産業衛生学雑誌
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原著
日本人製造業労働者における社会的ジェットラグとプレゼンティーズムの関連
影山 淳 巽 あさみ藤野 善久渡井 いずみ
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2022 年 64 巻 1 号 p. 12-21

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抄録

目的:生体時計と社会時間の不一致である社会的ジェットラグ(Social jetlag:以下SJL)は心身の不調を呈することが知られており,「出勤しているにも関わらず,心身の健康上の問題により十分なパフォーマンスを発揮できない状態」であるプレゼンティーズムに関連する可能性が考えられる.しかしながら,日本における成人労働者を対象としたSJLとプレゼンティーズムの関連は十分に検討されていない.本研究の目的は1)製造業成人労働者を対象に仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」の検証2)SJLとプレゼンティーズムとの関連性が働き方と睡眠関連要因を考慮しても成立するかを検証することである.対象と方法:製造業事業所に勤務する成人労働者1,573名を対象に質問紙調査を実施し,1,501名より回答を得た(回答率95.4%).ミュンヘンクロノタイプ質問紙のガイドラインに基づき,回答に不備がある者,休日にアラームを使用する者等,クロノタイプの判定ができない者を除外し最終解析対象は980名(男性80.7%,平均年齢44.4±11.3歳)とした.SJLはミュンヘンクロノタイプ質問紙日本語版,プレゼンティーズムはWFun (Work Functioning Impairment Scale)を用いてプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度を測定した.プレゼンティーズムを従属変数とし,独立変数としてSJL,勤務間インターバル,平日の睡眠時間と不眠を順に投入する階層的重回帰分析を行い説明力の変化を確認した.なお,モデル2と3では年齢,性別,職位,職種,雇用形態,勤務型,労働時間制を共変量とした.結果:階層的重回帰分析の結果,SJL単独ではプレゼンティーズムと有意な関連を認めた(β=.066, p=.038)が,労働と睡眠関連項目で調整すると有意性が消失した.最終モデルで労働機能障害と有意な関連を認めた項目は勤務間インターバル(β=-.076, p=.017)と不眠(β=.470, p<.001)であった(調整済みR2=.239).考察と結論:仮説「SJLを経験している労働者はプレゼンティーズムによる労働機能障害の程度が高い」はSJL 単独では検証されたが,勤務間インターバルおよび不眠を考慮した場合,その関連性は消失した.従って,SJLとプレゼンティーズムの直接的な関連は否定された.SJLを経験する労働者には不眠の認識をまず確認し,不眠の認識が確認された場合にはプレゼンティーズムが発生している可能性を考慮するというように2段階でリスクを考えなくてはならないと思われる.

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© 2022 公益社団法人 日本産業衛生学会
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