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日本語における深層/表層の非対格性に関する第二言語知識
平川 眞規子
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2003 年 2 巻 p. 23-51

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抄録

本論文は, 日本語学習者 (英語母語話者) のもつ日本語における非対格性の知識に関する実証的研究である.ここではLevin & Rappaport Hovav (1995) やKageyama (1993) に従い, 深層と表層の非対格性を区別する.深層の非対格性は, 非対格動詞の項が目的語の位置に生成される構造をさす.それに対し, 表層の非対格性は, 目的語の位置に生成された項が派生後も同じ位置を占める構造をさす (すなわち, 主語の位置に移動しない).日本語は深層と表層の非対格性をもつと主張されており (Kageyama, 1993;Yatsushiro, 1999), 「たくさん」構文や数量詞浮遊 (quantier floating) をテストに用いた第二言語獲得に関する先行研究によれば, 日本語学習者は深層の非対格性に関する知識を有する (Hirakawa, 1999;Sorace & Shomura, 2001).しかしながら, これらの研究で使用された格脱落 (Case Drop) テストは, 日本語母語話者の振るまいが予測とは異なり, 表層の非対格性の知識を調べるには不十分であった.本研究は, こうした先行研究をさらに発展させ, 新たな構文 (深層レベルの非対格性のテストとして結果構文, 表層レベルの非対格性のテストとして使役受動文) を用いて実験を行った.その結果, 深層の非対格性は中級および上級学習者ともに獲得されたが, 表層の非対格性は上級学習者のみに獲得された.結論として, 第二言語学習者のもつ文法はUGの原理の制約を受けているが, 非対格動詞の特質が第二言語と第一言語において異なる場合には, 第一言語の影響も受けることが導き出される.

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© 日本第二言語習得学会
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