社会経済史学
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戦前期灘中規模酒造家による桶取引の分析
大島 朋剛
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2009 年 74 巻 6 号 p. 557-580

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抄録

本稿は,戦前期灘の中規模酒造家(松尾仁兵衛商店)の販売活動を事例とし,桶取引を通じて結ばれていた大規模層と中規模層の関係について,二重構造論の視角から分析したものである。その結果明らかになったのは次の諸点である。中規模酒造家にとっての桶売りは,販売量の予測可能性・確実性や「味」に対する責任の相対的軽さといった点において,自己銘柄酒での販売よりもメリットがあった。一方,買い手である大規模層にとってもまた,桶取引のもつ意味は大きかった。同取引による量的確保や継続的取引による品質安定性の予測可能性は,銘柄品販売を主力としつつも自製酒増産に向かわない彼らにも必要とされたのである。こうして結ばれた両者の相互依存関係は,「多」対「多」の主体間に結ばれていた。灘の中規模層は,戦後の下請問題でよく議論される一方的な代金支払の遅延化による不利も被ってはおらず,決して買い手独占の悪条件に甘んじたわけではなかった。つまり,両者の関係は必ずしも専属的・従属的なものではなかったのである。斯様な二重構造のあり方が,戦前期灘の清酒産地としての安定性をもたらしたといえよう。

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© 2009 社会経済史学会
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