2017 年 51 巻 3 号 p. 230-236
近年消費者の間で,太陽光やパーマ・ブリーチなどの化学処理による毛髪ダメージが悩みとなっている。これらのダメージから毛髪を保護・修復する技術の開発には,毛髪微細構造におよぼす太陽光や化学処理の影響を理解することが重要である。われわれは走査型X線微分位相顕微鏡が,高分解・非破壊で毛髪内部の構造観察をできる有用な手法であることを過去に報告している。本研究では,太陽光と化学処理が毛髪ダメージにおよぼす影響を理解するために,化学処理の異なる3種類の毛髪(未処理毛,パーマ処理毛,ブリーチ処理毛)および,おのおのに対して光照射処理を行った毛髪に対し,走査型X線微分位相顕微鏡を用いて毛髪内部微細構造を観察した。結果,パーマ処理毛髪では未処理毛に比べてコルテックスの空隙率が高く,毛髪横断面における空隙分布の偏在が認められた。さらに光照射により,パーマ処理毛髪のコルテックスの空隙率の低下が認められた。一方,ブリーチ処理毛髪はコルテックス空隙率は未処理毛と同等で,さらに光照射でも空隙率に変化がなかった。これらの結果から,太陽光による毛髪内部微細構造変化は,事前の化学処理の影響を受けており,化学処理に応じた保護・修復技術の開発が必要である。