前床突起は蝶形骨縁の内側端に位置し,外側からは蝶形骨縁,尾側からは視束管の一部であるoptic strutに支えられている.内頚動脈瘤頚部クリッピング術において前床突起削除は,内頚動脈近位部の確保や広い術野を得るために有用な手技である.微小解剖学的知識に基づいた段階的前床突起削除を行うことで,視神経や内頚動脈への熱損傷および機械的損傷を回避することができる.本稿では,われわれが行っている傍鞍部動脈瘤の頚部クリッピングにおける硬膜外前床突起の段階的削除法について紹介する.段階的前床突起削除は傍鞍部内頚動脈瘤の頚部クリッピングにおいて,合併症を回避するだけでなく教育的観点からも有用である.
当院での90歳以上の超高齢者に対する機械的血栓回収療法の治療成績において,超高齢者特有の問題点に対する考察を加えて報告する.
2015年2月から2020年11月までの間に当院で施行した90歳以上の血栓回収療法施行36症例を対象とした.退院時modified Rankin Scale(mRS)を主評価項目とし,その他にThrombolysis in Cerebral Infarction(TICI)grade,出血性合併症の有無,退院時National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS),大腿動脈穿刺から再開通までの時間などを副次評価項目とした.退院時mRS0-3もしくは発症前mRSと不変を転帰良好例と定義した.
平均年齢は93歳であり,転帰良好例は33.3%(12例),死亡例は19.4%(7例)であった.TICI 2b以上の再開通を得られたのは66.7%(24例),症候性の出血性合併症例は5.6%(2例)であった.退院時mRSが発症前mRSと不変の症例を転帰良好群に含めれば,33.3%で良好な転帰が得られていた.
超高齢者の特性の理解なしには有用性は十分に発揮されないが,超高齢者に対しても血栓回収療法は有効であると考えられた.
FilterWire EZ(FW-EZ)でのcarotid artery stenting(CAS)においてflow impairmentを起こす要因は明確ではない.本研究ではFW-EZにおけるflow impairmentを起こす要因について後方視的に評価を行い,FW-EZでのCASの治療適応について再検討した.
2015年1月から2020年7月までにFW-EZによるCASを施行した68症例を対象とした.slow/stop flowを呈した群(impairment群)13症例と,呈さなかった群55症例の2群において患者背景,black-blood MRIでの術前プラーク評価,治療成績について比較検討した.
背景では症候性病変の割合が,プラーク評価ではMRI T1強調画像の最大plaque/muscle(P/M)比,およびソフトプラークの断面積・長軸長・体積が,治療成績では周術期の虚血性合併症の割合がimpairment群で有意に高かった(p<0.05).
ソフトプラーク量の多い症候性病変に対するFW-EZでのCASはflow impairmentや虚血性合併症を伴うことが多いため,このような症例に対しては他のprotection systemの使用が望ましい.
PIPELINEを用いてflow diverter(FD)治療を施行した内頚動脈に局在を置く未破裂ないし破裂慢性期の大型巨大脳動脈瘤131例136瘤を対象とし,治療2年後の臨床および放射線学的結果を後方視的に検討し分析した.臨床的結果ではmRSが1以上悪化したのは2例(1.5%),放射線学的結果では77.9%が完全閉塞であった.不完全閉塞の予測因子は,著しい大型ないし巨大,著しいワイドネック,高齢者であった.コイル塞栓術の併用は完全閉塞の予測因子であった.脳動脈瘤の圧排効果による脳神経麻痺では,動眼神経と外転神経は視神経よりも回復が良好であった.FD治療は未破裂ないし破裂慢性期の大型巨大内頚動脈瘤に対する第一選択となり得るが,不完全閉塞の予測因子を有する症例ではコイル塞栓術の併用が有効な可能性がある.脳動脈瘤による圧排効果の解消が強く優先される症例では母血管永久閉塞術,直達術とのリスクとベネフィットの検討が必要である.
近年,急性期脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓回収術(mechanical thrombectomy:MT)直後の頭蓋内出血(ICH)の評価に関して,dual energy CT(DECT)の有用性が報告されている.2019年3月から2020年7月までにMT直後にDECTを施行した16例を対象としてICHの評価と術後経過を検討し,当院での周術期管理について報告する.
男性12例,女性4例,平均年齢は72.1歳,術前のNational Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)の中央値は17点で,tissue plasminogen activator(tPA)の静脈内投与を先行した症例は1例のみであった.modified Thrombolysis in Cerebral Infarction(mTICI)score 2b-3の有効再開通を得られたのは15例,再開通が得られなかったmTICI 0が1例であった.DECTの元画像で高吸収域を認めた症例は11例,そのうちICHと判定した症例は6例であった.ICHと判定した6例中,術直後にプロタミンを投与した3例では経時的なICHの拡大は認めず脳梗塞の再発も認めなかった.プロタミンを投与しなかった3例は経時的なICHの拡大を認め,2例は軽度の拡大であり1例は広範囲な拡大であった.
DECTを撮像することで,MT後のICHを詳細に評価することが可能となる.治療成績の向上のためには術後早期にICHの合併を診断し,厳密な周術期管理を行うことが重要である.
破裂椎骨解離性脳動脈瘤(VADA)の治療は,破裂部位を含めた直達術や血管内治療によるinternal coil trappingが第一選択となっている.当院では血管内治療によるinternal coil trappingを施行しているが,塞栓後の脳幹梗塞が大きな問題である.VADAの血管内治療時の脳幹梗塞発生について検討し報告する.
2003年1月から2020年4月までに入院したVADAの61例を対象とした.internal coil trappingを施行しなかった症例,解離が脳底動脈に及ぶ症例,翌日にMRIを施行していない症例は除外した.
除外例を除く52例を検討した.脳幹梗塞は13例(25%)に生じた.VADAの長さとinternal coil trappingの長さは,相関係数は0.945(p<0.001)で,強く相関していた.脳幹梗塞が有意に多い因子は,脂質異常症の既往(p=0.016),none PICA type(p=0.001),internal coil trappingの長さが長い(p=0.006),VADAの長さが長い(p=0.002)であった.退院時のmRS 2以上の症例は,脳幹梗塞群10例(76.9%),非脳幹梗塞群12例(30.7%)で,脳幹梗塞群に有意に多かった(p=0.004).
破裂VADAはinternal coil trappingが有効であるが,脳幹梗塞の発生は退院時mRSを悪化させる因子である.脳幹梗塞発生を抑えるためは,密に短い範囲で塞栓することが重要と考えられるが,本研究ではVADAの解剖学的所見によっては,短く密な塞栓を施行したとしても,脳幹梗塞を防ぐことができない可能性が示唆された.
ガンマナイフ治療(GKRS)後に脳動脈瘤が誘発された報告が散見されている.前庭神経鞘腫に対してGKRSが行われ,長期間を経てくも膜下出血(SAH)を発症した症例を経験したので報告する.
患者は66歳男性で,28年前に右前庭神経鞘腫に対してGKRSが施行された.急な頭痛と嘔吐を主訴に救急搬送され,頭部CTでSAHと診断された.脳血管撮影にて右前下小脳動脈(AICA)末梢に紡錘状動脈瘤を認め,破裂動脈瘤と考えられた.MRIで拡大した右内耳道内に残存腫瘍と接する動脈瘤を認めた.発症14日目に開頭手術を行った.外側後頭下開頭を行い,内耳道後壁を削除すると,内耳道内に残存腫瘍とそれに包まれる動脈瘤を認めた.腫瘍と動脈瘤の癒着は強固であり,腫瘍と一塊にして動脈瘤を摘出した.術後,一過性の顔面神経麻痺はみられたものの脳梗塞の出現はなく,mRS 1で自宅へ退院した.
脳動脈瘤形成はGKRSのまれな遅発性合併症ではあるが,近年報告が増えており,その治療方法に関しては一定の見解はない.われわれはGKRSにより誘発されたAICA末梢の破裂脳動脈瘤に対して直達手術により良好な結果を得ることができた.
血栓回収療法の適応となる患者が到達経路に脳動脈瘤を合併している場合,血栓回収時に破裂する危険性を伴う.左中大脳動脈閉塞症に対して血栓回収を行う際に,左内頚動脈-前脈絡叢動脈分岐部に未破裂脳動脈瘤を合併しており,吸引カテーテルを併用した手法により安全かつ有効な再開通を得られた1例を経験したため報告する.
中脳尾側傍正中部梗塞(caudal paramedian midbrain infarction:CPMI)は非常にまれな脳血管障害で特異な症候を呈するが,血管内治療の合併症として発症した報告は,われわれが渉猟し得たかぎり過去にない.未破裂脳底動脈先端部動脈瘤に対するステント支援下コイル塞栓術後に両側CPMIをきたした1例を経験したので報告する.
症例は70歳女性.最大径11mmの未破裂脳底動脈先端部動脈瘤に対して,ステント支援下コイル塞栓術を施行した.術後から両側の眼球運動障害,構音障害,小脳失調を認め,術翌日のMRIで両側CPMIと診断した.手技に伴う穿通枝障害と考えられた.
脳底動脈先端部がasymmetric typeの場合,caudal sideの本動脈瘤に対する塞栓術において穿通枝障害は出にくいとされている.しかし,本症例を後方視的にみると,術前の高解像度コーンビームCTで右PCAの背面から中脳に向かうinferior paramedian mesencephalic artery(IPMA)と思われる穿通枝が描出されていることが確認され,同血管の障害により両側CPMIをきたした可能性が高いと考えられた.
脳底動脈先端部動脈瘤に対するコイル塞栓術において,術前の詳細な穿通枝の評価が重要である.
中心静脈カテーテルの椎骨動脈への誤挿入に対して外科的にカテーテルを抜去した1例を経験したので報告する.
症例は70歳の男性.体幹部CTにて膵臓に膿瘍形成が疑われ,治療の一環でエコーを用いて中心静脈カテーテル留置が施行された.その際に椎骨動脈誤挿入となり,当院に緊急搬送となった.頭部MRIでは右視床梗塞と右後頭葉脳梗塞を認めた.また,造影CTで右側頚部から挿入されたカテーテルは,右鎖骨下動脈と右椎骨動脈分岐部から末梢約5mmの部位から椎骨動脈に迷入し,先端は腕頭動脈に位置していた.単純にカテーテルを抜去するだけでは,止血困難になることや血栓により脳塞栓症になる可能性,および動静脈瘻が形成される可能性があった.そのため,外科的に顕微鏡下にカテーテル抜去術を施行した.術後経過は良好であり,合併症はなかった.
中心静脈カテーテル留置の合併症である椎骨動脈誤挿入に対しては,単純な抜去のみでは動静脈瘻などのリスクがあるため,外科的な抜去術も有効な手段の1つであると考えられた.
動脈硬化巣が遠位に及ぶと下顎の奥で操作するため頚動脈内膜剝離術(CEA)は難しくなる.exoscopeを用いることにより,動脈硬化巣が遠位に及ぶCEAでも安全な治療となる可能性がある.
症例は動脈硬化巣が第2頚椎下端に達していた高位CEAの2症例.三鷹光器株式会社製HawkSight®を使用した.
exoscopeの特徴を活かした,自然な姿勢,高倍率,切れ目ないexoscope・肉眼手技などの点で,遠位に病変が及ぶ2症例においても安全かつ容易なCEAが可能であった.
頚動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)後に再治療に迫られた場合,脳血管内治療を施行されることが多く,直達手術が選択されることはほとんどない.今回われわれは,CAS後の再治療として脳血管内治療が奏効しなかったため,外科的なステントの除去を施行した症例を2症例経験した.1症例はCAS後早期のplaque protrusionであり,ステントの除去と頚動脈内膜剝離術(carotid endarterectomy:CEA)を施行した.もう1症例は遅発性のステント内狭窄であり,ステントを含んだ病変部ごと除去し人工血管への置換(carotid bypass:CB)を行った.いずれも,術後経過は良好であった.CAS後の再治療として,直達手術も有効な手段の1つであり,特に複数回の脳血管内治療に抵抗性の場合は躊躇なく選択すべきである.
80 歳,女性.突然の頭痛,意識障害で発症した左側頭葉皮質下出血で救急搬送された.造影3DCTでは明らかな動脈瘤や硬膜動静脈瘻を認めなかったため,緊急で開頭血腫除去術を施行した.術前には年齢から脳動静脈奇形は疑っていなかったが,術中にnidusなど脳動静脈奇形の所見を認めた.初回手術では血腫除去のみにとどめ,術後に脳血管造影検査で病態を把握後,二期的に脳動静脈奇形摘出術を施行した.高齢者脳出血においてもまれでもあるが脳動静脈奇形が出血源であることがあり,また破裂急性期に造影CTで描出されないことがあるため注意が必要である.