産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
Print ISSN : 1341-0725
ISSN-L : 1341-0725
原著
市販ガス捕集管の粒子捕集特性
畑 光彦 古内 正美ソク ピシットアミン ムハマド梅原 祐人高尾 将志東久保 一朗今中 努志鈴木 義浩中村 亜衣山崎 正彦
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 64 巻 4 号 p. 186-197

詳細
抄録

目的:ガス捕集管は,有害ガス成分を細いガラス管内に充填された活性炭やシリカゲルなどの捕集剤粒子の表面に捕集し,作業環境中有害ガス成分の評価に使われる重要な器具である.現在半揮発性成分の多くは,ガス状または粒子状の存在割合に従って,ろ過捕集方法と固体捕集方法のいずれかで評価されており,その両方を併用する物質はわずかである.このため,半揮発性成分を固体捕集方法で捕集する際に,粒子状成分が捕集剤を通過することで,着目成分の濃度を過小評価する可能性がある.この問題点を検討するため,現在市場にある17種類のガス捕集管製品のエアロゾル粒子捕集性能と圧力損失を合わせて評価した.対象と方法:ガス捕集管の粒子捕集率を測定するためには,エアロゾル粒子モニタの流量に合わせた精密な流量制御と希釈が必要だが,小流量・高圧力損失のガス捕集管では,ろ材通過流量がエアロゾル粒子モニタの吸引流量よりずっと小さいため,一般的なフィルタろ材の試験方法が使用できない.そこで,圧力損失を基準とした流量制御と希釈を組み合わせた粒子捕集率測定法を開発した.そして,得られた粒子径別捕集率の測定結果に対して,2種類の粒子径分布と5種類の捕集条件を仮定して,質量基準総捕集率を推算した.また,コールタールピッチ取扱作業現場で測定された多環芳香族炭化水素(PAHs)16成分の結果から,半揮発性成分をガス捕集管で測定する場合に考えられる懸念について考察した.結果:エアロゾル粒子の捕集は,ガラスウール,捕集剤粒子充填層,そしてポリウレタンフォームのどの部分でも発生しており,その捕集特性は,エアフィルタや粒子充填層フィルタのような,粒子径 0.1 μm以下と 1 μm以上の範囲の捕集率が高く,0.2–0.3 μm付近が低くなる典型的な傾向を示した.このことから,エアロゾル粒子の捕集には,慣性,拡散,重力,さえぎりなどの粒子捕集機構が働いているものと推察された.考察と結論:PAHsのような粒子状・ガス状が混在する成分の質量基準総捕集率を検討し,多様な作業環境で発生しうる過小評価を防ぐため,ろ過捕集方法と固体捕集方法の併用の必要性を指摘した.

Abstract

Objectives: Gas sampling tubes are essential tools for the evaluation of air quality in work environments. It adsorbs toxic gaseous matters onto the surface of various granular adsorbents, such as silica gel or activated carbon packed in a thin glass tube, for quantitative analysis by gas chromatography. Currently, most of the semi-volatile matters are evaluated via aerosol filtration or solid-phase gas adsorption depending on the main phase of the substances; however, only a few substances have a sampling protocol regarding both solid and gaseous phases. Therefore, semi-volatile components evaluated by the solid-phase adsorption may result in the underestimation of the component concentrations due to particulate components passing through and remaining in the adsorbent. To highlight issues on sampling of semi-volatile matters by the solid-phase adsorption method, the collection efficiency of aerosol particles by 17 commercial gas sampling tubes were measured via pressure drop. Methods: To measure the particle collection efficiency of the gas collection tubes, precise control and dilution of the aerosol particle monitors are essential. However, we cannot apply typical filter test methods at a lower filtration flow rate than that of the aerosol particles monitors. Therefore, we developed a new experimental method that considers flow adjustment between the aerosol monitors. By assuming two specific particle size distributions and five inlet conditions, the collection efficiencies of total mass particles are estimated. From the gas-particle partitioning ratio of 16 polycyclic aromatic hydrocarbons (PAHs) in a coal tar pitch manufacturing industry, the underestimation of the concentration of semi-volatile matters using the gas collection tubes has been discussed. Results: The aerosol particles were collected in all kinds of layers in the gas sampling tubes, such as in the glass wool cap, gas adsorbent granular bed, and polyurethane foam. Furthermore, the collection efficiency curve of all 17 gas sampling tubes tested showed similar trends; a valley around particle sizes ranging from 0.2–0.3 μm between high collection zones below 0.1 μm and above 1 μm was observed. The observations suggested granular bed filters collection mechanisms such as inertial impaction, Brownian diffusion, gravity, and interception as same as air filters. Conclusions: Solid-phase collection can underestimate the concentrations of multi-phase matters. Thus, we wish to highlight the importance of solid-phase collection methods along with filtration collection methods to collect all phases of semi-volatile matters.

1. 背景と目的

ガス捕集管は,作業環境中のガス・蒸気状物質の固体捕集方法1に使われるサンプリング器具である.図1に示すように,シリカゲルや活性炭などの捕集剤粒子を内径数mm程度のガラス管に封入した充填層を,ガラスウールやポリウレタンフォームなどで固定した構造となっている.使用方法として,一定流量のポンプによりガス捕集管内に空気を流通させて,捕集剤表面にガス状・蒸気状成分(以下ガス状)を吸着させ捕集し,捕集後に溶媒で脱着して,ガスクロマトグラフなどに導入して定量分析することを想定している.作業環境測定基準1で定義する「固体の粒子の層」に相当する製品は,複数のメーカーから様々な商品名で提供されているが,本稿では「ガス捕集管」で統一する.

図1.

ガス捕集管の例

作業環境測定基準1では,第一条で5種類の捕集方法を定義し,対象物質によってその方法を規定している.小野ら2は,m-ニトロアニソールとジクロロニトロベンゼンを使用した揮発実験から,同一の物質が半揮発性を持ち,ガス状と粒子状の両方の状態で作業空間内に存在する場合,粒子状物質を対象としたろ過捕集方法では,ガス・蒸気状でろ過材を通過する成分を捕集できず過小評価する可能性を指摘し,ろ過捕集と固体捕集の併用の重要性を示した.既に,アクリルアミド1やオルト-フタロジニトリル,アントラセン,4-ターシャリーブチルカテコール3などの半揮発性物質は,ガス・蒸気状と粒子状の両方の状態で作業空間内に存在するため,同基準1では,固体捕集方法とろ過捕集方法の併用が指定されている.

本研究では,現時点でガス・蒸気状物質を対象として固体捕集方法のみで評価されている半揮発性物質が少なくない点に着目し,小野らと同じ固体捕集方法とろ過捕集方法の併用の重要性2を,「固体捕集方法のエアロゾル粒子のろ過捕集特性」という別の観点から検討した.固体捕集方法では,粒子を除去していない空気をガス捕集管に流通させた場合,ガス捕集管内部の捕集剤にガス・蒸気状物質のみならず粒子状成分も合わせて捕集され,定量分析されている可能性がある.それにもかかわらず,ガス捕集管についてはガス状成分捕集特性の報告がある4,5のみで,粒子状物質の捕集率については報告が見当たらない.

ガス捕集管に充填される 0.1~数 mmの捕集剤粒子充填層を,空隙を通過するエアロゾル粒子を捕集する粒子充填層フィルタと考えれば,その捕集率と圧力損失は,流通する空気の流量,捕集剤粒子の形状や大きさ,充填状態等によって大きく異なると考えられる6,7.このため,粒子捕集率が異なるガス捕集管製品を使用すれば,ガス状物質を想定して捕集・分析した結果も異なることが予想される.

本研究では,現状の固体捕集方法で想定されていない粒子状物質の存在と捕集の影響を検討し,将来的な半揮発性物質の捕集方法の議論に資するため,現在市場に提供されているガス捕集管製品17種類の圧力損失と固体粒子(塩化ナトリウム)の捕集率を測定する基礎実験を行い,ガス捕集管で粒子状とガス状が混在する成分を捕集する際に発生しうる過小評価の可能性を考察した.

2. 対象と方法

2.1 ガス捕集管の粒子捕集率と圧力損失

使用したガス捕集管製品試料17種類の概要を表1に示す.捕集剤粒子は,主に活性炭またはシリカゲルで,1種類(試料N)のみ特殊用途の合成捕集剤を使用している.活性炭とシリカゲルは,形状に球状と非球状の区別があり,数種類の捕集剤粒子径が存在する.その捕集剤粒子径は10–60メッシュの範囲にあり,対応する粒子径は約 0.2–2 mm程度であった.よく使用されている捕集剤粒子径は,12試料が採用している20–40または22–42メッシュで,対応する粒子径は 0.4–0.8 mm程度である.その他,捕集剤粒子充填層が単層の製品は試料DとEであり,この2種類以外はすべて複層の製品である.メーカーを問わず,捕集剤粒子充填層は,入口側のガラスウールと出口側のポリウレタンフォームの間に挟んで固定されていた.

表1. 供試ガス捕集管の概要
IDメーカー品名充填剤粒子充填剤粒子形状充填粒子サイズ(mesh)封入量
(mg)
封入長さ(mm)管外径(mm)管内径(mm)管長(mm)
A柴田科学(株)チャコールチューブ スタンダード型2椰子殻活性炭非球形20–40100/5015/86470
B柴田科学(株)チャコールチューブ アクティブ2カーボンビーズ球形20–40100/5012/76470
C柴田科学(株)シリカゲルチューブ スモール型2シリカゲル非球形20–40150/7514/66470
D柴田科学(株)チャコールチューブ アクティブ単層型1カーボンビーズ球形20–40200236470
E柴田科学(株)チャコールチューブ 単層型1椰子殻活性炭非球形20–40200306470
F柴田科学(株)チャコールチューブ ジャンボ型2椰子殻活性炭非球形20–40400/20035/1786110
G柴田科学(株)チャコールチューブアクティブ ジャンボ2カーボンビーズ球形20–40400/20026/1386110
H柴田科学(株)シリカゲルチューブ スタンダード型2シリカゲル非球形20–40520/26025/1386110
I柴田科学(株)チャコールシリカゲルチューブ4椰子殻活性炭/シリカゲル非球形20–40100/600/50/3008/31/4/1486110
J(株)ガステックシリカゲルチューブ 252S2シリカゲル非球形20–30400/20028/1475105
K(株)ガステックシリカゲルチューブ 252S32シリカゲル非球形20–30150/7520/105.63.6100
L(株)ガステック活性炭チューブ(球状活性炭)2球状活性炭球形22–42100/5016/85.63.6100
M(株)ガステック活性炭チューブ(球状活性炭)2球状活性炭球形22–42400/20035/1875105
N(株)ガステックNITC含浸合成吸着剤 263S2合成吸着剤球形20–60100/5027/105.63.6100
O光明理化学工業(株)活性炭捕集管2活性炭非球形10–30100/5020/1064105
P光明理化学工業(株)球状活性炭捕集管2球状活性炭球形20–50100/5014/764105
Q光明理化学工業(株)シリカゲル捕集管1シリカゲル非球形20–403002075110

圧力損失測定実験の概略を図2に示す.まず,小型吸引ポンプ(Gilian, GilAir Plus)を使用して,一定流量(100, 200, 400, 800 ml/min)で対象ガス捕集管に流通させた.そして,高精度精密膜流量計(堀場エステック,SF-1U)で入口流量と小型吸引ポンプ設定値の一致を確認した上で,デジタルマノメータ(Extech Instruments, HD750)でガス捕集管にかかる差圧を測定した.全試料でガス捕集管の向き(垂直・水平)の影響を測定し,単層の試料DとEの捕集剤粒子の画像解析を行った.そのほか,ガラスウールと内部の捕集剤粒子を順次取り出し,構成材である①ガラスウール,②捕集剤粒子充填層,③ポリウレタンフォームが,捕集率と圧力損失に及ぼす影響を検討した.

図2.

圧力損失測定実験の概略

ガス捕集管を労働環境に設置してサンプリングを実施する場合,粒子径と周辺の気流によって,管の入口で損失や分級が発生する.Agarwal and Liu(1980)の静止エアロゾルに対するサンプリング補正条件8,9では,捕集管入口が上向きの場合には,本実験の流速範囲の入口補正が不要とされている.本実験でも空のチューブで測定したrespirable(50%カットポイント空気動力学径 4 μm)10相当の粒子捕集率は15%程度で安定しており,この範囲で入口の影響が小さいことを確認した.ただし,本実験で使用した供試ガス捕集管の入口断面平均流速の大半が,SKC社のIOMインハラブルダストサンプラーの 0.19 m/s(流量 2 l/min,入口直径 15 mm)を上回るため,本実験範囲外(粒子径 10 μm以上)の割合が大きいinhalableについて入口条件の検討が十分とは言えない.このため,本研究で議論する粒子捕集率はガス捕集管内部のみに限定されることを申し添える.

粒子捕集率実験の概略を図3に示す.試験エアロゾル粒子として,1-JETアトマイザ(TSI 9302)で噴霧した塩化ナトリウム水溶液ミスト粒子(2.0 wt%)をディフュージョンドライヤ(TSI 3062相当)で乾燥し,得られた塩化ナトリウムの多分散粒子を希釈器(PALAS VKL-10E相当)で約10倍に希釈したものを使用した.

図3.

粒子捕集率実験の概略

ガス捕集管の上流と下流の粒子径別の粒子濃度を,走査式モビリティーパーティクルサイザー(以下SMPS,TSI, model 3034)と気中パーティクルカウンタ(以下OPC,RION KC-01)で測定し,粒子径毎の粒子捕集率((1-下流濃度/上流濃度)×100)を求めた.

本実験対象のガス捕集管は圧力損失が高く,また使用時のガス捕集管の流量(Q1)がエアロゾル粒子モニタの吸引流量(Q4, Q5)より小さいため,Q4とQ5がガス捕集管の圧力損失に応じて変化してしまい,一定の吸引流量(Q4, Q5)を想定した一般的なフィルタ試験方法が適用できなかった.そこで,図2の圧力損失測定から得られる圧力損失と流量の関係(表2図7図8に後述)から,ガス捕集管内の流量(Q3)が設定流量(Q1)と一致する圧力損失が発生するように希釈流量(Q2)を手動で調整し,Q2の測定結果から毎回の測定流量(Q4, Q5)と希釈倍率((Q1+Q2)/Q1)を有効数字2桁で計算し,上流と下流の粒子濃度を計算した.

本実験に先立って,発生粒子の密度を,Furuuchiら11と同様の方法でエアロゾル質量分級装置(KANOMAX APM-II model 3601)を使用して測定し,SMPSで測定する粒子径(電気移動度径)を空気力学径に変換した.また,Chienら12と同様の方法で,発生粒子の光散乱径と空気力学径を,それぞれOPCとAPSスペクトロメーター(TSI model 3321)を使用して測定し,対象粒子径の範囲で光散乱径と空気力学径の差が±10%以内であることを確認して,光散乱径をそのまま粒子径として検討を行った.このようにして発生・測定して得られた塩化ナトリウム粒子の粒子径分布の例を図4に示す.

図4.

発生した塩化ナトリウム粒子の粒子径分布の例

ガス捕集管の粒子捕集率は,粒子状物質の大きさ(粒子径)に依存して異なる.このため,様々な大きさの粒子で構成される多分散粒子の質量基準総捕集率(全体の捕集率)を予測するためには,捕集対象となる粒子状物質の粒子径分布を定義する必要がある13.本研究では定義可能な粒子径分布の例として,ISO16890:2016の粒子状物質捕集率(ePMx)の評価13に使用される,約 1 μmを境にした二峰性分布を示す都市型(urban)と,約 10 μmに緩やかなピークを持つ郊外型(rural)のふたつの粒子径分布(図5)を設定した.明星14と同様に捕集条件(通過率)を検討するため,図6に示すinhalable,thoracic,respirable10,14,PM115,PM0.111,16の5つを設定し,粒子状物質捕集率(ePMx13と同じ方法で着目した粒子径範囲を対象とする質量基準総捕集率を推算した.PM1の透過率として,市販製品(シャープカットサイクロン,Steepness 1.2)の性能曲線15を,PM0.1の透過率として,最もシャープな分級性能を示した慣性フィルタ構成(Inertial filter and impactor,流速 24.6 m/s,圧力損失 11.8 kPa,Steepness 1.7)の特性16を引用した.

図5.

質量基準総捕集率推算のために設定した粒子径分布10

図6.

質量基準総捕集率推算のために設定した吸引口透過率10,15,16

2.2 半揮発性物質の存在状態と捕集率予測

ガスと粒子が共存する作業環境において,ガス捕集管単独で測定する場合に起こりうる事態を検討するため,多様なガス状・粒子状成分比を持つ多環芳香族炭化水素類(PAHs)に着目した.実際にPAHsを多量に含むコールタールピッチ取扱(原料投入・撹拌操作・製品袋詰等)作業場内で採取された計7試料(個人ばく露述べ3+定点4)を検討した.この検討は,PAHsの捕集と測定の手法として,米CDCのNIOSH 5506 manual17に従って行った.粒子状成分を直径 37 mm,孔径 2 μmのPTFEフィルタで,ガス状成分を下流に設置した市販ガス捕集管(Washed XAD2, 100 mg / 50 mg)で捕集し,上記マニュアル17にある17種類のPAHsのうちBenzo[e]pyreneを除く16種類を分析することで,ガス状・粒子状の成分比率を求めた.

3. 結果と考察

3.1 ガス捕集管の粒子捕集率と圧力損失

表2(a)2(b)2(c)2(d)に,都市型(urban)と郊外型(rural)の,流量100,200,400,800 ml/minに対応する各ガス捕集管の圧力損失と,粒子捕集性能として,最大透過粒子径(MPPS, Most Penetrating Particle Size),最小捕集率,エアフィルタの捕集性能の基準となる 0.3 μm捕集率の測定結果と各種質量基準総捕集率を推算した結果を示す.全ての試料の圧力損失をn = 3,また試料DとEの捕集率もn = 3で測定し,個体差と設置方向(垂直・水平)の違いを検証した.個体差と設置方向(垂直・水平)の差は±5%未満であったので,試料DとE以外の試料の捕集率をn = 1の測定値を示した.小型吸引ポンプの吸引能力(カタログ値で 10 kPa)を超え安全装置が働いた条件を結果なし(NA)と記載している.

表2(a). 供試ガス捕集管の圧力損失と捕集率(100 ml/min)
ID(a) 100 ml / minEstimated from typical urban size distributionEstimated from typical rural size distribution
Pressure drop
(kPa)
MPPS (μm)Collection efficiency(minimum) (%)Collection efficiency(0.3 μm) (%)Collection efficiency(inharable) (%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable) (%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1) (%)Collection efficiency(inharable) (%)Collection efficiency(thoracic) (%)Collection efficiency(respirable) (%)Collection efficiency(PM1) (%)Collection efficiency(PM0.1) (%)
SIBATAA0.310.67636987858176939594908398
SIBATAB0.220.49687288878378939694918598
SIBATAC0.410.67667790898682959695928799
SIBATAD0.180.45485379766963869188817296
SIBATAE0.310.73537285837874929289837798
SIBATAF0.290.72718291908785979695928899
SIBATAG0.190.67768392918886969796938999
SIBATAH0.260.72728291908785979695928899
SIBATAI0.370.727484929188869896959389100
GASTECJ0.680.56677488878379949594908599
GASTECK0.900.56646886847974909493888297
GASTECL1.060.31919197969593969999989699
GASTECM0.260.72475880777165889189827497
GASTECN2.750.2797979999989899100999999100
KOMYOO0.210.56818693928987959796938999
KOMYOP0.410.56818693928987959796938999
KOMYOQ0.310.40848794939190969898969399
Average0.540.58717890888582949694918699
Min0.180.27475379766963869188817296
Max2.750.7397979999989899100999999100
STD0.600.1514115689323571

SIBATA: SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY LTD.

GASTEC: GASTEC CORPORATION

KOMYO: KOMYO RIKAGAKU KOGYO K.K.

表2(b). 供試ガス捕集管の圧力損失と捕集率(200 ml/min)
ID(b) 200 ml / minEstimated from typical urban size distributionEstimated from typical rural size distribution
Pressure drop
(kPa)
MPPS (μm)Minimum efficiency (%)Collection efficiency(0.3 μm)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)
SIBATAA0.610.37586084817669879492887895
SIBATAB0.430.35585984827669869593897997
SIBATAC0.850.56537186848074919594908298
SIBATAD0.340.49455078756860809289837195
SIBATAE0.640.37434777736558819087806995
SIBATAF0.580.56687689888480959694918599
SIBATAG0.360.45707389878379939695918698
SIBATAH0.530.56616886847974929493888198
SIBATAI0.770.67657488878379949594908499
GASTECJ1.470.49626384827671879492888097
GASTECK2.000.33616283817569839492877895
GASTECL2.280.25919197969594959999989698
GASTECM0.550.52425077736558819188807095
GASTECN6.140.22979899999998991001009999100
KOMYOO0.440.52697489878379909694918597
KOMYOP0.840.52697489878379909694918597
KOMYOQ0.650.43717690898683929897959197
Average1.150.45646986848075899593898297
Min0.340.22424777736558809087806995
Max6.140.67979899999998991001009999100
STD1.360.12141367911523582

SIBATA: SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY LTD.

GASTEC: GASTEC CORPORATION

KOMYO: KOMYO RIKAGAKU KOGYO K.K.

表2(c). 供試ガス捕集管の圧力損失と捕集率(400 ml/min)
ID(c) 400 ml / minEstimated from typical urban size distributionEstimated from typical rural size distribution
Pressure drop
(kPa)
MPPS(μm)Minimum efficiency(%)Collection efficiency(0.3 μm)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)
SIBATAA1.350.33424277746656719391857292
SIBATAB0.900.35535482797364809493887794
SIBATAC1.850.35565783817568849594907996
SIBATAD0.730.43394174706254689087807190
SIBATAE1.450.35414175716254739087796892
SIBATAF1.250.52535782797366879391867697
SIBATAG0.750.40636586837873879594908297
SIBATAH1.130.52525681787265859391857596
SIBATAI1.660.72526082807468889391867697
GASTECJ3.400.31595982807467809492877794
GASTECK4.830.72626483807468789391867793
GASTECL5.100.24939397979695969999989799
GASTECM1.230.67434775726355759188806893
GASTECNNANANANANANANANANANANANANANA
KOMYOO1.040.52576084827770849593908195
KOMYOP1.830.40576085837872849594908395
KOMYOQ1.510.43576385827773869797959095
Average1.880.45555782797367829492877895
Min0.730.24394174706254689087796890
Max5.100.72939397979695969999989799
STD1.320.14121256810723572

SIBATA: SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY LTD.

GASTEC: GASTEC CORPORATION

KOMYO: KOMYO RIKAGAKU KOGYO K.K.

表2(d). 供試ガス捕集管の圧力損失と捕集率(800 ml/min)
ID(d) 800 ml / minEstimated from typical urban size distributionEstimated from typical rural size distribution
Pressure drop
(kPa)
MPPS(μm)Minimum efficiency(%)Collection efficiency(0.3 μm)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)Collection efficiency(inharable)(%)Collection efficiency(thoracic)(%)Collection efficiency(respirable)(%)Collection efficiency(PM1)(%)Collection efficiency(PM0.1)(%)
SIBATAA3.080.27383875726351619391856987
SIBATAB1.930.27474879766959699492887490
SIBATAC4.100.27505081787263749593897793
SIBATAD0.720.33353673696049619189826687
SIBATAE3.320.29393976736556659391867489
SIBATAF2.680.67465278756860809290847195
SIBATAG1.590.33595984817669829594908095
SIBATAH2.480.67454977746657779290837094
SIBATAI3.600.78324976726455799188816795
GASTECJ7.810.21646784827670769492877992
GASTECKNANANANANANANANANANANANANANA
GASTECLNANANANANANANANANANANANANANA
GASTECM2.810.72424775716253699188816690
GASTECNNANANANANANANANANANANANANANA
KOMYOO3.660.31494981797265759594908192
KOMYOP4.070.31494982807467759594918292
KOMYOQ3.660.40363878756860749797948993
Average3.250.42454879766860739392867592
Min0.720.21323673696049619188816687
Max7.810.78646784827670829797948995
STD1.570.19983456622473

SIBATA: SIBATA SCIENTIFIC TECHNOLOGY LTD.

GASTEC: GASTEC CORPORATION

KOMYO: KOMYO RIKAGAKU KOGYO K.K.

10 μm以上の粗大粒子は慣性でほとんど捕集されるため,この粒子径範囲の質量比率が高いinhalableの質量基準総捕集率は,本実験条件範囲で70%以上ある.thoracic,respirable,PM1と 10 μm以上の粒子の質量比率が下がるにつれて,質量基準総捕集率は低くなるが,拡散捕集が支配的となるPM0.1で再び高くなる.興味深いのは,urbanに対して平均粒子径が2倍以上大きなruralの方が高いPM0.1捕集率を示すことである.これはruralの方が 0.1 μm以下の粒子質量比率が高いことに由来する.種々の作業現場での粒子捕集特性は,多様な粒子径分布に依存して複雑に変化することが考えられるので,本実験結果がひとつの参考になると考える.

単層のガス捕集管試料DとEについて,入口のガラスウール,内部の捕集剤を順次取り出し,圧力損失を測定した結果をそれぞれ図7図8に示す.圧力損失は流量の二次関数となっており,古典的な圧力損失の予測モデル7と合致する.ガス捕集管全体(Total tube)の圧力損失と比較すると,ガラスウールを取り出した捕集剤粒子充填層とそれを支持するポリウレタンフォームの圧力損失(Without glass wool)は,試料Dで6割,試料Eで3割ほど低下した.ガラスウール層の圧力損失が,ガス吸着管の中で一定の割合を占めていることが確認された.試料Dと試料Eのガラスウール相当圧力損失の差は,400 ml/minまでの流量で5%以内であったことから,同様に充填した場合,これに近い値になることが予想される.一方で,ポリウレタンフォーム層の圧力損失(PUF cap only)は,試料Dが全体の2%未満,試料Eが5%前後と小さく,再現性を定量的に評価する精度が得られなかった.

図7.

試料Dの圧力損失

図8.

試料Eの圧力損失

「ガラスウールを取り除いた捕集剤粒子充填層とポリウレタンフォーム積層の圧力損失(Without glass wool)」から「捕集剤粒子充填層を取り除いたポリウレタンフォームのみの圧力損失(PUF cap only)」を差し引いて「捕集剤粒子充填層のみの圧力損失(Granular bed(estimated))」を推算し,それぞれ同図中に示した.

約50倍のデジタル顕微鏡で試料DとEの捕集剤粒子それぞれ50個を撮影・画像解析した結果,円面積相当径(ヘイウッド径)の個数基準平均値は,それぞれ 0.76 mmと 0.84 mmであり,カタログに記載されているメッシュ目開き上限・下限の算術平均値 0.63 mmよりも,上限値 0.84 mmに近かった.得られた粒子径と圧力損失をErgun式7に代入し,捕集剤粒子充填層の空隙率を求めたところ,それぞれ0.39と0.43となり,鈴木らが球形・非球形ガラスビーズの充填率の検討を行った結果18と同程度になった.捕集剤粒子の封入量・封入長さ(表1参照)と空隙率から推算した活性炭の真密度は,それぞれ1,100と870 kg/m3であり,安彦がヘリウムガスを使用して測定した値(2,100~2,300 kg/m34の半分程度であった.このことから,圧力損失で評価できない活性炭捕集剤粒子内部の細孔があることが示唆された.

これらの結果から,捕集剤密度やガラスウールの圧力損失を予備実験で求めた後に,任意の捕集剤粒子径や捕集剤粒子充填層の厚み,流速に対応する圧力損失をある程度Ergun式で予測可能であることが確認された.

流量100,200,800 ml/minに対応する試料DとEの粒子径別捕集率の測定例を図9図10にそれぞれ示す.測定した17種類すべてのガス捕集管製品の捕集率は,一般的なエアフィルタや粒子充填層フィルタと同様,捕集率曲線は 1 μm以上の粗大粒子と 100 nm以下のナノ粒子の捕集率が高く,0.2–0.8 μmの粒子に谷間ができる典型的な特性を示している.この特性から読み取った全ガス捕集管試料の最小捕集率と最大透過粒子径(MPPS)の測定結果を,表2(a)2(b)2(c)2(d)に記載した.

図9.

試料Dの粒子捕集率(100, 200, 800 ml/min)

図10.

試料Eの粒子捕集率(100, 200, 800 ml/min)

捕集率に及ぼすガス捕集管を構成する各層の寄与を検討するため,試料DとEに充填されたガラスウールのみ取り除いたものと,さらに捕集剤粒子を取り除いてポリウレタンフォームのみ残したものの捕集率を測定し,図11図12に結果を示した.圧力損失と同様,ガラスウールが全体の捕集率に寄与しているが,圧力損失が低いポリウレタンフォーム(PUF cap only)のみ残した捕集管DとEの質量基準総捕集率(粒子径分布を仮定した推算値)は,共にurban-inhalable条件で50%以上,rural-inhalableでは70%以上であった.この値には,ガス捕集管の内壁へのブラウン拡散による粒子の沈着も含まれていると考えられる.この結果から,捕集剤のみの粒子捕集率を推算し,粒子充填層フィルタの慣性,拡散,重力,さえぎり等の捕集機構を予測する半理論式6による捕集率の予測値と比較した結果を図13図14に示す.予測は流速が増加すると共に最小捕集率が低下する傾向を再現したが,実験値と予測値との差異があった.これは,粒子濃度測定機器の吸引流量を大幅に下回る小流量の希釈倍率と多分散粒子の一括測定に由来する測定精度の限界や,極端に小さな断面積のろ材の壁効果等に由来すると考えられる.このことから,捕集剤粒子のみの粒子捕集特性を正確に把握するためには,専用の粒子充填層と単分散粒子を使用した基礎試験を行う必要がある.

図11.

試料Dの粒子捕集率(100 ml/min)

図12.

試料Eの粒子捕集率(100 ml/min)

図13.

試料D(捕集剤粒子充填層のみ)粒子捕集率(exp)と予測値(cal)

図14.

試料E(捕集剤粒子充填層のみ)の粒子捕集率(exp)と予測値(cal)

3.2 半揮発性物質の存在状態と捕集率予測

コールタールピッチ取扱作業場内定点で捕集された個人ばく露と,定点のガス状・粒子状同時測定結果から得られたPAHs16成分の粒子状成分の質量比率(粒子状/(粒子状+ガス状),n = 7)を図15に示す.このうちナフタレンはガス状物質として,アントラセンはガス状・粒子状の両方を捕集することが作業環境測定基準で決められている3.粒子状・ガス状の存在比率は,単体成分の蒸発・凝縮特性のみならず,混在する粒子への吸着特性や相対湿度にも大きな影響を受ける20,21,22,23,24.本結果からは沸点・環数が高い成分の方が,粒子状成分の質量比率が高くなる傾向が弱いながらも見られた.環境省の「排出ガス中の多環芳香族炭化水素(PAHs)の測定方法マニュアル」19では,固相捕集法(固体捕集方法に相当)と,フィルタ(ろ紙) +吸収液+吸着剤カラム捕集法(ガス状・粒子状の両方を捕集)が指定されており,2環から3環まで(ナフタレンからアントラセン)の成分は,いずれの手法も利用可能とされている.しかし,図15の結果では,アセナフチレン(3環,融点 365 K,沸点 553 K,粒子状86±8%)とアセナフテン(3環,融点 367 K,沸点 552 K,粒子状22±16%)のように,非常に近い物性を持ちながら粒子状の質量比率がまったく異なる物質があった.上記マニュアル19で粒子状と記載されている5環のジベンゾ[a, h]アントラセンの粒子状成分の質量比率が半分を下回っているように,沸点や蒸気圧から存在状態を予測することが困難な成分もある.このことから,上記マニュアル19で利用可能としている手法が適切とは言えない作業環境や成分があると考えられる.

図15.

コールタールピッチ取扱作業場で観測された多環芳香族炭化水素類の粒子状成分の質量比率(粒子状/(粒子状+ガス状),n = 7)

ここで,ガス状と粒子状の両方が混在する成分を対象に,ガス捕集管を使用することを想定した対象成分の回収率を,粒子状成分の割合に粒子状成分の総捕集率をかけて試算した.燃焼等の発生源,また大気粒子のどちらでも,一般に粒子状成分中のPAHsは,小さな粒子径に偏在することが知られており,特に 1~2 μmより小さな粒子中の存在比率が高い20,21,22,23,24.したがって,inhalableの広い粒子径範囲を対象にすると, PAHsに見られるような偏在の効果を過小評価する可能性が高い.ひとつの例として,本実験範囲で得られた最も低い質量基準総捕集率(試料D・流量 800 ml/min・urban+PM1の49%)を挙げると,アセナフチレンのような,80%以上が粒子状で存在する物質をガス捕集管単体で捕集した場合,粒子状成分の約50%がガス捕集管を透過することになる.この場合,環境中のアセナフチレン濃度を,本来評価されるべき粒子状+ガス状の40%(粒子状比率80%×質量基準総捕集率50%)程度に過小評価する可能性がある.これらのことから,上記マニュアル19を過信せず,可能な限り粒子状・ガス状の両方を捕集し,精密な評価を実施する必要がある.

4. 結論

ガス状有害物質の測定に使われる,市販ガス捕集管のエアロゾル粒子(固体粒子)の捕集特性を検討した結果,質量基準総捕集率は,ガス捕集管試料・粒子径分布・捕集条件で異なるものの,概ね50~100%の範囲にあり,その半分程度が捕集剤粒子充填層を固定するためのガラスウールおよびポリウレタンフォームで捕集されていた.作業場で捕集された多環芳香族炭化水素のガス状・粒子状の存在比率は各成分によって異なり,蒸気圧や沸点から予想された状態と一致しない場合も確認された.このようなガス状・粒子状が共存する成分を,ろ過捕集方法か固体捕集方法のいずれか一方で捕集した場合,サンプラ製品や捕集条件・粒子径分布に依存して,作業環境を過小評価するおそれがある.本研究では固体粒子の捕集からこの点を検討したが,半揮発性物質の捕集特性については,多様な作業環境中で複雑に変化することが予想され,さらなる知見の蓄積が必要である.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
© 2022 公益社団法人 日本産業衛生学会
feedback
Top