日本化粧品技術者会誌
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特集解説 感性からのものづくり(3)
感性を切り口にした消費者意識と化粧品トレンド
菅沼 薫
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2011 年 45 巻 3 号 p. 181-189

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抄録

化粧品開発は,戦後の近代工業化とともに進歩し,処方や生産技術が発展した。また,皮膚理論の解明や効能効果の研究により高機能な化粧品へと進化している。ふり返ってみると,60~70年代は,公害や製品による健康被害などが問題となり,化粧品においてもより安全な原料や生産技術が求められた。80年代には,天然保湿因子NMFやセラミドによる保湿機構,肌のキメや肌質診断が注目され,化粧品の多様化が進んだ。90年代は,メラニン産生のメカニズムが解明されたこともあり,美白ニーズが高まった。また,さまざまな有効成分の発見で,皮膚の抗老化や抗加齢効果の訴求が目立つようになった。一方,90年代後半には,免疫と心,ストレスと皮膚の関係なども研究されるようになった。BSE問題が起きたことで有効成分を動物から植物や海洋生物に求めるようになったり,原材料のトレーサビリティという言葉も聞かれるようになったりと,70年代のように原料の安全性,安心感に関心が高まった。さらには,ヒトゲノムの解読やiPS細胞の発見などによって,自然治癒力,免疫,遺伝子などにも言及する化粧品が現れた。このように,化粧品の訴求や消費者ニーズ,あるいは,技術開発や研究分野の方向性は,時代とともに変化している。なかでも,消費者ニーズは,効果や機能をより強く求める機運Functionalism (機能主義) と,自然のものへの憧憬や安心,安全を求める機運Naturalism (自然主義) の2つのうねりがある。この2つのうねりは,2000年前後を境に入れ替わっている。Functionalismは,消費行動全般の感性トレンドでいうデジタル気分 (男性脳的) に,Naturalismは同じくアナログ気分 (女性脳的) に近い志向を示している。化粧品は,快適な感触をもち,安心して使用でき,効果を感じさせるということを基本的な性能として求められるが,消費者が期待する世界観や時代の意識潮流を見極めることも必要である。

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