脳卒中の外科
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最新号
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原  著
  • 秋山 武紀, 水谷 克洋, 高橋 里史, 名越 慈人, 辻 収彦, 中村 雅也, 松本 守雄, 戸田 正博
    2024 年 52 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    脊髄動静脈シャント(SAVS)にはいくつかのサブタイプがあり,病態の正確な理解と的確な診断が求められる.適切な治療のために血管内治療医と直達術者との連携が不可欠である.本報告では,当施設で診療を行ったSAVS 49例 51病変の各シャントタイプの治療選択と結果について検討した.シャントの部位はdural 19病変,epidural 12病変,perimedullary 10病変,radicular 7病変,ほか 3病変であった.治療は直達術29回(65.9%),血管内治療15回(34.1%).直達術の全例で血管内治療医が治療戦略を直達術者と共有,手術では術中シャント同定の支援を行った.直達術で26病変が治癒(89.7%),血管内治療で治癒および有効塞栓が13病変(86.7%)であり,周術期合併症は4.5%,永続する症状は認めなかった.SAVS全体に対し血管内治療医は血管内治療を行うだけでなく,正確な診断の提供,直達術を含めた適切な方針の提案,術中にも支援を行うことで効果的な治療を遂行できる.

症  例
  • 加藤 佑規, 佐伯 真音, 水谷 大佑, 辻本 真範, 北島 英臣
    2024 年 52 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    症候性総頚動脈閉塞(common carotid artery occlusion:CCAO)に対しては血行再建術が考慮されるが,症例により血行動態が異なるため,確立された治療法はないのが現状である.

    患者は78歳,男性.一過性の右半身脱力および失語症を主訴に受診した.MRIでは左内頚動脈(internal carotid artery:ICA)閉塞および同支配領域に多発性脳梗塞がみられた.頚動脈エコー,3DCT angiography,脳血管造影ではCCAはICA/外頚動脈(external carotid artery:ECA)分岐部直前で閉塞していた.ICAは錐体部まで閉塞していたがECAは起始部から開存していた.

    N-isopropyl-p- [123I] iodoamphetamine (IMP)single photon emission computed tomography(SPECT)で安静時脳血流低下がみられたため,虚血再発予防目的に血行再建を企図した.CCAからICAの閉塞長は長く,頭蓋内血流の順行性開通は困難であった.一方,CCAからECAの閉塞長は短く,頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)によりECAの順行性開通は可能と判断した.CEAでCCAからECAを開通後にSTA-MCA(浅側頭動脈-中大脳動脈)バイパス術を行う二期的血行再建術を施行した.本症例のようにCCAの閉塞長が短い場合は,CEAおよびSTA-MCAバイパス術という定型的な手術を組み合わせた治療で虚血再発予防ができる可能性が示唆された.

  • 齋藤 孝光, 遠藤 未緒, 箱崎 半道, 齋藤 清
    2024 年 52 巻 1 号 p. 13-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    脳動静脈奇形(AVM)に対するガンマナイフ治療において,晩期合併症としての囊胞形成はよく知られている.囊胞と血管腫様病変の合併症例に対し,摘出術が有効と思われる症例を経験したため報告する.

    症例は41歳,男性.20代でparasplenial AVMに対してガンマナイフ治療を行った.経過観察中に両側頭頂葉に囊胞が出現し,けいれん発作を繰り返した.けいれん重責発作により意識障害が遷延したため当院に紹介された.MRIでは血管腫様病変と複数の囊胞がGalenic system上前方に首座しており,広範な脳浮腫を伴っていた.囊胞-腹腔シャント術を施行したが,意識状態が改善しないため開頭腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は血管が集簇している所見であり,cavernous hemangiomaと病理診断された.術後意識障害は改善傾向を認め,mRS 5で自宅退院された.

    AVMに対するガンマナイフ治療の有効性は確立しているが,晩期合併症として放射線誘発性変化を認める可能性があるため定期的な画像検査は必須である.囊胞を形成しても無症候性の場合は経過観察可能と思われるが,症候化した症例や血管腫病変を伴う症例においては,速やかな外科的摘出を考慮すべきと思われた.

  • 高平 一樹, 片岡 丈人, 野呂 昇平, 寺川 雄三, 入江 伸介, 齋藤 孝次
    2024 年 52 巻 1 号 p. 18-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    37歳,男性.放射線治療後の再発上咽頭がんに対する2度目の放射線治療の後に鼻出血をきたした.1回目の血管撮影では出血源を同定できず,左上咽頭の腫瘍壊死部からの出血と判断して,左顎動脈からの流入血管を33% NBCAで塞栓した.約30分後に大量の鼻出血をきたし,呼吸停止と血圧低下をきたしたため,緊急で気管切開を行った.2回目の血管撮影で左内頚動脈の錐体部に仮性動脈瘤の顕在化を認め,出血源と判断した.側副血行を確認した後,左内頚動脈の母血管閉塞を実施した.コイルで塞栓した後,コイル端の近位側より50% NBCAを注入して母血管を完全に閉塞した.2カ月後,鼻腔内の観察で左内頚動脈内のコイル塊の透見を認めたが,鼻出血の再発を認めなかった.仮性動脈瘤に対する母血管閉塞においてNBCA注入が一助となる可能性があると考えられた.

  • 眞野 唯, 針生 新也, 吉原 章王, 齋藤 直史, 内海 康文, 新妻 邦泰, 佐々木 達也, 冨永 悌二
    2024 年 52 巻 1 号 p. 23-29
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    症例は81歳,男性.右頚部内頚動脈狭窄の診断で内科的治療を行われていたが,左limb shakingが出現,progressive strokeと診断され当科紹介となった.magnetic resonance angiography(MRA)で右頚部内頚動脈狭窄の進行を認め,diffusion weighted imaging(DWI)で急性期梗塞を認めなかったものの,arterial spin labeling(ASL)では右大脳半球で著明な血流の遅延を認めた.脳血管撮影検査では右頚部内頚動脈は起始部が重複し,合流し1本となる所見で,MRI所見ともあわせdouble-lumen carotid plaqueと思われた.合流直後で最狭窄部(NASCET 80%)を形成,最狭窄部以遠の描出遅延を呈し,Willis輪を介した側副血行は認めなかった.過灌流症候群が懸念されたためstaged angioplasty(SAP)の方針とし,経皮経管的拡張術をまず施行した.拡張術翌日のASLで右大脳半球の血流は改善した.症候性かつ不整形の病変であり,2週後に頚動脈内膜剝離術(CEA)を行った.虚血性合併症,過灌流症候群ともにきたさず,limb shakingは消失し,症状なく自宅退院となった.

    double-lumen carotid plaqueはまれな病態であり,血行再建の適応と最適な手段は明らかではないが,症候性病変は血行再建の適応と考えられる.過灌流症候群予防のため,SAPの有効性が報告されているが,二期目の治療はステント留置術(CAS)が一般的である.しかしながら,症候性,本症例のような不整型,不安定プラークについては二期目の治療はCEAが好ましい可能性がある.

  • 工藤 絵里奈, 柳澤 俊晴, 大前 智也, 畠山 潤也
    2024 年 52 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(superficial temporal artery-middle cerebral artery bypass:STA-MCA bypass)のdouble bypassは,通常STAの前頭枝と頭頂枝を用いるが,どちらかの分枝の欠損や発達不良である症例が存在する.今回,STA-STA bypass(grafting bypass)を追加し1本のSTAでdouble bypassを行った症例を報告する.症例は67歳,女性.右片麻痺,失語症で受診.左M1閉塞があり内科的治療を行ったが症状が増悪した.IMP-SPECTで左MCA領域の広範な脳血流低下がありSTA-MCA double bypass術を予定したが,前頭枝の発達が不良であった.そこで,発達した頭頂枝1本でSTA-STA bypass(grafting bypass)を追加しdouble bypassを行うこととした.手術は頭頂枝の遠位側を切断し,STAとSTAを端側吻合してY字型のグラフトを作成し,それぞれを通常のSTA-MCA bypassと同様に中大脳動脈に吻合した.術後新たな神経症状や脳梗塞はなくbypassは2本とも開存していた.この方法はすべての吻合が脳神経外科領域で最も多用される端側吻合のみで完結できることが利点であり,ドナーとして使用できるSTAが1本である症例に有用と思われた.

  • 亀田 勝治, 伊藤 理, 安部 啓介, 石堂 克哉, 一ツ松 勤
    2024 年 52 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    上錐体静脈を介し後頭蓋窩へ逆流を伴う硬膜動静脈瘻は,脳幹および小脳出血の危険性がある.観血的な治療より低侵襲な血管内治療や放射線治療が優先される状況も多い.これらの治療で根治が得られない場合でも,上錐体静脈が唯一の流出路の場合は観血的な遮断が依然有用である.

    症例1は歩行障害をきたした69歳男性.左内頚動脈から天幕動脈を栄養血管とする左天幕部硬膜動静脈瘻が存在し,静脈洞を介さず上錐体静脈を経て脳幹周囲静脈へ逆流し,脊髄静脈への逆流と脳幹の浮腫を認めた.天幕動脈の経動脈的塞栓術と放射線治療で根治が得られず,直達手術により上錐体静脈を遮断した.治療後に硬膜動静脈瘻は消失した.

    症例2は脳皮質下出血を発症した70歳女性.左横・S状静脈洞部の硬膜動静脈瘻に対し,急性期に経動脈的塞栓術を行い,慢性期に経静脈的に静脈洞閉塞を行った.上錐体静脈洞の塞栓が不十分となり,上錐体静脈を介した小脳の皮質静脈への逆流が残存した.追加の経動脈的塞栓術で根治が得られず,直達手術による上錐体静脈の遮断を行い短絡は消失した.

    塞栓術では根治が得られず,直達手術による上錐体静脈の処置により合併症なく短絡が消失した2症例を経験した.硬膜動静脈瘻に対する上錐体静脈の観血的な処置の安全性については,今後も症例の積み重ねが必要である.

  • 仙北谷 直幹, 清水 宏明, 山口 卓, 畠 愛子, 山内 美佐, 杉田 暁大, 須田 良孝
    2024 年 52 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    carotid web(CW)は,内頚動脈球部に限局した内膜の線維性過形成で,症候性の場合,内科治療抵抗性とされるが,その理由や最適薬物療法に関する知見は十分でない.今回,CWより遠位塞栓をきたした症例において,急性期に血栓回収療法,慢性期にcarotid endarterectomy(CEA)を施行し,塞栓性遠位血栓およびCW内血栓の病理組織学的所見を検討できた症例を経験したので報告する.症例は40歳代の男性.急性発症した右M2閉塞に対し,機械的血栓回収療法を行い完全再開通が得られた.同側頚部頚動脈に軽度のCW様の狭窄を認めたが典型的でないと判断し,術後はアスピリン 100mg,クロピドグレル 75mgを投与,再発なく経過した.超音波検査で術翌日に狭窄部に付着する血栓がみられたが,術後35日目まで経時的に縮小した.血栓回収で得られた血栓は病理組織学的に血小板主体で赤血球を含む混合血栓であった.心臓などの精査で異常なく,症候性CWと判断し,発症3カ月でCEAを施行した.病理組織学的にCW遠位の窪みに血小板主体の血栓を認めた.CWにおいて血小板主体の血栓の上に混合血栓が二次血栓として形成され動脈原性塞栓を起こしたものと推測した.本症例では抗血小板療法が二次血栓形成を抑制した可能性があるが,症例を重ねての検討が必要と思われた.

  • 原田 雅史, 安藤 俊平, 羽賀 大輔, 渕之上 裕, 寺園 明, 近藤 康介, 周郷 延雄
    2024 年 52 巻 1 号 p. 48-54
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    放射線誘発性総頚動脈狭窄症(radiation-induced carotid artery stenosis:RI-CS)に対する血行再建術はcarotid endarterectomy(CEA)ハイリスクとされており,carotid artery stenting(CAS)が多く行われている.しかし,CASの中長期成績は必ずしも良好とはいえず,再狭窄や再治療のリスクはCEAと比べて高いことが報告されている.今回,放射線治療後15年経過したRI-CSに対してCASを施行したところ,1年後にステント内狭窄およびmobile plaqueを認め,再度CASを施行したが同部位でin-stent plaque protrusion(ISPP)を生じ治療に苦慮した1例を経験したので報告する.症例は74歳,男性.1年前にRI-CSと診断し,左総頚動脈の高度狭窄病変に対してCASを施行した.1年後にステント内狭窄およびmobile plaqueを認めたためstent-in-stentを施行したが,短期間でISPPを生じ,追加治療を要することとなった.不安定プラークを多量に有し,潰瘍を伴ったRI-CSでは,ISPPを生じ治療に難渋することがあるため,CEAを含め慎重に治療方針を検討する必要がある.

  • 船津 尭之, 石川 達也, 林 基弘, 山口 浩司, 堀場 綾子, 江口 盛一郎, 茂木 陽介, 岡 美栄子, 田中 優貴子, 百崎 央司, ...
    2024 年 52 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)のfeeder遠位部に形成されたflow-related aneurysm(distal FA)は破裂急性期に自然血栓化することがまれにあるが,その後の自然経過に関しては不明な点が多く,これまでに再開通に関連した報告はない.今回,破裂distal FAが自然血栓化後に再開通した症例を経験したので報告する.

    症例は33歳女性.脳室内穿破を伴う右基底核部の脳内出血で発症したAVMで,血腫腔内に出血源と考えられるdistal FAを認めた.distal FAは破裂急性期に自然血栓化し,発症2カ月の時点で画像上の描出はなかったが,発症20カ月後に再開通を認めた.再出血のリスクがあり,ナイダスに対するガンマナイフ照射とdistal FAに対する塞栓術を施行した.

    出血後に自然血栓化した破裂distal FAは,本症例のように慢性期に再開通をきたす可能性があるため,慎重な画像追跡が必要である.

手術手技
  • 宮原 宏輔, 岡田 富, 谷野 慎, 瓜生 康浩, 田中 悠介, 鈴木 幸二, 関口 徳朗, 野田 尚志
    2024 年 52 巻 1 号 p. 61-66
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/02/07
    ジャーナル フリー

    presigmoid posterior transpetrosal approachは,硬膜外に錐体骨後面を部分削除しS状静脈洞前方から脳幹側面,小脳前面に到達する方法で,本来は頭蓋底腫瘍の摘出時に用いられることが多い.本手法を傍正中血管病変にも応用できると考え,当院で今までに4例〔動脈瘤 2例,脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)1例,血管芽腫 1例〕に利用した.ほぼ真横から病変に到達できることに加え,病変深部のfeederやproximal artery,病変浅部のdrainerやdistal arteryの確保や小脳実質からの剝離が安全に施行できることが利点である.また,個々の症例で骨削除範囲を決めることで,drillingによる合併症の減少や手術時間短縮にもつながる.

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