産業衛生学雑誌
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原著
成人中期男性労働者の禁煙成功に至った体験の特徴に関する研究
二瓶 映美 安齋 由貴子
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2022 年 64 巻 4 号 p. 173-185

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抄録

目的:30歳代および40歳代(以下,成人中期とする)の喫煙率は約37%であり他の年代に比べて高く,そのうち,約4人に1人は「たばこをやめたい」という意志を持っている.産業保健職はこのような禁煙希望者をはじめとする喫煙者の禁煙支援にあたり,まずは禁煙外来への受診を勧めるが,受診につながらないケースも少なくない.一方で,自力で禁煙に成功した者が多いという報告もある.しかし,喫煙はニコチン依存であり,禁煙希望者が自力で継続していくのは容易ではない.また,直ちに禁煙の意志がない者など喫煙者の禁煙希望は多様であり,産業保健職は喫煙者の禁煙支援にあたり,禁煙への取組み状況を的確に捉え,それに応じた支援を行っていく必要がある.これには禁煙成功者が禁煙に取り組んできた体験が参考になると考えた.そこで,本研究では成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を明らかにし,その特徴を捉えた禁煙支援の在り方について検討することを目的とした.対象と方法:成人中期男性労働者で,1日あたり平均5本以上の喫煙歴があり,禁煙外来の治療を受けずに現在6か月以上禁煙している者とした.14名の協力を得て,半構造化面接を30–60分程度行った.面接は,喫煙開始時から禁煙を試みたきっかけ,禁煙方法や取り組む中での心境や状況の変化,過去の失敗経験,現在の思いについて,インタビューガイドを用いて実施した.面接内容の逐語録を作成し,質的帰納的に分析を行い,ラベル,サブカテゴリ,カテゴリ,コアカテゴリを抽出した.結果:成人中期男性労働者が禁煙成功に至った体験の特徴を表す概念として,683のラベルおよび117のサブカテゴリ,32のカテゴリが抽出され,最終的に9つのコアカテゴリが抽出された.以下,コアカテゴリを【 】,カテゴリを≪ ≫で示す.まず,研究協力者は【禁煙の挑戦に対する躊躇】を抱いていたが,喫煙者を取り巻く社会の変化等により【喫煙者であり続けることへの懐疑】を抱き,【困難な挑戦を始める覚悟】をしていた.禁煙開始後は,【たばこからの離脱に伴う苦痛】の中でも【自分に合う禁煙方法の試行錯誤】や【気力を盾にした喫煙欲求との戦い】により,【禁煙成功が実現できそうな予感】を感じ始めていた.さらに禁煙の継続により,【禁煙成功者としての生き方の確立】を獲得する一方で,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を感じていた.また,≪喫煙でマイナスイメージを持たれるのを回避する≫,≪他者に対する自分のプライドを守る≫,≪周りから認められたことに喜びを感じる≫と,他者との関係性を示すカテゴリが抽出され,周囲からの評価を意識していることが明らかになった.考察と結論:本研究の結果から,【喫煙者であり続けることへの懐疑】は,禁煙挑戦への転換点として捉えられた.禁煙支援にあたり,まずは喫煙者が【喫煙者であり続けることへの懐疑】の思いにつながるアプローチを行うことが重要であると示唆される.禁煙後は,【禁煙後に遭遇した戸惑い】を軽減し【禁煙成功者としての生き方の確立】をし続けられるように,継続的なフォローアップが必要であると考えられる.さらに,本研究では周囲の評価を気にする意識が禁煙に対する行動変容につながることが示され,「公的自意識」に対するアプローチは新たな知見となる可能性が示唆された.

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© 2022 公益社団法人 日本産業衛生学会
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