脳血管内治療症例の増加に伴い,術者育成が重要となっている.従来は手術参加により技術を習得していたが,より時間的融通が利きやすく,実践して学べるoff the job training(OFF-JT)が有用である.本稿では,われわれが行っている OFF-JTを紹介する.患者のdigital subtraction angiography画像から光造形型3Dプリンタを用いた中空型脳血管モデルを作成し,X線透視下ないしはビデオカメラによる直視下にトレーニングを行う.動脈瘤3Dモデルでは,マイクロカテーテルやマイクロガイドワイヤーの瘤内誘導操作,コイルやステントの留置などの手技を実際の症例に近い形でトレーニング可能である.血栓回収療法トレーニングでは,実際の血栓回収手技に加えて異なる吸引カテーテルやステントの挙動を比較検討することが可能となり,デバイス特性の理解を深められる.この3Dモデルは,low costでrealityが高く,症例の蓄積によりvariation豊かな術者トレーニングが可能で,特別な設備が不要で実際の手技に近い操作環境で学べることも利点である.今までの外科手術教育であった「見て学ぶ」から「実施して学ぶ」が可能となり,働き方改革時代に適したOFF-JTとして有用である.今後は,これらのトレーニングを継続し,客観的な技術評価を含むさらなる教育システムの構築が期待される.
院内発症脳梗塞(IHIS)のうち,抗血栓薬休薬中の発症は1/4以上を占めるにもかかわらず,その現状は明らかとなっていない.本検討は,抗凝固薬(AC)および抗血小板薬(AP)の休薬中に発症したIHISの臨床的特徴を明らかにすることを目的とした.2015年1月から2020年7月の間に大崎市民病院で発症したIHIS患者100例を対象とした.その中で発症時に抗血栓薬を内服または休薬していた患者を特定し,AC継続群,AP継続群,AC休薬群,AP休薬群の4群に分けた.患者背景や臨床転帰の各項目について,AC継続群とAC休薬群,AP継続群とAP休薬群をそれぞれ比較した.AC継続群(16例)とAC休薬群(10例)の間で,有意差のある項目は認められなかった.AP休薬群(9例)では,AP継続群(24例)と比較して,過去の脳卒中既往が多く(88.9% vs. 41.7%,p=0.021),CHA2DS2-VAScスコアの中央値(四分位範囲)が高かった〔6(5.8-7) vs. 5(3.5-6),p=0.006〕.AP休薬中に発症するIHISでは,脳卒中の再発や血栓塞栓リスクの高い患者が多く,APの休薬前には,これらの観点からリスク評価を行うことが望ましい.
アテローム性動脈硬化に伴う頚動脈狭窄症は,脳梗塞の主要な原因の1つである.当院では,2001年の開院以来,頚動脈狭窄症の外科治療の第一選択として,血栓内膜剝離術(CEA)を行ってきたが,2011年以降は頚動脈ステント留置術(CAS)の症例数は徐々に増加し,CASはCEAの代替治療として確立している.過去20年間の頚動脈狭窄症に対して治療を行った連続1,057例のCEAとCASの治療成績を比較検討した.背景として,平均年齢はCEA群で70.9歳,CAS群で75.1歳でCAS群でより高齢であり,性別,症候性率,狭窄率(NASCET)は両群間で有意差は認めなかった.全身麻酔率はCEA群で100%,CAS群で3.1%,平均手術時間は178分と43分,平均入院期間は16.9日と9.9日であり,CASは局所麻酔下で施行され,手術時間や入院期間は有意に短い結果であった.治療成績に関して,術後のDWI陽性率はCEA群6.5%,CAS群38%とCASで有意に高いが,術後のmodified Rankin scaleの悪化を伴う脳卒中は1.6%と1.5%で有意差を認めなかった.再治療を要する再狭窄はCEA群で3.1%,CAS群で3.7%と有意差はなかったが,再治療までの期間は43.9カ月と12.4カ月であり,CEA群で有意に再狭窄までの期間が長かった.過去20年でCEAとCASを比較してみると,CEAは550例中にmortality 4例で0.7%,morbidity 5例で0.9%であり,CASは507例中にmortality 0例で0%,morbidity 4例で0.6%であったが,統計学的には両群間で死亡や後遺症を伴う合併症に有意差を認めなかった.
後交通動脈 infundibular dilatation(PcomA ID)に発生した破裂動脈瘤の5例について検討を行った.対象期間における全破裂動脈瘤は75例であり,その頻度は6.7%であった.性別は全例が女性で,年齢は70代 2例,40代 1例,30代 2例で,若年者にやや多い傾向が認められた.大きさは平均1.9×2.4mmと小さく,またその形状はPcomA IDの壁の一部に発生したbleb type動脈瘤であった.すべての動脈瘤はPcomA IDの遠位外弯側に発生していた.この理由として,PcomA IDの壁への圧力,血流の衝突力およびずり応力の関与が推測された.PcomA IDに発生したbleb type動脈瘤は,小さくとも破裂する可能性があり,未破裂症例に遭遇した場合には注意を要する.特に若年女性症例に対しては,厳重な画像追跡が必要であり,積極的な破裂予防治療も検討されるべきであると思われた.
72歳,男性.症候性の右頚部内頚動脈高度狭窄に対して,頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)を施行した.不安定plaqueと高度屈曲病変を考慮して,embolic protection device(EPD)はMo.Ma Ultraを,stentはCASPER Rx stentを使用した.周術期は明らかな合併症なく経過したが,術後1年で施行した血管造影検査で,stent留置部位の直線化と,distal edge近傍の血管の不整な拡張所見を認めた.内頚動脈解離と診断したが,慢性期で安定していると判断し,無症候性であることから経過観察の方針となった.CAS時の血管解離は,catheter,wire,EPDの操作などによって生じるとする報告が多い.今回,CASPER Rx stent留置後に遅発性の内頚動脈解離症例を経験したので報告する.
細菌性脳動脈瘤は,破裂するとくも膜下出血を発症し,重篤化することが多いため,適切な診断および治療が重要である.1歳児の感染性心内膜炎に合併した右中大脳動脈細菌性脳動脈瘤に対して,STA-MCA bypass併用trapping術を施行し,良好な経過を得た症例を報告する.症例は1歳女児で,心室中隔欠損に対する術後に感染性心内膜炎を発症した.抗菌薬加療をされていたが,右中大脳動脈(MCA)M2 superior trunkの閉塞による脳梗塞を発症し,後大脳動脈の細菌性脳動脈瘤を認めた.1週間後に,後大脳動脈瘤は抗菌薬投与で消失したが,MCAは再開通し動脈瘤の出現があり,出血リスクが高いと考え,同病変に対して直達手術による再破裂予防を行った.動脈瘤の母血管に狭窄を認め,母血管の末梢にSTA-MCA bypassを施行し,安全にtrappingを行うことができた.有害事象なく経過し,同動脈瘤は消失した.抗菌薬加療継続によって,その他の動脈瘤も治癒が得られた.細菌性脳動脈瘤の壁は脆弱であり,neck clippingやcoil embolizationが困難な場合が多く,母血管閉塞が選択されることが多い.中枢病変であれば,広範囲の虚血につながるおそれがあるため,バイパスを念頭に手術を行う必要がある.
carotid artery stenting(CAS)の周術期に,虚血性合併症はしばしば経験される.プラーク飛散や血栓症が原因であることが多く,脳血管攣縮であった報告は少ない.今回,CAS後に症候性の脳血管攣縮を呈した1例を経験したので,報告する.
症例は71歳,男性.軽度の右麻痺にて入院し,magnetic resonance imaging(MRI)で左脳梗塞を認めた.MR angiographyでは左頚部内頚動脈に狭窄があり,エコーでは低輝度プラークを示す不安定プラークであったため,再発予防目的にCASを施行した.術後2時間に右麻痺と失語を呈し,MRIで術側に新規の脳梗塞が生じていた.翌日の脳血流検査では左大脳半球全体の血流低下があり,脳血管撮影では術側の脳血管攣縮を認めた.保存的加療にて術後11日目に神経症状は消失し,術後1カ月の脳血管撮影で脳血管攣縮の改善を確認した.
CAS後の脳血管攣縮による虚血性合併症は,まれであるが,注意する必要がある.治療に降圧を行った症例で神経症状の後遺が報告されており,過灌流症候群を速やかに鑑別し,安易に降圧をしないことが肝要である.
脳出血に対する外科的治療には,開頭血腫除去術・定位的血腫除去術・内視鏡的血腫除去術があるが,脳卒中ガイドライン 2021においては,血腫量・血腫による圧迫所見・神経学的異常所見の程度によって,被殻出血に対する定位的血腫除去術が推奨されている.定位的血腫除去術は,局所麻酔下でフレームを頭部に固定し,CT室で座標の計測を行い,その後に手術室で局所麻酔または全身麻酔下で行うことが一般的である.今回われわれは,被殻出血に対して,通常のCTを用いた駒井式フレーム座標計測に加え,ハイブリッド手術室で全身麻酔下にてcone-beam CTを用いた座標計測を行い,その後に定位的血腫除去術を施行した1例を経験したので報告する.
症例は高血圧を有する59歳,男性.起床時からの左片麻痺を主訴に当院搬送となり,右被殻出血の診断で,定位的血腫除去術を施行した.通常のCTを用いた血腫座標計測と,cone-beam CTを用いた座標計測との間に大きな誤差はなく,CT室・手術室間の移動を要さず,術直後に手術台上で頭蓋内評価も可能であるため,cone-beam CTを用いた座標計測に基づく定位的血腫除去術は有用な方法の1つになり得ると考えられた.
窓形成血管に対して血栓回収術を行った報告はまれである.今回,脳底動脈(basilar artery:BA)本管部閉塞に対し,術中にBAの窓形成を疑い,窓形成部の右動脈管に血栓回収を行い,再開通を得た1例を経験したので報告する.本症例は,ステントの挙動が窓形成の鑑別のための一助になった.BA本管部閉塞では閉塞血管が窓形成を有する可能性があることを考慮すべきである.