2021 年 74 巻 p. 17-29
大阪平野北部と北摂山地の境界に位置する北摂地域は,北側に地溝帯である芋川低地,南側に丘陵地形の千里丘陵を有しており,複雑な地質構造を形成している。このような北摂地域において,芋川低地と千里丘陵の2地点で最大アレイ半径の異なる2種類(Rmax=約500m,1000m)の微動アレイ探査を実施し,得られた観測位相速度に基づいて各観測点の1次元S波速度構造モデルを推定した。ただし,微動アレイ探査で得られた観測位相速度が最大で2000m/s程度であったため,地震基盤相当(Vs=3000m/s前後)の上面深度の推定は困難であった。そこで,深部の地下構造のモデル化では微動アレイ探査地点付近で実施された探査仕様が異なる2つの反射法地震探査データを組み合わせて再解析した結果を用いた。すなわち,(1)微動アレイ探査による観測位相速度と再解析した反射法地震探査によるP波反射断面の両方を説明できるように,深さ約500m以浅の浅部地下構造は微動アレイ探査結果,それ以深の深部地下構造は再解析した反射法地震探査結果を用いて,両者を統合して地下速度構造をモデル化した(以下,「統合地下速度構造モデル」)。その結果,統合地下速度構造モデルの地震基盤相当の上面深度は芋川低地では約1000m,一方,千里丘陵では約600mであり,北摂地域において地震基盤相当の上面深度が急変することがわかった。また,(2)同じ北摂地域では(公財)鉄道総合技術研究所によって臨時地震観測が実施されており,各地点の地盤増幅特性の検討が進められているが,この検討に資する浅部の初期地下速度構造のモデル化を目的に,前述の微動アレイ探査と同時期に臨時地震観測点付近で極小微動アレイ探査(Rmax=約30m)を実施した。極小微動アレイ探査から,S波速度約500m/s以下の堆積層の層厚が芋川低地では200m程度であるのに対して,千里丘陵では約100m以下で,芋川低地と千里丘陵で表層の堆積層の厚さが大きく異なっていることがわかった。