産業衛生学雑誌
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原著
抗がん剤の病院内汚染を把握する拭き取り分析法の研究
高野 匠巳鈴木 茂築山 郁人斎藤 寛子
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2015 年 57 巻 6 号 p. 275-285

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抄録

目的:がん治療に使用される抗がん剤の多くのものは健常者にとって有害な物質である.近年抗がん剤による医療従事者への職業性曝露,健康障害が危惧および報告されている.著者等は使用頻度や有害性が比較的に高い抗がん剤10種について,医療従事者の曝露に繋がる可能性の高い病院内汚染を把握するため,床や机に残留する抗がん剤を拭き取りLC/MSにより一斉分析する方法を開発した.対象と方法: 使用頻度や有害性が比較的に高い抗がん剤パクリタキセル,ビンクリスチン,ドセタキセル,ビノレルビン,イリノテカン,メトトレキサート,オキサリプラチン,ゲムシタビン,シクロホスファミド,フルオロウラシルを対象とした.多くの病院の床と同じ素材であるP-タイル上の抗がん剤を少量のメタノールに浸したセルロースろ紙またはポリプロピレン不織布で拭き取り,ヒドラジン一水和物含有メタノール5 mlで抽出およびろ過した.抽出とろ過を2回繰り返し,ろ液を1 mlまで濃縮しLC/MSにて測定した.また,安全キャビネット等と同じ素材であるステンレスプレートについても検討した.結果: P-タイル上に散布した対象の抗がん剤10物質のうちフルオロウラシルを除く9物質の回収率は37~101%,相対標準偏差1.8~19%であった.ステンレスプレート上からは対象10物質の回収率は35~111%,相対標準偏差は1.3~11%であった.考察と結論:対象とした抗がん剤10種は,分子量,オクタノール/水分配係数(logPow)等の物理化学的性状が多様であるため,1つの拭き取り素材では良好な回収率を得られなかった.しかし,拭き取りにセルロースろ紙とポリプロピレン不織布を対象物質によって使い分けることで,P-タイルではフルオロウラシルを除く対象抗がん剤9物質,ステンレスプレートでは対象10物質すべてについて汚染を定量的に把握,またはそれには劣るが床およびステンレス表面に残留する抗がん剤量を十分推定できる分析法の開発に至ったと考えられる.

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© 2015 公益社団法人 日本産業衛生学会
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