化粧品のスキンケアにおいて大切なことは,肌を健やかに保ち,心身ともに快適な生活を楽しむことである。健やかな肌の一例として,シワができにくい“柔らかい肌”があげられる。肌の柔軟性を保つために重要な成分は保湿剤と油分であり,安定に配合する乳化技術として界面活性剤と高級アルコールによって形成される自己組織体(αゲル)が長らく活用されてきた。シワを形成しにくい肌を作るためには角層の柔軟化が重要だが,そのためには保湿剤やエモリエント油分を従来の製剤よりもはるかに高配合する必要がある。その一方で使い心地や乳化の安定性が大幅に低下してしまうトレードオフの関係が存在する。本稿では乳化の骨格となるαゲルがもつ特徴,そしてこの課題を解決すべく,角層の細胞間脂質の構造にヒントを得て開発した新たなαゲルの特徴とその製剤応用について研究結果を交えて紹介する。
ヒト表皮角化細胞の培養技術の確立と自家培養表皮移植による再生医療の成功は,ヒト表皮角化幹細胞研究の発展を大きく促した。まず,表皮角化細胞集団の中に幹細胞が存在することが実験的に示され,さらに角化幹細胞に特徴的な多様な細胞表面マーカーが同定された。加えて,表皮基底層に存在する角化幹細胞が表皮組織の恒常性をどのように維持しているかについては,研究手法の進展とともに複数のモデルが提唱され,現在も活発に議論されている。さらに,この研究分野は,自家培養表皮移植と角化幹細胞への遺伝子導入を組み合わせることで,先天性表皮疾患を対象とした遺伝子治療へと応用が進んだ。本総説では,ヒト表皮角化幹細胞研究が,幹細胞システムという概念の形成と,幹細胞による組織恒常性維持機構の解明に果たしてきた役割について概説する。
洗顔料は,皮膚を清潔に保つという機能的側面に加え,リフレッシュ効果等の心理的側面も期待される。洗顔料には,機能性や安全性,快適な使用感等が求められるが,とくに清潔で心地良いさまである「さっぱり感」は,洗顔によるリフレッシュ効果に関与するため重要な要素である。本研究では,評価グリッド法を用いて洗顔料の使用感に関する定性的評価構造を抽出し,洗顔料使用時における「さっぱり感」を規定する要因を明らかにした。さらに,評価グリッド法によって抽出された要因と「さっぱり感」との因果関係を明らかにするため,構造方程式モデリングを用いた分析を行った。その結果,「さっぱり感」は主に【汚れ落ち感】と【清涼感】によって形成されることが明らかとなった。また,【泡質の良さ】は「さっぱり感」に直接的な影響を与えないものの,【汚れ落ち感】を介して間接的に寄与することが示された。本研究の成果は,「さっぱり感」に優れた心地良い使用感をもつ洗顔料の設計に貢献し,リフレッシュ効果を通じた精神的な安定やストレス軽減など,生活の質の向上に寄与する洗顔料の開発につながると考えられる。
美容室では,洗い流すトリートメントの効果をより高めることを期待して,トリートメントを塗布した髪を手で揉み込む美容操作が行われている。このトリートメント揉み込み操作の効果を官能評価により確認したところ,髪のうねりが減少しシルエットのまとまりが向上した。このトリートメント揉み込み操作による毛髪のうねり減少効果の作用機序を明らかにするために,トリートメントにマーカーとして配合した塩基性赤51の染着挙動および毛髪内浸透域について検討し,さらに非ケラチンタンパク質凝集構造体の構造変化およびそれに伴う物性変化について検討した。その結果,トリートメントの揉み込み操作は,1)マーカーとして用いた塩基性赤51の染着量と浸透域を増加させた,2)毛髪を均一で柔軟な素材に変化させた,3)濡れた髪を真直ぐ整えながら乾かすブロー操作の際,非ケラチンタンパク質凝集構造体の再配列で生じる歪みを少なくし,均一な凝集構造体にしていた。トリートメントの揉み込み操作は,トリートメント成分の毛髪への浸透域を増加させながら毛髪の非ケラチンタンパク質凝集構造体を弛緩させ,髪を真直ぐに整えながら乾かす際に起こる繊維軸に沿った非ケラチンタンパク質構造体の均一な再配列を促進することで,髪のうねりを減少させたと考えられる。