2020 年 62 巻 1 号 p. 1-12
目的:特定業務従事者健康診断は,業務内容に関わらず定期健康診断と同じ検査項目であり,特殊健康診断との役割も不明確である.このため,特定業務従事者健康診断の対象業務の妥当性について課題が提示されているが,法制度が複雑でありその解釈は容易ではない.そこで,特定業務従事者健康診断の実施対象となる業務とその基準に関する変遷を明らかにする.方法:特定業務従事者健康診断の歴史に関連する法令,通達,文献,書籍の内容を調査した.結果:特定業務従事者健康診断の対象業務は,差し当たり特別な衛生管理をしなければならない有害物を取り扱う業務として昭和22(1947)年に旧労働安全衛生規則第48条で定められ,対象業務の定量的基準は当面妥当と考えられる基準値として昭和23(1948)年の通達によって示され,その後大きく変更されていない.その結果,多くの特定業務従事者健康診断の実施基準の多くは,許容濃度を超えていた.結語:特定業務従事者健康診断の対象業務及びその基準は,約70年間ほとんど変更されていない.社会環境の変化や有害業務の管理手法の向上を鑑み,特殊健康診断と特定業務従事者健康診断の目的や役割を再整理し,特定業務従事者健康診断のあり方を改めて考える必要がある.