社会経済史学
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19世紀後半のイギリス=アイルランド財政関係と自治問題 : グラッドストンの2つの自治法案をめぐって
日浦 渉
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2010 年 75 巻 5 号 p. 497-516

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抄録

グラッドストンの1886年と1893年の自治法案提出は,アイルランドの政治的要求がイギリス政府に受容され,積極的に推進されたという点で一つの転機であったと言える。しかし,両者の自治構想には財政問題を中心に大きな乖離が見られ,自由党政府が単純にアイルランドの要求を推進していたとは言い難い。本稿は従来の研究史で看過されがちであった自由党政府の自治構想の特殊性について検討を試みている。連合成立以来の両国財政関係の大きな特徴はアイルランドからの拠出金支払いであったが,この時期にアイルランドの支出増大の結果として制度維持が困難になってきており,法案はその維持を目指しており,イギリスの財政的利害に即したものであった。その一方で,両国の一体性については,通商政策の留保を含む連邦制的な構造の導入,さらに「公式」な関係から「非公式」な関係への転換によって担保され得ると考えられており,2つの法案は,必ずしもアイルランドが望んだ強く自律的なものではなく,財政的利害に主眼を置いた統合的色彩を帯びた構想として企図されたものであったと言える。

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