日本化粧品技術者会誌
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最新号
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総説
  • 原 武史
    2024 年 58 巻 1 号 p. 2-9
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    体臭は無色透明,無形であることから,ヒトを含め自然界の動物はこの体臭を視覚ではなく嗅覚で認識する。野生動物にとっての体臭は,フェロモンに代表されるように配偶者選択や縄張り行動など種間のコミュニケーションツールとして重要な役割を担っている。一方で,ヒトにおける体臭は,一般的には不快なニオイとしてネガティブな印象を与える。ヒトから発するもう1つの臭気である口臭も近接した対面では,とくに強い不快感を与えやすい。体臭や口臭は自己識別が難しく,強い自己の臭気に無自覚な人も多く,対人関係に悪影響を及ぼす原因にもなっている。また,自己の体臭に必要以上に恐怖感や不安感を抱く自己臭恐怖症を患っている人も一定数存在する。このような悩みを解決するためには,適切に体臭や口臭を評価・分析する手法の構築や発生要因の解明,対処法の提案が必要である。本報では,体臭,口臭の発生機構から新たな消臭素材の開発について,研究結果を交えながら解説する。

原著
  • Kouichi Nagai, Kei Ujimoto, Ryoya Ito, Marianne Ayaka Mizutani, Norino ...
    2024 年 58 巻 1 号 p. 10-22
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    Due to continuous global warming and changes in the atmosphere of the Earth, we are facing harsher environments such as high temperatures and exposure to excessive UV radiation. The increase of UV damage is known to adversely affect the human body, necessitating improved protection methods against it. Among available resources on the Earth's surface, we focused on temperature, which is continually increasing, closely synchronized to UV radiation on Earth. We developed a technology that considerably improves UV protection by exposure to high temperature by combining UV absorbers with polyoxyethylene/polyoxypropylene-9/2 dimethyl ether (PPDE). To elucidate the mechanism, in silico experiments were performed using ethylhexyl methoxycinnamate (EHMC), a model UV absorber with particularly high UV protective effect at elevated temperatures. The results indicated that a part of EHMC molecules form a dimer structure at 20℃, imparting low UV protection, and the molecule dissociates into a monomer structure at 40℃, providing a high UV protective effect. The PPDE-EHMC combination reduces the molecular motion at 20℃, allowing maintenance of the monomer structure, and prolongs the UV protective effect, which result matches in vitro results. Through this research, it was found that the UV absorbers used for many years are in the dimeric state, which has low protection effect at room temperature, but are converted to monomers under high temperature, resulting in higher UV protection. Importantly, we also discovered that PPDE acts as a novel factor which contributes to providing a higher UV protection, and its addition is key to maintaining that high protective state of UV absorbers even when returned to room temperature. This result provides an effective strategy for improved skin protection from UV radiation under the scorching sun and contributes to maximizing the UV protective effect with this newly developed sunscreen.

  • 布施 直也, 榎本 可奈子, 生山 玲奈, 森田 成昭, 松江 由香子
    2024 年 58 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    加齢に伴って生えてくる,うねりやくせ,および広がりがある毛髪である“ ゆがみ毛” は,手触りが悪くなり,外観を損なうとともに,まとまりにくい,セットしにくいといったスタイリングに関する問題を生じさせる。本研究では,そのゆがみ毛について,日常のヘアスタイリング行動としてよく行われる髪を繰り返し伸ばす(反復延伸)行為との関係性を調査・解析した。まず,ゆがみ毛保有者のヘアケア行動に関する調査では,ゆがみ毛保有者は繰り返しコーミングしてうねりやくせ対策を行っているが,かえって髪のまとまり低下を実感していることがわかった。次に直毛とゆがみ毛について形態学的パラメータを用いてサンプリングし,日常にかかり得る荷重ストレスにおいて反復延伸試験を実施した結果,ゆがみ毛は曲率が有意に上昇し,その一因として毛髪内部タンパク質のインターメディエイトフィラメントの構造安定性の低下が示唆された。さらに,ゆがみ毛の形状ならびに構造変化を抑制する成分としてPPG-2アルギニンを見出した。

  • 古賀 一成, 山本 剛之, 中島 泰仁
    2024 年 58 巻 1 号 p. 30-37
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    水道水に残留する次亜塩素酸(以下,残留塩素)は,強力な酸化力を有することから生体への影響が懸念されている。しかしながら,水道水に残留している濃度の残留塩素が皮膚に及ぼす影響について詳細な報告はあまりない。そこで,本研究では残留塩素の皮膚への影響と残留塩素を除去した浄水の有用性を明らかにすることを目的とし,角層タンパク質のカルボニル化と表皮バリア機能に注目して検討を行った。残留塩素水の剝離角層への曝露は,有意に角層細胞のカルボニル化度を増加させた。さらに,残留塩素水をヒト前腕内側部へシャワーを用いた曝露においても,角層細胞のカルボニル化度が有意に増加することが確認された。この角層細胞のカルボニル化は残留塩素水曝露後速やかに進行することが確認された。また,実際の水道水の使用シーンを実験的に再現した環境下での皮膚への残留塩素水の曝露も角層細胞のカルボニル化を亢進し,その繰り返し曝露はTEWLの有意な上昇を誘導した。これらの結果は,水道水の使用には角層のタンパク質はカルボニル化の亢進と,表皮バリア機能の低下を引き起こすリスクが潜在的に存在している可能性を示唆した。今回の研究結果から,水道水の使用を浄水に置き換えることにより,角層の酸化ダメージと表皮バリア機能低下を抑え,皮膚の健康維持につながる可能性が示唆された。

  • 上田 誓子, 稲場 愛, 人見 清隆
    2024 年 58 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    われわれは加齢に伴って毛髪のハリコシが低下する原因の1つに,キューティクル内の亜鉛の減少が関係していることを明らかにしてきた。キューティクル内の亜鉛が減少する原因は,キューティクル内で亜鉛を保持するタンパク質が加齢に伴い減少するためではないかと考え,ギ酸を用いて亜鉛とともにキューティクルから溶出するタンパク質の質量分析(Q-Orbitrap型)を実施した。その結果,2価の金属と結合するタンパク質としてトランスグルタミナーゼ3(TG3)を見出した。TG3が亜鉛と結合することを分子量分画カラムおよびICP-MSを用いて確認した後,毛根縦切片の抗体染色によりキューティクルにTG3が多量に存在していることを確認した。最後に,各年齢のボランティアより毛髪を抜き,毛根部のmRNAを用いてTG3の発現量を確認した結果,40代以降でTG3の発現が減少する傾向を確認した。よって,年齢とともに毛髪内の亜鉛が減少するのは,亜鉛を保持するTG3の発現が年齢とともに減少することが一因であると考えられた。今後,TG3の発現を亢進する素材を用いることで,年齢とともに毛髪内の亜鉛が減少することを防ぎ,毛髪のハリコシが低下するのを防ぐ効果が期待される。

短報
  • 小鷹 晶, 奥田 洋, 大戸 信明, 三井 亮司
    2024 年 58 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    発芽によって栄養価を高めた玄米を,酵母Lachancea thermotoleransで発酵させ,発芽玄米発酵液を調製した。この発酵液は,肌なじみや保湿力が高いことから,肌の保湿に関与する遺伝子発現やin vivoでのシワ改善効果などの肌に対し,さまざまな有用な効果をもたらすことを確認してきた。しかし,これらの効果が発酵に由来する何の成分によって生じているのかは明らかになっていなかった。そこでわれわれは,この発酵液から発酵に由来する微生物の代謝物を網羅的に解析するメタボロミクスを用いて解析することで,いくつかの特徴的な化合物を見出した。また,この化合物と発酵液が示す機能性との相関性について検討した。その結果,特徴的な代謝物としてポリアミン類およびその類縁体として特徴的なアセチル化されたポリアミンが見出された。これらの化合物を用いたin vitro試験において,表皮および真皮のヒアルロン酸産生促進作用,グルタチオン産生促進作用,メラニン産生抑制作用が認められた。さらに,ヒト3次元培養表皮モデルを用いた浸透性評価の結果,ポリアミンの種類により皮膚への浸透性に差があることが明らかになるとともに,ポリアミンによる基底膜付近でのヒアルロン酸産生促進作用が確認された。

  • 高橋 遼, 坪川 涼, 藤倉 千鶴, 奥村 暢章, 八巻 礼訓, 重松 典宏, 米井 嘉一
    2024 年 58 巻 1 号 p. 55-64
    発行日: 2024/03/20
    公開日: 2024/04/20
    ジャーナル フリー

    薄毛は本人の外見上の悩みに留まらず他人が抱く印象にも影響を与え,その結果,本人の精神面にも影響しQOLの低下を招くと考えられる。さまざまな脱毛治療薬が開発されているものの,副作用があるため市販の育毛剤が好んで用いられている。そこでわれわれは,化粧品原料用に加工したRJエキスを保湿成分として配合した薬用育毛剤を開発した。このRJエキス配合薬用育毛剤塗布の育毛効果を評価するためヒト試験を実施したところ,毛髪本数,毛髪に占める成長期毛の割合,および頭皮角層水分量が増加し,頭皮や髪質に対する主観評価が改善した。しかし,この育毛剤には医薬部外品の有効成分も配合されているため,RJ自体が育毛に与える影響は明らかではない。そこで,毛乳頭細胞におけるRJ粉末添加後の遺伝子発現変化を検証した。その結果,RJは毛髪の成長期の維持に関与するIGF-1およびFGF-7の発現量を増加させることが明らかになった。以上より,RJエキス配合薬用育毛剤は薄毛や抜け毛の悩みを抱える健常人男女の毛髪本数を増加させる可能性がある。

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