抄録
本研究ではヒト被験者に,自身の下肢筋電図を制御信号として計算機の中に構築した倒立振子モデルに入力し,振子を実時間でバランスさせる課題を行わせた.課題に用いたモデルの受動的スティッフネスは立位を安定化するには不十分な値であるにも関わらず,被験者は数十回の試行の後,モデルの立位姿勢を保つことに成功した.モデルに入力された能動的トルク,モデルの揺れの角度,角速度を精査することにより,モデルの立位を維持しているときの被験者の筋電図,つまりモデルへ入力された運動指令にはオン-オフの間欠性が発現し,得られたモデルのダイナミクスは神経系の間欠的制御によるシミュレーション結果とよく一致することが示された.このことは,ヒトの立位はスティフネス制御やPD制御ではなく,間欠的な神経制御によって安定化されていることを示唆する.