産業衛生学雑誌
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調査報告
従業員8名の小規模零細企業における参加型職場環境改善モデル事業の2年間の取り組み
黒木 仁美 森口 次郎内田 陽之大橋 史子五十嵐 千代小田切 優子島津 明人堤 明純錦戸 典子原谷 隆史吉川 悦子吉川 徹川上 憲人
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2020 年 62 巻 6 号 p. 249-260

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抄録

目的:近年,事業場における職場環境改善活動を通じた職業性ストレス対策が従業員のストレス軽減に効果的であることが先行研究にて示されている.しかし,国内において10人未満の小規模事業場における職場環境改善活動によるストレス対策の手法や効果についての報告は少ない.本調査では,小規模事業場の継続的な職場環境改善活動がもたらす効果と有効な手法や支援方法についてモデル事業を通して検証を行った.対象と方法:2014年10月から2016年12月の約2年間を通して従業員8名の某事業場に所属する同一5名の従業員に対し1年ごとに参加型職場環境改善ワークショップによる介入を行った.また効果評価を1年目及び2年目のワークショップの事前,3ヵ月後,12ヵ月後に新職業性ストレス簡易調査票(80項目版)により行った.さらに1年目及び2年目のワークショップ終了後1~2ヵ月時にファシリテーターによるフォローアップ訪問を実施した.またフォローアップ,3ヵ月後調査,12ヵ月後調査時に職場環境改善活動の満足度及び課題に関する従業員の意見について活動の推進担当者を通してインタビュー調査を実施した.新職業性ストレス簡易調査票で集計された結果は1年目,2年目の各年の尺度得点の変化及び2年間を通した尺度得点の変化についてFriedman検定にて解析し,Steel-Dwass法による多重比較検定と効果量の算出を行った.なお,解析対象となる標本数が少数であるため,有意水準を0.100未満と設定した.結果:職場環境改善活動は,1年目が「道具置き場の整理」をテーマとし,工具掛けの作成が実施された.2年目では「スキルアップ・資格取得の支援」をテーマとし,空き棚を本棚に作り変えて資格関係のテキスト類を設置した.1年目,2年目ともに活動は全員参加型で実行され,改善活動はワークショップ後1ヵ月以内に完了した.新職業性ストレス簡易調査票の尺度得点の変化については,1年目のデータ解析においてFriedman検定で有意差を認めたものは「役割葛藤」(p=.050),「仕事の資源(部署レベル)合計」(p=.036),「個人の尊重」(p=.050),「公正な人事評価」(p=.050),「ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)」(p=.050),「職場の一体感」(p=.068),「仕事満足度」(p=.061)で,多重比較検定では「役割葛藤」の3ヵ月後調査から12ヵ月後調査で有意な改善(p=.041)を認め「職場の一体感」の事前調査から3ヵ月後調査で有意な悪化(p=.079)を認めた.2年目のデータ解析においてFriedman検定で有意差を認めたものは「役割葛藤」(p=.058),「公正な人事評価」の(p=.097)であり,多重比較検定では,「役割葛藤」の事前調査から3ヵ月後調査において有意な悪化(p=.041)を認めた.継続した2年間のデータ解析においてはFriedman検定で「役割葛藤」(p=.057),「個人の尊重」(p=.092),「公正な人事評価」(p=.039)にて有意差を認めたが,多重比較検定ではいずれの尺度についても有意差は認めなかった.インタビュー調査では「全員参加による達成への満足感」など肯定的な意見があった一方で,「社員のやらされ感」及び「職場環境改善担当者の負担が大きい」の意見があげられた.考察と結論:従業員8名の小規模零細企業において2年間の職場環境改善活動の取り組みを完了でき,またスモール・ステップの成功を観察できた一方で,2年間の調査における職場ストレスの改善効果は限定的であり,一部の尺度で悪化がみられたことは小規模事業場における活動上での人的資源の不足及び不慣れな活動による負担感が職場環境改善活動の本来の目的である職業性ストレスの軽減効果に影響した可能性がある.よって小規模事業場への職場環境改善活動の導入時には,小規模事業場の実情や活動の副作用を考慮し負担感を軽減できるようツールや手法の改善が必要であると考えられた.

I はじめに

事業場における職場環境改善を通じたストレス対策は従業員のストレス軽減に効果的であることが先行研究にて報告されている1.ストレスチェック制度の開始に伴い集団分析を実施した事業所の割合は厚生労働省の労働安全衛生調査(実態調査)において平成28年調査2で43.8%,平成29年調査3で58.3%と増加傾向にあり,またその結果を活用した事業所の割合も増加傾向にある.一方で,メンタルヘルス対策を目的とした職場環境改善の事業所規模別取り組み割合は平成29年調査では1,000人以上の事業所で84.6%,30~49人規模の事業所では33.0%,従業員10~29人では24.3%と,事業所規模が小規模となるにつれて低くなる.集団分析結果の活用に沿った職場環境改善は職場のストレス対策の一次予防策として今後多くの事業場で取り入れられることが考えられるが,10人未満の小規模事業場における職場環境改善活動の有効な手法や効果についての報告は少ない.小規模零細事業場において,専門家の確保を必ずしも必要としない安価な職場環境改善を通じた一次予防は,職場のメンタルヘルス対策としてむしろ実施しやすいと考えられる4.本研究では従業員10人未満の小規模事業場における参加型職場環境改善活動のモデル事業を通し職場ストレスの軽減効果について確認を行い,人的資源の少ない企業において参加型職場環境改善活動が継続的に実施可能であるかの確認及び実施における効果的な手法や実施上の課題について検証した.

II 調査方法

1. 対象及び調査期間

対象事業場は,モデル事業に同意を得た従業員8名の電気工事業の1事業場とした.調査期間は2014年10月から2016年12月の2年間である.参加型職場環境改善の効果評価のための調査は,2014年10月から2015年10月(2014年度研究)を1年目,2015年10月から2016年12月(2015年度研究)を2年目とし,介入の事前,3ヵ月後,12ヵ月後に同一の対象者に対して実施された.なお実施時期が重複するため,1年目の12ヵ月後調査を2年目の事前調査と兼ねて実施した.

2. 参加型職場環境改善活動の全体の流れ

本モデル事業で行った参加型職場環境改善活動は企業や自治体でその効果が報告されている職場ドック5の手法に順じて実施した.参加型職場環境改善活動のプロセスと実際の実施時期を図1に示す.参加型職場環境改善活動は,大きくPlan(準備・計画),Do(いきいきワーク・改善計画の作成と実施),Check・Act(成果報告と記録)の手順で年間スケジュールを進めていくことが推奨されており6本モデル事業でも手順に沿って実施した.

図1.

参加型職場環境改善活動のプロセスと実施時期

3. ワークショップによる介入とフォローアップ

ワークショップによる介入は1年目,2年目に各1回実施した.1年目の介入を実施する前にファシリテーターの労働衛生機関の医師,看護師,臨床心理士を対象に,「働きやすい職場づくりのためのいきいき職場づくり推進専門家研修」と題した研修(2時間30分)を実施した.

ファシリテーター育成研修を修了した専門職が,対象事業場に対し1年目,2年目ともに参加型職場環境改善のワークショップを開催し介入を行った.小規模事業場では職場環境改善活動やグループワークの経験が乏しく介入当初は丁寧な支援や多面的な手法の検討が必要であることが推察されたため,1年目は医師1名,看護師1名,臨床心理士2名が関与し,2年目は医師1名,看護師1名,臨床心理士1名と複数の専門職が関与した.

ワークショップの流れを図2に示す.職場環境改善の検討の際には,良好事例を示すことにより具体的な対策の想像がつきやすくなり導入当初の参考や水平展開が推奨されていることから7,ワークショップの開始時に良好事例集を示し,従業員によるポストイット投票を実施した.良好事例集は仕事の進め方,作業場環境,職場の人間関係・相互支援,安心できる職場のしくみの4領域に含まれる改善について12事例を示したもの6を使用した.個人ワークではいきいき職場づくりのためのメンタルヘルスアクションチェックリスト8を使用し職場の良い点,改善点の記載を行った.また職場ストレスリスクアセスメントツール9,10については1年目では主にツール開発への意見収集のため個人ワーク時に記載するのみであったが,2年目ではワークショップ開催の1ヵ月前に記載したものをファシリテーターが集計し,ワークショップで活用した.集計方法は,リスク要因の発生する頻度を「まれに」1点・「時々」2点・「頻回」3点,リスク要因の重要度を「小」1点・「中」2点・「大」3点とし,発生する頻度とリスクの重要度の和を各リスク要因の得点とした.各リスク要因について参加者全員の平均値を算出し,得点の高いものから順位付けを行ったものをグループワーク開始時にファシリテーターより説明を行った.職場環境改善テーマの設定では出来ることから実践するスモール・ステップ法11の推奨を行った.

図2.

ワークショップの流れ

継続的な職場環境改善活動を実施する上でファシリテーターのワークショップ後のフォローアップが推奨されている7.1年目,2年目ともにワークショップ終了後1~2ヵ月後のフォローアップを実施し,ファシリテーターが職場を訪問し改善活動の進行状況や活動上の課題を確認した.

4. 測定項目

職業性ストレスの測定方法として,新職業性ストレス簡易調査票(80項目)を使用した.新職業性ストレス簡易調査票で得られた結果は,良い方を高得点(最高4点),悪い方を低得点(最低1点)となるように変換し,各尺度と尺度の合計[仕事の負担,仕事の資源(作業レベル),仕事の資源(部署レベル),仕事の資源(事業場レベル),心理的ストレス反応]の集計を行った.

5. インタビュー調査

フォローアップ時,3ヵ月後と12ヵ月後の新職業性ストレス簡易調査票(80項目)回収時に対象事業場にて職場環境改善活動の個々の参加者に対し「活動に関して良かった点について聞かせてください」,「活動に関して大変であった点について聞かせてください」の設問をファシリテーターが口頭で質問し,また必要に応じて活動に関する改善の提案等について追加で聴取を行い紙面で記録した.

6. 統計解析

集計された結果はShapiro-Wilk検定で非正規性を確認した上で,1年目と2年目の各年及び継続した2年間の変化についてFriedman検定による統計解析を行い,事後解析としてSteel-Dwass法による多重比較を行った.有意水準は標本数が少数であるため0.100未満と設定した.なお解析対象となる標本数が少数であり統計的有意差を得られにくいことを考慮し,標本数に左右されない標準化された効果の程度の指標となる効果量を算出した.効果量の算出は,本調査の2時点における各尺度得点についてWilcoxonの符号順位検定で得られた検定統計量Zを標本数の平方根で除したものを効果量rとし,効果量の目安を小(r=0.10),中(r=0.30),大(r=0.50)とした12.統計解析ソフトはIBM SPSS Statistics 20とエクセル統計1.15を用いた.

7. 倫理的配慮

東京大学大学院医学系研究科・医学部研究倫理委員会(10500-(2))及び京都工場保健会の倫理委員会の承認を得て本研究を実施した.調査開始前に研究対象者に対し,研究目的,研究方法,個人情報の取扱い,匿名性の確保,任意の参加であること,調査期間中に同意撤回しても不利益が生じないこと等の説明を文書及び口頭にて行い,研究への理解と同意を得たことを同意書にて確認した.

III 調査結果

1. 調査対象者の属性と調査票の回収率

ワークショップ及び職場環境改善活動に参加した者は1年目で5名,2年目に6名であり,従業員のうち勤務形態及び業務都合により参加できない者もいた.2年間を通して参加した5名の調査対象者の属性を表1に示す.なお,役員に含まれる1名は実務上の管理業務を行うが従業員同様に現場での実務も担っている.調査期間中5名全ての調査対象者から新職業性ストレス簡易調査票を回収でき,回答の欠損はなかった.

表1. モデル事業開始時の調査対象者の属性
対象者(n=5)
性別(人)
男性5
女性0
年齢層(人)
18–292
30–392
40–490
50–590
60–691
役職(人)
役員1
部長級1
一般3

2. ワークショップ及び職場環境改善活動の結果

1年目,2年目ともに改善活動は全員参加型であり,各参加者が役割を分担して進められた.また改善活動は各年度ともに1ヵ月以内に遂行され,ファシリテーターのフォローアップ時には完了していた為,活動が停滞する要因となる課題はみられなかった.立案・実施された職場環境改善活動の内容を図3に示す.

図3.

1年目(2014年度)・2年目(2015年度)の職場環境改善テーマと実施内容

1年目のワークショップでの職場の良好点として「上司への相談のしやすさ」「有給休暇のとりやすさ」「仕事の見通しの明示による働きやすさ」があげられ,改善点として「資格の習得への支援が不十分」「道具置き場の整理が不十分で道具をみつけにくい」があげられた.職場環境改善テーマは「道具置き場の整理」に決定した.

また,2年目のワークショップでは,職場の良好点として「有給休暇のとりやすさ」「役割の明確化による仕事の意義の感じやすさ」「職場内でのコミュニケーションの良さ」があげられ,改善点として「仕事への従業員の意見の反映のしにくさ」「資格取得への支援が不十分」などがあげられた.職場環境改善テーマは,「スキルアップ・資格取得の支援」に決定した.

3. 介入前後の職業性ストレスの変化

新職業性ストレス簡易調査票の尺度得点を各年の3時点及び2年間の5時点にてFriedman検定で解析し,有意差を認めた尺度にて多重比較検定を行った結果を表2-12-2に示す.Friedman検定で有意差を認めた尺度は,1年目は「役割葛藤」(p=.050),「仕事の資源(部署レベル)合計」(p=.036),「個人の尊重」(p=.050),「公正な人事評価」(p=.050),「ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)」(p=.050),「職場の一体感」(p=.068),「仕事満足度」(p=.061)であった.2年目で有意差を認めたものは「役割葛藤」(p=.058),「公正な人事評価」の(p=.097)であった.多重比較検定で有意差を認めたものは,1年目の「役割葛藤」の3ヵ月後調査と12ヵ月後調査(p=.041),1年目の「職場の一体感」の事前調査と3ヵ月後調査(p=.079),2年目の「役割葛藤」の事前調査と3ヵ月後調査(p=.041)であった.2年間を通した5時点の変化ではFriedman検定にて「役割葛藤」(p=.057),「個人の尊重」(p=.092),「公正な人事評価」(p=.039)で有意差を認めるも,多重比較検定では統計的有意差は認めなかった.新職業性ストレス簡易調査票の2時点の尺度得点における効果量を算出した結果を表3に示す.

表2-1. 新職業性ストレス簡易調査尺度の変化(調査対象者,n=5)
事前調査3ヵ月後調査12ヵ月後調査3時点の変化5時点の変化
中央値
(最小値-最大値)
中央値
(最小値-最大値)
中央値
(最小値-最大値)
p値*多重比較§p値*多重比較§
尺度
1仕事の量的負担
1年目2.7(1.7–3.0)2.0(1.0–3.3)2.3(1.7–3.3)0.8010.610
2年目2.3(1.7–3.3)2.0(1.0–2.7)2.3(1.7–3.0)0.504
2仕事の質的負担
1年目1.7(1.3–2.3)1.7(1.0–2.0)1.7(1.7–3.0)0.7900.674
2年目1.7(1.7–3.0)2.0(1.0–2.3)2.0(1.7–2.3)0.801
3身体的負担度
1年目1.0(1.0–2.0)1.0(1.0–2.0)2.0(1.0–3.0)0.3680.290
2年目2.0(1.0–3.0)2.0(1.0–2.0)1.0(1.0–2.0)0.264
4職場での対人関係
1年目3.7(3.0–3.7)3.7(2.7–4.0)3.3(2.7–4.0)0.6460.156
2年目3.3(2.7–4.0)3.3(2.7–3.3)3.0(2.0–3.7)0.174
5職場環境
1年目4.0(2.0–4.0)3.0(1.0–4.0)3.0(2.0–4.0)0.3680.269
2年目3.0(2.0–4.0)3.0(3.0–4.0)2.0(2.0–4.0)0.247
6情緒的負担
1年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.406
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)2.0(1.0–3.0)0.368
7役割葛藤
1年目3.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)3.0(3.0–4.0)0.050T2<T30.057n.s.
2年目3.0(3.0–4.0)2.0(2.0–3.0)2.0(1.0–3.0)0.058T4<T3
8ワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)
1年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)0.3680.638
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.607
9仕事の負担合計
1年目2.6(2.5–2.6)2.4(1.8–3.1)2.8(2.3–3.0)0.5130.279
2年目2.8(2.3–3.0)2.4(2.2–2.8)2.2(1.8–2.9)0.165
10仕事のコントロール
1年目2.3(2.0–3.6)2.3(2.0–3.7)2.7(2.0–4.0)0.4650.562
2年目2.7(2.0–4.0)2.7(2.0–3.7)2.7(1.0–3.7)0.411
11仕事の適性
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)0.6070.659
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(3.0–3.0)2.0(1.0–3.0)0.607
12技能の活用
1年目3.0(2.0–4.0)3.0(1.0–4.0)2.0(2.0–3.0)0.2100.276
2年目2.0(2.0–3.0)3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)0.166
13仕事の意義
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)0.8670.965
2年目3.0(2.0–4.0)3.0(3.0–4.0)3.0(1.0–4.0)1.000
14役割明確さ
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–4.0)0.3680.638
2年目3.0(2.0–4.0)3.0(3.0–4.0)3.0(3.0–4.0)0.717
15成長の機会
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(1.0–4.0)3.0(2.0–3.0)0.6700.637
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)1.000
16仕事の資源(作業レベル)合計
1年目2.8(2.6–3.3)2.4(2.0–3.5)2.4(2.2–3.3)0.5490.894
2年目2.4(2.2–3.3)3.0(2.8–3.3)2.9(1.5–3.4)0.692
17上司のサポート
1年目3.0(2.3–4.0)2.7(2.0–4.0)2.7(1.7–4.0)0.4720.252
2年目2.7(1.7–4.0)2.3(1.3–2.7)2.7(2.0–3.3)0.327
18同僚のサポート
1年目3.0(2.7–4.0)2.3(2.0–3.0)3.0(2.0–3.3)0.4110.177
2年目3.0(2.0–3.3)2.3(2.0–2.7)2.3(2.0–3.0)0.486
19経済・地位報酬
1年目3.0(1.0–4.0)3.0(1.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.6070.461
2年目3.0(1.0–3.0)3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)0.395
20尊重報酬
1年目3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.1350.803
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779
21安定報酬
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)3.0(3.0–4.0)0.7170.901
2年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)3.0(1.0–4.0)0.779
22上司のリーダーシップ
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(1.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.1500.406
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779
23上司の公正な態度
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.1350.462
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779
24ほめてもらえる職場
1年目3.0(3.0–3.0)3.0(3.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.3680.349
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779

中央値が高い方が良好.1年目の3ヵ月後調査は2年目の事前調査と兼ねて実施した為,1年目・2年目の全調査回数は5時点.

T1:1年目の事前調査 T2:1年目の3ヵ月後調査 T3:1年目の12ヵ月後調査(2年目の事前調査) T4:2年目の3ヵ月後調査 T5:2年目の12ヵ月後調査

* Friedman検定,p<.1

§ Steel-Dwass法,n.s.:多重比較検定で全ての組み合わせで有意差なし

事前,3ヵ月後,12ヵ月後の各回答者における得点が同点であったため有意確率が算出されず

表2-2. 新職業性ストレス簡易調査尺度の変化(調査対象者,n=5)
事前調査3ヵ月後調査12ヵ月後調査3時点の変化5時点の変化
中央値
(最小値-最大値)
中央値
(最小値-最大値)
中央値
(最小値-最大値)
p値*多重比較§p値*多重比較§
尺度
25失敗を認める職場
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)0.1740.159
2年目3.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)2.0(1.0–3.0)0.779
26仕事の資源(部署レベル)合計
1年目3.1(2.7–3.3)2.9(1.9–3.2)2.7(2.1–3.3)0.036n.s.0.100
2年目2.7(2.1–3.3)2.9(2.0–3.0)2.7(1.7–3.1)0.949
27経営層との信頼関係
1年目3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–4.0)0.5840.731
2年目3.0(2.0–4.0)2.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.368
28変化への対応
1年目3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.7170.790
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779
29個人の尊重
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(3.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.050n.s.0.092n.s.
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–4.0)0.368
30公正な人事評価
1年目3.0(2.0–4.0)2.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)0.050n.s.0.039n.s.
2年目2.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.097n.s.
31多様な労働者への対応
1年目3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.2320.234
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.368
32キャリア形成
1年目3.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.2230.573
2年目3.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.779
33ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)
1年目3.0(2.0–3.0)2.0(2.0–3.0)3.0(3.0–3.0)0.050n.s.0.491
2年目3.0(3.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.368
34仕事の資源(事業場レベル)合計
1年目2.9(2.0–3.6)2.6(2.3–3.0)2.7(2.1–3.1)0.3480.712
2年目2.7(2.1–3.1)2.6(2.0–3.0)2.7(1.9–3.0)0.607
35家族友人のサポート
1年目3.0(2.3–3.3)3.0(2.3–3.7)2.7(2.3–3.0)0.4440.645
2年目2.7(2.3–3.0)2.0(2.0–4.0)2.7(2.3–4.0)0.838
36ワーク・エンゲイジメント
1年目3.0(2.5–3.5)3.0(2.5–3.5)3.0(2.0–3.5)0.7510.708
2年目3.0(2.0–3.5)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.584
37職場の一体感
1年目4.0(3.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–4.0)0.068T2<T10.080
2年目3.0(2.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–3.0)0.368
38活気
1年目2.7(2.0–3.0)2.3(2.3–3.0)2.7(2.0–3.0)0.8070.859
2年目2.7(2.0–3.0)2.3(2.0–3.0)2.3(2.0–3.0)0.939
39イライラ感
1年目2.3(1.0–4.0)3.0(2.0–3.3)3.0(3.0–3.7)0.5490.652
2年目3.0(3.0–3.7)2.7(2.0–3.3)3.3(2.3–3.3)0.311
40疲労感
1年目2.3(1.0–4.0)2.3(2.0–4.0)3.0(2.0–3.3)0.9360.822
2年目3.0(2.0–3.3)3.0(2.0–4.0)2.7(2.3–4.0)0.838
41不安感
1年目3.0(2.7–4.0)2.7(2.0–4.0)2.7(2.0–3.0)0.1270.106
2年目2.7(2.0–3.0)2.3(2.3–3.0)2.7(2.3–3.7)0.305
42抑うつ感
1年目3.3(1.3–4.0)3.3(2.0–3.7)3.2(3.0–3.7)0.9390.639
2年目3.2(3.0–3.7)3.0(2.5–3.3)3.5(2.5–4.0)0.291
43心理的ストレス反応合計
1年目2.8(1.6–3.8)2.8(3.2–3.4)3.0(2.6–3.2)0.8540.720
2年目3.0(2.6–3.2)2.8(2.6–2.9)2.9(2.5–3.7)0.311
44身体愁訴
1年目3.3(1.0–3.7)3.5(2.0–3.8)3.4(2.6–3.7)0.8070.967
2年目3.4(2.6–3.7)3.6(2.5–3.6)3.4(2.5–3.6)0.946
45職場のハラスメント
1年目4.0(4.0–4.0)4.0(3.0–4.0)4.0(3.0–4.0)0.3680.570
2年目4.0(3.0–4.0)4.0(3.0–4.0)4.0(2.0–4.0)0.926
46仕事満足度
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(1.0–3.0)3.0(3.0–4.0)0.061n.s.0.144
2年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(1.0–4.0)0.257
47家庭満足度
1年目3.0(3.0–4.0)3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)0.1050.147
2年目3.0(2.0–3.0)3.0(2.0–3.0)3.0(3.0–3.0)0.607

中央値が高い方が良好.1年目の3ヵ月後調査は2年目の事前調査と兼ねて実施した為,1年目・2年目の全調査回数は5時点.

T1:1年目の事前調査 T2:1年目の3ヵ月後調査 T3:1年目の12ヵ月後調査(2年目の事前調査) T4:2年目の3ヵ月後調査 T5:2年目の12ヵ月後調査

* Friedman検定,p<.1

§ Steel-Dwass法,n.s.:多重比較検定で全ての組み合わせで有意差なし

表3. 尺度得点の2時点の比較における効果量(調査対象者,n=5)
T1 vs T2T1 vs T3T1 vs T4T1 vs T5T2 vs T3T2 vs T4T2 vs T5T3 vs T4T3 vs T5T4 vs T5
尺度rrrrrrrrrr
1仕事の量的負担0.43*0.000.49*0.160.48*0.000.42*0.55**0.000.43*
2仕事の質的負担0.170.41*0.170.34*0.33*0.58**0.83**0.180.060.00
3身体的負担度0.000.63**0.63**0.000.45*0.63**0.000.000.63**0.63**
4職場での対人関係0.170.51**0.85**0.82**0.36*0.58**0.51**0.45*0.49*0.43*
5職場環境0.63**0.45*0.260.43*0.000.200.31*0.45*0.45*0.60**
6情緒的負担0.000.000.000.60**0.000.000.60**0.000.60**0.51**
7役割葛藤0.63**0.60**0.63**0.36*0.85**0.000.000.85**0.73**0.00
8ワーク・セルフ・バランス(ネガティブ)0.45*0.45*0.000.260.45*0.63**0.260.45*0.000.45*
9仕事の負担合計0.42*0.36*0.61**0.67**0.36*0.060.160.36*0.91**0.36*
10仕事のコントロール0.49*0.43*0.49*0.060.73**0.000.000.73**0.360.00
11仕事の適性0.200.45*0.45*0.60**0.45*0.000.36*0.45*0.200.45*
12技能の活用0.63**0.63**0.000.260.250.450.170.73**0.77**0.26
13仕事の意義0.45*0.200.45*0.36*0.000.000.200.000.200.20
14役割明確さ0.45*0.63**0.45*0.45*0.000.200.45*0.45*0.260.00
15成長の機会0.000.45*0.63**0.60**0.260.170.240.000.200.20
16仕事の資源(作業レベル)合計0.33*0.90**0.82**0.55**0.30*0.080.120.36*0.180.06
17上司のサポート0.260.340.82**0.170.45*0.72**0.080.72**0.000.58**
18同僚のサポート0.73**0.55**0.91**0.72**0.36*0.51**0.120.58**0.240.25
19経済・地位報酬0.45*0.000.60**0.170.45*0.73**0.33*0.77**0.170.36*
20尊重報酬0.63**0.000.200.49*0.63**0.200.170.200.49*0.26
21安定報酬0.260.000.260.36*0.45*0.000.120.260.36*0.12
22上司のリーダーシップ0.60**0.77**0.63**0.60**0.000.200.120.45*0.170.36*
23上司の公正な態度0.63**0.63**0.60**0.60**0.000.200.36*0.200.36*0.12
24ほめてもらえる職場0.000.45*0.63**0.60**0.45*0.63**0.60**0.45*0.36*0.17
25失敗を認める職場0.45*0.77**0.73**0.77**0.45*0.60**0.73**0.260.43*0.36*
26仕事の資源(部署レベル)合計0.90**0.91**0.90**0.54**0.180.160.33*0.30*0.180.33*
27経営層との信頼関係0.170.200.120.170.260.260.260.63**0.000.63**
28変化への対応0.260.45*0.63**0.36*0.000.260.36*0.45*0.36*0.17
29個人の尊重0.63**0.89**0.77**0.63**0.63**0.45*0.000.45*0.63**0.26
30公正な人事評価0.73**0.73**0.60**0.45*0.000.45*0.77**0.45*0.77**0.63**
31多様な労働者への対応0.51**0.77**0.77**0.63**0.000.000.260.000.45*0.45*
32キャリア形成0.63**0.45*0.63**0.63**0.45*0.000.000.45*0.260.00
33ワーク・セルフ・バランス(ポジティブ)0.45*0.63**0.000.260.77**0.260.000.63**0.60**0.17
34仕事の資源(事業場レベル)合計0.55**0.58**0.55**0.36*0.170.30*0.170.63**0.000.08
35家族友人のサポート0.060.34*0.49*0.120.60**0.48*0.160.240.200.24
36ワーク・エンゲイジメント0.63**0.170.51**0.58**0.000.32*0.48*0.63**0.240.08
37職場の一体感0.85**0.63**0.89**0.73**0.60**0.260.000.63**0.51**0.20
38活気0.120.120.060.51**0.000.000.63**0.000.170.12
39イライラ感0.240.30*0.120.30*0.63**0.120.060.85**0.33*0.24
40疲労感0.120.250.49*0.30*0.170.36*0.180.200.060.06
41不安感0.51**0.82**0.91**0.58**0.120.33*0.160.45*0.33*0.73**
42抑うつ感0.000.180.180.33*0.200.160.120.60**0.000.42*
43心理的ストレス反応合計0.000.30*0.170.240.060.160.060.82**0.080.24
44身体愁訴0.48*0.33*0.180.30*0.000.120.060.080.180.00
45職場のハラスメント0.45*0.63**0.63**0.60**0.260.45*0.36*0.000.260.17
46仕事満足度0.73**0.45*0.73**0.170.73**0.260.37*0.77*0.000.25
47家庭満足度0.77**0.77**0.77**0.63**0.000.000.45*0.000.45*0.45*

T1:1年目の事前調査 T2:1年目の3ヵ月後調査 T3:1年目の12ヵ月後調査(2年目の事前調査) T4:2年目の3ヵ月後調査 T5:2年目の12ヵ月後調査

効果量はr=Z/√nの絶対値にて算出.効果量の目安 r=0.10(小)r=0.30(中)r=0.50(大)

*r≥ 0.30,**r≥ 0.50

4. インタビュー調査の結果

「活動に関して良かった点について聞かせてください」の設問に関しては「他社員の意見を聞くことができて良かった」「全員参加で達成したことに満足している」「皆で取り組むことの大事さが分り,別のことにもつなげていきたい」(1年目12ヵ月後調査),「ワークショップで社員が意見を言える場があるのは有難い」(2年目12ヵ月後調査)のような意見を得た.「活動に関して大変であった点について聞かせてください」の設問に関しては「社員にやらされ感がある」「活動の推進担当者の責任が重い」(1年目フォローアップ時),「活動の推進担当者の負担が大きい」(2年目フォローアップ時)のような意見が聴取され,また改善への提案について「管理監督者(役員)がワークショップに参加した為,社員は意見を言い難かったのではないか」(1年目12ヵ月後調査)の意見が聴取された.また1年目,2年目ともに3ヵ月後調査時には年度末の繁忙期により従業員の意見の聴取自体が難しい状況であることを活動の推進担当者よりファシリテーターへ報告があった.

IV 考察

従業員8名の小規模零細企業において2年間の継続的な職場環境改善活動の取り組みを完了したことを本モデル事業で確認できた.

本モデル事業における職場環境改善活動の職業性ストレスの軽減効果については,統計的有意な改善を認めた尺度は当初期待していたものより限定的であった.継続した2年間の介入による職業性ストレスへの効果については,統計的有意な改善もしくは悪化を認める尺度は本研究ではみられなかった.各年の変化については,職場環境改善活動のテーマに直接関連する尺度ではないが,「役割葛藤」にて1年目の3ヵ月後調査から12ヵ月後調査で有意に尺度得点の上昇を認め,また2年目の事前調査と3ヵ月後調査では有意に尺度得点が低下している.「役割葛藤」に関連する事項としてグループワーク内で課題としてあげられた「自事業場の従業員が技術面で望ましいと考えるやり方を請負元事業場の認識の違いから実践できないことによる現場での役割葛藤感」があり,これが調査において「役割葛藤」の有意な変化として観察された可能性がある.この課題は改善テーマとして設定されなかったが,従業員内でグループワークの場を通して具体的な課題について意見交換したことが従業員の相互理解や改善への自主的な行動へつながり,1年目の尺度得点の上昇へ影響した可能性がある.吉川らの研究によると,参加型アプローチがもたらすアウトカムの一部として,労働者の自主的に行動する力の獲得や,職場組織全体の相互理解とコミュニケーションの促進があげられている13.小規模事業場ではブレインストーミングなどを活用したグループワークを経験する機会が少ないことが考えられ,自身の職場ストレスに関して自由に同僚と話し合う機会を持つことにより職場ストレスを認識し,改善への行動化へつながったものと考える.また2年目の「役割葛藤」の事前調査と3ヵ月後調査間で有意な悪化を認めた一つの要因として,2年目の改善テーマである「スキル・資格取得の支援」が自事業場従業員の専門意識の向上につながり請負元事業場との役割葛藤感をさらに強めたことが考えられる.但し,活動の推進担当者の報告にある年度末の繁忙期が1年目及び2年目の3ヵ月後調査の時期に重なるため,繁忙期が外的要因として各年の3ヵ月後調査の悪化に影響した可能性もある.また1年目の「職場の一体感」の事前調査と3ヵ月後調査間の有意な悪化に関しても外的要因としての繁忙期が影響した可能性がある.

また各尺度得点の中央値・範囲(表2-12-2)と効果量(表3)から各尺度における時間的な変化を検討すると,1年目の改善テーマと関連する「職場環境」では1年目の事前調査とその後の4回の調査との2時点比較したものでいずれも改善傾向を示すものはなかった.一方で2年目の改善テーマと関連する「技能の活用」では2年目の事前調査とその後の2回の調査との2時点の比較でいずれも改善傾向を認めた.多くの尺度で2年目の事前調査から3ヵ月後調査において悪化傾向を認めている中で「技能の活用」が改善傾向を認めることは,職場環境改善活動によるストレス軽減効果である可能性もある.1年目の活動において改善テーマに関連した尺度で改善効果を確認できなかった要因として,インタビュー調査で挙げられた「従業員のやらされ感」や「担当者の負担感」等の職場環境改善を実施する従業員の負担感が少なからず影響したことが考えられる.職場環境改善活動では業務量増加などの副作用が生じる可能性が指摘されている14.特に人的資源が限られた小規模事業場では,通常業務や時期的な繁忙時に活動が追加されることや,活動への不慣れにより,従業員の負担感を増加させやすい状況であることが考えられる.1年目の事前調査とその後の4回の調査との2時点比較においても効果量が0.50以上の多くの尺度で悪化傾向を示していることから,小規模事業場の職場環境改善活動に伴うこのような副作用を考慮する必要がある.副作用を可能な限り低減させるためには,スモール・ステップを意識した無理の少ない改善活動を行うこと,ツールやワークショップの進め方を小規模事業場においても活用しやすいよう改良すること,導入時には専門職がファシリテーターとして経営者及び従業員を支援すること,繁忙状況を考慮した活動時期を設定するなどして活動の推進担当者や従業員の負担を軽減する必要がある.

本モデル事業においてもスモール・ステップ方式を実践したことが,2年目の職場環境改善活動にて改善テーマに関連した尺度での改善傾向を認めたことに関わっていると考えられる.本モデル事業では1年目は良好事例集を参考にした比較的取り組みやすい内容の改善テーマを設定し活動の成功体験を積み,2年目の改善テーマではより本質的な職場の課題に近い改善テーマを設定し活動を遂行した.特に職場環境改善活動の経験に乏しい小規模事業場では介入当初の不慣れによる従業員の負担感等の副作用を生じやすいことが考えられ,出来ることの積み重ねから本質的な課題の改善につなげていくスモール・ステップ方式は,段階的に職場の課題を改善することに有効であると考えられた.

また2年目の活動において実施した他の改善として,ワークショップの進め方の一部変更がある.1年目のワークショップではツールの記入方法や討議の進め方の説明に時間を割かれ従業員間のグループ討議に十分な時間を確保できないことが観察されたため,2年目には事前にファシリテーターが職場ストレスリスクアセスメントツールの集計を行い,職場の良好点と改善点を順位付けしたものを示した上でワークショップを開始した.よって2年目のグループ討議では,職場の良好点と改善点が明確に示された状態で開始され,討議内容が拡散することなく効率的な議論を進めることができた.限られた時間で効率的にワークショップを実施することも従業員や担当者の負担感の軽減につながり,活動の効果をより発揮しやすくなる要因となった可能性を考える.但しこの方法はグループ討議の内容を絞り込んで効率的に進行できるメリットもあるが,討議内容が拡がらず議論が停滞する可能性もあることから,同時に広い視点から前向きに話し合える配慮や工夫がファシリテーターにとって必要になることも考える.

本モデル事業で2年間の職場環境改善活動を停滞することなく遂行し得たことは,導入時の経営者・役員及び従業員へのファシリテーターの支援が関わっていると考える.本介入は,介入前の合意形成時にファシリテーターが事業場の経営者及び役員に参加型職場環境改善活動の意義や進め方について1時間程度かけて説明し経営者及び役員の意向等の聞き取りを行った上で実施した.小規模事業場の特徴として,会社の安全衛生上の方針において経営者の意思が強く反映されることが既存の調査にて報告されており15,本モデル事業を実施した事業場においても参加型職場環境改善活動の意義を経営者及び役員に丁寧に説明し理解を得た上で活動を実施したことが2年間の活動を継続できた一つの要因となったと考える.また従業員に対するファシリテーターの支援に関しても,ワークショップの際に活動の意義を説明したこと,ツールの記載方法等について従業員の疑問にその場で答えられるように対応したこと等が,従業員の介入に対する不安を低減し活動を継続することに寄与したものと考える.

本モデル事業は大規模・中規模事業場が対象ではなく,国内では報告の少ない従業員10名未満の小規模零細企業での2年間のモデル事業であり,今後,小規模零細企業の参加型職場環境改善活動を推進する上で参考となる事例である.調査票による職業性ストレスの評価にて統計的有意な効果を認めた尺度は限定的であったが,継続的な参加型職場環境改善活動において小規模事業場の特徴や職場環境改善活動の副作用を考慮した進め方の工夫や改善が必要であることを確認できたことは,今後の小規模事業場の職場環境改善活動の有効な手法や支援方法を構築する上で意義があると考える.

本調査の限界として,同意を得られた一事業場のみでの調査であり,対照群をおかない前後比較のため,活動の推進担当者より聴取された業務の繁忙期等の他の要因の時間的な変化により多くの指標が悪化した可能性もある.今後は同規模で同業種の対照群との比較を行い職場環境改善活動の効果を検討していくことも必要である.また,本モデル事業では職場環境改善活動の経験のない小規模事業場において丁寧に支援し,また手法を多面的に検討するために複数名の専門職がファシリテーターとして関与する方法で行われたが,実際の運用ではこのような支援モデルの実現が難しいことがあげられるため,より現実的な運用を目指して専門職の関わりが少ない状況でもツールの活用や事業場内のファシリテーター育成教育等により自発的に職場環境改善活動を推進できる手法を検討していく必要があると考える.

V 結論

今回の小規模事業場を対象としたモデル事業において,新職業性ストレス簡易調査票による評価では統計的有意差を認めた尺度は限定的であったが,中央値・範囲の変化及び効果量から,参加型職場環境改善活動において小規模事業場の特徴や活動の副作用を考慮した手法の工夫や改善を行うことで効果が発揮される可能性が示唆された.小規模事業場で職場環境改善活動を行う際には,少ない人員での活動や改善活動への不慣れから負担感などの副作用を生じやすいことが推察され,スモール・ステップ方式の導入及びツール・ワークショップの進め方等の改善が必要である.また経営者・従業員へのファシリテーターの支援が継続的な職場環境改善活動に寄与したものと考えられた.

謝辞

研究において企業との打ち合わせやワークショップのファシリテーター担当等で多くの京都工場保健会スタッフの協力を得た.この場を借りて感謝の意を表する.

今枝政喜,岩佐 浩,大倉瑛子,大塚創平,梶岡恵子,北川淳一,倉谷昂志,小濱忠嗣,近藤祐子,櫻木園子,三宮 綾,菅原由佳,橘 宏,西田典充,鳰原由子,橋本良子,長谷川暢子,原田 達,本田 彩,水本正志,宮川昌也,村田理絵,山根英之,湯本幸一,吉岡千晶(五十音順)

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

資金提供:本研究は平成27–29年度厚生労働科学研究費補助金労働安全衛生総合研究費「事業場におけるメンタルヘルス対策を促進させるリスクアセスメント手法の研究」(H25-労働-一般-009)の助成を受けた.

文献
 
© 2020 公益社団法人 日本産業衛生学会
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