2023 年 51 巻 1 号 p. 67-71
【はじめに】硬膜動静脈瘻(dural arteriovenous fistula:dAVF)の塞栓術においてpial feederの有無は戦略上の重要な因子である.すなわち,治療の経過においてpial feederからの血流うっ滞が生ずると脳内出血をきたす危険があり,可及的に避けなければならない.今回われわれは,pial feederを先行する経動脈的塞栓術で安全に完全閉塞が得られた症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.
【症例】36歳の男性.頭痛,失読,右同名半盲が出現し左側頭葉の脳内出血と診断された.血管撮影でmiddle meningeal artery(MMA),posterior meningeal artery(PMA),occipital artery(OA)からのdural feederに加え,posterior cerebral artery(PCA)からのpial feederを有し,sinusを介さずにcortical veinに逆流するlateral typeのテント部dAVFが認められた.再出血予防のため経動脈的塞栓術を施行した.まず20% NBCAを用いてPCAのpial feederから塞栓を施行したところ,NBCAはdrainerまで到達した.外頚動脈撮影を行うとdural feederからのシャントも消失していたが,確実な閉塞のためMMAも17% NBCAで塞栓し治療を終了した.術後MRI拡散強調像にて,病変近傍の後頭葉皮質にごく小さな虚血巣が出現していたが,新たな神経症状の出現なく退院となった.その後20カ月のフォローで再発を認めなかった.
【考察と結語】Pial feederを有するdAVFは11-24%程度存在するとされ,経動脈的塞栓術における合併症率が高いと報告されている.その要因として先行したdural feederの塞栓後に,残存したpial feederからのシャント部より出血を生じる可能性が指摘されている.このようなdAVFではpial feederからの塞栓を先行させることにより安全に塞栓できる可能性が指摘されており,本例はこの治療戦略の有効性を支持するものであった.