産業衛生学雑誌
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調査報告
就労環境における慢性痛の実態調査~仕事に影響する慢性痛のリスク因子の検討:QWLICスタディ
山田 恵子若泉 謙太深井 恭佑磯 博康祖父江 友孝柴田 政彦松平 浩
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2017 年 59 巻 5 号 p. 125-134

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抄録

目的:就労環境における慢性痛の実態,及び慢性痛が仕事に影響する重症例でのリスク因子を明らかにする.対象と方法:大手製造業A社の首都圏にある1事業所,上記とは別の大手製造業B社の関西圏にある1事業所,及び大手小売業C社の関西圏にある16店舗,計3社18施設の被雇用者を対象に,「からだの痛みに関する調査研究アンケート」を施行した.A社B社では参加者の同意を得たうえでアンケートデータと企業健診の問診データを突合し,基本集計を行うと共に,対象者の生活習慣や心理社会的因子と慢性痛有症との関連について,性年齢調整ロジスティック回帰分析を用いて分析した.結果:調査対象2,544名のうち1,914名(男性1,224,女性690名)から有効回答が得られた(有効回答率75.2%).3か月以上持続する慢性痛を有するものは全解析対象者の42.7%であり,仕事に影響する慢性痛を有するものは全解析対象者の11.3%であった.痛みのない群と比較して,仕事に影響する慢性痛群は,肥満,喫煙習慣,不眠症,ワーカホリック度の高さ,上司・同僚からの支援の乏しさ,仕事の満足度の低さ,仕事の要求度の高さ,仕事のコントロール度の低さ,心理的ストレスの高さ,抑うつ状態と有意に関連があった.考察と結論:就労環境における慢性痛とそのリスク因子の実態が一部明らかとなった.産業衛生分野において健康関連リスク因子として重要視されてきた,肥満,喫煙,不眠症,職場環境,心理的ストレス,抑うつは職場の慢性痛対策をおこなう上でも重要であることが示唆された.

I. 緒言

慢性的な腰痛や頭痛,関節痛に代表される慢性痛は,厚生労働省が行う国民生活基礎調査で毎回自覚症状の上位にあがるにもかかわらず,それらの疫学調査研究は本邦においてまだ不十分である.慢性痛は難治性であり,炎症や外傷といった生物学的および機械的原因だけでなく,ストレスなどの心理社会的要因によっても増強されることが研究によって明らかにされてきている.また,慢性痛は身体的な活動制限だけでなく,抑うつなど精神面での悪影響も及ぼし,日常生活の活動性や仕事における生産性を著しく低下させ,個人の生活の質が損なわれることは痛みの臨床や産業衛生の現場において経験的に知られている.

これまでに実施された日本の慢性痛の主な実態調査によると,20歳以上の慢性痛有症率は2009年に松平らが22.9%1),2010年に矢吹らが22.5%2)と高い有症率を報告している.また,2011年に在日米国商工会議所(ACCJ)ヘルスケア委員会によって実施された,日本全国5,000人(回答者数)を対象としたオンライン調査による大規模な疫学スタディでは,慢性痛による年間の経済的損失は約3700億円と試算されている3).これは精神疾患の次に大きい3).しかしながら,日本の就業者を対象にした詳細な経済的検討は乏しく,慢性痛がどれだけ日本の労働者や経済活動に影響を与えているかどうかは不明である.そして,具体的な企業対象の調査において,慢性痛の仕事への影響をコスト算出する試みについてはこれまで本邦では殆ど行われてきていない.

そこで,われわれは企業で働く労働者に対して痛みに関する質問票を配布し,就労環境における慢性痛および慢性痛のリスク因子の実態と,慢性痛が人々の仕事の生産性や生活の質にどのような影響を与えているかを調査し,経済的な影響の試算も行った.

II. 対象と方法

1. 調査対象

大手製造業A社の首都圏にある1事業所,上記とは別の大手製造業B社の関西にある1事業所,及び大手小売業C社の関西にある16店舗,計3社18施設の被雇用者を対象に,身体の痛みに関する自己記入式質問票による調査を実施した.調査対象者の年齢はA社B社は20歳から64歳,C社は20歳から74歳であった.

調査対象者の人数は2,544名(A社517名,B社835名,C社1,192名)であり,有効回答者数は1,921名(A社432名,B社742名,C社747名)であった(有効回答率75.5%).調査対象者の雇用形態については,A社B社の調査対象は全員正規雇用職員,C社は正規雇用職員と非正規雇用職員であった.C社の雇用形態については自己回答に基づき,正規雇用職員比率は268/742名,36.1%,非正規雇用職員比率は387/742名50.9%であり,雇用形態について未回答の者が87名いた.

2. 調査期間

A社は2015年2月,B社は2015年5月,C社は2015年11月に実施した.

3. 調査方法

A社では研究用個人番号を割り振り,連結可能匿名化した無記名の質問票が全職員に一括配布され,回答済みの質問票は,質問票配布時に同封した返信用封筒を用いて回答者各個人から慶應義塾大学宛に郵送された.また,A社の企業健診データも,A社内で上記と共通の研究用個人番号により連結可能匿名化された状態で提供された.

B社は企業健診受診時に質問票を配布し,健診会場で回答済みの質問票を回収した.その際質問票はA社と同様無記名で,研究用の個人番号を割り振り,企業内で連結可能匿名化した後に大阪大学へ郵送された.

C社では16店舗毎に個別封入した無記名の質問票を全従業員分郵送し,約2週間の期限を設けて店舗毎に回答済み質問票を回収したものが,大阪大学へ郵送された.つまり,C社については連結不可能匿名化されたデータである.

4. 主な調査項目

①基本属性

年齢,性別,最終学歴,職種

②最近4週間の痛みの有無

痛みがある場合はその部位の図示(図1),痛みの強さ(0―10点)・痛みの持続期間・頻度.

図1.

人体図(痛みのある部位を番号で回答)

③全員に対して

a) 生活習慣

飲酒歴・喫煙習慣・運動習慣(1回30分以上の運動を週に2日以上,1年以上継続している)の有無について,A社B社は企業健診問診項目より抽出し,C社は質問票にて回答した.肥満については,まず,身長と体重(A社は健診時の実測値,B社C社は自己回答)よりbody mass index(BMI)(体重,kg/(身長,m22)を算出し,BMIの値が25以上の者を肥満と定義した.睡眠の調査項目は3社とも質問票で調査し,先行研究を参考に,1)睡眠時間,2)入眠に要する時間,3)中途覚醒の頻度,4)早朝覚醒の頻度について質問し,1)睡眠時間6時間未満,2)入眠時間31分以上,3)中途覚醒週3回以上,4)早朝覚醒週3回以上の4つの条件のうち3条件以上を満たすものを不眠症と定義した4)

b) 職業関連心理社会因子

最近4週間の仕事の全般的な出来具合についての自己評価(0―10点).「職業性ストレス簡易調査票」より,職場における上司と同僚からの支援(各3―12点ずつ),仕事の要求度(job demand)(3―12点),仕事のコントロール度(job control)(3―12点),仕事の満足度(4段階)5).「The Dutch Work Addiction Scale(DUWAS)」よりワーカホリック(仕事中毒)度(10―40点)を用いた6)

c) 心理的ストレスについて

国民生活基礎調査でも使用されているKessler Psychological Distress Scale(K6)を用いて定量した.合計0―24点のうち,5点以上を心理的ストレスが高い状態,13点以上を抑うつ状態と定義した7,8)

d) 生活の質(Quality of Life;QOL)について

健康関連QOLを定量する目的で開発されたEuroQoL five dimensions(EQ-5D)を使用した.「移動の程度」,「身の回りの管理」,「ふだんの活動」,「痛み/不快感」,「不安/ふさぎこみ」の5項目の健康状態を,それぞれ0から2の3段階で回答してもらい,換算表を用いて効用値を算出した.効用値は1を完全な健康状態,0を死亡した状態として定量化される9,10)

④ ②にて痛みがある,と回答した者に対して

最近4週間で痛みが仕事に与えた影響について3段階(1)痛みがあっても仕事に影響はなかった 2)痛みのため職場で全力が出せなかった,あるいは生産性が下がったが欠勤や休職はなかった 3)痛みのため,欠勤や休職をしたことがある)で質問した.

5. 慢性痛の定義

国際疼痛学会の定義を引用し,3か月以上継続する痛みを「慢性痛」と定義した11).また,上記痛みの持続期間に加え,先行研究を参考に痛みの強さが5/10点以上でかつ,週に2日以上の頻度で痛むものを「狭義の慢性痛」と定義した12).また,痛みが3か月以上継続する慢性痛有症者のうち,痛みが仕事に影響している者は,対策が必要な,より重症度が高いものとして区別する目的で,上記痛みが仕事に与えた影響についての設問に対して,「痛みのため職場で全力が出せなかった,あるいは生産性が下がったが欠勤や休職はなかった(プレゼンティーイズム群)」,あるいは「痛みのため,欠勤や休職をしたことがある(アブセンティーイズム群)」と回答した両群を合計して,「仕事に影響のある慢性痛」と定義した.

6. 分析方法

統計ソフトはSAS version 9.4を用いた.痛みの治療目的での医療機関への受診率の2群間比較,痛みなし群と慢性痛群の両群の各リスク因子の占める割合の2群間比較は,両群の各リスク因子の占める割合についてカイ二乗検定を実施した.そして,3群間(痛みなし群,仕事に影響のない慢性痛群,仕事に影響のある慢性痛群)における各リスク因子の占める割合の比較,及びEQ-5D効用値の4群(痛みなし群,慢性痛群,仕事に影響のない慢性痛群,そして仕事に影響のある慢性痛群)の各平均値比較については,痛みなし群を基準とした二群間のカイ二乗検定を施行した.さらに,各リスク因子と慢性痛有症との関連の分析には,性年齢調整ロジスティック回帰分析を施行し,各オッズ比を算出した.なお,正規雇用職員と非正規雇用職員とが混在するC社については,雇用形態の違いで層別した慢性痛有症者の割合についても検討し,カイ二乗検定を実施した.

慢性痛のコスト換算にはEQ-5D効用値を用いた.今回用いたQOLを定量するための尺度であるEQ-5Dは,健康状態をコスト換算できるという特長がある.EQ-5Dの結果から算出される効用値を0の状態から1の状態にするのに支払われる金額(willingness-to-pay)は過去の文献から約500万円である13).そこで,全く痛みのない群のEQ-D効用値の平均値から,慢性痛有症者全体のEQ-D効用値の平均値を差し引き,その値に500万円を掛けることで,痛みが全くない状態に対して慢性痛が1年間継続した場合に1人あたりに要するコストを試算した.仕事に影響のある慢性痛群についても同様に,EQ-D効用値の平均値を,全く痛みのない群のEQ-D効用値の平均値から差し引き,その値に500万円を掛けて仕事に影響する慢性痛が1年間継続した場合に要するコストを試算した.

7. 倫理的配慮

調査実施に先立って対象者に対し,調査の概要,データの目的外使用をしないこと,匿名化により個人情報を保護すること,調査協力を拒否しても不利益が生じないことについて言及した記載を読んでもらい,調査票への回答をもって同意とした.また,ヘルシンキ宣言を遵守する大阪大学医学部附属病院(承認番号14441-2),並びに慶應義塾大学医学部(承認番号20140296)倫理委員会の承認を得た.

III. 結果

1. 対象者の背景

1に対象者の特性を施設別に示した.全体の平均年齢は43.2±11.0歳であり,女性の割合は小売業C社が67.5%で製造業A社B社のそれぞれ13.2%,17.8%より高かった.最終学歴が大学以上の割合は,A社B社がそれぞれ91.0%,71.8%で,C社の32.9%と比較して高かった.何らかの痛みがあると回答した者は全回答者の60.7%(1172/1914名)であり,そのうち慢性痛の割合は全回答者の42.6%(A社43.7%,B社39.5%,C社45.3%)であった.また,狭義の慢性痛の割合は全回答者の12.3%(A社11.1%,B社9.1%,C社16.2%)であった.慢性痛のある817名のうち,痛みにより欠勤(休職)はしていないが,「痛みのために職場で全力が出せなかった」と回答した者の割合は23.6%(193/817名),「痛みのため欠勤(休職)をしたことがある」と回答した者の割合は2.9%(24/817名)であった.これら両者を併せた「仕事に影響する慢性痛がある」者は全回答者の11.3%(217/1914名)にものぼった.

また,表には示していないが,C社の正規雇用職員238/742名(36.1%),非正規雇用職員387/742名(50.1%)に占める,慢性痛有症者の割合はそれぞれ,正規雇用職員91/238名(38.2%),非正規雇用職員203/387名(52.5%)と,非正規雇用職員に占める慢性痛有症者の割合が有意に多かった.ただし,非正規雇用職員の平均年齢は46.4±11.5歳と,正規雇用職員の平均年齢38.5±10.3歳と比べて高く,また,非正規雇用職員に占める女性の割合(84.4%)の方が正規雇用職員に占める女性の割合(27.7%)よりかなり高い.つまり,C社における非正規雇用職員は正規雇用職員と比較し,年齢の高い女性の割合が多い.表2に一番強い痛みがある体の部位の順位を1)慢性痛群と,さらに慢性痛群を重症度で層別化した,2)仕事に影響のない慢性痛群と,3)仕事に影響のある慢性痛群の3群にわけて,それぞれ1位から5位まで示した.慢性痛群では,1位 腰部,2位 肩,3位 頚部,4位 頭,5位 膝であり,仕事に影響のない慢性痛群では1位 腰部,2位 肩,3位 頚部,4位 膝,5位 頭,仕事に影響のある慢性痛群では1位 腰部,2位 肩,3位 頭,4位 頚部,5位 足であった.

3には過去1年間で痛みの治療目的に医療機関(病院,診療所,クリニック)へ通院,もしくは入院したことがあるものの割合を示した.慢性痛群では19.8%(162/817名),仕事に影響のない慢性痛群では17.6%(107/600)名,仕事に影響のある慢性痛群では25.3%(55/217名)の者が医療機関を受療したことがあるという回答であり,仕事に影響のある慢性痛群は,仕事に影響のない慢性痛群と比較して,痛みの治療目的に医療機関へ受療している率が有意に高かった.

4には痛みなし群,慢性痛群,両群における,各リスク因子の占める割合と,痛みなし群を基準として,慢性痛群における,各リスク因子を有する性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)を示した.まず,両群における,各リスク因子の占める割合は,痛みなし群と比較して,慢性痛群では不眠症の者,ワーカホリック度が高い者,同僚からの支援が乏しい者,仕事の満足度が低い者,仕事のコントロール度が低い者,心理的ストレスが高い者,抑うつ状態の者の割合が有意に高かった.次に,痛みなし群を基準とした各リスク因子における性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)を検討した場合,慢性痛は不眠症2.7(1.4―5.1),ワーカホリック度の高さ1.5(1.2―1.9),仕事の満足度の低さ2.1(1.4―3.3),仕事の要求度の高さ1.3(1.0―1.7),仕事のコントロール度の低さ1.3(1.0―1.6),心理的ストレスの高さ1.9(1.5―2.4),抑うつ状態2.0(1.4―3.0)と有意に関連があった.

5には痛みなし群,仕事に影響がない慢性痛群,仕事に影響のある慢性痛群の3群における各リスク因子の占める割合と,各リスク因子を有する性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)を示した.まず,各リスク因子の占める割合については,痛みなし群と比較して,仕事に影響がない慢性痛群では不眠症の者,心理的ストレスの高いものの割合が有意に高く,最終学歴が大学以上の者が有意に低かった.痛みなし群と比較して,仕事に影響がある慢性痛群では肥満の者,現在喫煙者,不眠症の者,ワーカホリック度が高い者,上司からの支援が乏しい者,同僚からの支援が乏しい者,仕事の満足度が低い者,仕事のコントロール度が低い者,心理的ストレスが高い者,抑うつ状態の者の割合が有意に高く,最終学歴が大学以上の者の割合が低かった.一方,仕事がうまくいっているときは痛みを忘れる,と回答している者は仕事に影響のない慢性痛群の32.0%と比較し,仕事に影響がある慢性痛群では19.6%と割合が有意に低かった.

そして,痛みなし群を基準とした各リスク因子の性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)を検討した結果によると,仕事に影響のない慢性痛はワーカホリック度の高さ1.3(1.0―1.7),仕事の満足度の低さ1.6(1.0―2.7),心理的ストレスの高さ1.5(1.2―1.9)と有意に関連があった.そして,仕事に影響のある慢性痛は肥満1.5(1.1―2.2),現在喫煙歴1.5(1.0―2.1),不眠症4.6(2.2―9.7),ワーカホリック度の高さ2.1(1.5―3.0),上司からの支援の乏しさ1.5(1.1―2.0),同僚からの支援の乏しさ1.7(1.2―2.4,仕事の満足度の低さ3.4(2.0―5.8),仕事の要求度の高さ1.7(1.1―2.4),仕事の裁量度の低さ1.8(1.3―2.5),心理的ストレスの高さ3.6(2.6―4.9),抑うつ状態3.6(2.3―5.8)と有意に関連があった.

6には生活の質(Quality of life)を定量するEQ-5D効用値の平均値を示した.痛みがない群のEQ-5D効用値の平均値と比較して,慢性痛群全体,仕事に影響のない慢性痛群,仕事に影響のある慢性痛群のEQ-5D効用値の平均値は,いずれも有意に低かった.

慢性痛の経済的な影響については,1年間全く痛みがない場合と比較して,慢性痛有症者では,年間1人あたり約(0.95-0.80)×500万円=約75万円,慢性痛有症者のうち仕事に影響のある群では年間1人あたり約(0.95-0.74)×500万円=約105万円のコストに相当した.

表1. 対象者の特性
製造業A社 製造業B社 小売業C社 全体
慢性痛:3か月以上続く痛みがある.狭義の慢性痛:5/10以上強さで,週2回以上の頻度,かつ3か月以上続く痛みがある.
仕事に影響する慢性痛:痛みが仕事に影響している,もしくは痛みのために欠勤(休職)したことがある.
SD:標準偏差
有効回答率 83.6% 88.6% 62.2% 75.2%
人数 432人 740人 742人 1914人
平均年齢(歳±SD) 41.5±10.8 43.6±9.9 44.0±11.7 43.3±10.9
男性平均年齢(歳±SD) 42.7±10.1 44.0±9.9 38.8±11.5 42.6±10.5
女性平均年齢(歳±SD) 33.6±11.6 41.9±9.6 46.5±11.1 44.5±11.5
女性比率 57/432人,13.2% 132/740人,17.8% 501/742人,67.5% 690/1914人,36.1%
最終学歴大学以上 393/432人,91.0% 531/740人,71.8% 244/742人,32.9% 1168/1914人,61.0%
痛みなし 173/432人,40.1% 322/740人,43.5% 247/742人,33.3% 742/1914人,38.8%
慢性痛あり 189/432人,43.8% 292/740人,39.5% 336/742人,45.3% 817/1914人,42.7%
慢性痛あり(男性) 166/375人,44.3% 239/608 人,39.3% 92/241 人,38.2% 497/1224人,40.6%
慢性痛あり(女性) 23/57人,40.4% 53/132人,40.2% 244/501人,48.7% 320/690人,46.4%
狭義の慢性痛あり 48/432人,11.1% 67/740人,9.1% 120/742人,16.2% 235/1914人,12.3%
仕事に影響する慢性痛あり 44/432人,10.2% 72/740人,9.7% 101/742人,13.6% 217/1914人,11.3%
表2. 痛みの部位の順位
慢性痛群 仕事に影響のない慢性痛群 仕事に影響のある慢性痛群
1位 腰部 腰部 腰部
2位
3位 頚部 頚部
4位 頚部
5位
表3. 痛みの治療目的で(過去1年間の)医療機関への通院,または入院歴がある割合
慢性痛群
162/817名(19.8%)
医療機関の受診歴と慢性痛の仕事への影響をカイ2乗検定:,p<0.05
仕事に影響のない慢性痛群 仕事に影響のある慢性痛群
107/600名(17.6%) 55/217名(25.3%)
表4. 各リスク因子の占める割合と,性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)
痛みなし群 慢性痛群
上段は両群の各リスク割合をカイ二乗検定:痛みなし群を基準 ,p<0.05,**, p<0.01,***,p<0.001.
下段は痛みなし群を基準として性年齢調整ロジスティック回帰分析にて検定:¶,p<0.05,¶¶,p<0.01,¶¶¶,p<0.001.
人数,人 742 817
肥満(Body mass index 25以上) 18.5% 20.9%
1.0 1.2(0.9-1.5)
現在喫煙者 19.0% 20.0%
1.0 1.0(0.8-1.4)
多量飲酒習慣あり 2.6% 3.5%
1.0 1.2(0.6-2.1)
運動習慣なし 72.5% 76.4%
1.0 1.3(1.0-1.6)
不眠症 1.8% 4.9%***
1.0 2.7(1.4-5.1)¶¶
最終学歴大学以上 37.3% 59.7%
1.0 1.0(0.8-1.4)
ワーカホリック度高い 21.6% 27.7%**
1.0 1.5(1.2-1.9)¶¶¶
上司からの支援が乏しい 31.8% 36.4%
1.0 1.1(0.9-1.3)
同僚からの支援が乏しい 17.3% 21.9%
1.0 1.2(0.9-1.6)
仕事の満足度が低い 4.6% 8.6%**
1.0 2.1(1.4-3.3)¶¶¶
仕事の要求度が高い 19.3% 20.2%
1.0 1.3(1.0-1.7)¶
仕事のコントロール度が低い 20.9% 25.1%
1.0 1.3(1.0-1.6)
心理的ストレス高い(K6スコア5点以上) 38.1% 50.1**
1.0 1.9(1.5-2.4)¶¶¶
抑うつ状態(K6スコア13点以上) 6.4% 9.9%
1.0 2.0(1.4-3.0)¶¶¶
表5. 慢性痛を仕事への影響の有無で層別化した,各リスク因子の占める割合と,性年齢調整オッズ比(95%信頼区間)
痛みなし群 仕事に影響のない慢性痛群 仕事に影響のある慢性痛群
上段は三群の各リスク割合をカイ二乗検定:痛みなし群を基準 ,p<0.05,**,p<0.01,***,p<0.001.
下段は痛みなし群を基準として性年齢調整ロジスティック回帰分析にて検定:¶,p<0.05,¶¶,p<0.01,¶¶¶,p<0.001.
「仕事がうまくいっているときは痛みを忘れる」についてのみ,カイ二乗検定:仕事に影響のない慢性痛群を基準に検定†,p<0.01
人数,人 742 600 217
肥満(Body mass index 25以上) 18.5% 19.5% 24.9%
1.0 1.0(0.8-1.4) 1.5(1.1-2.2)¶
現在喫煙者 19.0% 18.0% 25.5%
1.0 0.9(0.7-1.2) 1.5(1.0-2.1)¶
多量飲酒習慣あり 2.6% 3.8% 2.8%
1.0 1.2(0.6-2.3) 1.0(0.4-2.7)
運動習慣なし 72.5% 75.8% 77.9%
1.0 1.2(1.0-1.6) 1.2(0.9-1.8)
不眠症 1.8% 3.8% 7.8%***
1.0 2.0(1.0-4.0) 4.6(2.2-9.7)¶¶¶
最終学歴大学以上 67.3% 60.3%** 58.2%
1.0 1.1(0.8-1.4) 1.0(0.7-1.5)
ワーカホリック度高い 21.5% 25.2% 34.6%***
1.0 1.3(1.0-1.7)¶ 2.1(1.5-3.0)¶¶¶
上司からの支援が乏しい 31.8% 33.8% 43.3%**
1.0 0.9(0.7-1.2) 1.5(1.1-2.0)¶
同僚からの支援が乏しい 17.3% 20.2% 26.7%**
1.0 1.0(0.8-1.4) 1.7(1.2-2.4)¶¶
仕事の満足度が低い 4.6% 6.8% 13.4%***
1.0 1.6(1.0-2.7)¶ 3.4(2.0-5.8)¶¶¶
仕事の要求度が高い 19.3% 18.7% 24.4%
1.0 1.2(0.9-1.6) 1.7(1.1-2.4)¶
仕事のコントロール度が低い 20.9% 22.5% 32.3%***
1.0 1.1(0.8-1.4) 1.8(1.3-2.5)¶¶¶
心理的ストレス高い(K6スコア5点以上) 38.1% 44.5 65.4%***
1.0 1.5(1.2-1.9)¶¶¶ 3.6(2.6-4.9)¶¶¶
抑うつ状態(K6スコア13点以上) 6.5% 7.2% 17.5%***
1.0 1.5(0.9-2.3) 3.6(2.3-5.8)¶¶¶
仕事がうまくいっているときは痛みを忘れる 32.0% 19.6%†
表6. 生活の質(Quality of life)を定量するEQ-5D効用値の平均値
痛みなし群 慢性痛群
EQ-5D効用値は0から1の値を示し,完全な健康状態が1,死亡が0と換算される.
EQ-5D効用値を性年齢調整したうえでdunett法で検定.痛みなし群を基準:***,p<0.001.
人数,人 748 818
EQ-5D効用値(平均値±標準偏差) 0.95±0.10 0.80±0.13**
仕事に影響のない慢性痛群 仕事に影響のある慢性痛群
人数,人 600 214
EQ-5D効用値(平均値±標準偏差) 0.82±0.13** 0.74±0.11**

IV. 考察

本調査における,慢性痛の定義を「3か月以上」という期間のみに設定した場合の慢性痛の有症率は42.7%であった.この定義を用いた我々の意図は,世界保健機関(WHO)が疾病分類ICDの次期バージョン,ICD-11において導入が検討されている痛み分類にて,慢性痛の定義として引用されている国際疼痛学会の定義を採用し,各国の慢性痛疫学調査等と比較するなど,今後に調査結果を応用するためである11).ただし,(臨床研究ではなく)今回のような職場や住民対象の研究では慢性痛の定義を「3か月以上という」期間のみにすると,慢性痛の有症率を過大評価してしまう可能性もあるため14),痛みの程度を5/10点以上で発症頻度を週2回以上という条件を付加した狭義の慢性痛についても検討した.同じ狭義の慢性痛定義を用いた,一般住民を対象とした松平らの先行調査1)における慢性痛有症率が22.9%程度であったという結果と比して,本調査における12.3%という狭義の慢性痛有症率は低い割合である.一般的に高齢になるほど慢性痛の有症率は高くなるが,今回の調査ではA社B社は企業を退職した65歳以上の高齢者は対象でなく,C社についても75歳以上の後期高齢者は対象でなかったため,有症率が低くなったものと推察される.

以下,慢性痛がもたらす経済的コストについて考察する.疾病に伴う費用には医療費やマッサージ代などの直接的な支出(直接費用)と疾病により失った就労の機会費用(間接費用)の2種類があるが,慢性痛で特徴的なのは間接費用が直接費用に匹敵するほど大きなコストとなっていることである15).さらに,間接費用はアブセンティーイズム(absenteeism)によるコストとプレゼンティーイズム(presenteeism)によるコストに分けられる.アブセンティーイズムは欠勤や休職,遅刻早退など職場にいることができず,業務に就けない状態を差し,プレゼンティーイズムは出勤しているにも関わらず,心身の健康上の問題により充分にパフォーマンスが発揮できない状態を指す.先行研究により,慢性痛ではアブセンティーイズムよりもプレゼンティーイズムによるコストのほうが大きいことが実証されている15,16).今回の調査において,慢性痛によるアブセンティーイズムの割合は「痛みのため欠勤(休職)をしたことがある」と回答した1.3%(24/1914名),急性痛も含めた痛み全体のアブセンティーイズムの割合は2.1%(40/1914名)であった.先行の松平らの報告ではアブセンティーイズムの割合は4%であり17),腰痛のある英国白人におけるアブセンティーイズムの割合が約13%であるという報告と比較して18),日本人の慢性痛によるアブセンティーイズムの割合は諸外国と比較して少ないといえる.一方で,今回の調査における慢性痛によるプレゼンティーイズムの割合は「痛みにより欠勤(休職)はしていないが,痛みのために職場で全力が出せなかった」と答えた10.1%(193/1914名)であり,急性痛も含めた痛み全体のプレゼンティーイズムの割合は13.8%(264/1914名)であった.慢性痛の有症率自体は諸外国と日本とで大きな差がないため,その分本邦の就労者は痛みを抱えながら我慢している状況であり,本邦では諸外国と比較して慢性痛による欠勤(休職)という形では表れない仕事の効率低下(プレゼンティーイズム)が多く存在しているといえる.

今回の調査結果をもとに試算した慢性痛のコストについては,慢性痛有症者では年間1人あたり約75万円であり,先行研究の,田倉らの報告による,慢性痛を有する就労者の間接費用が(アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムを合わせて),慢性痛のない就労者と比較して,年間1人あたり約68.4万円高いとの概算に近い金額であった16).日本全体における慢性痛の有症率の高さを考えると慢性痛がもたらす経済的損失の大きさが計り知れる.

今回の調査より,不眠症や仕事に関する心理社会因子(職場のソーシャルサポート,仕事の満足度,仕事の要求度,仕事のコントロール度),心理的ストレス,抑うつ状態と慢性痛の有症に関連があるということが示唆された.不眠症が慢性痛の有症と関連があるという結果は,2005年から2012年までの睡眠と痛みについての先行研究をまとめたレビューの,複数の前向き研究によって,不眠症と痛みに関連があるという報告内容と一貫している19).そして,仕事に関する心理社会因子が慢性痛の有症と関連があるという結果も,過去の複数の先行研究と一致している20-23).抑うつと慢性痛が共存することは痛みや精神医学の臨床ではよく知られている.本研究における,心理的ストレスや抑うつ状態と慢性痛の有症に関連があるという結果は,臨床経験による知見や,先行研究における,うつ病と慢性痛に関連があるという報告とも一貫している24).また,横断研究である本研究から抑うつと慢性痛との因果関係については結論できないものの,先行研究によると抑うつと慢性痛は,不眠症と痛みと同じく双方向的な関係にあると考えられ25),包括的な治療や対処が望まれる.職場健診における睡眠に関する問診項目は従来から取り入れられ,また,心理的ストレスについては,職場におけるメンタルヘルス対策の一環として,職場におけるストレスチェックが導入されるなど,ストレス評価が普及してきているが,これらに加え,労働者における慢性痛の有症についても着目されるべきである.辻らは日本の慢性腰痛患者は,抑うつ症状を伴わない患者と比較して,抑うつを伴う患者の方が健康関連QOL,及びプレゼンティーイズムを含む労働損失に影響すると報告している26).また,高橋らは日本人のデータから,支障をきたす腰痛と睡眠障害との関連を報告している27).メンタルヘルス対策と並行して慢性痛対策にも取り組むことで,睡眠障害やメンタルヘルスの改善効果も包括的に期待できると考えられる.さらに,重点的な対策が必要な,より重症の「仕事に影響のある慢性痛」群では,上述の慢性痛のリスク因子に加え,肥満や喫煙習慣も関連しているという結果が得られた.肥満と慢性痛との関連や,肥満と喫煙習慣との関連も,欧米における数々の先行研究の報告と一貫した結果であり28,29),従来より生活習慣病対策として行われてきた,肥満や喫煙習慣に対する介入が仕事に影響のある重症の慢性痛にも作用する可能性がある.

今回の調査では就労環境における慢性痛とそのリスク因子の実態が一部明らかとなった.産業衛生において健康関連リスク因子として重要視されてきた,生活習慣(睡眠,喫煙,肥満),職場環境,心理的ストレス,抑うつは職場の慢性痛対策をおこなう上でも重要であることが示唆された.

本調査における限界

調査の実施に雇用者の協力を得ているため,匿名の調査ではあるものの,被雇用者は雇用者からの評価を気にして自記式質問票の結果を偽った可能性がある.また,あくまで3企業の従業員を対象とした調査であり,結果が必ずしも日本の就労環境全体の実態を代表しているとは限らない.今後は大企業の就労者だけでなく,事業規模の小さい事業所や中小企業,あるいは個人事業者を対象とした慢性痛の実態調査も必要であると考えている.そして,今回は横断的な調査であり,因果関係については担保できない.例えば,睡眠障害やメンタルヘルスが慢性痛に対してどのように作用しているのかといった因果関係を今回の調査から知ることはできない.しかしながら,それぞれのリスク因子と慢性痛有症の関連性が示されたことは,就労環境における慢性痛の病態を理解する上で意義深い.

謝辞

本研究にあたりご協力頂きました株式会社平和堂健康管理室 河津 雄一郎先生,志摩 梓様,各調査実施企業の皆様に深く感謝いたします.本研究は日本医療研究開発機構AMED(慢性の痛み解明研究事業)慢性痛に対する認知行動療法の普及と効果解明に関する研究に対する資金,及び一部は文部科学省博士課程教育リーディングプログラム(オールラウンド型)「超成熟社会発展のサイエンス」のRA支援資金,労災疾病臨床研究事業費補助金による助成をうけました.

文献
 
© 2017 公益社団法人 日本産業衛生学会
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