産業衛生学雑誌
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原著
高齢者介護施設における介護者の労働生活の質(QWL)に関連する要因
岩切 一幸 外山 みどり高橋 正也劉 欣欣
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2022 年 64 巻 4 号 p. 198-210

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抄録

目的:介護施設における介護職員(以下,介護者と記載)の人材不足が問題となっている.この対策として,働きやすい職場の構築が求められており,労働生活の質(Quality of Working Life:QWLと以下記載)の向上が必要になっている.しかし,優先的かつ重点的に取り組むべきQWL要因は明らかではない.そこで本研究では,現在の介護施設における介護者のQWLに影響する主要な要因と取り組むべき優先度を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.対象と方法:調査は,施設用および介護者用アンケートを用いて2018年10~12月に実施した.対象施設は全国の特別養護老人ホームから無作為抽出した1,000施設とし,対象介護者は1施設あたり8名の計8,000名とした.解析では,ロジスティック回帰分析を用いてQWLに影響する要因を抽出した.結果:解析対象施設は504施設,解析対象者は3,478名であった.解析の結果,介護者QWLとの関係において有意かつ最も高いオッズ比(OR)を示したのは人間関係(OR: 3.92, 95% CI: 3.09–4.97),次いで作業人数・配置(OR: 3.69, 95% CI: 2.56–5.32),コミュニケーション(OR: 3.42, 95% CI: 2.66–4.40),施設からのサポート(OR: 3.37, 95% CI: 2.69–4.23),労働時間・休み(OR: 3.20, 95% CI: 2.53–4.04),裁量(OR: 3.09, 95% CI: 2.46–3.88)と続いた.一方,給与はQWLと有意に関連したが,人間関係などに比べてオッズ比は低かった(OR: 2.81, 95% CI: 2.19–3.61).また,腰痛のない者ほど高いQWLが示された.考察と結論:介護者のQWLを向上させるには人間関係,さらには作業人数・配置,コミュニケーション,施設からのサポート,労働時間・休み,裁量に関する改善を優先的かつ重点的に実施すべきと考えられた.QWL向上のための改善策としては,介護者の不満理由から勘案して,上司・同僚との情報交換の促進,労働時間や休暇,メンタルヘルスを相談できる担当者の活用などが必要と思われた.給与はQWLを向上させる要因ではあるが,人間関係などに比べて関連性は低く,以前ほど重要ではなくなっていた.また,介護者の腰痛対策は,QWLの改善に貢献すると思われた.

Abstract

Objective: Theshortage of caregivers in care facilities has become a problem in Japan. Building a comfortable workplace and improving the quality of working life (QWL) of caregivers are essential. However, the factors of QWL that should be prioritized remain unclear. The purpose of this study was to identify the major factors currently affecting the QWL of caregivers in care facilities for the elderly and recognize the priorities that should be addressed. Methods: A questionnaire survey targeting administrators and caregivers working in care facilities for the elderly was conducted from October to December in 2018. In total, 1,000 care facilities located throughout Japan were selected via random sampling. Eight caregivers who differed by sex, age, and years of experience were selected from each facility (a total of 8,000 caregivers). A logistic regression analysis was used to analyze the association between QWL and the factors affecting it. Results: Ultimately, data from 504 facilities and 3,478 caregivers were included in the analysis. Human relationships (OR: 3.92, 95% CI: 3.09–4.97) had the highest odds ratio in terms of caregivers’ QWL, followed by the number of workers (OR: 3.69, 95% CI: 2.56–5.32), communication (OR: 3.42, 95% CI: 2.66–4.40), support from the facility (OR: 3.37, 95% CI: 2.69–4.23), working hours or time off (OR: 3.20, 95% CI: 2.53–4.04), and discretion of responsibility level (OR: 3.09, 95% CI: 2.46–3.88). In contrast, salary (OR: 2.81, 95% CI: 2.19–3.61) was associated with QWL but the association was lower than that of human relationships and the other factors. Lower back pain among caregivers was also associated with QWL. Conclusions: Findings of this study show that improvement in human relationships is the primary factor for improved QWL among caregivers in care facilities. Thus, it should be prioritized. Secondary factors that affect QWL are the number of workers, communication, support from the facility, working hours or time off, and discretion of responsibility level. Considering the reasons for caregivers’ dissatisfaction, improving their QWL requires promoting the exchange of information with superiors and colleagues. It also involves consulting with persons in charge about working hours, time off, and mental health. Salary is related to QWL but is less important than the aforementioned factors. The prevention of lower back pain, however, contributes to improving QWL.

I.はじめに

介護職場では,介護職員(以下,介護者と記載)の人材不足が大きな問題となっている.介護労働安定センターの「介護労働実態調査」では,2019年において介護事業所の65.3%が介護者不足を訴えていた1.厚生労働省の「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」の資料では,この介護者不足が継続した場合,2023年には約22万人,2025年には約32万人の介護者が不足すると推計されている2.今後,高齢者の増加と労働力人口の減少が進むと3,介護者不足はさらに深刻化するものと思われる.

介護者不足は,個々の介護者の作業負担を増大させ,心身の健康に悪影響を及ぼす可能性がある.また,介護の質の低下にも繋がると考えられる.厚生労働省は,この対策として,①介護者の処遇改善,②多様な人材の確保・育成,③離職防止・定着促進・生産性向上,④介護職の魅力向上,⑤外国人材の受入環境整備を主な取り組みとして掲げている2.これらの具体的な対策は,給与の改善や支援金の貸付といった金銭的な支援,求職者向け職業訓練における訓練枠の拡充や職場体験の実施,介護ロボットや情報通信技術といったテクノロジーの活用,介護職の魅力向上のための情報発信,外国人介護者への日本語学習支援など多岐にわたる.しかし,これらは間接的な支援となっている.介護職場において介護者の離職を防止するには,介護者が抱える直接的な問題を明らかにし,その対策を検討して具体的に取り組む必要がある.

欧米諸国では,1960年代後半から,仕事のやりがいや働きやすさ,職務満足度などの勤労生活の質的向上を包括する,労働生活の質(Quality of Working Life:QWLと以下記載)が注目されるようになった4.介護職場では,労働災害の防止に加え,働きやすい職場が求められており,介護者のQWL向上が必要になっている.しかし,介護職場における介護者のQWLや職務満足度は,中間的かやや低めとなっており決して高くはない5,6,7,8.介護者のQWLに影響する要因としては,給与,上司や同僚との人間関係,仕事を通じた成長欲求があげられている5.また,介護者の職務満足度や離職に関連する要因として,給与7,9,10,11,12,13,人間関係7,12,14,コミュニケーション7,15,作業負荷9,14,研修7,10,11,16,17,施設からのサポート13などがあげられている.これらは,いずれも重要な要因であるが,どの要因を優先的かつ重点的に取り組むべきか十分に分かっていない.また近年では,介護サービスを提供した事業所に介護保険から支払われる費用である介護報酬の引き上げが随時行われている2,18.この引き上げは,介護者の給与の増額につながることから,現在,必ずしも給与が介護者の主なQWL要因になっているとは限らない.さらに,介護業務は作業負荷が大きいため9,14,介護者は体調を崩して離職する者もいる9.なかでも,介護者の腰痛は深刻な健康問題となっていることから19,20,介護者の健康状態がQWLに影響する要因になっている可能性がある.以上の点を鑑みると,介護者のQWL要因は,以前と比べて一部変わってきている可能性がある.また,どの要因を優先的かつ重点的に取り組むべきか検討する必要がある.

そこで本研究では,現在の介護施設における介護者のQWLに影響する主要な要因と取り組むべき優先度を明らかにすることを目的としたアンケート調査を実施した.

II.方法

1) 対象

本研究は,全国の特別養護老人ホームを対象にした横断的調査であり,調査期間は2018年10月~12月であった.対象の選定には,厚生労働省「介護サービス情報公表システム」を利用した.同システムには,2018年6月22日時点において,全国の特別養護老人ホーム6,940施設と介護者数262,111名が登録されていた.そのうち,対象施設は,北海道から沖縄県までの1,000施設(標本抽出率:14.4%)を無作為抽出した.ただし,2018年7月に豪雨災害のあった岡山県(真備町)および2018年9月に地震災害のあった北海道(厚真町,安平町)の一部被災地域は,対象施設から除外した.対象介護者は,1施設あたり介護者8名の計8,000名(標本抽出率:3.1%)とした.

2) 調査方法

調査票は,施設管理者記載の施設用アンケートおよび介護者記載の介護者用アンケートを独自に作成し,施設管理者経由にて配布した.施設管理者には,直接介護に携わっている性別,年齢,経験年数の異なる8名の介護者に調査票を配布するよう依頼した.回答後の調査票は,回答者本人が封をし,施設ごとに返送していただいた.施設用アンケートは4頁,介護者用アンケートは8頁で構成した.両アンケートの調査票1頁目には,調査趣旨,個人および施設情報の保護について記載し,調査参加への意思確認の欄を設けた.介護者には,全ての項目に回答していただくようにお願いしたが,心的負担と感じる項目は,必ずしも回答する必要はないとした.これらの研究は,労働安全衛生総合研究所の研究倫理審査委員会から承認(通知番号:H3002)を得て実施した.

3) 調査項目

施設用アンケートの調査項目は,介護施設の基本情報,施設の取り組み,労働安全衛生活動とした.介護施設の基本情報は,施設形態,労働者数,介護者数,長期の施設入居者数,勤務体制,前年度の離職介護者数および休業介護者数とした.施設の取り組みでは,施設管理者が十分な給与,人員配置,作業時間があると思うかを「非常に思わない」,「思わない」,「どちらでもない」,「思う」,「非常に思う」の5件法にて調査した.また,昇進・昇給制度の周知,初任者研修の有無,介護者と施設管理者との意見交換の場の設置,職場で起きた事故や災害の記録,職場で起きたヒヤリハット(危険を感じたこと)の記録,精神的ストレスに関する相談窓口や担当者の設置を「ある」,「ない」の2件法にて調査した.労働安全衛生活動は,表1に示す健康管理および作業管理に係わる活動項目を「ある(いる)」,「ない(いない)」の2件法にて調査した.

表1. 介護施設の安全衛生活動実施割合と介護者の参加割合
(%)介護施設の安全衛生
活動実施割合
(n = 504)
介護者の安全衛生
活動参加割合
(n = 3,478)
健康管理に係わる活動
 健康診断の実施/受診99.896.9
 腰痛健診の実施/受診57.546.3
 衛生委員会の設置92.3
 衛生委員会の開催89.3
 職場巡視の実施87.1
 産業医の選任88.5
 衛生管理者/推進者の選任92.9
作業管理に係わる活動
 介助方法の講習・研修の実施/受講86.567.3
 福祉用具の講習・研修の実施/受講54.245.1
 福祉用具の使用を指導・推奨79.463.2
 入居者ごとに介助方法(作業標準)を決めて実施90.581.2
 介助方法に関するマニュアルの作成/使用90.164.8
 介助方法に関する試験の実施/受講8.712.7
 介助方法に関する評価41.316.2
 同僚間での話し合いの実施92.584.8
 介助方法や福祉用具の使用に関する責任者の設置/相談60.167.9

介護者用アンケートの調査項目は,介護者の基本情報,職業性ストレスの状態,介護者のQWL,通院の有無,腰痛の程度,取り組んでいる安全衛生活動,仕事に関連する満足/不満足感,不満足な相手・理由・内容,介護者自身が働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目とした.介護者の基本情報は,性別,年齢,資格の有無,勤務形態,勤務体制,週労働時間,休業日数などとした.職業性ストレスの状態は,職業性ストレス簡易調査票の仕事の量的負担(3項目),仕事のコントロール(3項目),上司・同僚からのサポート(6項目)に関する項目を用いて評価した21.介護者のQWLは,介護者QWL簡易尺度を用いて,働く「意欲」,働き続けたい「意思」,業務に対する「満足度」,仕事の「達成感」を,「1.大変低い(大変弱い)」,「2.低い(弱い)」,「3.どちらとも言えない」,「4.高い(強い)」,「5.大変高い(大変強い)」の5件法にて点数化し,それらの合計点数(4~20点)にて評価した22.介護者QWL簡易尺度の意欲,意志,満足度,達成感および合計の点数は,2回の調査において,既に妥当性および信頼性が証明されているQWL5,ワーク・エンゲイジメント23,バーンアウト24に関する尺度との間にいずれも有意な相関関係が認められている.また,介護者QWL簡易尺度の合計点数は,1回目調査と2回目調査の間に有意な相関関係が認められている.さらに,信頼性分析の結果,Cronbachのα係数は,1回目調査と2回目調査ともに0.80以上を示している.これらの結果から,介護者QWL簡易尺度の合計点数は,介護者QWLの指標として妥当性および信頼性が得られていると考えられる.通院の有無は,心身の不調や健康状態を把握するために,精神疾患,高血圧症,糖尿病,関節症,腰痛にて病院に通院,および腰痛にて針灸・マッサージなどに通院の有無を「ある」,「ない」の2件法にて評価した.腰痛の程度は,過去1年間の腰痛について「0.腰痛はなかった」,「1.腰痛はあったが仕事に支障はなかった」,「2.腰痛のため仕事に支障をきたしたが仕事は休まなかった」,「3.腰痛のため仕事を休んだことがある」の4件法にて評価し,0と1の合計を重度腰痛なし,2と3の合計を重度腰痛ありとした25.取り組んでいる安全衛生活動は,表1に示す項目に対し,「ある(いる)」,「ない(いない)」の2件法にて評価した.仕事に関連する満足/不満足感は,給与,作業人数・配置,労働時間・休み,同僚・上司・利用者やその家族との人間関係(以下,人間関係と記載),上司や同僚とのコミュニケーションや話し合い(以下,コミュニケーションと記載),意見が反映されるなどの裁量を持って仕事ができる程度(以下,裁量と記載),昇進・役職,施設からのサポート,研修の実施,安全衛生管理について,「大変不満」,「不満」,「どちらとも言えない」,「満足」,「大変満足」の5件法にて評価した.不満足な相手・理由・内容は,表6に示す項目について,いずれも複数回答可として調査した.介護者自身が働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目は,先述した仕事に関連する満足/不満足感の10項目から,働く意欲や仕事の継続に最も関連する項目を3つ選択してもらい,1番を3点,2番を2点,3番を1点として各項目の合計点数を算出した.

4) 統計解析

得られたデータは,単純集計し,割合および平均値±標準偏差を算出した.また,QWLに影響する要因を明らかにするために,従属変数を介護者QWL簡易尺度の合計点数,独立変数を通院の有無,重度腰痛の有無,または仕事に関連する満足/不満足感としたロジスティック回帰分析にて解析した.従属変数の介護者QWL簡易尺度の合計点数は,4~15点を低QWL,16~20点を高QWLとして2値化した.また,独立変数の仕事に関連する満足/不満足感は,大変不満・不満・どちらとも言えないを「不満」,満足・大変満足を「満足」として2値化した.オッズ比(OR)と95%信頼区間(95%CI)は,調整なしのCrudeと調整ありのModelを算出した.Modelの調整因子は,性別(男,女),年齢群(30歳未満,30代,40代,50歳以上),職業性ストレス(仕事の量的負担,仕事のコントロール,上司・同僚からのサポート:いずれも連続変数)とした.統計解析にはIBM SPSS ver. 27を使用し,統計的有意差は危険率5%未満とした.

III.結果

1) 解析対象

施設用アンケートの回答数は505部(回収率:50.5%),介護者用アンケートの回答数は3,565部(回収率:44.6%)であった.そのうち,解析対象施設は欠損データの多い1施設を除いた504施設とし,解析対象者は性別・年齢に欠損のある者を除いた3,478名(男性1,331名,女性2,147名)とした.

2) 介護施設の基本情報

介護施設の形態は,多床室および従来型個室の施設が48.6%,ユニットケア型の施設が33.7%,それらの複合型施設が17.3%であった.労働者数は73.4±33.4名,介護者数は45.9±21.2名,長期の施設入居者数は76.0±29.5名,平均要介護度は4.0±0.3であった.二交代制勤務の施設は35.3%,三交代制勤務の施設は35.1%,変則三交代制を含むそれ以外の勤務体制の施設は25.6%であった.前年度における年間離職介護者数は6.3±5.8名,年間休業介護者数は0.8±1.4名であった.

3) 施設の取り組みと安全衛生活動

介護者に十分な給与が払えていると思う・非常に思う施設は35.5%,十分な人員が配置できていると思う・非常に思う施設は15.3%,介護者は十分時間に余裕があると思う・非常に思う施設は9.9%であった.昇進・昇給制度の職員への周知を行っている施設は88.9%,初任者研修を実施している施設は70.4%,介護者と施設管理者との意見交換の場を設けている施設は93.8%であった.職場で起きた事故や災害を記録している施設は100%,職場で起きたヒヤリハット(危険を感じたこと)を記録している施設は98.8%,精神的ストレスに関する相談窓口や担当者を設置している施設は90.1%であった.

表1に介護施設の安全衛生活動実施割合を示す.健康診断,衛生員会の設置および開催,職場巡視は約9割の施設にて実施されていた.また,介助方法の講習・研修,入居者ごとに介助方法(作業標準)を決めて実施,介助方法に関するマニュアルの作成,同僚間での話し合いの実施も約9割の施設にて実施されていた.一方,福祉用具の講習・研修を実施している施設は54.2%,介助方法に関する試験を実施している施設は8.7%,介助方法に関する評価を実施している施設は41.3%にとどまった.

4) 介護者の基本情報と職業性ストレス

表2に介護者の基本情報および職業性ストレスを示す.介護者の年齢は39.3±10.6歳,介護福祉士の有資格者は79.3%,常勤者は92.8%,交代制勤務者は71.2%,週労働時間が40時間以上の者は60.9%,前年度において病気により休業した日数は2.2±6.5日であった.

表2. 介護者の基本情報および職業性ストレス
n = 3,478%/平均値±標準偏差
性別
 男性38.3
 女性61.7
年齢39.3±10.6
Body Mass Index: BMI22.8±3.9
資格(複数回答可)
 介護福祉士79.3
 ホームヘルパー(1~3級)29.3
 ケアマネージャー14.9
 資格なし6.5
勤務形態
 常勤者92.8
 非常勤者・パートタイム者など6.9
施設形態
 多床室・従来型個室47.7
 ユニットケア42.5
 両方・それ以外8.9
勤務体制
 日勤25.6
 二交代制21.4
 三交代制34.5
 変則三交替制など15.3
週労働時間
 < 35時間6.2
 35時間≦,< 40時間30.3
 40時間≦,< 45時間40.9
 45時間≦20.0
病気のため休業した日数(前年度)2.2±6.5
職業性ストレス
 仕事の量的負担度(3:ない~12:ある)9.5±1.8
 仕事のコントロール度(3:ある~12:ない)7.8±1.9
 上司・同僚からのサポート(6:少い~24:多い)14.5±3.7

職業性ストレスにおける仕事の量的負担(3~12点)は9.5±1.8,仕事のコントロール(3~12点)は7.8±1.9,上司・同僚からのサポート(6~24点)は14.5±3.7であった.評価点の最低点と最高点を加算して二で除した値を中立的な値とすると,仕事の量的負担は若干高い傾向にあった.

5) 介護者QWL

介護者QWL簡易尺度における働く意欲(1~5点)は3.3±0.8,働き続けたい意志(1~5点)は3.2±1.0,業務に対する満足度(1~5点)は2.8±0.8,仕事の達成感(1~5点)は3.0±0.9,それらの合計点数(4~20点)は12.2±2.9であった.いずれも評価点の最低点と最高点を加算して二で除した中立的な値に近似した.働く意欲が高い・大変高い者は39.5%,働き続けたいという意志が強い・大変強い者は41.6%,業務に対する満足度が高い・大変高い者は17.1%,仕事の達成感が高い・大変高い者は25.3%にとどまった.

6) 通院者数と腰痛者数

介護者において精神疾患で病院に通院している者は2.1%,高血圧症で病院に通院している者は5.5%,糖尿病で病院に通院している者は2.0%,関節症で病院に通院している者は2.2%,腰痛で病院に通院している者は7.1%,腰痛で針灸やマッサージなどに通院している者は9.5%であった.一方,病院などに通院していない者は66.8%であった.

0.腰痛のない者は31.1%,1.腰痛はあったが仕事に支障はなかった者は26.7%,2.腰痛のため仕事に支障をきたしたが休職はしなかった者は29.7%,3.腰痛のため休職した者は6.2%であった.0と1を合算した重度腰痛なしの者は57.8%,2と3を合算した重度腰痛ありの者は35.9%となった.

7) 介護者の安全衛生活動と満足/不満足感

表1に介護者の安全衛生活動参加割合を示す.健康診断の受診者は96.9%であった.入居者ごとに介助方法(作業標準)を決めて実施している者,同僚間で話し合いを実施している者は,8割を超えていた.介助方法の講習・研修を受講している者,福祉用具の使用を指導・推奨されている者,介助方法に関するマニュアルを使用している者,介助方法や福祉用具の使用に関する責任者と相談している者は6~7割であった.一方,福祉用具の講習・研修を受講している者は45.1%,介助方法に関する試験を受けている者は12.7%,介助方法に関する評価を受けている者は16.2%にとどまった.

表3に介護者の仕事に関連する満足/不満足感を示す.介護者が大変不満・不満に最も感じていた項目は作業人数・配置(72.9%),次いで給与(60.1%),労働時間・休み(46.1%),施設からのサポート(34.1%),安全衛生管理(27.1%),研修(26.1%)と続いた.

表3. 介護者の仕事に関する満足/不満足感
n = 3,478
作業人数・配置
大変不満・不満72.9
どちらとも言えない22.1
満足・大変満足4.6
給与
大変不満・不満60.1
どちらとも言えない26.8
満足・大変満足12.9
労働時間・休み
大変不満・不満46.1
どちらとも言えない30.9
満足・大変満足18.8
施設からのサポート
大変不満・不満34.1
どちらとも言えない42.7
満足・大変満足21.6
安全衛生管理
大変不満・不満27.1
どちらとも言えない46.2
満足・大変満足24.9
研修
大変不満・不満26.1
どちらとも言えない45.2
満足・大変満足26.4
人間関係
大変不満・不満23.3
どちらとも言えない45.9
満足・大変満足28.5
昇進・役職
大変不満・不満22.5
どちらとも言えない56.4
満足・大変満足19.5
コミュニケーション
大変不満・不満18.7
どちらとも言えない44.6
満足・大変満足32.5
裁量
大変不満・不満13.7
どちらとも言えない54.6
満足・大変満足29.8

8) QWLに関連する項目

表4に介護者QWL簡易尺度の合計点数と通院または重度腰痛との関係を示す.調整ありのModelにおいて,腰痛で針灸・マッサージなどに通院していない者は,通院している者に比べ,介護者QWLが有意に高かった(OR: 1.86, 95%CI: 1.16–2.99).また,重度腰痛なしの者は,重度腰痛ありの者に比べ,介護者QWLが有意に高かった(OR: 1.69, 95%CI: 1.32–2.17).腰痛で病院に通院していない者は,調整なしのCrudeにおいてのみであったが,通院している者に比べ,介護者QWLが有意に高かった(OR: 2.13, 95%CI: 1.29–3.52).その他の通院項目と介護者QWLに統計的有意差は認められなかった.

表4. 介護者QWL簡易尺度の合計点数と通院または腰痛との関係
       介護者QWL簡易尺度の合計点数CrudeModel
低い:
4~15点
(n = 3,015)
高い:
16~20点
(n = 458)
OR95% CIpOR95% CIp
性別
37.245.01.00
62.855.00.730.60-0.890.002
年齢群(歳)
< 3019.617.01.00
30≦, < 4034.528.40.950.70-1.280.716
40≦, < 5027.135.21.491.12-1.990.007
50≦18.719.41.190.86-1.650.286
精神疾患で
病院に通院
あり2.30.91.001.00
なし96.197.22.650.96-7.290.0591.670.59-4.720.332
高血圧症で
病院に通院
あり5.36.11.001.00
なし93.191.90.860.57-1.310.4851.070.68-1.690.759
糖尿病で
病院に通院
あり2.11.71.001.00
なし96.496.31.180.56-2.470.6681.220.55-2.710.621
関節症で
病院に通院
あり2.22.01.001.00
なし96.296.11.130.56-2.280.7340.860.40-1.830.698
腰痛で
病院に通院
あり7.63.71.001.00
なし90.894.32.131.29-3.520.0031.520.90-2.570.115
腰痛で針灸・
マッサージなどに通院
あり10.14.81.001.00
なし88.393.22.231.43-3.48< 0.0011.861.16-2.990.010
重度腰痛
あり38.022.11.001.00
なし55.572.52.251.78-2.84< 0.0011.691.32-2.17< 0.001

OR:オッズ比,95% CI:95%信頼区間.Crude:調整なし,Model:性別,年齢群,職業性ストレスの仕事の量的負担度(3項目,連側変数),コントロール度(3項目,連側変数),上司・同僚からのサポート(6項目,連側変数)で調整.

表5に介護者QWL簡易尺度の合計点数と満足/不満足感との関係を示す.ここでは,オッズ比3.00以上の項目に着目する.介護者QWL簡易尺度の合計点数は,満足/不満足感の全ての項目と有意な関係が認められた.その中でも,介護者QWLとの関係にて最も高いオッズ比を示したのは人間関係(OR: 3.92, 95%CI: 3.09–4.97),次いで作業人数・配置(OR: 3.69, 95%CI: 2.56–5.32),コミュニケーション(OR: 3.42, 95%CI: 2.66–4.40),施設からのサポート(OR: 3.37, 95%CI: 2.69–4.23),労働時間・休み(OR: 3.20, 95%CI: 2.53–4.04),裁量(OR: 3.09, 95%CI: 2.46–3.88)と続いた.これらの項目に満足している介護者は,QWLが高かった.

表5. 介護者QWL簡易尺度の合計点数と満足/不満足感との関係
       介護者QWL簡易尺度
の合計点数
CrudeModel
低い:
4~15点
(n = 3,015)
高い:
16~20点
(n = 458)
OR95% CIpOR95% CIp
性別
37.245.01.00
62.855.00.730.60-0.890.002
年齢群(歳)
< 3019.617.01.00
30≦, < 4034.528.40.950.70-1.280.716
40≦, < 5027.135.21.491.12-1.990.007
50≦18.719.41.190.86-1.650.286
人間関係
不満74.832.81.001.00
満足22.965.76.575.30-8.13< 0.0013.923.09-4.97< 0.001
作業人数・配置
不満96.784.51.001.00
満足3.015.15.714.11-7.95< 0.0013.692.56-5.32< 0.001
コミュニケーション
不満68.629.01.001.00
満足27.267.55.854.70-7.28< 0.0013.422.66-4.40< 0.001
施設からのサポート
不満81.645.91.001.00
満足16.852.65.564.51-6.84< 0.0013.372.69-4.23< 0.001
労働時間・休み
不満81.250.71.001.00
満足14.845.04.883.94-6.03< 0.0013.202.53-4.04< 0.001
裁量
不満73.535.21.001.00
満足24.762.75.294.29-6.53< 0.0013.092.46-3.88< 0.001
昇進・役職
不満82.953.51.001.00
満足15.644.84.443.60-5.48< 0.0012.952.36-3.70< 0.001
給与
不満89.768.81.001.00
満足10.230.83.943.13-4.97< 0.0012.812.19-3.61< 0.001
安全衛生管理
不満77.645.91.001.00
満足20.752.64.303.50-5.27< 0.0012.552.04-3.19< 0.001
研修
不満75.048.01.001.00
満足22.949.33.372.74-4.13< 0.0012.361.89-2.93< 0.001

OR:オッズ比,95% CI:95%信頼区間.Crude:調整なし,Model:性別,年齢群,職業性ストレスの仕事の量的負担度(3項目,連側変数),コントロール度(3項目,連側変数),上司・同僚からのサポート(6項目,連側変数)で調整.

介護者自身が働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目は,給与(7,210点)の点数が最も高く,次いで人間関係(3,612点),労働時間・休み(3,246点),作業人数・配置(2,059点),コミュニケーション(743点),施設からのサポート(637点),裁量(497点),昇進・役職(289点),研修(123点),安全衛生管理(78点)と続いた.

9) 介護者の不満

表6に介護者の不満足の相手・理由・内容を示す.人間関係に大変不満・不満の相手は上司が最も多く,次いで同僚であった.また,利用者およびその家族に対して不満を持っている者も若干名いた.コミュニケーションに大変不満・不満の理由は内容が不十分であることが最も多く,次いでコミュニケーションがないまたは少ないであった.施設からのサポートに大変不満・不満の主な内容は,精神的ストレス,勤務体制・労働時間・休みに関するものであった.労働時間・休みに大変不満・不満の理由は,有給休暇がとりにくいことが最も多くあげられ,次いで休みの日が少ない,休みの日が不規則,労働時間が長すぎることがあげられた.裁量に大変不満・不満の職務内容は,人員配置に関する内容が最も多く,次いで施設の運営,労働時間・休みと続いた.昇進・役職に大変不満・不満の理由は,役職にともなう仕事が多すぎることが最も多く,次いで昇進システムが不明確であることがあげられた.安全衛生管理に大変不満・不満の理由は,メンタルヘルス対策が不十分であることが最も多く,次いで腰痛対策が不十分であることがあげられた.介護者が必要と感じている研修内容は,認知症対応の研修が最も多く,次いで介護技術の研修,看取り介護の研修であった.

表6. 介護者の不満足の理由・相手・内容
n = 3,478 (いずれも複数回答可)
人間関係に大変不満・不満の相手
 上司16.9
 同僚11.3
 利用者の家族4.5
 利用者4.1
コミュニケーションに大変不満・不満の理由
 内容が不十分10.5
 ない/少ない8.2
 内容が過剰3.0
 多い0.9
施設からのサポートに大変不満・不満の内容
 精神的ストレス24.2
 勤務体制・労働時間・休み24.2
 介助方法4.2
 個人的な病気2.7
労働時間・休みに大変不満・不満の理由
 有給休暇がとりにくい35.4
 休みの日が少ない14.3
 休みの日が不規則12.0
 労働時間が長すぎる10.1
 労働時間帶が合わない4.2
裁量に大変不満・不満の職務内容
 人員配置9.9
 施設の運営6.3
 労働時間・休み5.3
 介助方法3.5
昇進・役職に大変不満・不満の理由
 役職にともなう仕事が多すぎる12.1
 昇進システムが不明確11.7
 昇進していない3.2
 昇進が遅い3.1
 役職が低い1.9
安全衛生管理に大変不満・不満の理由
 メンタルヘルス対策が不十分18.0
 腰痛対策が不十分14.2
 感染症対策が不十分8.2
 転倒・転落対策が不十分6.5
必要な研修内容
 認知症対応の研修17.9
 介護技術の研修16.3
 看取り介護の研修12.8
 福祉用具の研修7.6

IV.考察

本研究は,介護施設における介護者のQWLに影響する主要な要因と取り組むべき優先度を明らかにすることを目的とした.調査の結果,介護者QWLとの関係において有意かつ最も高いオッズ比を示したのは人間関係,次いで作業人数・配置,コミュニケーション,施設からのサポート,労働時間・休み,裁量と続いた.一方,給与は,介護者自身が働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目として最も多くあげられたが,人間関係などに比べて低いオッズ比を示した.介護者の健康状態とQWLとの関係については,腰痛のない者ほど高いQWLが示された.

人間関係は,介護者QWLとの関係において最も高いオッズ比を示した.これは,人間関係の改善が,介護者のQWL向上に最も貢献することを示唆している.人間関係は,不満に感じている者が23.3%と多くはなかったものの,働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目では給与に次いで2番目に多かった.人間関係に不満足の相手としては,上司が最も多く,次いで同僚であった.先行研究においても,人間関係は,介護者のQWL,職務満足度,離職に関連する主な要因として報告されている5,7,12,14. 介護業務では,体重の重い入居者や麻痺・拘縮のある入居者に対する移乗介助や入浴介助において,介護者2人での共同作業である2人介助が必要になることがある.このような場合,介護者同士の連携が不可欠であることから,人間関係が悪くなるとその連携に影響し,介護の質も低下する可能性がある.介護の質の低下は,入居者の満足度の低下にもつながる26.これらのことから,人間関係は,現在の介護施設において,介護者のQWLに最も影響する要因と考えられる.

作業人数・配置は,介護者QWLとの関係において2番目に高いオッズ比を示した.これは,作業人数・配置の改善が,人間関係に次いで介護者のQWL向上に貢献することを示唆している.作業人数・配置は,不満に感じている者が72.9%と最も多く,また働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目も4番目に多かった.介護労働安定センターの「介護労働実態調査 事業所調査」では,介護事業所の65.3%が介護者不足を訴えていた1.また,同調査の「労働者調査」においても,人手が足りないと感じている入所型介護施設の介護者は71.5%にのぼった27.本研究においても,十分な人員が配置できていると思う施設は15.3%にとどまっていた.介護職場では,介護者の配置を工夫して介護者不足に対応している施設などがある.しかし,介護者の絶対数が不足すると,時間に追われる作業となり,ゆとりがなくなる.本調査において,介護者が十分時間に余裕があると思う施設は9.9%しかなかった.このように,作業人数・配置の悪化は,QWLの低下につながると思われる.これらのことから,作業人数・配置は,人間関係に次ぐ介護者のQWLに影響する要因と考えられる.

コミュニケーションは,介護者QWLとの関係において3番目に高いオッズ比を示した.コミュニケーションに不満を感じている者は18.7%と少なく,一方満足に感じている者は32.5%と最も多かった.施設用アンケートにおいても,介護者と施設管理者との意見交換の場を設けている施設は93.8%と多かった.コミュニケーションに不満足の理由としては,内容が不十分であり,少ないことがあげられた.先行研究において,コミュニケーションは,職務満足度や離職に関連する要因として報告されている7,15.介護業務では,移乗介助や入浴介助での2人作業,交代制勤務にともなう引き継ぎ作業など,介護者間での連携が必要である.この連携を円滑に進めるには,介護者間でのコミュニケーションが重要であり,これは人間関係にも影響する.このように,良好なコミュニケーションは,QWLの向上につながると思われる.これらのことから,コミュニケーションは,介護者のQWLに影響する主要な要因と考えられる.

施設からのサポートは,介護者QWLとの関係において4番目に高いオッズ比を示した.施設からのサポートに不満を感じている者は34.1%と4番目に多く,働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目は6番目であった.施設からのサポートに不満足な内容としては,精神的ストレス,勤務体制(交代制勤務),労働時間や休みへのサポート不足であった.緒形ら(2015)は,介護者の離職防止に施設のサポートの充実が必要と報告している15.介護者の仕事に関連したストレスや労働時間管理などは,個人の対応では限界があり,施設に依存する部分が大きい.一方,本研究の施設用アンケートでは,精神的ストレスに関する相談窓口や担当者を設置している施設が90.1%にのぼった.以上のことは,介護者が形式的なサポート体制の構築だけではなく,具体的な対応を施設に求めていることを示唆する.これらのことから,施設からのサポートは,介護者のQWLに関連する主要な要因と考えられる.

労働時間・休みは,介護者QWLとの関係において5番目に高いオッズ比を示した.労働時間・休みに不満を感じている者は46.1%と3番目に多く,また働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目も3番目に多かった.労働時間・休みに不満足な理由としては,有給休暇が取りにくいことが最も多く,次いで休みの日が少ない,休みの日が不規則であった.入所型介護施設では,多くの者が勤務シフトを組むことになるが,慢性的な人材不足により1,一度組んだシフトは変更しにくく,また急に休みを取ることも難しい場合がある.このように,労働時間・休みへの不満は,介護者のQWL低下につながると思われる.これらのことから,労働時間・休みは,介護者のQWLに関連する主要な要因と考えられる.

裁量は,介護者QWLとの関係において6番目に高いオッズ比を示した.裁量に不満を感じている者は13.7%と最も少なく,働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目も7番目と低かった.裁量に不満足な職務内容としては,人員配置,施設の運営,労働時間・休みなどがあげられた.原田(2008)は,介護業務が柔軟かつ臨機応変な対応が求められる対人援助であるにも関わらず,業務の限定化,細分化,マニュアル化などにより,裁量権のおよぶ範囲が縮小されていると報告している28.また,森本(2003)は,介護施設におけるチーム型仕事遂行形態は仕事を行う上で必要であるが,介護者の裁量を小さくし,精神的健康を阻害すると報告している29.これらのことより,裁量への不満はQWLの低下に関連すると思われることから,裁量は介護者のQWLに関連する主要な要因と考えられる.

以上が介護者QWL簡易尺度の合計点数とオッズ比3.00以上を示した満足/不満足感の項目であった.この他にも,昇進・役職,給与,安全衛生管理,研修がQWLと関連した.これらの項目は,人間関係などに比べて低いオッズ比であったが2.00以上を示した.このことから,介護者のQWL向上において取り組むべき課題と思われる.昇進・役職に不満足の理由としては,役職にともなう仕事が多すぎる,昇進システムが不明確などがあげられた.介護施設では,昇進・昇給システムを公表し,キャリアパスを明示する施設なども出てきている28.本調査では,昇進・昇給制度の職員への周知を行っている施設は88.9%にのぼった.しかし,必ずしも介護者にそれらの情報が十分伝わっているとは限らない30.これらのことより,昇進・役職への不満がQWLの低下と関連していると思われ,昇進・役職は介護者のQWLに関連する要因と考えられる.

給与は,多くの先行研究において,介護者のQWL,職務満足度,離職に関連する主要な要因として報告されている5,7,9,10,11,12,13.本研究においても,給与は働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目として最も多くあげられ,また給与に不満を感じている者は60.1%にのぼった.しかし,介護者のQWLとの関係は有意であったものの,人間関係などに比べて低いオッズ比を示した.大和と立福(2013)は,施設の離職率を従属変数,平均実賃金や教育・研修の実施を独立変数として重回帰分析を行った16.その結果,教育・研修を実施している施設の離職率は低かったが,平均実賃金は離職率と関連しなかった.これらのことから,介護者のQWL向上には,これまで主な要因としてあげられてきた給与の改善だけでは,不十分であると示唆される.給与がQWL要因として優先度が低かった理由としては,近年の介護報酬の引き上げが考えられる.介護報酬は,2009年,2012年,2014年,2017年,2018年と引き上げられ,2021年にも引き上げられる予定となっている2,18.この介護報酬の引き上げにより,介護者の給与は増額され,優先度の高いQWL要因ではなくなったと推察する.一方,働く意欲や仕事の継続に直接関連すると思った項目としては,給与が最も多くあげられた.施設管理者に行った施設用アンケートにおいても,介護者に十分な給与が払えていると思う施設は35.5%にとどまった.介護労働安定センターの「介護労働実態調査 労働者調査」では,介護者が働く上での悩み・不安・不満などにおいて,入所型介護施設では仕事内容のわりに賃金が低いと感じている者が50.4%にのぼった25.また,同調査では,身体的負担が大きいと感じている者が43.5%,深夜勤務中に何か起きるのではないかと不安を感じている者が35.6%にのぼった.つまり,給与の改善により,QWLに影響するような不満は少なくなったものの,給与と作業内容を照らし合わせた場合,未だに不十分と感じている者が多くいるということと思われる.

安全衛生管理に不満足の理由としては,メンタルヘルス対策の不足が最も多く,次いで腰痛対策があげられた.介護労働安定センターの「介護労働実態調査 労働者調査」では,入所型介護施設において,精神的にきついと感じている介護者が34.1%,腰痛や体力に不安があり身体的負担が大きいと感じている介護者が43.5%にのぼった27.本調査の介護施設では,健康診断を実施している施設が99.8%,職場巡視を実施している施設が87.1%,産業医を選任している施設は88.5%であった.介護者は,ストレスや腰痛問題に取り組んでいるものの,個人での対応には限界があり,施設としての対応を求めている.しかし,現在の介護施設における対応では不十分であり,さらなる取り組みを望んでいると思われる.これらのことから,安全衛生管理への不満がQWLの低下と関連していると思われ,安全衛生管理は介護者のQWLに関連する要因と考えられる.

介護者が必要と感じている研修は,認知症対応に関する研修が最も多く,次いで介護技術,看取り介護に関する研修と続いた.李(2011)は,成長に対する満足度が介護者のQWLに影響する要因であると報告している5.また,多くの先行研究において,研修は,離職に関連する要因と報告されている7,10,11,16,17.充実した研修は,質の良い介護につながり,施設入居者の満足さらには介護者自身の満足につながると思われる.これらのことから,研修は,介護者のQWLに関連する要因と考えられる.しかし,本研究において,研修はQWL要因としての優先度が最も低かった.先行研究で報告されている研修は,初任者研修や定期的な研修における基本的な介護技術に関するものと思われる11,16.本調査において,初任者研修を実施している施設は70.4%,介助方法の講習・研修を実施している施設は86.5%にのぼった.つまり,基本的な介護技術に関する研修は多くの施設にて行われていたことになる.このことから,研修は,優先度の高いQWL要因ではなくなっていると思われる.

精神疾患,高血圧症,糖尿病,関節症での通院と介護者QWLとの間に関連は認められなかった.しかし,腰痛にて針灸・マッサージなどに通院していない者および重度腰痛のない者ほど QWLは高かった.また,調整なしのCrudeのみの結果ではあったが,腰痛で通院していない者ほどQWLは高かった.これらの結果は,腰痛が介護者のQWLに影響する要因であることを示唆する.この理由としては,腰痛が介助作業の妨げになり,さらに重度な腰痛になると作業ができなくなってしまい,離職につながるためと思われる6,17.しかし,これらの項目のオッズ比は,人間関係や給与などと比べると低かった.健康状態の設問方法と人間関係などの満足/不満足感の設問方法が異なるため一概に比較はできないが,腰痛は個人の問題との認識があるためかもしれない.この点については,今後さらなる検証が必要と考える.

本研究では,この他にもいくつか検証すべき点がある.本研究の対象介護者は,1施設あたり8名の介護者のみをサンプリングしたため,結果にサンプリングバイアスが含まれる可能性がある.例えば,比較的不満や問題の少ない者にのみ調査票を配布していた場合,本質的な結果が含まれないかもしれない.また,解析対象者は,介護福祉士の資格を有する者が全体の79.3%を占めていた.介護福祉士は,他の介護者よりも専門性が高く,ホームヘルパーや無資格の者に比べて給与が高く設定されている施設もある.このことから,ホームヘルパーや無資格の者が多い職場では,QWL要因が異なる可能性がある.さらに,本調査は,新型コロナ感染症が蔓延する前に実施した.コロナ禍の現在では,感染症対策への意識が高まっていることから,今後,安全衛生管理の優先度が高まるかもしれない.その他,本研究は横断的調査であるため,因果関係までは言及できない.これらの点については,さらなる検証が必要と考える.

以上の結果から,介護者のQWLを向上させるには良好な人間関係の構築が重要であり,さらには作業人数・配置,コミュニケーション,施設からのサポート,労働時間・休み,裁量に関する改善を優先的かつ重点的に実施すべきと考えられる.QWL向上のための具体的な改善策としては,介護者の不満理由から勘案して,上司・同僚との情報交換の促進,労働時間や休暇,メンタルヘルスを相談できる担当者の活用などが必要と思われる.給与に関しては,QWLを向上させる要因ではあるが,人間関係などに比べて関連性は低く,以前ほど重要ではなくなっていると思われる.また,介護者の腰痛もQWLに関連したことから,腰痛対策もQWLの改善に貢献すると思われる.現在の介護施設では,以上の項目において,個々の介護者が抱える問題を明らかにし,具体的な対策に取り組むことで,介護者のQWL向上につながると考える.

利益相反

利益相反自己申告:申告すべきものなし

文献
 
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