2015 年 57 巻 4 号 p. 130-139
目的:産業現場ではメンタルへルスの不調を訴える労働者が増加傾向にあるとされ,生産性への影響が危惧されている.しかし,製造業のブルーカラー,ホワイトカラーにおける抑うつに関する調査は十分とはいえない.本研究の目的は特に睡眠状況や生活習慣に注目してブルーカラー,ホワイトカラーの職種別に抑うつと関連する要因を明らかにすることである.対象と方法:製造業A社社員1,963名を対象に,定期健康診断時に同意を得て自記式質問紙調査を実施した.回収できた1,712名(回収率87%)のうち精神疾患の治療中もしくは既往歴のあるものを除いた男性社員1,258名(ブルーカラー674名,ホワイトカラー584名)を分析対象とした.調査票には基本属性,生活状況のほか睡眠状況についてはWHOの「アテネ不眠尺度」,抑うつについては「CES-Dスケール」を用いた.また,生活習慣は健康診断の問診票に記入されたデータを用いて分析した.結果:抑うつがあるとみなされたCES-D16点以上の労働者はブルーカラー,ホワイトカラーともに15.1%で同率であった.アテネ不眠尺度6点以上の不眠者はそれぞれ18.8%,18.3%であった.多重ロジスティック回帰分析で抑うつと有意に関連のみられた要因はブルーカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:10.93;95%信頼区間:6.12–19.51),②「睡眠で疲労がとれない」(オッズ比:3.36;95%信頼区間:1.85–6.09),③「朝食を週3回以上抜く」(オッズ比:3.10;95%信頼区間:1.42–6.76),④「同居家族なし」(オッズ比:2.08;95%信頼区間:1.05–4.12),⑤「片道通勤時間」(オッズ比:1.01;95%信頼区間:1.00–1.02)であった.ホワイトカラーでは①「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比:14.91;95%信頼区間:7.54–29.49),②「同居家族なし」(オッズ比:2.54;95%信頼区間:1.27–5.09)であった.なお,睡眠時間は両職種に有意差は認められなかった.また,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者のうちCES-D16点以上の抑うつ症状がみられたのはブルーカラーで51.6%,ホワイトカラーで53.8%であった.結論:ブルーカラー,ホワイトカラーの両職種ともに抑うつを有する者が同程度にみられ,職種にかかわらず保健対策を行うことが必要であると考えられた.また,抑うつには両職種ともに不眠が最も強く関連していることが明らかになり,職場での抑うつ対策として不眠に注目していくことの重要性が示唆された.職種による生活習慣の特徴と不眠状態に焦点を当てて保健指導に活かすことは意義があると考えられた.
わが国の被雇用者の自殺で最も多い原因は「健康問題」と「勤務問題」とされている.自殺者の多くはうつ病に罹患していることがわかっており,自殺予防にはうつ病対策が重要ともいわれている.
産業保健では精神障害等による労災認定件数が業種,職種を問わず年々増加しており1),精神疾患の罹患者やメンタルヘルスの不調を訴える労働者は配置転換,休職,退職等によって生産性に大きな影響を及ぼしている.事業所における調査報告によると労働者のストレス関連疾患としてうつ病が47.2%を占めており,長期休業者では約7割という高い有病率が示されるなど2)労働者に対するうつ病対策は重要な課題となっている.
一方,職業階層を社会階層の指標の一つとみなす立場からは職業階層が低いほど健康状態が不良の傾向があるとされ3),ホワイトカラーに比してブルーカラーには健康全般に関する諸問題が偏在しているとの報告がある4).抑うつに関して両職種を区分した調査報告は少ないが,ホワイトカラーは長時間労働やサービス残業の多い職種であることから,過重労働とメンタルヘルス不調との関連が多く報告されている5,6,7).これに対し,井上ら8)の調査では男性労働者における抑うつ者の割合は高学歴のホワイトカラーより中高卒のブルーカラーの方が高いと報告している.また,製造業の現場では肉体労働に従事するブルーカラーのメンタルへルスの不調者は重大な事故や労働災害を起こす危険性があり,安全面で大きな問題となっている.このため,ブルーカラー,ホワイトカラーそれぞれのメンタルヘルスを巡る問題と課題を明らかにする必要性があると考えられる.
米国精神医学会のDSM-IV-TR(精神疾患の診断,統計マニュアル)によるとうつ病の診断基準には抑うつ気分と不眠症状があり,うつ病患者には高率に不眠が認められる.さらに,近年では不眠が先行する例では将来的にうつ病を発症するリスクが高いと報告され,うつ病と不眠は原因とも結果ともなりうることが明らかにされている9,10,11,12).このことから,不眠に対処することでうつ病を予防し,不眠を手がかりにうつ病を早期発見してケアすることが有効と考えられる13).また,喫煙,飲酒,運動習慣,朝食欠食などの生活習慣や高血圧,高脂血症,糖尿病などの生活習慣病が抑うつと不眠に関連すると報告されている14,15,16,17,18,19,20,21).
産業保健スタッフはメンタルへルス対策として早期発見,早期対応の2次予防はもとより復職支援,再発防止の3次予防,さらに,発症を未然に防ぐ1次予防に重点を置いて保健指導のあり方を模索している.一般の労働者に「うつ」という言葉を前面に出すと抵抗感を示される場合も多く,睡眠と生活習慣を切り口に保健指導に活用することは意味があると考えられる.このような背景から,本研究ではブルーカラー,ホワイトカラーの職種別に抑うつに関連する要因を不眠と生活習慣に焦点を当てて明らかにし,労働者のうつ病予防のための保健指導に活用することを目的とした.
対象は製造業A社4事業所の2011年度在籍社員1,963名(男性1,871名,女性92名)である.調査期間は2011年5~6月で,定期健康診断実施時に自記式質問紙「生活状況調査票」を配布した.生活状況調査票には説明書を添付し,同意の上で記名された1,712名から回収した(回収率87.2%).
A社は60歳定年であり,業務上の特性として夜勤者が少ないこと,女性社員が少数であることから61歳以上154名,夜勤者20名,および女性92名は対象から除き,さらに精神疾患の治療中もしくは既往歴のある28名を除外した.その結果,有効回答が得られた60歳以下の男性日勤労働者1,258名(ブルーカラー674名,ホワイトカラー584名)を分析対象とした.
ブルーカラーは技能職の肉体労働者で最終学歴は高校卒業である.主な職場は大型輸送機器の製造現場で班単位での作業に従事している.管理職は1割未満と少ない.
ホワイトカラーは最終学歴が専門学校,大学卒業以上で,職種は技術職が約5割,営業と事務職が約1割ずつ,管理職は約3割である.
2.調査内容生活状況調査票の調査項目は基本属性と生活状況の8項目,睡眠状況は「アテネ不眠尺度(AIS)」の8項目,抑うつについては「CES-Dスケール」の20項目からなる.基本属性と生活状況の8項目は「年齢」,「勤務形態(日勤,夜勤)」,「同居家族の有無」,「職種と職位」,「ここ2~3ヶ月での時間外労働の有無と時間外労働時間(休日出勤を除く1週間の平均)」,「片道通勤時間(分)」,「ここ1ヶ月,仕事をする日の平均睡眠時間(時間)」,「睡眠で肉体的,精神的な疲労がとれるかとれないか」,「現在,治療中の病気または常用薬の有無」であった.
睡眠状況は「アテネ不眠尺度(Athens Insomnia Scale:AIS)」を用いて評価した.本尺度は,WHO(世界保健機構)が中心となって設立した「睡眠と健康に関する世界プロジェクト」が作成した不眠の自己評価尺度であり,高い信頼性と妥当性が検証されている25,26,27).尺度の8項目は夜間の睡眠困難を評価する5項目である「寝つき」,「夜間中途覚醒」,「早朝覚醒」,「総睡眠時間の充足度」,「睡眠の質の満足度」と,日中の機能障害を評価する3項目である「日中の気分」,「日中の活動度(身体的および精神的)」,「日中の眠気」で,過去1ヶ月間に少なくとも週3回以上経験したものについて4件法で聞き,選択した項目の点数を合計し4点以上で不眠の疑いあり,6点以上で不眠と判定した.
抑うつはThe Center for Epidemiologic Studies for Depression Scale(CES-D)日本語版を用いて評価した.本尺度は一般人におけるうつ病を発見することを目的に米国国立精神衛生研究所(NIMH)によって開発された自己評価尺度であり,高い信頼性と妥当性が検証されている22, 23).集計はCES-D使用の手引きに従い,調査前1週間にあったことがらを4件法で聞き,20項目の点数を合計して16点以上は抑うつありと判定され,最高60点で点数が高いほど抑うつの程度が強いと評価した24).
3.分析方法生活状況調査票および定期健康診断の問診票の生活習慣(喫煙,飲酒,食生活,運動習慣)の各項目に記入されたデータを匿名化したうえで解析した.
定期健康診断問診票の生活習慣のうち,喫煙については吸わない,やめた人を喫煙習慣無しとし,現在も吸う人を喫煙習慣有りとした.飲酒習慣については毎日飲酒する人としない人に分けた.食生活は「朝食を抜くことが週3回以上ある」人とない人に分けた.運動習慣は「1日30分以上軽く汗をかく運動を週2回以上,1年以上実施」している人といない人に分けた.
まず,抑うつ,基本属性,生活状況,睡眠状況,生活習慣について,ブルーカラー,ホワイトカラーの2職種間の差をχ2検定および t 検定で解析し,職種の特徴を明らかにした.ついで,ブルーカラー,ホワイトカラー別に抑うつと関連する要因を明らかにするために,それぞれの職種において抑うつの有無と,基本属性,生活状況,睡眠状況,生活習慣についてχ2検定および t 検定を行った.
さらに,抑うつと,睡眠時間,アテネ不眠尺度合計点,片道通勤時間との関連を詳細に検討するため,睡眠時間を5群(5時間未満,5時間以上6時間未満,6時間以上7時間未満,7時間以上8時間未満,8時間以上),アテネ不眠尺度合計点を3群(0~3点不眠なし,4~5点不眠の疑いあり,6点以上不眠あり),片道通勤時間を4群(30分未満,30分以上60分未満,60分以上90分未満,90分以上)に区分して,抑うつとの関連について傾向性のχ2検定を行った.
以上の分析から有意な関連が認められた「同居家族なし」,「睡眠で疲労がとれない」,「朝食を週3回以上抜く」,「アテネ不眠尺度6点以上」,「時間外労働あり」,「喫煙あり」,「毎日飲酒する」という項目を2値で,「片道通勤時間(分)」,「平均睡眠時間(時間)」を連続値で独立変数とし,抑うつの有無を従属変数として職種別に多重ロジスティック回帰分析を実施した.さらに,年齢(歳)を調整変数として投入した.また,アテネ不眠尺度のそれぞれ8項目を独立変数とし,抑うつの有無を従属変数として多重ロジスティック回帰分析(年齢調整済)を実施し検討した.
解析には,統計解析ソフトSPSS Version20 for Windows を用い,統計学的有意水準は0.05未満とした.
4. 倫理的配慮本研究は2012年名古屋大学生命倫理審査委員会の承認を得て実施した.また,2011年3月にA社の承認を得た.調査対象者には,調査の目的,匿名性の確保と個人情報の保護,同意の拒否について明記した説明書を調査票に添付して配布し,記名により同意を得て回収した.
抑うつがあるとみなされたCES-D16点以上であった者はブルーカラー,ホワイトカラーともに15.1%で同率であった.また,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者の割合はそれぞれ18.8,18.3%で2職種間に有意差は認められなかった.
ブルーカラーではホワイトカラーと比べて「同居家族あり」(p=0.002),「喫煙習慣」(p<0.001),「飲酒習慣」(p=0.004)を有する者が有意に多かった.ホワイトカラーではブルーカラーと比べて「時間外労働」をする者が多く,「片道通勤時間」が長い者,「平均睡眠時間」が短い者が有意に多かった(いずれもp<0.001).「年齢」,「運動習慣」,「睡眠で疲労がとれる」,「治療中の病気の有無」,「朝食を週3回以上抜く」については,2職種間で有意差は認められなかった(Table 1).
Blue-collar (n=674) |
White-collar (n=584) |
p-value | |
CES-D* score (≥16) a) | 102 (15.1) | 88 (15.1) | 0.974 |
Age (yr) b) | 42.3 ± 13.7 | 41.4 ± 9.9 | 0.180 |
Overtime work (yes) a) | 318 (47.5) | 469 (83.0) | <0.001 |
Family living together a) | 535 (79.9) | 421 (72.5) | 0.002 |
One-way commuting time (min) b) | 34.1 ± 35.1 | 40.9 ± 29.3 | <0.001 |
Mean sleeping hours (h) b) | 6.5 ± 0.9 | 6.2 ± 0.9 | <0.001 |
Get rid of fatigue with sleep a) | 439 (65.2) | 404 (69.3) | 0.126 |
Treating disease or taking medicine a) | 163 (24.4) | 141 (24.5) | 0.949 |
Smokers a) | 269 (39.9) | 122 (20.9) | <0.001 |
Exercise (≥2 times/wk) a) | 147 (21.8) | 129 (22.1) | 0.905 |
Alcohol drinking everyday a) | 223 (33.2) | 150 (25.7) | 0.004 |
Skip breakfast (≥3 times/wk) a) | 67 (9.9) | 74 (12.7) | 0.126 |
AIS† score (≥6) a) | 126 (18.8) | 106 (18.3) | 0.800 |
a) n (%), χ2 test. b) Mean ± SD (standard deviation), t-test. * CES-D: Center for Epidemiologic Studies for Depression Scale. † AIS: Athens Insomnia Scale.
なお,両職種の時間外労働をする者の1週間あたりの平均「時間外労働時間」は,両職種 ともに8.5時間で差がなかった.
ブルーカラーの抑うつあり群では抑うつなし群に比べて「同居家族あり」の者が少なく(p=0.040),「片道通勤時間」が長く(p=0.012),「平均睡眠時間」が短く(p=0.010),「睡眠で疲労がとれる」者が少なく(p<0.001),「朝食を週3回以上抜く」,「アテネ不眠尺度6点以上」の者が有意に多かった(いずれもp<0.001).「年齢」,「時間外労働」,「治療中の病気の有無」,「運動習慣」,「喫煙習慣」,「飲酒習慣」は,いずれも抑うつの有無で有意差は認められなかった.ホワイトカラーの抑うつあり群では抑うつなし群に比べて「同居家族あり」の者が少なく(p<0.001),「平均睡眠時間」が短く(p=0.035),「睡眠で疲労がとれる」者が少なく(p<0.001),「アテネ不眠尺度6点以上」の者が多く(p<0.001),いずれも有意差が認められた.これらに対し「年齢」,「時間外労働」,「片道通勤時間」,「治療中の病気の有無」,「喫煙習慣」,「飲酒習慣」,「運動習慣」,「朝食を週3回以上抜く」では,抑うつの有無で有意差は認められなかった(Table 2).
Blue-collar | White-collar | |||||
Not depressive (n=572) | Depressive (n=102) | p-value | Not depressive (n=496) | Depressive (n=88) | p-value | |
Age (yr) b) | 42.4 ± 13.6 | 41.7 ± 13.9 | 0.606 | 41.6 ± 9.9 | 40.2 ± 10.3 | 0.228 |
Overtime work (yes) a) | 268 (47.2) | 50 (49.5) | 0.667 | 399 (83.3) | 70 (81.4) | 0.665 |
Family living together a) | 462 (81.2) | 73 (72.3) | 0.039 | 373 (75.5) | 48 (55.2) | <0.001 |
One-way commuting time (min) b) | 32.8 ± 35.1 | 41.4 ± 34.5 | 0.023 | 41.3 ± 29.8 | 38.7 ± 26.4 | 0.389 |
Mean sleeping hours (h) b) | 6.6 ± 0.9 | 6.3 ± 1.1 | 0.016 | 6.3 ± 0.9 | 6.0 ± 0.9 | 0.016 |
Get rid of fatigue with sleep a) | 411 (72.0) | 28 (27.5) | <0.001 | 372 (75.2) | 32 (36.4) | <0.001 |
Treating disease or taking medicine a) | 132 (23.2) | 31 (30.7) | 0.108 | 113 (23.2) | 28 (32.2) | 0.072 |
Smokers a) | 228 (39.9) | 41 (40.2) | 0.949 | 104 (21.0) | 18 (20.5) | 0.913 |
Exercise (≥2 times/wk) a) | 127 (22.2) | 20 (19.6) | 0.559 | 112 (22.6) | 17 (19.3) | 0.497 |
Alcohol drinking everyday a) | 186 (32.6) | 37 (36.3) | 0.472 | 132 (26.6) | 18 (20.5) | 0.223 |
Skip breakfast (≥3 times/wk) a) | 46 (8.0) | 21 (20.6) | <0.001 | 59 (11.9) | 15 (17.0) | 0.181 |
AIS† score (≥6) a) | 61 (10.7) | 65 (64.4) | <0.001 | 49 (10.0) | 57 (64.8) | <0.001 |
a) n(%), χ2 test. b) Mean ± SD (standard deviation), t-test. † AIS: Athens Insomnia Scale.
ブルーカラーでは,睡眠時間が7時間未満の群,5時間以上6時間未満の群,5時間未満の群と,睡眠時間が短い群になるほど抑うつの割合が高く,睡眠時間との有意な関連が認められた(p=0.017).アテネ不眠尺度合計点においても合計点が高い群ほど抑うつの割合が高かった(p<0.001).片道通勤時間4群では60分以上で抑うつ者の割合が高く通勤時間の長さとの有意な関連が認められた(p=0.032).ホワイトカラーでも睡眠時間が短い群になるほど抑うつの割合が高く,睡眠時間との有意な関連が認められた(p=0.030).アテネ不眠尺度合計点においても合計点が高い群ほど抑うつの割合が高かった(傾向性p<0.001).しかし,片道通勤時間については有意な関連は認められなかった(Table 3).
Blue-collar | White-collar | |||||
Not depressive | Depressive | p-value | Not depressive | Depressive | p-value | |
n (%) | n (%) | n (%) | n (%) | |||
Mean sleeping hours (h) | 0.017 | 0.030 | ||||
<5 | 9 (75.0) | 3 (25.0) | 16 (72.7) | 6 (27.3) | ||
5 to<6 | 57 (76.0) | 18 (24.0) | 63 (80.8) | 15 (19.2) | ||
6 to<7 | 195 (83.0) | 40 (17.0) | 226 (84.6) | 41 (15.4) | ||
7 to<8 | 221 (89.5) | 26 (10.5) | 141 (86.5) | 22 (13.5) | ||
≥8 | 63 (84.0) | 12 (16.0) | 27 (93.1) | 2 (6.9) | ||
AIS† score | <0.001 | <0.001 | ||||
0–3 | 407 (96.2) | 16 (3.8) | 329 (97.3) | 9 (2.7) | ||
4–5 | 100 (83.3) | 20 (16.7) | 114 (83.8) | 22 (16.2) | ||
≥6 | 61 (48.4) | 65 (51.6) | 49 (46.2) | 57 (53.8) | ||
One-way commuting time (min) | 0.032 | 0.460 | ||||
<30 | 312 (86.2) | 50 (13.8) | 195 (85.9) | 32 (14.1) | ||
30 to<60 | 138 (87.9) | 19 (12.1) | 131 (81.4) | 30 (18.6) | ||
60 to<90 | 66 (77.6) | 19 (22.4) | 109 (83.2) | 22 (16.8) | ||
≥90 | 45 (77.6) | 13 (22.4) | 59 (93.7) | 4 (6.3) |
χ2 test for trend. †AIS: Athens Insomnia Scale.
つぎに,ブルーカラーでは「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比10.93,p<0.001),「睡眠で疲労がとれない」(オッズ比3.36,p<0.001),「朝食を週3回以上抜く」(オッズ比3.10,p=0.004),「同居家族なし」(オッズ比2.08,p=0.037),「片道通勤時間(分)」(オッズ比1.01,p=0.003)の各項目でいずれも有意な関連が認められた.しかし,「睡眠時間(時間)」,「時間外労働あり」,「喫煙あり」,「毎日飲酒する」には有意な関連は認められなかった.一方,ホワイトカラーでは「アテネ不眠尺度6点以上」(オッズ比14.91,p<0.001),「同居家族なし」(オッズ比2.54,p=0.008)で有意な関連が認められたが,「睡眠で疲労がとれない」,「朝食を週3回以上抜く」,「片道通勤時間(分)」,「睡眠時間(時間)」,「時間外労働あり」,「喫煙あり」,「毎日飲酒する」では有意な関連は認められなかった(Table 4).
Blue-collar | White-collar | |||||
Odds ratio | 95%CI§ | p-value | Odds ratio | 95%CI§ | p-value | |
Family living together | ||||||
Yes | 1.00 | 1.00 | ||||
No | 2.08 | 1.05–4.12 | 0.037 | 2.54 | 1.27–5.09 | 0.008 |
Get rid of fatigue with sleep | ||||||
Yes | 1.00 | 1.00 | ||||
No | 3.36 | 1.85–6.09 | <0.001 | 1.85 | 0.96–3.57 | 0.067 |
Skip breakfast (≥3 times/wk) | ||||||
No | 1.00 | 1.00 | ||||
Yes | 3.10 | 1.42–6.76 | 0.004 | 0.86 | 0.36–2.06 | 0.738 |
AIS† score | ||||||
<6 | 1.00 | 1.00 | ||||
≥6 | 10.93 | 6.12–19.51 | <0.001 | 14.91 | 7.54–29.49 | <0.001 |
Overtime work | ||||||
No | 1.00 | 1.00 | ||||
Yes | 0.79 | 0.46–1.35 | 0.385 | 0.77 | 0.34–1.74 | 0.537 |
Smoker | ||||||
No | 1.00 | 1.00 | ||||
Yes | 0.68 | 0.39–1.20 | 0.182 | 1.46 | 0.67–3.19 | 0.343 |
Alcohol drinking everyday | ||||||
No | 1.00 | 1.00 | ||||
Yes | 1.28 | 0.68–2.42 | 0.451 | 0.58 | 0.28–1.19 | 0.136 |
One-way commuting time (min) | 1.01 | 1.00–1.02 | 0.006 | 1.00 | 0.99–1.01 | 0.564 |
Mean sleeping hours (h) | 1.27 | 0.95–1.71 | 0.112 | 1.11 | 0.78–1.58 | 0.554 |
adjusted for age. †AIS: Athens Insomnia Scale. §CI: Confidence interval.
つぎに,アテネ不眠尺度の各項目と抑うつとの関連では,すべての項目で有意な関連が認められ,ブルーカラーでは日中の機能障害である「日中の気分」(オッズ比7.93,p=0.001)と「日中の活動度」(オッズ比8.23,p=0.001)の影響が最も強かった.ホワイトカラーでも「日中の気分」(オッズ比10.43,p=0.001)と「日中の活動度」(オッズ比8.59,p=0.001)の影響が最も強かった.また,ホワイトカラーでは夜間の睡眠困難5項目の中で「睡眠の質の満足度」(オッズ比5.52,p=0.001)の影響が強かったが,2職種ともほぼ同様の結果であり大きな差は認められなかった(Table 5).
Blue-collar | White-collar | |||||
Odds ratio | 95%CI§ | p-value | Odds ratio | 95%CI§ | p-value | |
Sleep induction1) | 4.13 | 2.92–5.85 | <0.001 | 3.14 | 2.21–4.48 | <0.001 |
Awakenings during the night2) | 4.79 | 3.16–7.24 | <0.001 | 2.68 | 1.75–4.11 | <0.001 |
Final awakening3) | 4.14 | 2.85–6.00 | <0.001 | 2.72 | 1.90–3.90 | <0.001 |
Total sleep duration4) | 4.39 | 2.93–6.56 | <0.001 | 3.25 | 2.16–4.90 | <0.001 |
Sleep quality5) | 4.17 | 2.85–6.10 | <0.001 | 5.52 | 3.55–8.59 | <0.001 |
Well-being during the day6) | 7.93 | 5.22–12.04 | <0.001 | 10.43 | 6.71–16.21 | <0.001 |
Functioning capacity during the day7) | 8.23 | 5.50–12.34 | <0.001 | 8.59 | 5.55–13.30 | <0.001 |
Sleepiness during the day8) | 3.60 | 2.36–5.50 | <0.001 | 2.56 | 1.70–3.85 | <0.001 |
adjusted for age. †AIS: Athens Insomnia Scale. AIS detail item: 1) assessing difficulty with sleep induction. 2) awakenings during the night. 3) early morning awakening. 4) total sleep time. 5) overall quality of sleep. 6) problems with sense of well-being. 7) functioning capacity during the day. 8) sleepiness during the day. §CI: Confidence interval.
本研究では,抑うつの有症率がブルーカラーとホワイトカラーで同率の15.1%であった.労働者の抑うつについてブルーカラーとホワイトカラーに区分して検討した報告は少なく,本研究と同じCES-Dスケールを用いた井上ら5)による約17,000人の男性労働者の調査によると,ブルーカラーの抑うつ有症率は26.8%,ホワイトカラーでは20.0%であった.井上らの対象者は異なる地域の9工場のもので中学卒者も含まれており,学歴が低いほど抑うつの割合が高くなるという結果も示されている.海外の報告では,ブルーカラーのみを分析したChoiら28)の研究で,46.8%という高い有症率が報告されている.一方,職種が区分されていない池田ら29)の調査では,248の中小企業の男性労働者約1,500人の抑うつ有症率は15.4%と報告されている.したがって,本研究のブルーカラー,ホワイトカラーの抑うつ有症率15.1%という結果は国内研究の既報値の範囲内と考えられた.また,本研究のように抑うつはブルーカラー,ホワイトカラーの両職種ともに存在することから,職種にかかわらずうつ病予防の対策を進めていく必要があるといえた.
本研究において,ブルーカラー,ホワイトカラーに共通して抑うつと関連が認められた項目は「アテネ不眠尺度6点以上」,「同居家族なし」で,中でも「アテネ不眠尺度6点以上」が抑うつと最も強い関連が認められた.兼板ら30)の20歳以上約25,000人の調査において入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒,日中の眠気の要因はいずれもうつ状態と関連しており,中でも入眠障害が最も関連が強いとされ,また,自覚的睡眠満足度はうつ状態との間に負の相関関係が認められている.中田ら6)のホワイトカラー男性の調査によると,不眠の3タイプ,入眠障害,中途覚醒,早朝覚醒のうち抑うつと関連がみられたのは入眠障害であったと報告されている.アテネ不眠尺度8項目は夜間の睡眠困難5項目と,日中の機能障害3項目から成っている25,26,27).本研究で各8項目との関連について検討したところ,ブルーカラー,ホワイトカラーともにすべての項目で抑うつと有意な関連が認められた.中でも,日中の機能障害3項目のうち「日中の気分」,「日中の活動度」の2項目との関連が強くみられ,ホワイトカラーでは夜間の睡眠困難5項目のうち「睡眠の質の満足度」も影響していることがわかった.「日中の活動度」は,肉体労働をするブルーカラーには自覚しやすい症状と考えられるが,ホワイトカラーにも注目すべき症状といえた.しかしながら,オッズ比をみると「アテネ不眠尺度6点以上」の者の値の方が大きく,アテネ不眠尺度の合計点で総合的に不眠の者を判定することが,より明確に抑うつとの関連を示すと考えられた.
一方,「アテネ不眠尺度6点以上」の者では,両職種ともに約50%が抑うつ症状を有していた.したがって,事業所での抑うつ対策として労働者の不眠状態に注目していくことが重要であり,その手段としてアテネ不眠尺度を用いることが有用と考えられた.
近年,大規模な縦断研究で不眠はうつ病の随伴症状であるとともに,将来の抑うつ発症の危険因子であるとの報告がみられる.Changら9)は大学生を卒業後平均34年間追跡した結果,不眠が先行した後にうつ病を発症するリスクが有意に高かったと報告している.また,Fordら10)は不眠が1年以上続くと不眠がない人に比べてうつ病発症の危険度が約40倍になり,不眠が1年以内に改善された人では危険度が1.6倍であったとしている.Breslauら11)は21歳から30歳の約1,000人について3年間追跡調査して,不眠の人は新たな大うつ病の発症が不眠のない人に比べて有意に高いと報告している.また,日本人の労働者に本研究と同じアテネ不眠尺度を用いた研究では,うつ症状も不眠もない人は2年後にうつ症状の発症が0%であるのに対し,うつ症状がなくても不眠がある人は2年後にうつ症状を発症した人が15.7%であったと報告している31).今回の研究は横断調査であるが,不眠は将来的なうつ病発症の危険因子にも初期症状にもなりえる可能性があり,重視する必要があるといえる.
今回の研究では睡眠時間と抑うつには有意な関連は認められなかったが,睡眠時間が短くなるほど抑うつの割合が高い傾向が認められた.睡眠時間についての兼板ら30)の検討によると,睡眠時間が6時間未満と8時間以上の者ではCES-Dの点数が高くなるU字型を示しているが,8時間以上は70歳以上の高齢者に多い結果としている.本研究の対象者は60歳以下の労働者であり,睡眠時間8時間以上の者は少なかった.しかし,睡眠時間は短くなると抑うつ者の割合が増えていたことから,両職種ともに短時間睡眠者には注意していく必要があると考えられた.
一方,両職種ともに「同居家族なし」が抑うつと関連が認められた.同居家族の有無はサポート要因とみなされ,NIOSH(米国国立労働安全衛生研究所)の職業性ストレスモデルを参考に開発された職業性ストレス簡易調査票の中でも,修飾要因として「家族や友人からのサポート」が項目として取り上げられている.職業性ストレスに対する緩和要因の一つとして,あるいは心理的ストレスを引き起こす要因として注視していく必要があるといえる32).
つぎに,本研究ではブルーカラーにおいて「睡眠で疲労がとれない」という項目も抑うつとの関連が示された.疲労の訴えである易疲労性はうつ病の症状でもあり,疲労は不眠と抑うつ双方に関わる症状といえた.ブルーカラーは肉体労働をするうえで「日中の活動度」と同様に疲労は自覚しやすい症状と考えられ注意していく必要があるといえた.また,ブルーカラーでは「朝食を週3回以上抜くこと」も抑うつと関連があることが示された.朝食の欠食と抑うつとの直接的な因果関係は不明であるが,肉体労働をするブルーカラーでは朝食は特に日中の身体の活動度,日中の気分に影響を及ぼすと考えられ,朝食の欠食者には支援の要否に注意する必要があると考えられた.さらに,ブルーカラーでは通勤時間も抑うつと関連することが示された.通勤時間が長くなると生活時間が削減し,それに伴う睡眠時間の短縮やストレス回復時間の減少などに影響するものと考えられる.ただし,オッズ比からすると主要な要因ではないが,特に長い通勤時間の者には留意する事項と考えられた.
本研究では,ブルーカラーに喫煙や飲酒の習慣を有する人が多い特徴が認められたが,抑うつとの関連は示されなかった.しかし,喫煙は喫煙行動と不眠の間に密接な関係があるとされており33),常習喫煙がうつ病のリスクを増し,逆にうつ病患者は常習喫煙に移行する可能性が高いことも報告されている34).飲酒についても,寝酒が睡眠の質を低下させ多量飲酒が自殺企図のリスクを高める要因にあげられている35).このため,喫煙習慣,飲酒習慣についても抑うつ,不眠が問題にされる場合には留意する必要があると考えられた.
これらブルーカラー,ホワイトカラーそれぞれの生活習慣の特徴を踏まえて保健指導に活かしていくことは重要であると考えられた.
今回の調査後,抑うつがあると認められた人には,個別に保健師が保健指導を行った.面談ではうつ病の疑いから入るのではなく,睡眠状況を丁寧に聞き取り自分の状態を認識してもらうことで,抑うつに抵抗感を持つ人も面談を受け入れやすく,具体的な睡眠改善や睡眠衛生のアドバイスに繋げることができた.本調査は翌年以降も継続して実施しており,今回保健指導を行った153人のうち,1年後の2012年の調査では70人(47.3%)に抑うつがみられなかったことを確認している.小山ら36)によると,睡眠状況からうつ病予備軍の可能性のある労働者を把握し面接することは,治療導入や経過観察といった対応につながるラポール形成の契機となりえるとしている.本研究では,アテネ不眠尺度6点以上の不眠者では約50%が抑うつ有症者であり,産業保健スタッフが睡眠を切り口として保健指導を行うことは,継続的な支援につなげるという意味でも有用性が高いと考えられた.
今回の結果は単年の横断研究であり,結果の一般化および因果関係の特定には限界があると考えられる.本研究で抑うつの指標としたCES-Dには,不眠についての質問が1項目含まれており,抑うつと不眠の関連に影響した可能性を否定できないが,20項目の1項目であり,本研究で評価したCES-Dの合計点に関してはその影響は少ないと考えられた.今後は縦断研究のほか性別,工場別など異なる職場環境での分析も深めることが課題といえた.また,労働者の抑うつには職業性ストレス要因も考えられ,今後検討すべき課題であると考えている.
本研究では,製造業A社の男性社員1,258名を対象に,抑うつと関連する要因をブルーカラー(674名),ホワイトカラー(584名)別に検討した.CES-D16点以上の抑うつがあるとみなされた者は,両職種ともに15.1%で「アテネ不眠尺度6点以上」が抑うつと最も強く関連していることが明らかになった.アテネ不眠尺度6点以上の不眠者では約50%が抑うつ症状を有しており,職場での抑うつ対策として職種にかかわらず不眠に着目する重要性が示唆された.さらに,職種による生活習慣の特徴と不眠状態に焦点を当てて保健指導に活かすことは意義があると考えられた.
謝辞:本研究の調査にご協力いただきましたA社社員の皆様に心より感謝申し上げます.