社会学評論
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病いの当事者にとって臨床試験とは何か
―HTLV-1 関連疾患当事者の〈治験の語り〉から―
桑畑 洋一郎
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2022 年 73 巻 1 号 p. 37-54

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抄録

近年,医学研究・臨床研究への患者・市民参画が進められ,病いの当事者が臨床試験に主体的に参画することが求められている.一方本稿で注目するHTLV-1(Human T-cell Leukemia Virus type 1)関連疾患も含めた病いの当事者は,こうした動きの前より,臨床試験に対して特有の意味を付与し活動を展開してきた.病いの当事者が臨床試験に対して構成する特有の意味世界を理解することも,現状において重要な意義をもつ.そこで本稿では,HTLV-1関連疾患当事者の病いの語りのうち〈治験の語り〉に注目し,当事者の意味世界とその背景を分析し考察することとする.

結果,HTLV-1 関連疾患当事者にとって治験とは,〈治癒/回復の頼みの綱〉〈存在可視化のツール〉〈連帯拡大のツール〉〈次世代との連帯の証〉であること,またこれに関連して,治験をめぐる〈参加の可否をめぐる葛藤〉〈連帯をめぐる葛藤〉があることが析出された.さらにこうした,治験を連帯と結びつける語りは,HTLV-1 関連疾患の病いの特性と関連した特有の背景から導き出されていることが明らかとなった.

臨床試験を実施する側とは異なる仕方で構成された当事者の意味世界を理解することは,臨床試験における関係主体間の相互理解を進展させる上で重要な意味をもつ.〈治験の語り〉は,そのための手掛かりとなるものであろう.

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