エマルションは化粧品にとって欠かせない製剤であり, 製品の機能・特性・使用性の基となっている。多くの乳化技術が開発され化粧品技術の発展に貢献してきた。本稿では, 筆者が経験した商品開発研究のほか, 筆者と関わりのある研究者・技術者が開発した特徴のある乳化技術, それらがどのように化粧品へ応用されたかについて紹介したい。具体例としては, ①低粘度エマルションの安定化, ②自発乳化能をもつ高含油液晶ジェルの開発とその後の展開, ③高保湿エマルション開発におけるαゲルの安定化とマルチラメラエマルションの生成, ④「高持続性と使用感の両立」として, 高含水W/Oエマルション, 振って使う粉体配向型W/Oエマルション(ピッカリングエマルション), 撥水性O/Wエマルション技術について取り上げる。技術面だけでなく, 開発の過程で体験したいろいろな出来事についても書き記す。
基礎化粧品や医薬品の開発において, 薬物の効果や人体への安全性を確認する目的から, ヒトや動物皮膚片を用いた浸透試験が数多く行われている。使用される皮膚は変性防止や流通の都合から冷凍保管され, 解凍後に使用されることが一般的である。凍結・解凍がヒトや動物の皮膚構造, 薬物浸透性へ及ぼす影響について数多くの先行研究が行われてきた一方で, 動物種や, 凍結温度, 期間など保存条件が研究によって異なることから, 報告毎にその結果が異なり, 現在までに凍結・解凍が皮膚に及ぼす影響にはいまだ議論の余地がある。本研究では同一人物から採取された手術直後の新鮮な顔面(まぶた)皮膚を用い, 凍結, 未凍結の違いが皮膚の薬物浸透性に及ぼす影響を明らかにした。水溶性成分カフェイン, 油溶性成分イソプロピルメチルフェノールの累積皮膚透過量は, どちらも凍結皮膚に比べ未凍結皮膚のほうが低かった。凍結・未凍結皮膚におけるエステラーゼ活性に差は認められず, 凍結・解凍処理は物理的な皮膚バリア能に影響を与える可能性が示唆された。浸透試験後の角層, 表皮, 真皮中の残留薬物濃度, 共焦点ラマン分光法を用いた角層細胞間脂質構造解析の結果についても考察する。
シャンプーには, 主要成分としてカチオンポリマーとアニオン界面活性剤, 両性界面活性剤が配合されており, 使用時に水で希釈されることによって, 希薄相と濃厚相に液─液相分離, いわゆるコアセルベーションを起こすことがしられている。高分子と界面活性剤がリッチな濃厚相はコアセルベートと呼ばれ, その量と質はシャンプーの使用感と密接に関わっていることが報告されてきた。近年, シャンプーに用いられるアニオン界面活性剤は, サルフェート系からノンサルフェート系に移行しつつあるが, ノンサルフェート系シャンプーにおけるコアセルベーションの研究報告例は限られる。今回の研究では, 市販の4種のノンサルフェート系シャンプーを用い, 生成するコアセルベートの性質(生成領域, 生成量, 粒子径, ζ電位, 粘弾性)と使用感との関係を検討したので報告する。その結果, ノンサルフェート系シャンプーにおいてもコアセルベートのさまざまな性質が, シャンプーの使用感に影響を与えていることがわかった。
手洗いは, 手指に付着した病原体が口や目を通じて体内に侵入するのを防ぐため, 感染予防においてきわめて重要な手段である。本研究では, 脂肪酸塩と塩化ジメチルジアリルアンモニウム重合体(PDADMAC)を配合したモデルハンドソープ製剤による, 手洗い後の手指の抗菌持続性能をヒト皮膚上で検証した。大腸菌と黄色ブドウ球菌に対する抗菌持続性能を検証した結果, 水のみで手洗いした場合と比較して, 手洗い後4時間後まで有意に高い抗菌効果を示し, 手洗い行動に本製剤を用いることで手指に抗菌持続性能を付与できる可能性が示唆された。また, ヒト皮膚上の抗菌持続性能およびモデルハンドソープ製剤由来の残留成分をモデル皮膚上の結果と比較したところ, いずれも同様の傾向が認められた。このことから, モデル皮膚を用いた評価がヒト皮膚での結果を予測するために有効であることが示された。本研究の知見は, 手洗い後の接触感染リスクの低減に寄与するものである。