頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)はおおむね確立された手術であるが,内シャント使用の有無や高位病変へのアプローチなどは術者や施設によって異なる.本稿では当施設で用いている手術体位に関して解説した.適切な頭部回旋と挙上を行うことでretromandibular spaceは広がり,内頚動脈遠位端までのsurgical corridorを確保することができる.高位病変・非高位病変で手術方法を変えるのではなく,同一体位・同一手技を繰り返し行い,1つの手術に精通することで,高位病変であっても安全に内シャントを用いてCEAを行うことができると考える.
高齢化に伴い高齢者の未破裂脳動脈瘤に対する治療機会は増加しているが,適応は慎重に検討する必要がある.当院の75歳以上の高齢者に対する未破裂脳動脈瘤の治療成績を報告する.
2006年1月から2023年8月までに当院で治療した75歳以上の高齢者の未破裂脳動脈瘤66例(開頭術10例,血管内治療56例)を対象とし,開頭術と血管内治療で,年齢,基礎疾患,手術理由,動脈瘤径,部位,入院期間,入退院時のmodified Rankin Scale(mRS),合併症を検討項目として臨床像と治療成績を比較検討した.
56例(85%)で血管内治療が選択され,血管内治療で有意に年齢が高く(p=0.010),動脈瘤径が大きかった(p=0.110).開頭術は中大脳動脈瘤や遠位部前大脳動脈瘤,血管内治療は内頚動脈瘤や後方循環の動脈瘤が多かった(p=0.006).入退院時mRSに差はなかったが,入院期間は血管内治療で有意に短かった(p=0.0001).永続的合併症は5例(開頭術1例;10.0%,血管内治療4例;7.1%)で生じていたが,発生率に有意差は認めなかった.mRS低下(9例)の割合および永続的合併症率は,78歳以上(p=0.041,p=0.046),大型瘤(p<0.0001,p=0.012),内頚動脈瘤/内頚動脈-後交通動脈分岐部瘤(p=0.026,p=0.012)で有意に高かった.
未破裂脳動脈瘤に対する外科治療は高齢者においても有用だが,78歳以上,大型瘤,内頚動脈瘤/内頚動脈-後交通動脈分岐部瘤では合併症率が高まるため,適応と治療方法は慎重に検討すべきである.
脳動静脈奇形に対する治療によるnidus閉塞後の再発に関して,ガンマナイフを含めた定位放射線治療後の再発の報告はきわめて少ない.また,nidusは閉塞するも動静脈瘻のみが残存した症例の報告はこれまでない.今回われわれは,前頭葉脳動静脈奇形に対するガンマナイフ治療後にnidusの閉塞を確認したものの,動静脈瘻のみが残存し,経時的に静脈瘤が増大したために血管内治療にて塞栓術を施行した症例を経験したため報告する.
症例は9歳,女児.頭痛精査のMRIで左前頭葉底部に最大径4cm,Spetzler-Martin Grade 3の未破裂脳動静脈奇形を指摘された.脳血管造影検査では両側前大脳動脈から複数のfeederを介してnidusが描出され,3系統のdrainerを認めた.ガンマナイフ治療を施行し2年後にnidusの描出消失を認めたが,nidusを介さない動静脈瘻が残存した.その後も動静脈瘻は消失せず,経時的に静脈瘤の増大を認めたため,コイルとOnyx併用で塞栓術を施行した.術後にシャント血流は消失し,新規症状の出現なく自宅退院した.
high flow shuntを伴う脳動静脈奇形では,潜在的に動静脈瘻が存在すると考えられている.本症例の病態としては,ガンマナイフ治療によりnidus部分のみが閉塞し,動静脈瘻が顕在化した可能性が高いと考える.本症例では静脈瘤の短期間での増大が確認され,出血リスクを考慮して早期の介入を行ったが,その経過や治療についてこれまでの報告はない.本症例のようなまれな病態に対しては,綿密な画像評価による詳細な病態把握と,個別の治療計画,さらにその後の慎重なフォローアップが重要であると考える.
症例は52歳男性で,約5mmサイズの未破裂中型左内頚動脈瘤に対し,flow diverter(FD)留置術を企図した.術2週前よりアスピリンとクロピドグレルを投与したが,血小板凝集能検査でクロピドグレル不応症が疑われ,プラスグレルへ変更した.治療はコイル併用でPipeline Flex with Shield Technologyを留置し,密着も良好であった.術直後から抗凝固薬の持続投与も行った.頭部magnetic resonance imaging(MRI)およびangiography(MRA)の所見を含めて経過良好であったが,抗凝固薬中止約12時間後(術4日目)に突然の意識障害,失語,右上下肢不全麻痺をきたした.頭部MRIおよびMRAで広範囲左側脳梗塞と左内頚動脈閉塞を認めた.ステント内血栓症に対し血栓回収術を行い再開通したが,modified Rankin Scale 3でリハビリテーション病院へ転院となった.未破裂中型動脈瘤に対してFD単独留置とするかコイルを併用とするかは,母血管と動脈瘤の関係性ならびにblood flow dynamicsを考慮して決定すべきである.その際,内頚動脈小弯側動脈瘤に対するコイルの併用は血栓症を誘発する可能性があるため注意を要し,本症例ではFD単独留置をすべきであった.他方,コイル塞栓単独で初回治療を終え,再発時にFDを留置する選択肢も妥当とされた.
緒言:クラゾセンタン投与終了後にangiographic vasospasmに関連するdelayed cerebral ischemia(AVS/DCI)が新規発症,もしくは進行した2例を報告する.
症例 1:80代女性.World Federation of Neurosurgical Societies(WFNS)Grade 2の破裂右中大脳動脈瘤にコイル塞栓術を施行した.Day 3からDay 14にクラゾセンタンを投与しAVS/DCIを認めず.Day 17,19,20に右中大脳動脈にAVS/DCIを認め,塩酸ファスジル動注を施行した.血管内脱水がAVS/DCIを誘発した可能性が示唆された.
症例 2:50代,女性.WFNS Grade 5の破裂前交通動脈瘤,傍前床突起部内頚動脈瘤にコイル塞栓術を施行した.Day 2からDay 15にクラゾセンタンを投与した.Day 10に前・中大脳動脈のAVS/DCIを認め,低分子デキストランを投与した.Day 17に再度AVS/DCIを認め,塩酸ファスジル静注,補液増量し,脳梗塞にはいたらなかった.
結語:クラゾセンタン投与終了後もAVS/DCIの観察が必要である.
flow diverter stent(FD)は大型動脈瘤に対する高い治療効果が報告されているが,分枝血管を伴う動脈瘤での治療効果は確立されていない.大型内頚動脈後交通動脈分岐部(IC-PC)破裂動脈瘤に対してコイル併用FD留置術が奏効した2例を経験したので報告する.
症例 1:72歳,女性.頭痛を主訴に受診し,右IC-PC動脈瘤の破裂によるくも膜下出血を診断された.動脈瘤は10mm大でwide neck,後交通動脈(Pcom)は非胎児型でdomeから分枝していた.急性期のコイル塞栓術から8カ月後に動脈瘤再開通を認め,コイル併用FD留置術を施行した.12カ月後の血管撮影でPcomは狭小化し動脈瘤は描出されず,O’Kelly-Marotta(OKM)scale Cと判断した.
症例 2:72歳,女性.意識障害を主訴に受診し,左IC-PC動脈瘤破裂によるくも膜下出血を診断された.動脈瘤は13mm大でPcomは動脈瘤のneck近傍から分岐し,P1径とPcom径は同程度であった.同日コイル塞栓術を施行したが2カ月後に再開通を認め,コイル併用FD留置術を施行した.治療直後Pcomは内頚動脈撮影で描出されていたが,10カ月後の血管撮影で動脈瘤は完全閉塞しPcomは描出されず,OKM scale Dと判断した.
コイル塞栓術後に再開通を認めた破裂IC-PC動脈瘤に対しコイル併用FD留置を行い奏効した2例を経験した.治療に難渋する大型IC-PC動脈瘤に対する選択肢としてFD留置術が考慮される.
ガンマナイフ治療は脳動静脈奇形(AVM)に対する有効な治療法として広く用いられているが,長期的には放射線誘発性の血管病変を生じることがある.本症例は,30歳を超えてAVMに対するガンマナイフ治療を受けた成人患者が,治療から25年を経ててんかん発作と左下肢麻痺を呈した.外科的摘出が行われ,術中および摘出標本の肉眼的観察により,放射線誘発性海綿状血管奇形(cavernous malformation),囊胞,慢性被包化血腫(chronic encapsulated hematoma)の3病態が同時に存在することが確認された.摘出標本の病理診断によりcavernous malformationと確定され,術後症状は改善し社会復帰を果たした.
本症例は,成人発症のAVM治療例において,radiation-induced vasculopathyの自然史の中でcavernous malformation,cyst,hematomaが段階的に形成され進展したことが病理学的に確認された稀有な報告であり,長期的な経過観察の重要性と今後の症例集積の必要性を示している.
術前検査で診断が困難で,顕微鏡下の手術所見で後交通動脈解離によるくも膜下出血(SAH)と判明した1例を経験したので報告する.
69歳,男性.突然の頭痛と嘔吐を発症し,当院へ救急搬送された.CT血管造影検査にて右中大脳動脈分岐部に2mm大の動脈瘤を認めた.CT上の血腫の分布が右優位であり,脳血管撮影も行ったが,他に出血源となる病変が特定できなかったので,破裂瘤と判断して動脈瘤頚部クリッピング術を施行した.術中所見では,右中大脳動脈瘤は血腫と癒着しておらず,全周性に剝離するも瘤壁が破綻した所見はなかった.血腫を除去しながら近位へと検索したところ,内頚動脈周囲に血腫が多く,後交通動脈の血管壁に薄い血腫と癒着が認められ,後交通動脈自体の解離性動脈瘤破裂によるSAHと判明した.解離部から穿通枝の分岐があったため,クリップによる処置は困難であり動脈瘤包皮術を施行した.術後MRIでは,虚血性変化なく経過し,mRS 1まで回復した.顕微鏡下に出血源の特定ができることは開頭手術にとって有利な点であり,本症例において良好な治療経過に寄与したと考えられる.