日本生気象学会雑誌
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原著
室内気候の実態および居住空間の温熱性能評価
青木 哲水谷 章夫須藤 千春
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2001 年 38 巻 3 号 p. 71-88

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抄録

室内気候の実態の把握および温湿度変動から住宅の温熱性能の簡便な評価法を開発し,疫学調査などに資することを目的に,名古屋市内の立地条件や構造,暮らし方などの異なる住宅5戸において室内外の温湿度を約1年間に亙って測定し,年間の変動に加え8月と1月の室内外の温湿度変動と各住宅の温熱性能との関連を検討した.在来型木造住宅のA,B宅では居間に冷暖房設備がなく,軽量鉄骨造住宅のC宅,RC造集合住宅のD宅および高気密・高断熱型木造住宅のE宅では冷暖房の使用頻度が高かった. 夏期の月平均室温は28~30℃で住宅間に顕著な相違を認めなかったが,絶対湿度は非冷房住宅と冷房住宅で有意差がみられ,冷房住宅では外気絶対湿度が約12g/kg'または外気温が26℃を上回ると絶対湿度の室内外差が拡大し,冷房に伴う除湿効果によると推定された.冬期に非暖房のA,B宅の平均室温は10℃以下であったが, 暖房住宅では約18℃と高かった.年平均相対湿度はA宅を除いて50%台で,特にC,E宅では2月に30~40%台に低下した.またC宅では冬期の室温および相対湿度の変動がD,E宅に類似したが,絶対湿度の変動はA,B宅に類似し,特異な温熱性能を有していると推察された.そこで8月と1月の一日間の室内平均温湿度,最高最低差(変動幅),室内外差を求めて外気温湿度との関連を検討した.A,B宅では室温が外気温に追随的に変動し,絶対湿度の室内外差および日変動幅が小さいことから,断熱性能,気密性能は低いが,調湿性能は高く,D宅では室温に対する外気温の影響および室温の変動幅が小さいが,絶対湿度の室内外差および変動幅は大きいことから,熱容量が大きく,気密性能も高いが,調湿性能は低いと推定された.E宅では室温および絶対湿度の変動幅が小さく,絶対湿度の内外差は大きいことから,断熱性能,調湿性能,気密性能が高いと推定された.一方,C宅では室温および絶対湿度の変動幅が大きく,冬期の絶対湿度の内外差は小さいことから,断熱性能,調湿性能のみならず気密性能も低く,冬期に暖房により室温が高く,相対湿度が低下したが,気密性能が低いので絶対湿度が低くなったと推定された.以上から,断熱性能,熱容量は温度変動の解析により,気密性能,調湿性能,冷房の効果は湿度変動の解析により,それぞれ簡便,端的に評価できると推察された.また近年では室内湿度の低下が顕著であり,一方,アトピー性皮膚炎や脱水症,心臓・脳血管障害などでは室内湿度の低下に伴う皮膚や粘膜からの水分喪失が発症や悪化と関連していると推察されるので,温度変動と同時に湿度変動も調査解析し,居住空間の温熱性能や環境特性を総合的に把握することが,これら疾患の疫学調査や予防対策においても重要であると考えられる.

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© 2001 日本生気象学会
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