2024 年 52 巻 1 号 p. 35-41
上錐体静脈を介し後頭蓋窩へ逆流を伴う硬膜動静脈瘻は,脳幹および小脳出血の危険性がある.観血的な治療より低侵襲な血管内治療や放射線治療が優先される状況も多い.これらの治療で根治が得られない場合でも,上錐体静脈が唯一の流出路の場合は観血的な遮断が依然有用である.
症例1は歩行障害をきたした69歳男性.左内頚動脈から天幕動脈を栄養血管とする左天幕部硬膜動静脈瘻が存在し,静脈洞を介さず上錐体静脈を経て脳幹周囲静脈へ逆流し,脊髄静脈への逆流と脳幹の浮腫を認めた.天幕動脈の経動脈的塞栓術と放射線治療で根治が得られず,直達手術により上錐体静脈を遮断した.治療後に硬膜動静脈瘻は消失した.
症例2は脳皮質下出血を発症した70歳女性.左横・S状静脈洞部の硬膜動静脈瘻に対し,急性期に経動脈的塞栓術を行い,慢性期に経静脈的に静脈洞閉塞を行った.上錐体静脈洞の塞栓が不十分となり,上錐体静脈を介した小脳の皮質静脈への逆流が残存した.追加の経動脈的塞栓術で根治が得られず,直達手術による上錐体静脈の遮断を行い短絡は消失した.
塞栓術では根治が得られず,直達手術による上錐体静脈の処置により合併症なく短絡が消失した2症例を経験した.硬膜動静脈瘻に対する上錐体静脈の観血的な処置の安全性については,今後も症例の積み重ねが必要である.