抄録
近年、さまざまな企業が被用者の健康増進に力を入れるようになっている。企業が被用者の健康増進を図る第一義的な目的は、医療費の低下を通じた後期高齢者支援金の減算にあると考えられる。しかしながら、被用者の健康増進が労働生産性を向上させるならば、被用者の健康増進は、経済全体の生産性にも好影響をもたらすことにもなり、政府が健康増進への財政支援を行う意義も出てくる。
今後の健康増進政策のあり方を考えるためにも、健康増進と労働生産性の関係性を実証分析によって明らかにすることは重要であるが、わが国においては、そうした分析が不足している。そこで、本稿では、労働生産性の代表的な指標である賃金に焦点を被説明変数として、「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」を用いて、さまざまなバイアスをできる限り取り除いた上で、健康増進が労働生産性に与える影響について実証分析を行った。
その結果、男性については、健康増進が賃金を高めることがわかった。一方、女性については、そのような効果が確認されなかった。本稿の結果から、対象は限定されるものの、被用者の健康増進は、医療費抑制にとどまらず、労働生産性向上にもつながると考えられる。