抄録
日本政府は、脱炭素社会に向けて2050年カーボンニュートラルを宣言しており、2030年までに温室効果ガス排出量を46%削減(2013年比)することを目標としている。この目標を達成するためには、温室効果ガス排出量の17.4%を占める運輸部門においては、次世代自動車、特にバッテリー電気自動車(以下、BEV)の普及が必要とされている。しかし、現在の新車販売台数に占めるBEV販売台数は、1.4%(2022年)と非常に低い。そこで本研究では、欧州でBEVの普及分析のために提供されているSDモデルであるPowertrain Technology Transition Market Agent Model(以下、PTTMAM)を日本の自動車市場に適用して分析を行うこととし、モデルの改良を行った。その後、このモデルを用いて給電施設の設置状況がBEVの普及に及ぼす影響を動的かつ定量的に分析した。最後に、給電施設の設置とBEVの普及に関する政策の評価を行った。その結果、補助金が適用され給電施設事業が成立する場合、2035年次の給電施設数は2022年比+19.5%で、BEVの普及率は2022年比+21.8%となった。一方、現状の補助金政策の下では給電施設事業の運営が難しく、一部の事業者が撤退する場合、2035年次の給電施設数は2022年比+17%で、BEVの普及率は2022年比+20%になることを明らかにした。