2023 年 76 巻 p. 14-21
深海底の鉱物資源の空間規模把握と成因評価のためには試料の採取および物性計測・化学組成分析が必須である。特に掘削調査により得られる深度方向に連続した試料は,物理探査の有効性評価の観点からも極めて重要である。本研究では海底熱水鉱床の試料情報拡充と潜頭性鉱床に対する自然電位探査の有効性評価を目的とし,潜頭型海底熱水鉱床の胚胎有望地点に対し海底着座型深海用ボーリングシステムによる海底下掘削を実施した。掘削は,熱水兆候と自然電位異常の双方が見られる地域で1点,熱水兆候はあるが自然電位異常のない領域で1点,計2地点で実施された。自然電位異常域で採取されたコアには硫化鉱物の沈殿が確認された一方,自然電位異常の見られない領域で採取されたコアは火山性砕屑物で構成されており,硫化鉱物はほとんど見られなかった。自然電位異常域のコアには詳細な物性計測および化学組成分析が実施された。まず,コア全体に比抵抗測定を実施し,さらにセクションごとに精密なスペクトル誘導分極計測を実施した。また,蛍光X線分析法による元素濃度分析とX線回折分析による鉱物同定も実施し,掘削記載と併せて鉱物分類を行った。その結果,約20 mの範囲に渡る方鉛鉱や黄鉄鉱など導電性硫化鉱物の断続的な産出が明らかとなった。これらの導電性硫化鉱物の濃集地点の分布は,誘導分極効果の強度が高い地点の分布と良く対応することがわかった。一方で高い誘導分極効果の地点と低比抵抗の地点の分布は一致しなかった。以上より,本研究は熱水兆候が必ずしも海底熱水鉱床の胚胎を意味しないこと,自然電位探査が潜頭性鉱床を検出し得ることを示した。また,誘導分極効果が硫化鉱物の検出に役立つことが改めて示され,一方で物理探査による海底熱水鉱床の規模推定には比抵抗だけでは不十分である可能性が示唆された。