2024 年 52 巻 1 号 p. 30-34
浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(superficial temporal artery-middle cerebral artery bypass:STA-MCA bypass)のdouble bypassは,通常STAの前頭枝と頭頂枝を用いるが,どちらかの分枝の欠損や発達不良である症例が存在する.今回,STA-STA bypass(grafting bypass)を追加し1本のSTAでdouble bypassを行った症例を報告する.症例は67歳,女性.右片麻痺,失語症で受診.左M1閉塞があり内科的治療を行ったが症状が増悪した.IMP-SPECTで左MCA領域の広範な脳血流低下がありSTA-MCA double bypass術を予定したが,前頭枝の発達が不良であった.そこで,発達した頭頂枝1本でSTA-STA bypass(grafting bypass)を追加しdouble bypassを行うこととした.手術は頭頂枝の遠位側を切断し,STAとSTAを端側吻合してY字型のグラフトを作成し,それぞれを通常のSTA-MCA bypassと同様に中大脳動脈に吻合した.術後新たな神経症状や脳梗塞はなくbypassは2本とも開存していた.この方法はすべての吻合が脳神経外科領域で最も多用される端側吻合のみで完結できることが利点であり,ドナーとして使用できるSTAが1本である症例に有用と思われた.