抄録
髪の理想的な状態については, つや・まとまり・触感などさまざまな視点での研究がある。ここでは, 日本人女性の理想の髪の一つである「しなやかさ」という動きを伴う美しさに着目した。しなやかな髪は, たとえば毛束が流体のように連続的に変形する柔らかさと, 乱れても元の形状に戻る弾力性を兼ね備えている。われわれはまず, しなやかな髪の内部構造と物性について検討した。先天的にしなやかな髪としなやかでない髪の内部構造を比較した結果, 先天的にしなやかな髪は, 弾性率の異なる二種類のコルテックス細胞の構造の分布に偏り (二層構造) があり, 先天的にしなやかでない髪はそれらが混在して分布することを見出した。また, それによってしなやかな髪は, 表層は柔軟で内層は弾力がある「二層状態の物性」をもつことがわかった。われわれは, この表層と内層との物性差が, 柔らかさと弾力性の共存する, しなやかな髪の特徴的な性質であると考えた。さらに本研究では, しなやかでない髪をしなやかな髪に近づける一つの方法として, コハク酸によって, 毛髪表層を選択的に柔軟化し, 「二層状態の物性」に改質することに成功したので報告する。