地中熱利用システムの普及のためには,安定して継続的に利用できるシステムを着実に設置していくことが鍵である。このような安定したシステムを導入するためには,設計や施工前に熱の利用可能量を把握し,熱交換井の本数や深さを最適化することが重要である。そしてこの最適化において有効な評価方法のひとつが採熱率等を計算によって予測することである。このような予測計算においては,現場近傍の地質構造や地下水特性,地下温度等の地下環境情報がモデル設定のために必要不可欠である。しかしながら,これらの情報のうち地下温度については,特に整備が遅れているのが現状である。そこで本研究では,埼玉県平野部をモデル地域として,この地域の23地点で地下温度調査を実施し情報の整備を図った。さらに採熱率の予測計算のためにこのデータを活用した事例を示した。
一方,システムの導入を検討する初期の段階においては,地中熱ポテンシャルの地域特性が重要な情報となる。そこで本研究では,地震被害想定のために作成された250mメッシュの浅層地盤モデルを活用し,高い空間分解能で地中熱ポテンシャルを評価する手法を検討し,埼玉県南東部に適用した。その結果,評価した地域においては,台地のほうが低地に比べて高めの地中熱ポテンシャルをもつことが明らかになった。
本研究で実施した地下温度情報やポテンシャルの評価は,調査コストの低減や精度の高い予測にもつながると期待される。