2025 年 32 巻 3 号 p. 78-86
遺伝子プロファイリングや消費者向け遺伝学的検査は、知識と技術の進歩によって過去10年間に急激な成長を遂げ、遺伝情報がはるかに身近なものとなった。特にスポーツ業界においては、これらの検査結果から、トレーニングや食事の方法に関する情報が得られ、さらには子どものスポーツの才能を見極めることができるとの主張がなされている。しかし一部では、遺伝情報が蓄積されたエビデンスとかけ離れた利用や宣伝のされ方をしている。そのため、ストレングス&コンディショニングコーチ、スポーツ科学者、コーチ、保護者など、スポーツ業界に携わる人々は、遺伝学的検査から何が得られ、何が得られないのかを適切に把握しなければならない。そこで本稿では、遺伝学と遺伝について概観し、競技パフォーマンスと傷害に関する遺伝学の知見のうち重要なものをいくつか取り上げ、最後に、そのような情報の有用性に関して論じることを目的とする。