2020 年 19 巻 p. 57-76
本研究では, 中国人日本語学習者が, 日本語の漢字熟語認知において, どのような音韻情報処理を行っているか, 特に, 日本語母語話者のように構音コントロール過程を経ない処理を行っているかを検討した.実験1では, 中国人日本語上級学習者17名が日本語の漢字熟語対の同音判断課題を行った.構音抑制下で, 同音語を非同音語であると判断する誤反応が増大するという結果が得られ, 中国人日本語学習者は構音コントロールを経る音韻情報処理を行っていることが示唆された.実験2では, 40名の中国人日本語学習者を音韻変換速度の速い群と遅い群に分け, さらに, 刺激を中国人日本語学習者向けに改訂して, 同様の実験を行った.その結果, やはり構音抑制下で誤反応が増大した.さらに, 反応時間には, 音韻変換速度が速い学習者のほうが構音抑制の影響を受けやすいという傾向が表れた.中国人日本語学習者は日本語母語話者と異なり, 日本語の漢字熟語の音をより細かい単位に分離し, 構音コントロール過程を経る音韻情報処理を行いやすいこと, しかも, 音韻変換速度が速い学習者のほうがその傾向が強い可能性が示された.