論文ID: 16-022-E
目的 勤務医の長時間労働と健康(心身のストレス・疲弊)の現況を、開業医との比較および同年代の大企業社員との比較によって明らかにすることを目的とした。
方法 対象者は、2006と2007年に首都圏の某県医師会主催の産業医実地研修に参加した医師285人のうち、女医、パート医師、THI参加2回目の医師などを除いた、勤務医75人と開業医95人である。調査方法は、心身の訴えや自覚症状、生活習慣など130項目から成る質問紙「健康チェック票THI, Total Health Index」を用い、フェイスシートには、氏名、性、年齢、週労働時間、睡眠時間など既存の項目の他に、勤務・開業医の別や当直回数を加えた。
結果 勤務医と開業医の週労働時間の平均値は、それぞれ55.7時間と51.3時間で、週60時間以上の長時間労働者の割合はそれぞれ44.0%と27.4%であった。勤務医は開業医と比べて、喫煙率がやや高く、運動習慣が乏しく、パソコン時間が長く、寝不足を訴える者が多かった。勤務医のTHIの尺度得点の平均値は、長時間労働のため生活不規則性(夜型)が強く、情緒不安定で、不定愁訴が多く、うつ病、神経症、心身症に傾いていた。またTHIの個別質問項目で、勤務医は開業医と比べて「自分の生き方は間違っていたと思う」や「金持ちがうらやましい」者が多く、自負・自尊心の低下がみられた。40, 50歳代の勤務医47人と同年代の会社員集団227人とを比較した結果も同様で、週労働時間の平均値は、それぞれ57.0時間と46.0時間で、週60時間以上の長時間労働者の割合はそれぞれ51.1%と6.2%であった。THIの個別質問項目では、勤務医は会社員集団と比べて、仕事がきつい、ストレス状態である、イライラする、憂うつ、寝不足、腰痛あり、などの者が悪い方に高度に有意に多かった。
結論 勤務医は長時間・過重労働で疲弊して、神経症およびうつ病の傾向が強くなっており、労働条件の改善と心の健康確保対策が必要と思われた。