産業衛生学雑誌
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調査報告
治療と仕事の両立支援の手続きの中で産業医から主治医に提供された情報および助言内容の質的研究
簑原 里奈 小林 祐一古屋 佑子絹川 千尋廣里 治奈立石 清一郎渡邉 聖二森 晃爾
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2021 年 63 巻 1 号 p. 6-20

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抄録

目的:我が国では少子高齢化が進んでおり,疾病治療,介護,育児等と仕事の両立において労働者を支援することは産業保健上の重要な課題である.また,多くの患者(労働者)は,精神的,制度的,経済的なサポートを受けながら就労を継続することを望んでいる.疾病治療と仕事の両立支援に関しては,2016年に厚生労働省からガイドラインが示されており,2018年には,主治医が患者に対して就労を継続するための指導を行った場合の「療養・就労両立支援指導料」が新設された.その算定要件として,産業医に対して両立支援に必要な情報を提供した上で,当該産業医から「助言」を得て,その助言を治療計画に反映させることが定められている.産業医が事業者に就業上の意見をする上で主治医の診療情報を求め意見を仰ぐことは一般的に行われているが,主治医が診療計画に活かせる産業医からの情報提供や助言のあり方は確立されていない.そのため,産業医による情報提供や主治医への助言の実態調査を行って明らかにすること,今後の在り方について検討することを目的に,対応事例の記録文書を収集し,分析を行った.対象と方法:日本産業衛生学会産業医部会等の約1,500名の医師に対して,両立支援の目的で産業医として主治医に宛てて作成した文書の写しの提供を依頼した.収集した文書に記載されていた文章のうち,表題,挨拶,謝辞等の手紙としての構造部分を除き,文意を損なわない文脈単位にて切片を作成した.作成された切片はBerelson, B.の内容分析に基づいて質的帰納的に分析した.結果:42名からの103事例,178文書が分析の対象となった.治療・就労・生活環境等に関わる記述,産業医の見解・提案等,情報提供と解釈できる記述を抽出したところ,596切片が得られた.596切片を質的帰納的に分類したところ,産業医が主治医宛てに作成した文書に記載していた内容は,「情報提供」,「産業医の意見」,「情報の取り扱いに関する記述」の3つのコアカテゴリ,5つ(①~⑤)のカテゴリ,18(A~R)のサブカテゴリに分類された.主治医が患者本人から適切に聴取することが比較的困難であると思われる,職場環境・業務内容の詳細や,職場での言動に関する客観的な評価など,職場や仕事を理解するために主治医にとって有益であろうと考えられた良好事例(文面)をサブカテゴリごとにいくつか抽出し,例示した.考察と結論:実際の事例において産業医が主治医宛てに作成した手紙の文章から,産業医が行っている情報提供の実態を分析し,文書に記載されていた情報を分類し,そのカテゴリ表を作成した.カテゴリ表にリストアップされた全ての情報が手紙に記載されている必要はなく,各事例の状況に応じて必要かつ十分な情報が記載されていることが重要である.

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© 2021 公益社団法人 日本産業衛生学会
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