2025 年 2025 巻 p. 75-84
本研究は、個人化理論に基づき問題を明らかにするために上海X大学の学習困難大学生4名に対してインタビューを実施した。その結果、一部の大学生が単一で保守的な高校生活から脱却し、多元的で開放的な大学生活を送るプロセスにおいて、困難に遭遇していることが明らかとなった。具体的には、学習動機、学習方法、学習選択、学習目標における転換に現れており、彼らは新たな社会秩序に馴染み、「自分自身の生き方」を積極的に模索する必要がでてきたのである。これに基づき、本研究は、上記の四つの側面における転換に対応する戦略を提案する。
摘要
近年、大学生の学習困難による留年、さらには退学現象が次第に増加している。この学生たちの大学における人生経歴を遡ると、彼らは、退学前に長期的な学習困難を経験している場合が多い。従来の研究者は、大学生の学習困難の原因について研究を行い、社会、学校、家庭及び学生側面に関する要因、例えば間違った情報により判断を誤ること、学生の専門に対する興味、心理的障害、ゲーム依存、家庭の情緒的関係などを明らかにしてきた(車淼潔、2023;龐海芍・方萍ら、2009;王浩業・魯小華、2015;阮美飛・姚向珍、2010;呉濤・張慧敏、2012)。しかし、学習困難に陥るプロセスに関する研究はまだ不十分である。よって、本研究は、大学生の学習困難の原因を社会変革と教育改革という大きな背景に基づき、質的研究の方法を活用し、学習困難大学生の学習生活に焦点を当て、学習困難が生じることに対する転換プロセスを研究し、対策の提案を試みる。
本研究は個人化理論の分析方法に基づき、大学生の個人化プロセスの視点から、インタビュー対象者のライフコースを解明することにより、大学生が個人化プロセスの中で遭遇した困難を検証し、ひいては高等教育人材育成に対する理論的サポートと実践経験を提供することを目的としている。個人化理論は主にリスク社会の到来に伴い、人々は伝統的な集団統制の生活から脱却し、個人が自主的に意思決定を行う、より流動的でリスク性の高い人生へと転換することを重点的に主張している(呂夢醒、2015)。個人化の概念は三層の意味を含む:解放の次元、脱呪術化の次元、統制または再統合の次元(ウルリヒ・ベック、2004)である。前の二つは脱伝統化と脱埋め込みであり、三つ目は制度化と再埋め込みである(万美容・張艶斌、2017)。個人化の視点から見ると、大学生は高校から大学段階にかけて「埋め込み」―「脱埋め込み」―「再埋め込み」のプロセスを経験する。「埋め込み」とは、高校の段階での、自主性が低く、大学入試という目標に向かって学習する状態を指し、この時期の学生の個人的興味や選択肢は比較的制限されている。「脱埋め込み」とは、大学入試の終了に伴い、学生がより多くの自主選択の権利を持ち始め、伝統的に用意された生活から徐々に脱却することを指す。「再埋め込み」とは、学生が新しい教育環境の中で新しい社会秩序に馴染み、積極的に「自分なりの生き方」を模索していることを指している(閻雲翔、2021)。このプロセスは単なる物理的な空間の移動ではなく、心理的、社会的および自己認識における全面的な再構築である。本研究は、主に「脱埋め込み」から「再埋め込み」への個人化プロセスにおいて、学業困難な学生が遭遇したストレスと困難に焦点を当てる。この転換において、大学生は、受動的受容から能動的探求への大きな挑戦に直面しているため、このプロセスを深く分析することは、学習困難大学生の人生経歴と彼らが直面する課題を理解する上で極めて重要な意義を持つ。
学業困難に陥るプロセスをよりよく理解するために、本研究は解釈主義パラダイム、すなわち質的研究の方法を用いて研究を行った。質的研究方法は、人々の意味構築および物事の発生と展開のプロセスの探求に適しているからであり、経験の社会的構築と意味が、いかに創造されるかを記述・解釈・分析しようとするものである(陳向明、2004)。また、研究者と研究対象とのインタラクションを通じて、対象の行動及び意味構築に対する解釈的理解に関する資料を、帰納法により分析し、理論を形成するものである(陳向明、2000)。
本稿では、学業困難な大学生を、知的能力が正常で、感覚機能に障害がなく、日常生活は自立して送れるが、種々の要因により学業成績が不良となり、既に試読期間11)に入っている大学生と定義した。目的に基づいたサンプリング方法およびインタビューで新たなテーマが出現しなくなるサンプル飽和の原則に基づき、本研究では、上海X大学の代表的かつ典型的なタイプの4名の大学生を選び、インタビューを実施した。インタビューの録音資料に基づき整理を行い、テーマごとにカテゴリー化し、文字化した資料をコーディングした上で、分析を行った。インタビュー対象者の基本情報は、下記の通りである。
表1 インタビュー対象者の基本情報
| 番号 | 性別 | 専攻 | 学年 | 試読学期 |
|---|---|---|---|---|
| HW | 男 | 理工系 | 3年 | 第3学期 |
| LL | 男 | 人文系 | 2年 | 第4学期 |
| XX | 男 | 経営・管理系 | 3年 | 第2学期 |
| LI | 女 | 理工系 | 2年 | 第4学期 |
中学校や高校時代は、青年期の学生は家庭と学校の中に埋没し、自宅と学校の往復いわゆる「二点一直線」という単調な生活を送ってきた。学習の目標は「大学に合格すること」という非常に明確なものであった。学習に対する真の動機について、大多数の学生は漠然としており、「流れに従っている」だけか、あるいは親や教師の期待に応えているだけだと感じていた。
「高校三年生の時、母は私が安心して学習できるように、わざわざ学校の近くに部屋を借りて付き添ってくれました。当時はとてもプレッシャーを感じていて、もし成績が良くなかったら家族を失望させてしまうと思い、それで特に努力していました。」(事例LJ)
「高校時代は母の管理がとても厳しく、学習生活は基本的にすべて決められており、自分で自由に使える時間はほとんどありませんでした。当時の目標はただ一つつまり大学に合格することだけでした。」(事例LL)
大学に進学後、これらの学生たちは、家族や伝統的で親密な関係に深く依存することなく、自らの実践に基づいて周囲との関係を絶えず再定義し、自身の価値を考え、自身の生活を計画する必要が生じるのである。中学時代の「画一化された人生」は、大学段階で「選択可能な人生」へと変容するのである。しかし、このような転換は、彼らが自発的かつ自らが願って行ったものではなく、周りの状況に押し進められたものであり、一定の強制性を帯びている。
この点は学習において特に顕著に表れている。中学段階の学習は、大半が「他者から学ばされる」もので、多くを考える必要はなく、すべては順を追って、教師や親の要求に従って進められてきた。しかし大学では、学習は個人の選択となり、自身で授業時間を調整し、学習プロセスを計画し、自主的に予習・復習を行い、課外資料を調査する必要が生じてくる。そして、このすべての変化は、何の移行期間も準備もなく、瞬時に起こったかのようにやってくるのである。大学生は、あたかも一夜にして様々な選択肢に満ちた状況に置かれ、彼らは往々にして様々な迷いの中に陥ってしまう。
「大学に入ったら、急に自由に使える時間がたくさんできて、親も何も言わなくなった。スマホとパソコンも揃ったし、自分には具体的な計画や目標もなく、ただなんとなく日々を過ごしている感じです。」(事例LL)
大学生は高校時代の学習メカニズムから「脱埋め込み」され、一見すると自律的に自らの生活を選択できるように見える。しかし、これは彼らが完全な解放と自由を獲得したことを意味しない。なぜなら、彼らは新たな制度の下で、再び思考し行動しなければならないからである。
そして、学習困難大学生が直面する状況は、従来依存してきた学習制度には戻れず、新たな制度の要求に適応し得る学習目標と方法に変化させることも困難であり、ただ新たな「精神的ホームレス状態」に陥ってしまうことなのである。
4.2 学習方式の転換:画一的なモードから個人別カスタマイズへ大学進学以前、青年期の学生の学習パターンは主に「総体的学習」方式であった。共通の目標があったため、これらの学生は「大学合格のため」という集団的・組織的な生活の中に置かれていた。彼らは「計画的に」特定の役割に配置・固定化され、自律性と主体性を欠いていた。この学習モードは、中学段階においては重要で積極的な効果を発揮していた。
「高校では先生に従っていれば良く、先生の言う通りにすればよく、自分で考える必要はありませんでした。それに周りの人も皆勉強していて、皆とても熱心だったので、自分も容易に学習状態に入れ、とても努力できて、やる気に満ちていました。」(事例HW)
大学進学後、学生は、中学時代の高コントロールで硬直的な学習モードから「脱埋め込み」する必要が生じ、彼らの行動は次第に家族や集団から切り離され、自らの主体意識がより顕著になる。学習環境は画一的なモードから個人別カスタマイズへと変化する。しかし、多くの学習困難学生は、依然として従来の学習習慣に固着したままで、自己責任を持ち能動的に学ぶ主体となることが困難なのである。
「大学に入ると、皆の授業時間も異なり、それぞれが自分のことに忙しく、あらゆる面でペースを乱された感じがしました。朝起きられず、授業が理解できず、昼は眠く、午後は本来宿題をしようと思っていたのに、少しスマホをいじっているうちに(時間が)あっという間に過ぎてしまいました。」(事例LJ)
4.3 学習選択の転換:単一指向から多元的挑戦へ大学進学以前、これらの青年期の学生の学習意識と行動は、かなりの程度周囲の環境によって決定されていた。大学進学後、個人化の要求が、従来の生活方式に衝撃を与え、様々な異なる状況で「自主的な決断」を下すように駆り立てる。どの科目を選ぶか、どの先生の授業を取るか、授業に出るか出ないか、これらは全て新たな体験であり、選択を下すことは彼らが負わなければならない「義務」なのである。大学以前に彼らが依存していた集団的な学習方式は消失し始め、彼らの家族(親)や学校(教師)への依存、そして学校や家族の彼らへの庇護は次第に消失していく。
「大学以前の学習は、周りの人々が皆ただ勉強だけしていて、他に何もしていない状態でした。大学に入ると、学習はそれほど重要ではなくなったように感じ、魅力的なものが多すぎて、何をするか自分で選ぶ必要があり、時々自分が怠けると授業にも行かなくなりました。」(事例LL)
大学学習の自主的な選択は、大学生を様々な不確実性に満ちたリスクへと導き、彼らは自らの学習計画と行動の中心とならざるを得なくなる。しかし、学習困難大学生はこの選択性に満ちた生活の中で目を惑わされ、多すぎる選択肢が選択不能を引き起こし、そして学業のリスクを招くのである。
4.4 学習目標の転換:試験対策の奮闘から自主に対する迷いへ大学以前、これらの青年期学生の生活の中心は、全て「大学合格」という目標を中心としており、その精神生活もこの目標の実現のために周りの人々から支援され、その体験は充実し満足感のあるものだった。
「高校は確かに少し疲れましたが、当時はとても充実しており、具体的な目標があり、目指すものがあり、每日の学習が何のためか分かっていました。」(事例XX)
大学進学後、学習生活はこれまでのような統一された意味を失い、彼らが自分の力で生活の価値を求める必要が生じるのである。しかし、現代社会における消費主義と大衆文化の流行は、一部の大学生が退屈、不安、空虚さを頻繁に体験する原因となり、一部はさらにネット空間に精神的慰めと情緒的満足を求めていく。
「大学に入ったばかりの時はまだ考えがあり、最初は勉強に力を入れていました。しかし後になると、学習が何のためか自分でも分からなくなり、試験で合格点が取れれば良く、次第に学習意欲を失っていきました。そのため、多くの時間をゲームをしたり小説を読んだりして過ごしています。」(事例LL)
個人の存在意義が学業成績だけで決定されないとなると、かえって学業困難を抱える学生は情熱と意義のない人生に向かい、ネットなどの仮想世界での達成感を通じて内なる孤独と信仰の喪失を埋めようとするのである。
大学生が学業において抱える一連の悩みは、彼らが置かれた個別化された環境と直接的に結びついている。大学生の学業的困難への解決策を探るにあたっては、これを特定の時間的・空間的文脈に位置づけて考察する必要がある。学習動機、学習方法、学習選択、学習目標という側面から多層的な支援システムを構築し、大学生が「脱埋め込み」から「再埋め込み」への転換を遂げることを支援しなければならない。
5.1 学習意欲の活性化:大学での学習の価値を再構築する実践的方策大学に進学すると、それまでの「高考(大学入試)のため」という学習意欲の源泉が消失し、高校時代のような強い学習の価値や意義を見出しにくくなる。このため、学業において困難に陥りやすく、一部の大学生の精神的迷いや苦悩を引き起こしている。したがって、学習動機の再構築が特に重要となる。特に新入生段階では、学生の参加意識を高め、授業でのディスカッションや開放的な研究課題を通じて「問題を発見する→問題を解決する」という学習探求モデルを体験させ、能動的学習による達成感を味わってもらい、学業上での積極的な体験をさせる必要がある。大学の授業は単なる知識の伝達ではなく、学生が学問の最先端に触れ、学際分野を理解し、学問的視野を広げる手助けをし、専門学習と個人の興味の接点を見つけさせ、探求心を刺激すべきである。さらに、学生の学習動機を効果的に喚起するためには、大学は「成績唯一」の評価基準を改め、多様な評価体系を構築して学生の学習成果と能力を総合的に評価すべきである。これにより、学習の多元的価値の再構築を導くことができ、さらに学生の学習意欲と創造性を刺激することができる。
5.2 学習方法の転換:学校の支援と学生の自主性の協調を推進する大学における個性化された学習方法への転換は、学生が「知識の受け手」から「自己教育の設計者」へと変容することを求めており、この急激な変化による学業上の困難に対処するには、大学と学生双方の対応メカニズムが必要である。まず、大学は教育におけるソフト環境の整備を深化させ、学習サポートセンターの機能強化を通じて、学生に個性化された学習指導と多様な学術支援リソースを提供する必要がある。人材育成メカニズムの包容性を高め、専攻選択の制限を緩和し、学生の総合的能力、趣味・関心、および個人の成長をより重視することで、適切な学習経路の設計と選択を支援すべきである。次に、学生個人としては、受動的に受け入れる習慣を意識的に変え、自己探求と自主学習の能力を育成し、授業学習への依存度を下げ、多様な学習リソースを利用して自身の知識体系を豊かにする方法を学ぶと同時に、理論知識と実践を結びつけることを重視し、自身の専門的実践性と革新性を高める必要がある。学校制度の支援と学生個人の主体性との協調は、大学生が大学生活における個別化へのチャレンジに対処するために役立つ。
5.3 学習選択の支援:個人心理的資本と全学習段階の育成を強化する個別化された選択を特徴とする大学生活は、学生に適応上の課題をもたらしている。自主的な選択において学業的困難に陥ることを予防するためには、心理的資本の蓄積を育成し強化する必要がある。心理的資本とは、自己効力感、楽観性、希望、回復力を特徴とする積極的な個人の心理的発達状態である(Luthans, F., Avolio, B. J. et al, 2007)。これは、個人が困難に直面した際に影響を与える重要な心理的資質である。学生の心理的資本の育成は系統的なプロジェクトであり、学校と家庭の連携による、基礎教育段階から高等教育段階まで継続する一貫した心理的資質育成システムの構築が不可欠である。エリクソンが提唱したライフサイクル発達理論に基づき、小学校段階では希望感と粘り強さの育成に重点を置き、家庭と学校の連携を通じて、子どもが経験した挫折の中から希望を見いだす過程を体験させ、困難に直面しても諦めないことを学ばせ、初歩的な心理的回復力を培う。中学校段階では自己効力感と楽観的性質の育成に焦点を当て、多様な社会実践活動への参加を通じて、学生が知識と応用の中で自らに挑戦し、生活における不確実性や失敗に積極的に対処する方法を学ぶようにする。これらの基礎段階での育成が、大学生活に対する強固な心理的基盤を形成し、学業上の困難に効果的に対処する能力を備えるのである。
5.4 学習目標のリード:段階的なキャリア計画体系の深化本研究では、調査対象となった大学生の学業における困難は、最初に1年生の時に発生しており、大学の学業と生活に対する準備不足により、多くの新入生は大学のカリキュラムシステム、学習方法、目標ビジョンについてほとんど知らないため、入学後に適応できない問題が生じている。したがって、大学は学生の学習目標に対する指導を強化し、大学4年間のキャリア計画を深化させ、段階的に大学生の思想政治教育に組み込む必要がある。1年生では大学適応教育を重視し、優秀な卒業生や先輩の経験談を傾聴させ、大学の学習目標と将来の生活の多様性を示し、「成績至上主義」の固定観念を打破する。2年生では学生の専門分野への帰属意識と基礎能力を強化し、授業での学習を重視するだけでなく、専門分野内の新しい動向を理解し、大学学習の価値と目標を明確にし、カリキュラムと学習目標の関連性を実感させる。3年生では専門能力を深化させ具体的な目標を明確にし、企業実習、科学研究プロジェクト、社会実践、ボランティア活動などのプラットフォームを拡大し、実践の中で職業興味を発見し、職業方向を明確にする。4年生では就職能力とキャリア計画の向上に重点を置き、就職指導特別講座、キャリア計画相談などを通じて、学生個人の興味と社会の需要を結合させ、多様なキャリア発展経路を探求することを助ける。大学4年間を通した段階的な学習目標のリードとキャリア計画体系を構築することは、学生の進路とキャリアを明確に導き、内発的動機を刺激するだけでなく、異なる人生段階の転換を順調に完了させるのにも役立つ。
試読期―中国の大学において、成績不良の学生が一定期間の観察と学業改善の機会を与えられる制度。
1) 試読期―中国の大学において、成績不良の学生が一定期間の観察と学業改善の機会を与えられる制度。