2020 年 54 巻 1 号 p. 33-41
IGF-1(インスリン様成長因子1)は細胞の増殖や分化にさまざまな役割を果たしている。皮膚においてはケラチノサイトの増殖促進効果や線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進効果,分解抑制効果などを有することがしられている。加齢によってIGF-1 の産生量が減少することによりIGF-1 の機能発現が低下することはよくしられているが,IGF-1 を受容する細胞側の加齢変化は十分には明らかになっていない。そこで本研究では,皮膚細胞におけるIGF-1 機能調節能の加齢に伴う変化を検討した。老化した細胞においては,IGF-1 を添加してもケラチノサイトの増殖促進効果,線維芽細胞におけるコラーゲンの代謝変化誘導効果は低下した。また,いずれの細胞でも,IGF-1 の機能を抑制することが報告されているIGFBP-4(IGF 結合タンパク質4)の発現量が老化によって有意に増加した。さらに,IGFBP-4 をIGF-1 と同時に各細胞に添加するとIGF-1 によるケラチノサイトの増殖促進効果,線維芽細胞におけるコラーゲン産生促進効果,分解抑制効果がいずれも抑制された。以上の結果から,加齢によりIGF-1 の機能発現が低下する原因の1 つとして,IGF-1 を受容する細胞側におけるIGFBP-4 産生の増加を介したIGF-1 シグナリングの低下が考えられた。