2021 年 55 巻 3 号 p. 288-297
眼に対する薬品の有害性は,主にOECD TG 405に収載されているウサギ眼刺激性試験(Draize試験)により判定されており,一般にGlobally Harmonized System of Classification and Labeling of Chemicals(GHS)のラベル表示により区分されている。現在,動物愛護の理念のもと,Draize試験を実施しないさまざまな動物代替試験(in vitro試験)の研究が盛んに行われている。ここでin silicoによる目刺激予測が可能となれば,安全性精度の向上や効率性向上につながることはいうまでもない。そこで本研究では,新しい目刺激判定の可能性を模索するためHansen溶解度パラメータ(HSP: Hansen solubility parameter)を用いてGHS区分の予測ができるかどうか検討を行った。被験物質の安全性情報とHSP値をもとにHansen球の作成を行い,ウサギ目に相当されると考えられるウサギ目ポテンシャルパラメータを得た。このポテンシャルパラメータと各被験物質のHSP値を比較することで,GHS区分の予測を行った。トップダウン方式において重篤な損傷を起こす(GHS区分1)物質を検出する場合,正確性87.7%(64/73),偽陰性26.7%(4/15)および偽陽性8.6%(5/58)を示した。さらに,ボトムアップ方式において目刺激性物質と分類されない(GHS区分外)物質を検出する場合,正確性87.7%(64/73),偽陰性9.5%(4/42)および偽陽性16.1%(5/31)を示した。今回得られたポテンシャルパラメータと被験物質のHSPを比較することで,高い精度で眼刺激性(GHS区分)を予測できる可能性を示唆した。