2024 年 23 巻 p. 5-27
本稿では、第二言語学習者が方略的であることを示す。第二言語学習者はネイティブスピーカーに気づかれない場合、音節末子音や子音からなる屈折形態素の産出を、母語文法を利用して最適化していると指摘する。まず研究1では、中国語を母語とする英語学習者の2グループによる、屈折形態素の「s」と音節末の「s」の産出を調査した。「可変的削除」グループは方略的であり、可能な限り母語の表象を用いて、屈折形態素の—sを約半数のケースで発音する。どちらのグループも単一形態素からなる語の末尾の「s」は一貫して発音するが、方略性の低い「全削除」グループでは、彼らの構築した英語文法に屈折形態素を表象し、産出する手段を持たないため、屈折形態素のsが産出されない。研究2および3では、英語母語話者に近い能力を持つ中国語話者と中上級の英語能力を持つビルマ語話者を対象に、音節末の「s」と「1」の産出を比較した。どちらの研究においても、第二言語学習者は習熟度に関係なく方略的であることが示された。置換や削除による修正が英語話者に気づかれやすい音節末の「s」の場合には、彼らは母語の文法を活用するが、誤りがそれほど問題とならない音節末の「1」の場合は、最適化にあまり注意を向けずに置換や削除を行う。研究4では、英語母語話者に近い能力を持つ日本語話者を対象に、語末の子音の産出を調査した。日本語では語末に調音点素性のない鼻音しか許されないが、英語ではさまざまな子音が許される。その結果、学習者は彼らの母語にある語中の長子音の表象を語末の子音に転用することで、英語に適した形に見えるが、実際には母語の文法に基づいた方略を用いていることが示された。