的負荷を伴う特別訓練参加者のSARS-CoV-2集団感染を経験した.感染リスクの高い行為や状況を同定することにより,感染防止対策の改善,適正化を促進する目的で,この事例における感染拡散の詳細な過程を把握するための調査・分析を行った.方法:特別訓練参加者を対象に健康状態や症状の推移と,訓練方法および私生活での行動履歴についての報告記録調査と構造化面接による聞き取り調査を行った.訓練環境を把握するために訓練場の巡視を行い,さらに不顕性感染者を把握することにより,感染の拡散状況をより正確に把握する目的で,接触者の抗体検査を実施した.結果:最初の患者が発症してから10日の間に,継続的な訓練参加者19人中15人が発症し,PCR検査の対象とされた14人は全員陽性であった.発症しなかった4人もPCR検査を実施され,2人が陽性,2人が陰性であった.陰性の2人は,後日実施した抗体検査で陽性であり,不顕性感染であったことが示唆された.加えて初発例の発症日から4日目に1日だけ訓練に参加した5人が,全員発症しかつPCR陽性であった.接触者として抗体検査を実施した64人は,私生活上の接触者であった1人を除いて全員が抗体検査陰性であった.考察と結論:COVID-19の発症は実践形式の訓練開始後に連鎖的に発生しており,実践訓練が感染の主要な要因と考えられた.実践形式の訓練中は換気量増大のためマスク着用が困難であったこと,至近距離での大声の発声が繰り返されたこと,訓練のペアを固定しなかったことが,急速かつ広範な感染の拡散の主要な要因であったと推測される.一方で発声の少ない訓練やデスクワークでは感染伝播は発生しておらず,SARS-CoV-2の感染は,飛沫感染のリスクが高い特定の状況を避けることで,リスクを大きく低減できる可能性があることが示唆された.職場におけるCOVID-19の患者発生時には発症者と接触者の同定や行動履歴の調査を迅速に行い,緊急対策を行うことに加えて,PCR検査,抗原検査,抗体検査等を組み合わせて感染拡散の全容を把握することは,感染防御対策の評価と改善を行ううえで有用な手段である.

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