物理探査
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磁気探査データ解析のための岩石物性測定―北海道武佐岳地熱地域の例―
杉野 由樹上田 匠大熊 茂雄石塚 吉浩宮川 歩夢
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2020 年 73 巻 p. 117-122

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抄録

調査地域に分布する岩石の磁気的性質を含む物性情報は,磁気探査の結果を解釈する上で非常に有効である。しかし,これまで,磁気探査と並行して岩石磁気データの詳細が調べられる事は少なかった。一方,北海道東部の武佐岳地熱地域では,JOGMECにより地熱資源ポテンシャル調査を目的に高分解能空中磁気探査が実施され,顕著な低磁気異常域が観測されている。そこで,本研究では当該地域で採取された露頭岩石について,その密度,磁化率および自然残留磁化(NRM)を実験室内で測定することで,磁気探査データの解釈への活用可能性について検討を行った。

イケショマナイ川右岸(A地点),シュラ川流域(B地点)とクテクンベツ川右岸(C地点)の3箇所から採取した露頭岩石(ブロック試料)を円筒試料に整形して測定に用いた。B地点の全部とC地点の一部の試料は,高NRM強度(≥1.0 A/m)かつ高Qn比(≥1.0)で,また負の伏角を示す。一方,A地点の全試料とC地点の一部の試料は,低NRM強度(≤1.0 A/m)かつ低Qn比(≤1.0)で,また正の伏角を示す。

次に交流消磁実験を各地域から選定した試料について行ったところ,全ての試料はNRMの伏角が負となり,初生磁化が逆帯磁であることが分かった。この結果は,岩石採取地点付近に分布する顕著な低磁気異常と整合的であり,これらの低磁気異常が地熱兆候によるものではなく,逆帯磁の火山岩の分布によるものであることを示している。一方,A地点から採取した岩石の鏡下鑑定と蛍光X線分析による全岩分析を実施したところ,変質が進み有色鉱物が少ないことが判明し,結果として磁性を弱めていることが分かった。

以上より,北海道東部の武佐岳地熱地域では露頭岩石の物性測定結果と磁気探査との対応が非常に良い事がわかり,磁気探査の解釈を行う上で,表層部の岩石物性情報の詳細を調べることが有効であることが明らかとなった。

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© 2020 社団法人 物理探査学会
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