物理探査
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解説
2003年十勝沖地震にみる石油タンク被害の特徴と対策
座間 信作
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2006 年 59 巻 4 号 p. 353-362

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抄録

 2003年十勝沖地震では,長周期地震動により励起された石油タンクのスロッシングにより,苫小牧において,タンク火災 2 件,浮屋根沈没 7 基などの甚大な被害が生じた。速度ポテンシャル理論に基づく推定最大波高と被害との関係からは,甚大な被害は,1 例を除いて全てスロッシング固有周期 7 秒以上のシングルデッキ浮屋根式タンクであること,周期12秒付近のタンクを除き,最大波高は 2 m 以上であること,周期12秒付近のタンクについては,2 次モード(周期5.6秒)が卓越したことが沈没の原因となったと考えられること等を指摘した。
 甚大な被害のあったタンクサイト最寄の速度応答スペクトルが,周期約 4-8 秒の間で,当時の規制値である約 100 cm/s の 2 倍以上の強さであったことから,スロッシング対策の一つとして,長周期帯域の設計用地震動の見直しを行った。
石油コンビナートは全国84箇所に散在しており,将来起こりうる大地震の震源からこれらのタンクサイトまでの広域深部地下構造はまだ殆ど明らかとなっていないことから,地震記録に基づいた経験的手法により,各コンビナートでの速度応答スペクトルを予測した。用いたデータは1950年以降の気象庁 1 倍強震計記録,K-NET, KiK-net,港湾の記録である。
震源地が同じ場合,波形が酷似していることが多いことから,地震地体構造区分毎にデータを整理し,震源のスケーリング則を考慮した距離減衰式と観測スペクトルの比を地域特性として抽出した。これに基づいて,地震地体構造区分毎に与えられている最大規模地震に対する各コンビナートでのスペクトルを予測した.更に限られた地域ではあるが,理論(数値)的,半経験的手法による予測値をも取り入れ,最終的に揺れやすいコンビナート地域を指定するともに,それぞれの地域に対する設計用スペクトルを提案した。なお,これに基づく技術基準の改正が行われ,2005年 4 月施行となった。

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© 2006 社団法人 物理探査学会
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