産業衛生学雑誌
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がん患者の診断初期の就労継続に関する要因
向 友代森岡 郁晴
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論文ID: 2019-018-B

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抄録

目的:近年がん患者の治療と仕事の両立の問題が注目されている.がん患者の離職は特に診断初期に多いことが問題視されている.本研究は,がん患者の診断初期における就労継続の要因を,事業場・疾病・医療の側面から検討を行うことを目的とした.対象と方法:20~64歳のがん患者で,確定診断後2年以内の被雇用者68名のうち研究の趣旨を説明し同意を得た61名を対象に,面接者の研究目的に沿って決められたデータを収集する構成的面接を行った.調査内容は,属性,業種,会社規模,雇用形態,休暇制度,診断初期の相談相手とその内容,がんの部位と病期,今まで受けた治療方法,身体症状,全身状態の評価指標であるEastern Cooperative Oncology Group(ECOG)Performance Status(以下,PS),就労継続に必要な診断初期の情報,医療者への就労に関した相談の経験と相談内容,就労に影響した支援の状況であった.休業中を含む就労していなかったものを非継続群,就労を継続していたものを継続群とし,2群間における各要因の出現状況の比較にはχ2検定およびFisherの直接確率法を用いた.統計的有意水準は5%とした.結果:61名中60名(98.4%)が就労継続を希望していた.60名のうち非継続群は15名(25.0%)であり,継続群は45名(85.0%)であった.属性,業種,会社規模,雇用形態は,2群間に有意な差はなかった.診断初期の相談内容についてみると,「病気・治療・症状のこと」は継続群に多く,2群間に有意な差があった.また,「医療費や生活費など経済面のこと」は継続群に少なく,有意な差があった.同僚に病名を伝えている人は継続群に多く,有意な差があった.「試し(慣らし)勤務制度」の希望,がん患者が働くことへの偏見や誤解は継続群に少なく,有意な差があった.継続群に,がんの病期Ⅰ以下が多く,今まで受けた治療として手術が多く,全身状態が良好であるPS0・1が多く,有意な差があった.就労に影響した支援においては,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」「診断直後は仕事のことを考えられない」という回答を得た.考察と結論:がんの診断初期の就労には,がんの病期や全身状態,手術の有無が関連していた.事業場では,「上司・同僚の理解,配慮や励まし」が職務継続の後押しとなっていた.診断初期は「仕事のことを考えられない」ことがあり,医療者はこの危機的状況を支え,患者自身が就労に関して納得した選択ができるような支援が必要である.

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