産業衛生学雑誌
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わが国における産業看護に関する研究の動向と今後の方向性
河野 啓子武澤 千尋後藤 由紀
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論文ID: 2023-018-A

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抄録

目的:わが国において今まで行われてきた「産業看護に関する研究」の推移を概観し,今後どのような研究の強化が求められるのか,その方向性を見出すことを目的とした.対象と方法:医中誌Webを用い,キーワードを「産業看護」and「研究」とし,1903年以降に発行されたすべての文献を対象とした.全760件の中から,商業誌を除外した483件とハンドサーチにより追加した3件を加えた486件について,その種類及び年代別の発行数を集計した.研究内容の分類は,原著・総説論文に該当する194件について行い,実践方法と実践能力の側面から分類した.結果と考察:486件の文献全体を種類別に見ると,会議録230件(47.3%)であり,全体の5割近くを占めていた.原著・総説論文は194件(39.9%)であり,ほぼ4割を占めていた.原著・総説論文のうち,実践方法の側面からの分類では,総括管理107件(55.2%),健康管理86件(44.3%),作業環境管理1件(0.5%)であり,作業管理,労働衛生教育はともに0件であった.実践能力の側面からの分類では,知識125件(64.4%),技術23件(11.9%),コンピテンシー46件(23.7%)であった.年次推移をみると,論文数ではいずれの種類の論文も年代区分が進むにつれて増えていた.また,全486件中,会議録が最も多く,1992年までは8割を超えていたが,次第にその割合は減少し,直近では5割を下回っていた.一方,原著論文は当初2割を下回っていたが,年代区分が進むとともにその割合が増加し,直近では4割を超え,数も会議録を上回り,よい経過をたどっていると考える.論文の内容についてみると,実践方法に関する論文では,作業環境管理,作業管理,労働衛生教育に関する研究がほとんどみられなかった.また,実践能力に関する論文では,知識に関する研究が最も多く,技術ならびにコンピテンシーに関するものもある程度なされてはいるものの,産業看護職にとって重要と考えられるにもかかわらず,まだ手がつけられていない領域があることが浮き彫りにされたと考える.結論:わが国の産業看護に関する論文については,1980年に初めて会議録が発表されて以来,論文数は着実に増えていることが明らかになった.論文の内容について,実践方法の側面からの分類では,総括管理が最も多く,そのうち産業看護管理が8割近くを占めていたことから,研究を通して産業看護の発展を目指した努力がうかがえた.一方で,作業環境管理に関する研究は,ごく少なく,作業管理,労働衛生教育に関する研究は0件であったことから,今後,これらに関する研究の必要性が示唆された.実践能力の側面からの分類では,知識に関するものが全体の6割を超え,産業看護職としての成果を上げるために必要なコンピテンシーに関する研究は2割強であった.また,コンピテンシーの内訳についても数の少ない領域があり,これについても今後の強化の必要性が示唆された.

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