産業衛生学雑誌
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Issue Information
総説
  • 日本産業衛生学会労働衛生史研究会, 石井 義脩, 相澤 好治, 岸本 卓巳, 堀江 正知, 永野 千景, 清水 英佑
    原稿種別: 総説
    2024 年 66 巻 4 号 p. 143-154
    発行日: 2024/07/20
    公開日: 2024/07/25
    [早期公開] 公開日: 2024/03/26
    ジャーナル フリー HTML

    目的:わが国におけるじん肺に合併した肺がん(以下,じん肺合併肺がん)の労災補償制度についての変遷を俯瞰する.方法:じん肺合併肺がんに対する労災補償制度について検討した行政的資料を用いる.結果:わが国におけるじん肺合併肺がんは,高度経済成長期の末期の頃から労災請求が増加し始める形で顕在化し,じん肺と肺がんの因果関係について労災補償対策の一環として専門家で構成される検討会において議論が重ねられた.1978年の「じん肺と肺がんの関連に関する専門家会議」の報告では因果関係に関する知見は得られなかったが,じん肺の臨床医師に対する調査に基づき,じん肺患者の肺がんについて医療実践上の不利益があるとして実効ある保護施策を提言したことを踏まえて,じん肺管理区分が管理4又は管理4相当の者に発生した肺がんを業務上と認める通達が出された.この頃よりじん肺患者の肺がんの労災認定をめぐる裁判も提起されるようになった.1997年に国際がん研究機関(IARC)が結晶質シリカをグループ1「ヒトに対する発がん性がある」に位置づける評価替えを行ったことを契機として,国内でも「じん肺患者に発生した肺がんの補償に関する専門検討会」で確認作業が行われ,2000年の報告はIARCの評価替えは容認できないとされた.しかし,日本産業衛生学会の許容濃度等委員会は,2001年にIARCがグループ1と評価したことを支持するとして発がん性分類表の「1」とすることを提案した.さらに,「じん肺有所見者の肺がんに係る医療実践上の不利益に関する専門検討会」は,2002年にじん肺管理区分が管理3又は管理3相当の者に発生した肺がんについても医療実践上の不利益が明らかであると報告し,新たな通達が出された.2002年には,健康管理の視点から「肺がんを併発するじん肺の健康管理等に関する検討会」の報告がなされ,メタアナリシスの手法を用いて,結晶質シリカについての肺がんリスクの上昇は認められないが,じん肺有所見者の肺がんリスクの上昇は認められるとした.これに基づき,原発性肺がんをじん肺法の合併症に追加し,じん肺の健康管理対象として検査方法の追加,じん肺管理区分が管理2以上の者に対する健康管理手帳対象者拡大と労災認定対象としての追加が行われた.考察と結論:2002年の報告書は納得できる解析結果を示しており,これに基づく法令改正も適切になされたと考えられる.

原著
  • 錦戸 典子, 吉野 純子, 安部 仁美, 三橋 祐子, 島本 さと子, 伊藤 美千代, 佐々木 美奈子
    原稿種別: 原著
    2024 年 66 巻 4 号 p. 156-167
    発行日: 2024/07/20
    公開日: 2024/07/25
    [早期公開] 公開日: 2024/05/24
    ジャーナル フリー HTML

    目的:中規模企業における持続的な健康経営の実装に向けた開業保健師による組織支援の特性を実際の支援プロセスから明らかにすること,および,支援の受け手である企業担当者(以下,担当者)の視点から支援の評価をすることを,本研究の目的とした.対象と方法:従業員数100~300名未満の中規模企業4社を研究対象とした.開業保健師による各企業5回ずつの持続的な健康経営に向けた支援を実施し,「実装研究のための統合フレームワーク(CFIR)」を参考にした分析枠組みに沿って,各企業の内的環境・担当者特性,および,開業保健師の支援プロセスと企業の反応を含めた評価を開業保健師による記録およびインタビュー結果から整理した.複数企業での共通性に着目して,中規模企業における持続的な健康経営の実装に向けた開業保健師による組織支援の特性を研究者の討議により導いた.また,支援終了後に,担当者を対象に,支援全体の評価についてのインタビュー調査を実施し,内容分析を行った.結果:開業保健師による組織支援の特性として,A:担当者から企業ニーズや困り事等を傾聴して信頼関係を構築,B:企業特性や健康課題,支援計画をアセスメント,C:健康課題と支援計画案を担当者等と共有して柔軟に支援を開始,D:経営者・従業員各々の気づき・リテラシー向上に向けた施策を展開,E:産業医等の関係者・外部支援機関等との連携を促進,F:持続的な健康経営に向けて,担当者が主体的に取り組めるよう支援,の6項目が抽出された.支援終了後の企業担当者へのインタビュー調査からは,開業保健師による支援に対する評価として,【現在の社内の健康課題を把握・認識することができた】,【自社に合った具体的な支援が得られ,取り組みを進められた】,【健康推進対策に取り組むきっかけと前向きな変化が得られた】,【今後の健康推進対策の展開・継続を考えることができた】,【開業保健師は,相談しやすい存在だと分かった】,【期待とは違う開業保健師の支援が見えた】の6つのカテゴリーが抽出された.考察と結論:本研究により,中規模企業の対象特性に合わせた持続的な健康経営の実装に向けた開業保健師による組織支援の特性と,企業担当者からの評価に関して整理することができた.中規模企業における健康経営の実装に向けては,特に担当者の姿勢や主体的関わりが重要と考えられる.開業保健師による担当者を中心とした組織支援により,担当者からも今後の健康経営施策の継続に向けた前向きな評価が得られたことから,開業保健師が支援に携わることにより,中規模企業においても担当者を中心に健康経営に持続的に取り組める可能性が示唆された.

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