産業衛生学雑誌
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総説
産業中毒と生物学的モニタリングの研究
山野 優子
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2024 年 66 巻 2 号 p. 63-72

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抄録

目的:我が国では,本年4月から新たな化学物質規制の制度が導入された.これは特別則のような個別の物質ごとに具体的に措置を定めるのではなく,危険性・有害性のあるすべての化学物質について曝露低減のための措置を自主的に実施し健康管理していくというもので,手法としては作業環境測定を実施して曝露量を把握することが主となっていくであろう.では,生物学的モニタリングの必要性はどうなのであろうか.産業中毒と生物学的モニタリング手法の移り変わりから,その重要性を知ることを目的とする.方法:著者が経験してきた産業中毒(臭化メチル,多環芳香族炭化水素類,MOCA)とそれらの生物学的モニタリング手法について示す.また日本産業衛生学会の中の産業中毒・生物学的モニタリング研究会の歴史から,生物学的モニタリングの移り変わりを紹介する.結果:産業中毒・生物学的モニタリング研究会の講演では,その時々の産業中毒の話題や化学物質曝露による職業性の癌の事例などが発表されていた.また,生物学的モニタリングは,過去には,当該曝露物質の尿中代謝産物を測定するという方法が主であったが,曝露の質の変化に伴い生物学的モニタリング手法も変わっていき,微量・低濃度・混合曝露を捉えるような新しいツールが出てきていることが示された.結語:産業現場における化学物質等取り扱い作業者の健康管理が自律的管理に移行しても,真の曝露量の把握は生物学的モニタリングでしか証明できないのではないか,特に経皮吸収の疑われる物質等については,生物学的モニタリングによるリスクアセスメントは必要であり,今後もその測定方法の開発も継続されるべきであり,生物学的モニタリングの重要性はますます大きくなるであろう.

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© 2024 公益社団法人 日本産業衛生学会
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