社会経済史学
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19世紀イギリスの医師制度改革における医師の社会的権威と国家介入
黒崎 周一
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2010 年 75 巻 5 号 p. 517-539

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抄録

19世紀イギリスでは,医師たちが権威向上を目指し,医師制度改革を進めていた。彼らの望む権威とは,専門教育や資格制度の整備による専門職化のみに由来するものではなく,地域社会の各種医療サービスを通して得られるパトロネジや,国家との関係に影響を受けながら形成される社会的権威であった。ギルド的自治によって免許制度を運営してきた彼らは,自らと国家との関係が聖職者や法律家に比べ弱いことを懸念し,政府機関として免許制度運営を担う医師審議会を創設することで,国家との関係強化を図った。しかし医師たちは,医師審議会委員の任命権を政府に委ね,当時拡充されていた衛生行政の監督下に置くか,あるいはギルド的自治による免許制度を維持すべく,医師審議会委員を自ら選出するかで対立した。結果的に一部の委員を女王が,残りの委員を医師たちが選出することで彼らは妥協する。つまり医師の社会的権威は,専門職化によって単線的に向上したのではなく,衛生改革などの当時の社会状況の影響を受けながら,医師たちがギルド的自治と国家介入との両立を図る中で形成されていったのである。

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© 2010 社会経済史学会
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