季節や気象状況によって脳卒中の発生頻度が変動することは,経験的に知られている.本研究では,くも膜下出血(SAH)患者の発症日の気象条件の特徴を明らかにすることを目的とした.当院で2014年1月から2023年12月の10年間に新規登録された内因性のSAH患者を対象とした.SAH発症日および前日・前週の大阪市の気圧(現地・海面),湿度(平均・最低),気温(平均・最低・最高・体感)を調査し,SAHの発症頻度と気象条件の関連について検討した.出現率が90パーセンタイル以上および10パーセンタイル以下に該当する範囲を「かなり高い(EH)」「かなり低い(EL)」,66.6パーセンタイル以上および33.3パーセンタイル以下に該当する範囲を「高い(H)」「低い(L)」,33.3パーセンタイルから66.6パーセンタイルの間に該当する範囲を「平年並(N)」と定義した.
対象は281例で,女性169例(60.1%),平均年齢62.1±15.6歳であった.SAHの発症には,最低気温および体感気温の前日差との関連がみられた(p=0.043,p=0.023).SAH発症当日の体感気温が前日と比較して低い(L)およびかなり低い(EL)場合に,SAHの発症が有意に多くみられた(p=0.0004,p=0.0002).一方,前週との気温の変化に関しては,SAHの発症との関連は認められなかった.気圧や湿度に関しては,前日および前週いずれの変化においても,SAHの発症との関連は認められなかった.また,動脈瘤性SAHに関しても,発症当日の体感気温が前日と比較して低い(L)およびかなり低い(EL)場合に,SAHの発症が有意に多くみられた(p=0.0007,p=0.0002).
SAH発症日は前日と比較して体感気温が低下している日の割合が高く,相対的な冷感刺激がSAH発症の一因となっている可能性が示唆された.
破裂椎骨動脈解離に対しては母血管閉塞が主に行われてきたが,近年,穿通枝梗塞が多く報告されている.われわれは対側のVA低形成や解離部にPICAや穿通枝が関与した症例でstent assisted coiling(SAC)を施行してきたが,tight packing困難な症例もあり,早期再発と再治療が課題である.われわれは,SAC後の再発に対し,flow diverter(FD)をoverlapしている.2015年から2024年末までに,破裂椎骨動脈解離に対して急性期SACを施行した9例,10動脈瘤を検討した.10病変中5病変(50%)で再治療を要した.再治療は,2例はcoil追加とstent overlap,3例はFDをoverlapした.再治療を行った全例で,虚血性合併症も再出血も認めなかった.follow-upの血管撮影では,FDを追加留置した全例で,動脈瘤は完全閉塞していた.SAC後再発に対するFD再治療は,coil追加が不要なためtrans-cellのリスクがなく,シンプルな手技で完全閉塞が得られる可能性があり,安全な治療選択肢の1つとなり得ると考えられた.
中大脳動脈(MCA)動脈瘤破裂によるくも膜下出血(SAH)では,しばしばシルビウス血腫を形成する.術後の頭蓋内圧亢進を防ぐため,シルビウス血腫を除去することを推奨する報告が多いが,これは容易ではない.われわれは,シルビウス血腫の除去困難例などに対して,積極的に外減圧術を行ってきた.われわれのシリーズにおける外減圧術の有用性を報告する.
2017年10月から2024年9月までに,当院で治療を行ったMCA動脈瘤破裂によるSAHは52例で,シルビウス血腫を伴うものは25例であった.血腫の定義は,CT上mass effectを伴うものとした.全例で開頭クリッピング術が行われ,そのうち13例で外減圧術が追加された.
シルビウス血腫の2/3以上を除去できたグループの予後良好例(退院時mRS 0-2)は,50%であった.一方,血腫除去が1/3以下のグループの予後良好例は33.3%に留まったが,このうち外減圧術を追加した症例では,予後良好は42.9%にまで上昇した.また,重症例(WFNSグレード 4,5)においても,血腫除去が1/3以下のグループでは,外減圧術を追加した症例の予後良好は33.3%であった.
SAH時のシルビウス血腫は,通常の脳内出血と比較して,その除去は容易ではない.血腫除去を目標とするが,除去が困難な場合には,外減圧を追加することで,良好な予後を得られる可能性がある.
機械的血栓回収療法(mechanical thrombectomy:MT)は,急性期脳主幹動脈閉塞症の標準治療であるが,再開通が得られない症例(MT failure)も一定数存在し,予後不良となることが多い.本研究では,救済可能な虚血penumbraを有するMT failure症例に対する緊急浅側頭動脈-中大脳動脈(STA-MCA)バイパス術の有効性を検討した.
2021年7月から2024年6月までに,当院で前方循環系急性期脳梗塞に対しMTを施行し,再開通が得られなかった80歳以下の12例を後方視的に解析した.2023年1月以降は,MT直後に灌流CT(perfusion CT:P-CT)を施行し,脳血流低下・平均通過時間延長・脳血液量保持により,penumbraを評価した.penumbraありと診断された症例は緊急STA–MCAバイパス術(A群,6例),その他は保存的加療(B群,6例)とした.神経学的予後(NIHSS,mRS),出血性合併症,死亡率を比較した.
7日後NIHSSはA群9.5,B群13.3で,90日後mRSはA群1.8,B群4.1とA群が有意に良好であった(p=0.03).A群に症候性頭蓋内出血はなく,死亡率はA群0%,B群66.7%であった(p=0.026).全例でバイパス開存が術後3D-CTAで確認された.
P-CTによる救済可能脳組織の評価に基づく緊急STA-MCAバイパス術は,選択されたMT failure症例において機能予後および生存率の改善に寄与する可能性がある.迅速な評価と介入が予後改善の鍵となる.
未破裂脳動脈瘤(unruptured intracranial aneurysm:UIA)直達手術後の長期成績と経過観察の意義を明らかにするため,術後のくも膜下出血(subarachnoid hemorrhage:SAH)発症率とリスク因子を検討した.
2001-2004年に当院で直達手術を施行したUIA 93例を対象とし,術後経過観察の継続状況,SAH発症,未治療瘤や新生瘤の有無を後方視的に解析した.Kaplan-Meier法により,累積破裂率を算出した.
7例が術後44-264カ月にSAHを発症した.出血源は,治療瘤4例,残存未治療瘤2例,新生瘤1例であった.120カ月時点での累積破裂率は5.0%と推定され,長期経過では破裂にいたる症例が一定数存在した.経過観察は,51例が平均59.1カ月時点で自己中断した.20例は平均160カ月で終了し,11例は紹介医に引き継がれていた.不完全閉鎖瘤や残存未治療瘤,新生瘤は,長期的にSAH発症リスクを残存させ,経過観察の自己中断や治療適応判断の遅れなどにより,破裂にいたった.
UIA直達手術後であっても,不完全閉鎖瘤,残存未治療瘤,新生瘤によるSAHは少なくない.経過観察の自己中断も多く,全例で長期経過観察が求められる.症例背景に応じ,特に注意を要する症例では,精度の高い厳格な経過観察の継続が重要である.
CEAにおいて,解剖構造の正確な把握のためには無血での術野展開がきわめて重要であるが,頚部はリンパ節や腺組織が豊富で出血しやすく,特に深頚リンパ節が術野展開の妨げとなりやすい.本報では,内頚静脈直上にある深頚リンパ節とその周囲の脂肪組織塊(carotid fat pad:CFP)を一塊として摘出することで,無血で広く浅い術野展開が可能となるCFP removal methodを紹介する.
近年,出血発症脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)に対する塞栓術の機会が増えている.しかし,eloquent areaに存在する AVMに対する塞栓術は,手術リスクを考慮し,慎重な判断が必要となる.錐体路近傍に局在する出血発症のAVMに対して,当施設で実施している完全静脈麻酔下superselective provocation testの手技的工夫について提示する.
完全静脈麻酔下にて,motor evoked potential(MEP)・somatosensory evoked potential(SEP)モニタリング下に,錐体路近傍AVMに対し誘発テストを施行した.MEPは,頭部側をスクリュー電極とし,導出側は腕橈骨筋と短母指外転筋に針電極を用いた.カテーテルアプローチは,遠位橈骨動脈アプローチ(distal transradial approach:dTRA)とし,3Frのガイディングシースを使用した.誘発テストにはチアミラールを用い,コントロール波形と比較して50%以上の振幅低下を陽性とした.
症例1は前脈絡叢動脈をfeederとするAVM,症例2はcentral arteryをfeederとするAVMであった.いずれの症例も,feederにマイクロカテーテルを誘導して誘発テストを行った結果,MEPの振幅低下を認め陽性と判定し,塞栓術は困難と判断した.
本経験より,dTRAはモニタリングの干渉を回避でき,完全静脈麻酔下でも安全かつ確実なsuperselective provocation testを可能とした.錐体路近傍AVMに対する治療戦略を立案するうえで,本法は有用であると考えられた.
慢性硬膜下血腫(CSDH)に対して,中硬膜動脈塞栓術(MMAE)の有効性を示す報告が相次いでいる一方,穿頭術との使い分けや併用の適応方法については,いまだコンセンサスがない.今回,穿頭術のリスクのあるCSDHをMMAEのみで治療し,良好な経過を辿った1例を経験したので報告する.
57歳,男性.生体肝移植の手術歴あり,その後,薬剤性の腎機能障害で維持透析となり,免疫抑制薬とステロイドを内服中.発症4カ月前に,階段からの転落による頭部打撲歴あり.その後,軽度の右下肢麻痺,歩行障害をきたし,軽度の正中偏位を伴う左CSDHを指摘された.ステロイドと免疫抑制薬の服用があるため,穿頭術での創傷治癒遅延や手術部位感染症のリスクを勘案し,MMAE単独による治療を行う方針とした.マイクロカテーテルを左中硬膜動脈の前枝および後枝に誘導し,順に12.5%NBCAで塞栓した.周術期合併症を認めず,術後第2病日で退院となった.治療直後より右足の跛行は改善し,画像フォローでは経時的に血腫は縮小し,術後5カ月経過時点で血腫の消失を確認している.なんらかの理由で穿頭術を避けたい患者で血腫の圧迫が軽微な場合には,MMAE単独による治療も有用な選択肢となり得ると考えられる.介入のタイミングや適切な塞栓方法については,今後さらなる検討が必要であり,症例の蓄積が待たれる.