産業衛生学雑誌
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原著
定期巡回・随時対応型訪問介護看護に従事する介護職者の疲労徴候とその職場関連要因
川村 小千代山田 和子森岡 郁晴
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2015 年 57 巻 3 号 p. 77-84

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Abstract

目的:「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」が新たに創設された.この制度によって家族の負担は減少するが,このサービスを提供する介護職者の負担は増加する.そこで本研究の目的は,このサービスを提供する施設の介護職者の疲労徴候を明らかにするとともに,職場における関連要因を検討することである.方法:無記名の自記式調査用紙を用いて,施設の介護職者96名を対象に調査を行った.質問内容は,蓄積的疲労徴候インデックス,勤務状況,職場における支援,属性であった.解析では対象者を午後6時から午前8時に勤務がある有夜勤者と日勤しかない常日勤者の2群に分け,疲労徴候と勤務状況等との関連を2群間で比較検討した.結果:有夜勤者は47名で,平均年齢42.3歳,平均経験年数は6.0年,前月の訪問介護人数9人(中央値)であった.常日勤者は49名で,平均年齢44.6歳,平均経験年数は5.9年,前月の訪問介護人数9.5人であった.年齢と性別は両者間に有意差を認めなかった.勤務時間とケア内容を除いて,仕事の状況,職場の支援に有意差を認めなかった.両者とも疲労徴候は高く,有夜勤者の身体不調は常日勤者より強かった.仕事の満足,心の健康への教育研修,訪問時の交通安全配慮は両者とも疲労を軽減する要因であった.ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験,有給休暇のとりやすさは,有夜勤者で疲労徴候と関係していなかった.この点は常日勤者と異なっていた.結論:両者とも疲労徴候に対して対策が必要であるが,有夜勤者に対する対策は常日勤者への対策に加え,さらに有効な対策を探り,実施していく必要がある.

I.はじめに

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」サービスは,要介護高齢者の在宅生活を支えるため,訪問看護と訪問介護を一体的に,またはそれぞれが密接に連携しながら,日中・夜間を通じて定期巡回訪問と随時対応を行う地域密着型サービスとして創設された1).この制度によって家族への支援は充実するが,その一方で訪問介護看護サービスを提供する介護職者や看護師の勤務形態が変わり,夜間における訪問での介護や看護が多くなると考えられる.これらの職種の健康管理を充実することが重要となってくる.

これまでの介護職者における研究では,施設入居者に介護サービスを提供している介護職者の健康問題として,ストレス2),抑うつ3),不眠4)などが報告されている.疲労では,勤務後の疲労症状の増加率は,日勤よりも夜勤の方が高くなっていた5).また,訪問介護事業所に勤務する介護職者の方が,通所介護事業所に勤務する者に比べ客観的疲労感が出現していた6).これらの報告は,夜間の勤務7)や訪問看護8)はストレス反応を引き起こしやすいとする,看護師を対象にした報告と符合しており,介護職者においても夜勤や訪問がある勤務で疲労徴候が大きいと考えられる.しかし,これまで在宅の要介護者に介護サービスを提供している介護職者に関する報告9, 10)は少なく,在宅の要介護者に介護サービスを提供している夜勤介護職者の疲労徴候についての報告はない.

そこで本研究は,定期巡回・随時対応型訪問介護看護に従事する介護職者の勤務形態別の疲労徴候を明らかにし,勤務状況,職場における支援との関連の検討を行い,その結果を今後の介護職者の健康管理の支援に役立てることを目的とした.

II.研究方法

1.研究対象

厚生労働省や各府県のホームページ(2012年12月現在)より,近畿・東海地区にある「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」に対応している57施設(訪問介護ステーションなど)を対象施設とした.それぞれの施設代表者に研究の趣旨等を記載した依頼文を送り,調査協力の承諾の得られた10施設に就業する介護職者190名を対象者とした.

2.調査方法

1)配付・回収方法

無記名の自記式調査用紙を使用した.承諾が得られた施設の代表者に対して調査用紙を送り,介護職者に配付と回収を依頼し,施設代表者が調査用紙を研究者に郵送する形で回収した.

調査期間は2013年3月~4月とした.

2)調査内容

調査内容は,疲労徴候,勤務状況,職場における支援,基本属性であった.

(1)疲労徴候

疲労徴候は,蓄積的疲労徴候インデックス(CFSI)を用いて測定した11).CFSIは,精神的側面(抑うつ感,不安感,気力の減退),身体的側面(一般的疲労感,慢性疲労徴候,身体不調),社会的側面(イライラの状態,労働意欲の低下)の8下位尺度を有する計81問から構成されている.ここ1ヶ月の症状や体験の有無を尋ね,「ある」と回答した項目数を得点とする.点数が高いとその徴候が高いと評価する.

(2)勤務状況

勤務状況は,勤務契約,勤務形態,介護職の従事歴,ここ1ヶ月の勤務における標準的な勤務時間,勤務日数,前月の残業時間,前月の定期巡回訪問時に介護した延べ人数,ケア内容,ここ1年以内の介護知識・技術の学習の有無,利用者の状態急変時に対する対応についての不安,仕事の満足について尋ねた.さらに夜勤勤務をする者には夜勤勤務前の仮眠,勤務中の仮眠について尋ねた.

勤務契約は「常勤」「非常勤」「その他」で,勤務形態は「常日勤8時から18時」「交替制8時から18時と18時から翌8時」「常夜勤18時から8時」で回答を求めた.

ケア内容は身体介助として排泄介助,更衣介助,入浴介助などについて,生活介助として食事準備(調理),食事準備(配膳,服薬),生活援助(掃除,洗濯,買い物)などについて,その他の介助として,見守り,不安解消,転倒予防について,実施の有無を尋ねた.

利用者の状態急変時に対する対応についての不安は「不安がない」「あまり不安はない」「やや不安である」「不安である」の4件法で,仕事の満足は「満足している」「まあ満足している」「やや不満足である」「不満足である」の4件法で,夜勤勤務前の仮眠,勤務中の仮眠は「とらない」「たまにとる」「ときどきとる」「いつもとる」の4件法で回答を求めた.

(3)職場における支援

職場の支援は,職場ソーシャルサポート12),有給休暇のとりやすさ,心の健康に関する教育研修や情報提供(以下,教育研修),心の健康の不調への対応や職場環境の改善(以下,職場環境改善),さらに夜勤勤務をする者には,夜勤勤務のときの通勤・訪問時の交通安全に対する職場からの配慮(以下,交通安全配慮)について尋ねた.

職場ソーシャルサポートは,職場の上司,先輩,同僚のサポートに適用できる尺度である12).訪問介護施設は勤務者が少なく,訪問も一人で行うことが多いため,本研究における職場の人間関係からの支援は上司を中心に検討することとし,上司のサポートの部分のみを採用した.質問項目は15項目からなり,それぞれ5件法で回答を求めた.それぞれ回答に1~5点を割り当て,合計点を算出した.得点範囲は15~75点で,得点が高いほどサポートがあると感じていると評価する.

有給休暇のとりやすさは「とりにくい」「ややとりやすい」「まあとりやすい」「とりやすい」の4件法で回答を求めた.教育研修は「受けていない」「あまり受けていない」「まあ受けている」「受けている」の4件法で,職場環境改善は「行っていない」「あまり行っていない」「まあ行っている」「行っている」の4件法で回答を求めた.交通安全配慮は「配慮はない」「あまり配慮はない」「やや配慮はある」「配慮はある」の4件法で回答を求めた.

(4)基本属性

基本属性は,性別,年齢,婚姻,家族形態について尋ねた.

婚姻は「未婚」「即婚」「死別」「離別」で,家族形態は「一人住まい(単身赴任)」「家族と同居」で回答を求めた.

3.解析方法

対象者を勤務形態により,8時~18時に勤務する者(49名)を常日勤者として,18時~翌8時に勤務する常夜勤勤務者(11名)と交替制勤務者(36名)を有夜勤者(47名)として2群に分類した.本研究では,常夜勤勤務者と交替制勤務者の両者間にCFSIの有意な差がなかったため,常夜勤勤務者と交替制勤務者を合わせて有夜勤者として解析を行った.

質問項目の4件法については,利用者の状態急変時に対する対応については「不安がない」「あまり不安はない」を「不安はない」に,「やや不安である」「不安である」を「不安である」に,仕事の満足は「満足している」「まあ満足している」を「満足している」に,「やや不満足である」「不満足である」を「不満足である」に再分類した.他の項目も同様に2群に再分類した.

平均値の比較にはt検定,中央値の比較にはMann-WhitneyのU検定,割合の比較にはχ2検定,相関係数にはSpearmanの相関係数を用いた.なお,項目の出現数が5未満の場合,中央値の比較は行わなかった.

統計解析にはSPSS ver.16を用い,統計的有意確率は5%未満とした.

4.倫理的配慮

調査用紙は無記名とした.研究への参加は自由意思であり,研究へ参加しなくても対象者に不利益はないこと.個人が特定されるような解析は行わないこと.以上の内容を対象者へ文書で説明し,調査用紙の提出をもって同意とみなした.

本研究は,和歌山県立医科大学倫理委員会の承認後(番号1201)開始した.

III.結 果

調査用紙は全10施設,114名から回答を得た(回収率60%).施設内の回収率が低い1施設(回収率17%)を除外し,この施設からのすべての回答を解析から除いた.さらに,記載不備の多い者,訪問介護を行っていない者,介護職の従事歴が1ヶ月以内の者,上司のいない者は除いたため,有効回収数は9施設に勤務する96名(有効回収率51%)であった.

1.基本属性

対象者は,有夜勤者が男性11名(23%),女性36名(77%),常日勤者が男性14名(29%),女性35名(71%)であった.平均年齢は,有夜勤者が42.3±10.1(平均値±標準偏差)歳,常日勤者が44.6±9.1歳であった.

婚姻は,既婚が有夜勤者23名(49%),常日勤者22名(45%)で両者とも最も多く,次いで未婚が有夜勤者14名(30%),常日勤者13名(27%)であった.住まいは,家族と同居が有夜勤者38名(81%),常日勤者41名(84%)であった.

基本属性のいずれの項目においても両者間に有意差を認めなかった.

2.勤務状況

勤務契約は,常勤が有夜勤者15名(32%),常日勤者27名(55%)であった.介護職の平均従事歴は,有夜勤者6.0±4.5年,常日勤者5.9±4.8年であった.1日あたりの平均勤務時間は,有夜勤者8.6±2.8時間,常日勤者7.8±1.9時間であった.1ヶ月あたりの平均勤務日数は,有夜勤者18.3±5.7日,常日勤者19.3±4.7日であった.調査日の前月の残業時間は,有夜勤者1.7±0.5時間,常日勤者1.6±0.5時間であった.いずれの項目においても両者間に有意差を認めなかった.

前月の定期巡回訪問時に介護した延べ人数は,有夜勤者9(四分位範囲4~50)名,常日勤者9.5(2~27.5)名で,有意な差はなかった.

ケア内容をみると,有夜勤者では,身体介助の更衣介助が27名(57%)で最も多く,次いで排泄介助26名(55%),移動・移乗介助25名(53%)であった.一方,常日勤者では,生活介助の食事準備(配膳,服薬介助)が40名(82%)で最も多く,次いで身体介助の更衣介助37名(76%),排泄介助37名(76%)であった.両者間で差を認めたケア内容は,身体介助の入浴介助(有夜勤者:2.1%,常日勤者: 30.6%)と通院・外出介助(0%,26.5%),生活介助の食事準備(配膳,服薬)(34.0%,81.6%),生活援助(掃除,洗濯,買い物)(17.0%,65.3%)で,いずれも有夜勤者に少なかった.

ここ1年以内に介護の知識・技術を学習経験がある者は,有夜勤者35名(74%),常日勤者37名(76%)であった.

利用者の状態急変時の対応について不安があると答えた者は,有夜勤者33名(70%),常日勤者35名(71%)で,有意差を認めなかった.仕事に満足している者は,有夜勤者34名(72%),常日勤者33名(67%)で,有意差を認めなかった.

有夜勤者では,夜勤勤務の出勤前の仮眠をとる者が15名(32%),勤務中の仮眠をとる者が11名(23%)であった.

3.職場における支援

職場ソーシャルサポート得点の中央値をみると,有夜勤者は50(38~58)点,常日勤者は54(44~61)点で,有意差を認めなかった.

有給休暇をとりやすいと感じている者は,有夜勤者12名(36%),常日勤者21名(58%)で,有意差を認めなかった.

職場の教育研修を受講していると回答した者は,有夜勤者14名(31%),常日勤者15名(33%)で,有意差を認めなかった.また,職場が職場環境改善を行っていると回答した者は,有夜勤者14名(31%),常日勤者15名(33%)で,有意差を認めなかった.

交通安全配慮がある者は27名(57%)であった.

4.CFSIと勤務状況との関連

有夜勤者と常日勤者で,CFSIの8下位尺度の得点を比較した結果をTable 1に示す.身体不調は有夜勤者が常日勤者と同値であったが,有意な差が得られた.四分位範囲からみて有夜勤者の方が身体不調は高いと考えられた.

Table 1.  Scores of CFSI of night shift group and day shift group
Subscales of CFSI Night shift Day shift
(n=47) (n=49)
Depressive feeling 2 (1–4) 1 (0–2.5)
Anxiety feeling 2 (0–6) 2 (0–3)
Diminished drive 1 (0–4) 1 (0–3)
General exhaustion 3 (1–5) 3 (1–4)
Chronic fatigue signs 3 (1–5) 3 (1–5)
Physical disorder 1 (1–3)* 1 (0–2)
Mood disorder 0 (0–2) 0 (0–1)
Decreased work motivation 1 (0–5) 1 (0–2)

Score: Median (Interquartile range) * p<0.05.

学習経験の有無でCFSIの8下位尺度の得点を比較すると,有夜勤者ではCFSIのいずれの尺度とも有意差を認めなかった(Table 2).一方,常日勤者では労働意欲の低下の得点が「ある」と答えた者の方が有意に低かった.

Table 2.  Items of work conditions showing significant differences in scores of CFSI subscales among night shift group and day shift group
Items Night shift (n=47) Day shift (n=49)
Experience of learning care skills No (n=10) Yes (n=36) No (n=7) Yes (n=41)
 Decreased work motivation 1 (0–5.25) 1 (0–4.75) 2 (1–5) 0 (0–1.5)*
Job satisfaction Unsatisfied (n=13) Satisfied (n=33) Unsatisfied (n=13) Satisfied (n=34)
 Diminished drive 3 (0–7.5) 1 (0–2.5)* 2 (0–4.5) 0 (0–2)
 Chronic fatigue signs 5 (0.5–7.5) 3 (1–5) 4 (2.5–5) 1.5 (0–4)*
 Decreased work motivation 6 (0–9.5) 1 (0–2)* 2 (0.5–4) 0 (0–1.25)*
Taking a paid holiday easily No (n=21) Yes (n=12) No (n=15) Yes (n=22)
 Chronic fatigue signs 3 (1–6) 2.5 (1–4.5) 4 (3–6) 2 (0–3.25)**
 Mood disorder 0 (0–2) 0 (0–2) 1 (0–3) 0 (0–1)*
Training and development on mental health No (n=31) Yes (n=14) No (n=30) Yes (n=15)
 General exhaustion 3 (1–6) 2 (0–3.5) 3 (2–4.5) 1 (0–4)*
 Mood disorder 0 (0–2) 0 (0–0)* 0 (0–1.25) 0 (0–1)
 Decreased work motivation 2 (0–6) 0.5 (0–1)* 1 (0–2) 0 (0–2)
Improving work environment No (n=30) Yes (n=15) No (n=29) Yes (n=16)
 Depressive feeling 2 (1–3.25) 2 (0–5) 2 (1–3) 1 (0–2)*
 General exhaustion 2.5 (1–5.25) 3 (1–5) 3 (2–6) 1 (0–3)**
 Chronic fatigue signs 3 (1–5.25) 2 (0–5) 3 (2–6) 1 (0–4)*
 Decreased work motivation 1 (0–6) 1 (0–2) 1 (0–3) 0 (0–1)*
Consideration on traffic safety No (n=16) Yes (n=27)
 Mood disorder 1.5 (0–4) 0 (0–0)**

Score: Median (Interquartile range) * p<0.05, ** p<0.01 (Mann-Whitney U test).

利用者の状態急変時に対する対応についての不安で比較すると,両者ともいずれの尺度においても有意な差を認めなかった.

仕事の満足で比較すると,有夜勤者では「満足」者の方が気力の減退,労働意欲の低下の得点は有意に低かった(Table 2).一方,常日勤者では「満足」者の方が慢性疲労徴候,労働意欲の低下の得点は有意に低かった.

夜勤勤務の勤務前の仮眠,勤務中の仮眠で比較すると,いずれの尺度においても有意な差を認めなかった.

5.CFSIと職場における支援との関連

職場ソーシャルサポート得点とCFSIの8下位尺度の得点との相関をみると,有夜勤者ではいずれの尺度とも有意な相関が認められなかった(Table 3).一方,常日勤者では一般的疲労感,慢性疲労徴候,労働意欲の低下と有意な負の相関を認めた.

Table 3.  Coefficients of correlation between scores of social support and those of CFSI subscales of night shift group and day shift group
Subscales of CFSI Night shift (n=47) Day shift (n=49)
Depressive feeling –0.092 –0.128
Anxiety feeling –0.095 –0.196
Diminished drive –0.149 –0.274
General exhaustion –0.105 –0.491**
Chronic fatigue signs –0.070 –0.397**
Physical disorder –0.122 –0.252
Mood disorder –0.172 0.144
Decreased work motivation –0.199 –0.359*

* p<0.05, ** p<0.01 (Spearman’s coefficient of correlation).

有給休暇のとりやすさで比較すると,有夜勤者ではいずれの尺度においても有意な差を認めなかった(Table 2).一方,常日勤者では「とりやすい」と感じている者の方が慢性疲労徴候,イライラの状態の得点が有意に低かった.

職場の教育研修で比較すると,有夜勤者でイライラの状態は同値であったが,有意差がみられた.四分位範囲からみて「受講している」と回答した者の方がイライラの状態は低いと考えられた.また,労働意欲の低下の得点も有意に低かった(Table 2).一方,常日勤者では「受講している」と回答した者の方が一般的疲労感の得点は有意に低かった.

職場環境改善で比較すると,有夜勤者ではいずれの尺度においても有意な差を認めなかった(Table 2).一方,常日勤者では「行っている」と回答した者の方が抑うつ感,一般的疲労感,慢性疲労徴候,労働意欲の低下の得点が有意に低かった.

有夜勤者では交通安全配慮が「ある」者の方がイライラの状態の得点は有意に低かった(Table 2).

IV.考 察

1.対象者について

基本属性は,有夜勤者,常日勤者の両者間に有意差を認めなかった.定期巡回・随時対応型訪問介護看護サービスが開始されて間もないことから,このサービスに従事する訪問介護職者の全国調査は実施されていない.このサービスに従事する訪問介護職者を含めた訪問介護職者の全国調査(平成24年)によると13),男性11%,女性89%,平均年齢51.5歳であった.本研究の対象者は,男性が占める割合は全国調査より15ポイント程度高く,平均年齢は約8歳若かった.このことは,定期巡回・随時対応型介護看護サービスに従事する訪問介護職者の特徴の可能性がある.

ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験がある者は全国調査(78%)と同等であり13),本研究の対象者においても同様に学習していた.

2.CFSIと勤務状況との関連について

有夜勤者は,身体不調が高い得点を示した.有夜勤者はサーカディアンリズムの変更に伴う生理機能の乱れによって,疲労が容易に蓄積するため14, 15),身体不調が生じやすいと考えられる.この結果は,施設に勤務する介護職者を対象にした報告7)と一致していた.また,看護師を対象にした報告16)とも一致していた.一方,身体不調を除く他の徴候には差を認めなかった.そこで,CFSIの下位尺度の得点から平均訴え率を求めたところ11),平均訴え率は有夜勤者39.6%,常日勤者35.6%で,保育所などの福祉分野に勤務する女性の平均値(28.2%)と比べると11),両者とも高かった.したがって,本研究では常日勤者の疲労徴候が高いために有夜勤者との差が得られなかったと考えられる.常日勤者には健康不調などを訴えたため常日勤勤務の就業上の配慮がなされた者が含まれている可能性がある17)

有夜勤者を含めた訪問介護に従事する介護職者の全国調査によると,常勤者34%13),平均従事歴4.4年13),1日あたりの平均勤務時間7.4時間(常勤者)18),1月あたりの平均勤務日数21.7日18)であった.本研究の対象者をみると,平均従事歴は1.5年長かったが,常勤者,1日あたりの平均勤務時間,1月あたりの平均勤務日数は,全国調査とほぼ同等の結果であった.

また,全国調査によると,1日あたりの定期巡回訪問回数は1人平均3.0回であった(平成24年10年)19).本研究では回数でなく,1ヶ月の延べ人数を尋ねているため比較はできなかった.

ケアは利用者の個人の状況に合わせた内容を実施するため20),有夜勤者のケアと常日勤者のケアとに差を認めたと考えられる.ケア内容をみると,有夜勤者,常日勤者の両者とも更衣介助や排泄介助が主なケアであった.しかし,有夜勤者では,食事準備(配膳,服薬),生活援助(掃除,洗濯,買い物)の生活介助が少なく,身体介助が主なケアになっていた.老人保健施設に勤務する介護職者では,更衣介助,オムツ交換,移動介助のエネルギー代謝率(RMR)は1–2(軽作業)であった21).一方,食事介助のRMRは0–1(極軽作業)21)であり,手先および上肢の軽い動作のRMRは0.6–0.9であることから22),生活介助に比べ身体介助の負担は大きい.有夜勤者は負担の大きい身体介助を行うことで身体不調につながった可能性が考えられる.

ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験がある者は,常日勤者の労働意欲の低下を除く尺度とは関連していなかった.これは,介護知識や技術の学習は疲労度との間に有意な関係が認められなかったとする報告23)と符合していた.本研究においては学習時間や内容まで把握できていないが,学習は一般的に職場であるいは必要に応じて自分で行うために,常日勤者で労働意欲が高いと積極的に学習を行っている姿がうかがえた.

利用者の状態急変時に対する対応についての不安がある者は,両者間に差を認めなかった.介護職者は,一人で訪問し利用者の状況に合わせた介護を提供する場面がある20).また,関係者に連絡がとりにくいことがあることなどが考えられ,両者とも不安がある者が多かったと考えられる.

仕事に満足している者は,両者間に差を認めなかった.仕事に満足している者は,有夜勤者,常日勤者とも疲労徴候が低かった.仕事の満足は疲労感などのストレス反応を軽減する要因であるとする報告24)と一致した.

夜勤勤務の出勤前の仮眠,勤務中の仮眠は,疲労対策として有効でなかった.看護師においては夜勤中の仮眠の有効性は報告されている25).介護職者において有効性を認めなかった理由は,今後検討していく必要がある.

3.CFSIと職場における支援との関連について

職場のソーシャルサポート得点は,両者間に差を認めなかった.両者の得点は,20代女性の48.0点と比べても差は認めなかった12).両者とも上司から同じようにサポートを受けていると考えられた.

職場ソーシャルサポート得点とCFSIの8下位尺度の得点との相関をみると,常日勤者では有意な負の相関を認めたが,有夜勤者には相関が認められなかった.上司の支援は職業性ストレスの護衛要因であるが26),夜勤時間等に不在なことが多いことから有夜勤者への職場のサポートとして十分に機能していないと考えられた.

有給休暇のとりやすさは,訪問介護職者の全国調査では70%であった13).本研究では有夜勤者は34ポイント,常日勤者は12ポイント低かった.有夜勤者は常日勤者に比べ交替する要員が少ないため,とりにくさを感じている状況がうかがえた.

有給休暇をとりやすいと感じている者とそうでない者でCFSIの8下位尺度の得点を比較すると,常日勤者では有意差を認めたが,有夜勤者ではいずれの尺度においても有意な差を認めなかった.有夜勤者は昼に時間があることもあり,有給休暇をとりやすいと感じていることは関連がなかったと考えられる.

教育研修を受講している,職場環境改善を行っていると回答した割合は両者間で有意な差はみられず,両者とも30%台であった.医療,福祉の分野では44%の事業所がメンタルヘルスに取り組んでいることから27),メンタルヘルスへのさらなる取り組みが必要である.

職場の教育研修で比較すると,両者ともに「受講している」と回答した者の方が疲労徴候の得点は有意に低かった.教育研修は,職場における心の健康づくりでも推奨されており17),勤務形態に拘わらず疲労徴候の軽減につながった.一方,職場環境の改善も有効なメンタルヘルス対策のひとつである28).職場環境改善で比較すると,常日勤者では「行っている」と回答した者の方が疲労徴候の得点は低かった.しかし,有夜勤者ではいずれの尺度の得点とも有意な差は認めなかった.心の健康の不調への対応を中心とした職場環境の改善は,身体介助を主なケアとして行っている有夜勤者には効果的でない可能性を示唆している.

交通安全配慮がある者は6割であった.このような配慮がある有夜勤者ではイライラの状態の得点が有意に低かったことから,交通安全配慮は疲労徴候を軽減させる対策のひとつとして考えられる.訪問時は一人で業務を行い,直行直帰する勤務体制が多いため27),交通事故だけでなくトラブルに巻き込まれる可態性もある.夜勤の訪問時には交通安全以外にも配慮が望まれる.

定期巡回・随時対応型訪問介護看護に対応している施設に従事する介護職者は,常日勤者,有夜勤者とも疲労徴候は高く,有夜勤者の身体不調は常日勤者より強いことが明らかになった.仕事の満足,心の健康への教育研修,訪問時の交通安全配慮は両者とも疲労徴候を軽減する要因であった.しかし,ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験,有給休暇のとりやすさは,有夜勤者で疲労徴候と関係していないことから,有夜勤者の疲労徴候に対しては常日勤者への対策に加え,さらに有効な対策を実施していく必要がある.有効な対策については,今後検討していく必要がある.

4.本研究の限界

本研究は,訪問時の環境要因をある程度揃えるために地域を限定し「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」に対応している事業所を対象にしたため,他の介護サービスに比べ調査対象者が少なかった.そのため,一般化は難しい.

これまでの研究から疲労度に性差はあるが11),研究対象者は少なく,性別に分けて分析することは困難であった.また,調査協力が得られた9施設のうち介護職者が49名以下のものが8事業所であり,事業所規模別に分けて解析することも困難であった.定期巡回・随時対応で運営していても通常定期巡回が中心で随時対応のコールが少ないこと.またコールの頻度も地域提供型と集合住宅型で異なるため19),随時対応の程度が明確にできなかったことから,随時対応の程度と疲労徴候の関連を解析することができなかった.また,担当地域の中にも都市部や郊外があることが考えられ,担当地域の交通事情と疲労徴候の関連も検討できなかった.

V.まとめ

「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」に対応している施設に勤務する介護職者96名を対象に,勤務形態別の疲労徴候を明らかにし,勤務状況と職場における支援との関連の検討した結果,以下のことが明らかになった.

1)勤務形態を有夜勤者と常日勤者の2群に分けてみると,勤務時間,ケア内容を除いて,勤務状況,職場における支援に差を認めなかった.

2)有夜勤者,常日勤者とも疲労徴候は高く,有夜勤者の身体不調は常日勤者より強かった.

3)有夜勤者の仕事の満足,教育研修,交通安全配慮は,常日勤者と同様に疲労徴候を軽減させるが,ここ1年以内に介護の知識・技術を学習した経験,有給休暇のとりやすさは,常日勤者と異なり疲労徴候と関係していなかった.

4)両者とも疲労徴候に対して対策が必要であるが,有夜勤者に対しては教育研修,交通安全配慮,仕事の満足に加え,さらなる対策が必要である.

Acknowledgment

謝辞:本研究にご協力いただいた対象者の皆様に深く感謝いたします.

References
 
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