2021 年 55 巻 1 号 p. 28-35
化粧品の使用感において,肌に触れる感覚は非常に重要である。しかし,化粧品の感触評価は総合的印象としての静的な評価手法が主流であり,塗布中の感触変化を塗布と同時に動的に評価する手法はあまり行われてこなかった。本研究では,手元に化粧品を塗布している間に経時的に変化する感触の傾向を捉えるために,飲食品の分野で活用されているTemporal Dominance of Sensations(TDS)法の適用を検討した。われわれの手法では,評価者の塗布動作や触知覚を阻害しないために,化粧品を塗布しながら,モニタ上に提示された感覚特性項目へ視線を向けることで,各時点で印象の強い感触を選択,評価できるようにした。本実験の評価品を評価するための感覚特性用語は,デプスインタビューで集めた用語と塗布中感触の当てはまり度を因子分析した結果から選定された。本手法を用いて,手元へ塗布中の感触におけるサンプル間の違いを可視化できた。評価者はTDS法の練習を行ってから本評価に臨んでおり,塗布中に感触特性が出現した順序は3試行中平均で約2試行一致し,評価者内の再現性も認められた。これらの結果より,化粧品の時系列官能評価法としてのTDS法の活用可能性が示された。