WBGT簡易推定図は気温と相対湿度からWBGTを推定でき,日本生気象学会が発行する「日常生活における熱中症予防指針」に掲載されている.旧版のWBGT簡易推定図は,日射のある環境では実際のWBGT値よりも過小評価し,日射のない室内では過大評価する傾向があることが指摘された.そこで,熱中症予防指針Ver.3.1の改訂において,日射のない室内のみに適用できる改訂版WBGT簡易推定図を熱収支理論に基づいて開発した.この推定図を検証するため,実環境において,黒球付きWBGT測定器を用いてWBGT,気温,相対湿度を測定した.その結果,日射のない室内において,改訂版WBGT簡易推定図は,実測値と極めて近い値を推定した.そこで,改訂版WBGT簡易推定図は日射のない室内において適用可能であると結論づけた.一方,屋外や日射のある環境においては,黒球付きWBGT測定器を用いて評価する必要があることを強調した.
愛知県豊橋市消防本部からご提供いただいた救急搬送データを基に解析を行い,2010年~2021年の同市における小学校区毎の熱中症搬送数を対象に,1) 土地利用と熱中症搬送者数との関連,2) 高齢化率・高齢独居率と熱中症搬送者との関連を調べた.結果,クラスター分析によって小学校区を代表的な土地利用(「農地」「都市化域」「工場」)で分類したところ,1) 土地利用の差異と人口1,000人あたりの熱中症搬送者数には関連性がなかった.ただし,2) 年代別・発生場所別に整理した場合,熱中症搬送者数とクラスターを代表する土地利用との間には関連性がみられたこと,3) 都市化域を多く含むクラスターにおいて1,000人あたりの搬送者数と高齢化率及び高齢独居率との関連が強いことが定量的に把握された.暑熱被害に脆弱な高齢者には、更なる情報の周知の徹底や小地域単位での対策が今後より重要視されることが望まれる.