物理探査
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論文
月面探査に向けた地震アレイの小型化:アポロの微動データを用いた可探深度の検討
折田 まりな池田 達紀辻 健
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2021 年 74 巻 p. 79-91

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抄録

 現在,月の地下にあると考えられている水氷は将来の地球外での活動を行なう上で,資源として重要とされている。また,将来的には月面に基地を建設する計画もある。こうした中,月の地下のS波速度構造を求めることは,水資源の発見や地盤支持力の推定などに繋がり,重要である。また月探査では,ロケットに搭載できる物資の量や金銭的な問題から,探査機の重量や大きさに限度がある。そのため,探査システムの軽量化や小型化が求められている。本研究では,この課題を解決しつつ,月のS波速度構造を調べるシステムを検討した。具体的には,小型の地震計アレイを使用して微動を観測し,Centerless Circular Array(CCA)法で解析した場合のアレイ配置毎の可探深度を評価した。CCA法で求められる可探深度は,微動の「NS比(SN比の逆数)」,「アレイ半径」,「地震計の数」により影響を受ける。そこで,実際に月面で取得されたアポロ14号から17号の微動データを用いて,月の微動のNS比を推定し,月の環境下で小型アレイを使った場合を想定した評価を行なった。月面を伝播する表面波の周波数ごとの波数kobsが,NS比,アレイ半径,地震計の数を用いて求められる最小波数解析限界kminを上回る最小波数から長波長限界を求め,その波長の三分の一から可探深度を求めた。まず,地球の微動データにおいてこの方法の有効性を確認した後,CCA法を月探査で用いる際に考慮すべき点や課題を整理し,月での可探深度を推定することで,求めたい深度に対してどのようなアレイ配置や地震計の精度が必要かを考察した。例えば,求めたい深度が3 mの場合,精度の良い地震計を用いてノイズを抑える,もしくはノイズの小さい時間帯のデータを選んで解析すれば,五角形アレイでは0.3 m半径,三角形アレイでは0.5 m半径の小型アレイでも探査できることが分かった。このように,本研究で提案する評価方法は,将来の月探査プロジェクトで地震計アレイを設計する際に有効であると考えられる。

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© 2021 社団法人 物理探査学会
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