2025 年 2025 巻 p. 1-10
学校いじめは、青少年の健全な成長に影響を及ぼす重要な課題の一つとして近年大きな注目を集めている。本研究は、雲南省、山東省、河北省の3地域において中学生351名を対象に質問紙調査を実施し、親子親和と学校いじめ行動の関連性、および友情の質の媒介的役割を検討した。その結果、以下の3点が明らかになった。(1)いじめ加害・被害行動は、性別、学年、ひとりっ子か否か、両親の離婚状況などの要因によって有意な差が認められた。(2)親子親和はいじめ行動と負の相関を示し、友情の質とは正の相関を示した。(3)友情の質はいじめ行動に対する親子親和の影響において、有意な媒介効果を持つことが確認された。本研究は、学校いじめの予防・介入に新たな視点と実証的根拠を提供するものである。
近年、学校いじめの事例はメディア報道でも頻繁に取り上げられており、深刻な社会問題となっている。いじめは青少年の心身の健康、学業、社会的適応に悪影響を与えるものであり、うつ病や自殺、反撃行動などの典型事例を通じて、その深刻さが社会に認識されつつある。先行研究によれば、中国国内の中学生のうち約20%がいじめに関与した経験があり、いじめる側・いじめられる側のいずれであっても、学習意欲の低下、不安や抑うつの悪化、対人関係の問題、さらには長期的な心理的トラウマにつながる可能性がある(陳世平・楽国安、2002;孫暁軍ほか、2021)。
こうした現状を受け、中国では2017年に教育部が関係機関とともに「小中学生のいじめ対策総合管理方針」を発表し、いじめの定義や対処方針が明示された。さらに2024年5月には、教育部が全国規模の特別対策を推進し、いじめ対策委員会の設置や校則の整備、通報ルートの公開などを打ち出している。しかし、現在のいじめ対策は主に事後の懲罰・対応措置に偏りがちで、いじめの背後にある心理的メカニズムへの系統的な研究は不足しているのが実情である。
学術的観点から見ると、これまでの研究は主にいじめ行動そのものに焦点を当てており、家庭や友人関係といったミクロな生態系要因の相互作用には十分に注目してこなかった。だが、青少年の行動発達には家庭関係と同輩関係の両者が強く関与しており、特に社会的な行動様式であるいじめにおいては、両者が共に重要な役割を果たす可能性がある。
本研究では、生態系理論に基づき、親子親和と友情の質という2つの変数に着目し、それらがいじめ行動にどのように影響を及ぼすか、またその内在的なメカニズムを明らかにすることを目的とする。
「学校いじめ」はOlweus(1978)によって初めて提唱され、同世代の仲間から反復的・意図的に、力関係の不均衡を伴って加えられる否定的行動を指す。Bronfenbrenner(1979)の生態系理論は、こうしたいじめ行動を理解するうえで多層的な視点を提供するものであり、個人の発達が複数の生態系レベルの相互作用によって形成されると考える。家庭や同輩関係は「ミクロ系」に位置づけられ、青少年の行動形成に直接影響を及ぼす重要な環境因である。
2.2 親子親和と学校いじめ親子親和(family cohesion)とは、家庭内の情緒的な結びつきの強さを指し、家庭機能の中核的な指標とされる。Olson(2010)は、適度な親密さが青少年の情緒調整能力を促進すると指摘している。実際、親子親和が低い家庭の子どもは、攻撃性やいじめなどの逸脱行動を示す可能性が高い一方、親和性の高い家庭では、青少年の社会的適応力が高いことが報告されている(Wang,Deng,&Du,2022)。
2.3 友情の質の保護効果友情の質(friendship quality)は、信頼、支援、親密さ、葛藤など複数の側面から構成され、個人が同輩関係をどの程度満足・安定していると感じているかを示す主観的評価である(Furman & Rose, 2015)。Bollmerら(2005)の研究によれば、高い友情の質は、いじめ加害・被害のリスクを下げる「バッファー」の役割を果たすことが示されている。Gremmenら(2023)も、良好な友情が個人のいじめリスクを低下させるだけでなく、教室全体の雰囲気を前向きにし、集団的ないじめ行動の抑止にもつながると述べている。
2.4 親子親和と友情の質の関連愛着理論および社会的学習理論の観点では、親子関係はその後の対人関係の基礎を形成するものとされる。Ingoldsbyら(2001)は、親密な親子関係は安全な愛着スタイルを促し、結果として青少年の信頼感や交友スキルを高めると述べている。Gauzeら(2010)もまた、親子親和の高い青少年は質の高い友情関係を築きやすいと報告している。したがって、親子親和は直接的に行動に影響を及ぼすだけでなく、友情の質を介して学校内での社会的振る舞いやいじめ行動にも間接的な影響を与える可能性がある。
以上の先行研究を踏まえると、親子親和が青少年の友情の質を高め、それを通じていじめ行動を抑制するという間接的な影響構造が推定される。すなわち、親子親和が高いほど良好な同輩関係が形成され、それによりいじめ行動が減少するという仮説である。本研究の中心仮説は、友情の質が親子親和といじめ行動との関係において媒介効果を果たすというものである(図1参照)。

親子親和と友情の質がそれぞれ青少年の発達に与える積極的な影響は広く知られているが、それらの相互関係や、いじめ行動への協働的な影響についての包括的研究は少ない。そこで本研究では、(1)親子親和・友情の質・学校いじめの関連性を明らかにすること、(2)友情の質の媒介効果を検証すること、(3)父親・母親の親子親和の違いを比較することを目的とする。これにより、家庭と同輩という2つの次元から、いじめ予防の統合的アプローチの構築に貢献することを目指す。
本研究では、無作為のクラス単位抽出法(ランダム・クラスター・サンプリング)を用いて、雲南省個旧市、山東省煙台市、河北省石家荘市の3つの公立中学校から、1年生から3年生までの生徒360名を調査対象とした。無効な回答を除いた後、実際に有効とされた回答数は351名であった。内訳は、男子生徒が163名(46.4%)、女子生徒が188名(53.6%)、年齢は13~15歳(平均=14.64歳、標準偏差=0.90)である。
学年別では、中学1年生が141名(40.2%)、2年生が100名(28.5%)、3年生が110名(31.3%)であった。家族構成に関しては、一人っ子が61名(17.4%)、きょうだいがいる生徒が290名(82.6%)であり、両親が離婚している家庭、片親家庭、または両親が出稼ぎ中の家庭など、背景に多様性があり、研究対象としての代表性を一定程度確保している。
4.2 使用した測定尺度(1) 学校いじめ質問紙(Smith中国語版)
陳世平(2002)によって修正されたSmithの学校いじめ尺度を使用。本尺度は「他者をいじめる行動」と「いじめを受ける行動」の2つの下位尺度から成り、それぞれ6項目で構成される。5段階リッカート尺度で採点され、得点が高いほど、いじめ加害または被害の程度が高いことを示す。本研究での信頼性係数(Cronbach's α)はそれぞれ0.56、0.51と報告された。
(2) 友情の質質問紙(鄒泓ら、1998)
中国語版の友情の質尺度を使用。信頼と支援、付き合いと娯楽、価値承認、親密な開示、葛藤と裏切りの5次元からなる全18項目。5段階で採点し、得点が高いほど友情の質が高いことを示す。本研究における内部一貫性係数(α)は0.95であり、非常に高い信頼性が確認された。
(3) 親子親和尺度(FACES II, Olson et al., 2010)
家族適応・親和評価尺度(FACES II)の親子親和サブスケールを使用。父親・母親の2つの次元から構成され、それぞれ10項目。5段階リッカート尺度で採点され、得点が高いほど親子関係が親密であることを示す。本研究での信頼性係数は、母親親和が0.75、父親親和が0.76であり、いずれも良好である。
4.3 データ分析手法本研究では、統計解析ソフトSPSS 27.0を用いてデータの処理および分析を行った。まず、記述統計分析を実施し、サンプル全体のいじめ状況および関連変数の分布特性を把握した。次に、独立サンプルt検定および一元配置分散分析(ANOVA)を通じて、性別、学年、家庭背景などの人口統計学的変数がいじめ行動に与える影響を検討した。さらに、相関分析を行い、親子親和、友情の質、および学校いじめとの関連性を検証した。
最後に、Processマクロプログラム(Bootstrap法)を用いて媒介効果分析を実施し、親子親和が学校いじめに与える影響において友情の質が媒介変数として有意な役割を果たしているかを検証した。これにより、三者間の因果メカニズムをより深く明らかにし、分析結果の信頼性と頑健性を確保することを目指した。
調査結果によれば、17.7%の生徒がいじめを受けた経験を持ち、15.38%の生徒が他者をいじめた経験があると回答した。いじめの全体的な発生率は低めではあるものの、被害経験の割合が加害経験よりもやや高い傾向が見られた。
5.2 人口統計学的変数によるいじめ行動の差異男子生徒のいじめ行動は女子生徒より有意に高かった(t=2.53, p<.05)。学年別では、3年生が最もいじめ行動の得点が高く、有意差が認められた(F=4.19, p<.05)。一方、一人っ子、両親が離婚している、または両親ともに出稼ぎ中の家庭の生徒は、いじめのリスクが高い傾向を示した。
5.3 親子親和・友情の質と学校いじめの相関分析いじめ加害・被害、友情の質、親子親和(母・父)との間に相関分析を実施した。結果は以下の通り:①いじめ加害と被害の間には有意な正の相関が見られた(p<.01)。②友情の質はいじめ加害・被害の両者と有意な負の相関を示した(p<.01)。③母親・父親双方の親子親和スコアは、いじめ加害・被害と有意な負の相関を持ち、友情の質とは有意な正の相関を持った(p<.01)。
表1 中学生の学校いじめ、友情の質、および親子親和の相関係数行列
| M±SD | いじめ被害 | いじめ加害 | 友情の質 | 母親との親子親和 | 父親との親子親和 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| いじめ被害 | 0.39±0.69 | 1 | ||||
| いじめ加害 | 0.30±0.55 | 0.394** | 1 | |||
| 友情の質 | 34.01±10.81 | 0.424** | 0.415** | 1 | ||
| 母親との親子親和 | 34.98±6.31 | 0.482** | 0.427** | 0.593** | 1 | |
| 父親との親子親和 | 32.04±6.79 | 0.451** | 0.363* | 0.482** | 0.524** | 1 |
注:*p<0.05,**p<0.01
5.4 友情の質の媒介効果の検証媒介効果の検証に先立ち、まず母親との親和と父親との親和に有意な差があるかを確認した。その結果、対応のあるサンプルによるt検定により、両者の間に統計的に有意な差が認められ(p<.01)、母親との親和の得点が父親との親和より有意に高いことが明らかとなった。
したがって、本研究では媒介分析において「母親親和」と「父親親和」を独立した自変数として扱った。また、母親親和(X₁)および父親親和(X₂)が、友情の質を媒介変数としていじめ被害(Y₁)およびいじめ加害(Y₂)にどのように影響するかを、Bootstrap法を用いて検証した。
主な分析結果は以下のとおりである:①母親親和は友情の質を有意に正の方向で予測した(B=0.594,p<.001)。②友情の質は、いじめ被害(B=-0.216,p<.001)およびいじめ加害(B=-0.244,p<.001)をともに有意に負の方向で予測した。③母親親和はいじめ被害に対して有意な直接効果を持ち(B=-0.381,p<.001)、さらに友情の質を介した間接効果も有意であった(B=-0.140、95%信頼区間=[-0.216, -0.063]、0を含まず)。
同様に、父親親和も友情の質を有意に正の方向で予測した(B=0.427,p<.001)。友情の質を介して、父親親和は:いじめ加害に対して有意な直接効果を示し(B=-0.205,p<.001)、間接効果(友情の質を通じて)はB=-0.104、95%信頼区間=[-0.168, -0.049]であり、これも0を含まず、媒介効果が有意であることが示された。
本研究では、男子生徒が女子生徒よりもいじめ加害行動を多く示す傾向が確認された。これは性役割社会化理論(性別社会化理論)の視点と一致し、既存研究とも整合する(孫暁軍ら, 2021)。この理論によれば、男子は成長過程において競争性・攻撃性を促される傾向があり、社会的地位の維持のために直接的な攻撃行動を用いる可能性が高い(Gremmen et al., 2023)。また、学年が上がるにつれていじめ行動のリスクが上昇する傾向が確認され、特に中学3年生で顕著であった。これは思春期の競争意識や社会的圧力が強まることと関係していると考えられる(Lee, 2020)。さらに、一人っ子、両親が離婚している、または両親が出稼ぎに出ている生徒はいじめリスクが高い傾向にあり、家庭における情緒的サポートや対話の欠如が影響要因と推察される(Wang et al., 2022)。
6.2 親子親和が学校いじめに及ぼす保護的役割本研究は、親子親和が学校いじめを有意に負の方向で予測することを実証し、既存研究と一致する結果を示した(Najjari et al., 2023)。家族システム理論では、家庭内の情緒的結びつきが個人の行動発現に決定的な影響を与えるとされる。良好な親子親和は、青少年に安定した心理的基盤と情緒的支援を提供し、社会適応力の形成に寄与する(Wang et al., 2022)。
特に本研究では、母親との親和が父親との親和よりもいじめ行動の予測力が高いことが確認された。これは、家庭内で母親がより多くの感情表現と心理的サポートの役割を担っていることに起因する可能性がある。したがって、母親の家庭教育における感情的サポートの強化は、いじめリスクの低下に大きく寄与することが示唆される(Najjari et al., 2023)。
6.3 友情の質の媒介的役割の考察本研究の重要な発見の一つは、友情の質が親子親和と学校いじめの関係において有意な媒介効果を持つことである。すなわち、親子親和が高いことで良好な友情が形成され、それがいじめ行動を間接的に減少させるという構造が明らかになった。この結果は、先行研究によっても支持されており、高品質の友情が負の情緒を緩和し、ストレス耐性を高め、いじめ加害・被害のリスクを下げるとされている(Lodder et al., 2021)。また、良好な同輩関係は、社会的支援や感情的な緩衝材として機能し、質の低い友情を持つ青少年は、仲間の承認を得る手段としていじめに巻き込まれやすいという指摘もある(Gremmen et al., 2023)。
このように、本研究は、いじめ防止の観点から友情の質を高めることの重要性を強調しており、学校の心理教育やクラス運営においても有用な実践的示唆を提供している。
以上の結果を総合すると、本研究は、親子親和が中学生の学校いじめに対して有意な負の予測効果を持つこと、および友情の質がその関係において媒介的な役割を果たすことを実証的に明らかにした。
これに基づき、次のような提言が導き出される:
教育行政機関および学校は、家庭関係の構築を学校いじめ防止政策の一環として積極的に取り入れるべきである。特に、本研究では母親との親和が父親よりもいじめ抑制効果が高いことが示されたため、母親の家庭教育における役割の重要性に着目し、感情的支援や親子コミュニケーションに関する家庭教育プログラムの実施が求められる。また、学校現場においては、クラス内の集団活動を活用し、友情の質を高めることを目的とした取り組みを積極的に展開すべきである。これにより、青少年が健全な同輩関係を築きやすくなり、学校いじめのリスク低下に寄与することが期待される。